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Eidolon ~忘れられた世界で、もう一度~  作者: 秋津 聖


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第1話 修理できないもの

俺は昔から、壊れたものを直すのが好きだった。


小さい頃、壊れたゲーム機を分解した。


親には怒られた。


「壊してどうするの」


そう言われた。


でも、俺には壊したようには見えなかった。


中身を知りたかっただけだ。


どうして動かなくなったのか。


どこが悪いのか。


原因が分かれば、直せる。


それが、俺の性格を作ったのかもしれない。


大人になってから選んだ仕事は、デジタル機器の修理だった。


スマートフォン、パソコン、ゲーム機――


今や誰もが持っているそれらの機械。


落として画面が割れる、水に濡れて動かなくなる、バッテリーが劣化する。

どんな不具合にも、原因は必ずある。そして原因が分かれば、修理できる。


俺はこの仕事が好きだった。


「助かりました」


「本当にありがとうございます」


お客さんのその言葉を聞くたびに思った。


この仕事を選んで良かった、と。



ただ…

店長になってから、少しずつ変わった。

自分が修理するだけではなくなった。


スタッフを育てる。


売上を見る。


シフトを作る。


新人に教える。


店舗の問題を解決する。


やることは増えた。

でも、それも嫌ではなかった。

人が成長する瞬間を見るのは好きだった。


昨日できなかったことが、今日できるようになる。

それを見るのは楽しかった。

だから俺は、何度も教えた。


何度も伝えた。


何度も仕組みを作った。


「ここを確認して」


「この場合はこう対応して」


「分からなかったら相談して」


最初は誰かが助けを求めてくる。


俺は答える。

そして数日後、また同じ問題が起きる。

「……」

別に怒っているわけじゃない。誰だって失敗するし、覚える速度も違う。それは頭では分かっている。

分かっているけれど――何度も同じことが続くと、少しずつ、思考が別の方向へ舵を切り始める。


(――俺がやった方が、早い)


その結論に至るのが、一番楽だった。



確認する。

修正する。

仕組みを作る。

全部自分でやる。 

誰かに任せて失敗されるくらいなら。

自分でやった方が確実だった。



気付けば、俺は相談される側になっていた。


「高尾さん、どうしたらいいですか?」


そう聞かれる。


俺は答える、いつものように。


そして俺自身は


「俺はどうしたらいいですか?」


そう聞くことは、一度もなかった。



人に弱音を吐く。

誰かに任せて待つ。

助けを求める。


それが、いつの間にか苦手になっていた。


仕事が終わり時計を見る。

22時を過ぎている。

もちろん店には誰もいない。


机の上には修理途中のスマホ。

その横には、作成途中の改善資料。


俺は椅子にもたれた。


「……疲れたな」


口から出た言葉に、自分で驚いた。


そんなことを言ったのは、いつ以来だろう


スマホを見る。


連絡。


相談。


確認。


通知。


画面を伏せ立ち上がる。


帰り道、イヤホンで外界を遮断し夜の街を歩く。

誰かと話すこともできる。

接客もできる。

交渉もできる。

新人に教えることもできる。


一人で静かに過ごす時間、それが何より好きだった。



人間が嫌いなんじゃない。

自分の余白が必要なだけだった。


そんなことを考えながら、一歩、横断歩道に足を踏み出したときだった。


突風のような風圧。鼓膜を刺す、鋭いクラクションの音。


視界が、一瞬で真っ白に染まる。


街灯の光も、夜の景色も、世界のすべてが急速に遠ざかっていく。


(……あれ?)


体が動かない。


ひどく、眠い、疲れていたんだと思う。


最後に思った。


(まだ、修理途中だったな)


それが、俺の35年間の最後の記憶だった。


暗闇。


そして声が聞こえた。


『確認』


『対象者、高尾朔(タカオサク)』


『精神情報、正常』


『適合条件を満たしました』


知らない声。


『転送準備を開始します』



俺は目を開ける。


そこには。


白い世界が広がっていた。

第1話を読んでいただきありがとうございます。


初投稿になります。


仕事の合間に頭の中で作っていた世界や設定がどんどん広がり、気付けば「これは形にしてみたい」と思い投稿することになりました。


自分の好きな要素をたくさん詰め込んだ作品です。


至らない点も多いと思いますが、朔たちの旅を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いします。

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