↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eidolon ~忘れられた世界で、もう一度~  作者: 秋津 聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/33

第19話 案件のスイング

噴水広場にできた人だかり。


その中心にいた人物が、こちらへ視線を向けた。


何かに気づいたようだ。


そして、そのままこちらへ向かって一直線に歩いてくる。


近づいてくるにつれて、その姿がはっきりと見えてきた。


金色の髪。整った顔立ち。


身に着けているのは、白銀の装飾が施された、騎士を思わせる上質な装備。


現代にいたら、間違いなくアイドルかモデルでもやっていそうな美貌だ。


そんなことを考えていると、少しだけ胸が高鳴った。


(……何だ、この感じ。久しぶりに若い女性とまともに顔を合わせたからだろうか)


柄にもなく動揺しているうちに、その女性は俺たちの前までやってきた。


そして、


「ベルナール商会のエドガー代表ですよね?」


エドガーさんに声をかけた。


「……あ、そっちか」


別に期待していたわけじゃない。


本当に。


『何を期待していた?』


(うるさい)


『私は何も言っていないぞ』


(……)


気を取り直して、女性を見る。


エドガーさんも穏やかに答えた。


「ええ、そのとおりですが。貴方は?」


「失礼しました。アズールのギルドに所属しております、アリア・エストレーリャと申します」


「エストレーリャ……?」


エドガーさんが、その名前を聞いて少しだけ表情を変えた。


何か思うところがあるのだろうか。


アリアさんは腰に下げたギルド証を軽く示した。


「ランクはデルタです」


「なるほど」


エドガーさんは納得したように頷いた。


ギルドのランク制度について、俺はまだ詳しく知らない。


ただ、わざわざ名乗る際にランクまで伝えるということは、この世界ではそれなりに重要な情報なのだろう。


そんなことを考えていると、アリアさんが手にしていた物をエドガーさんへ差し出した。


「エドガー様のお知り合いに、こちらを直せる方はいらっしゃらないでしょうか?」


「こちら……ですか」


エドガーさんが受け取った物を、俺も横から覗き込む。


薄い板状の端末。


黒い画面。


金属製のフレーム。


背面には見慣れない、美しい紋章が刻まれている。


その形状も、手頃なサイズも、そして何より全体的な雰囲気も。


見た瞬間、俺の頭に一つの言葉が浮かんだ。


「スマホ!?」


思わず声が出た。


「……?」


「……?」


アリアさんとエドガーさんが、同時に俺を見る。


「あ……」


しまった。


元店長としての職業病が出てしまった。


「す、すみません」


「スマホ……というのは?」


アリアさんが不思議そうに尋ねてくる。


「あ、いや……俺の故郷の言葉です。これは何という物なんですか?」


「シグナです」


「シグナ?」


「はい。通信用の魔道具です」


通信用魔道具。


その言葉を聞いて、改めて手元の端末を見る。


どう見てもスマートフォンにしか見えない。


ただ、俺が知っている物とは少し違う。


カメラレンズに見える部分には、細かなカットが施された小さな石が埋め込まれている。


(これは……マジでスマホそのものじゃないか。内部構造はどうなってるんだ……?)


『何だ、それは?』


(俺のいた世界にあった通信端末だよ)


『そうなのか』


(見た目がそっくりだが……動力は魔術か?)


エドガーさんが、俺の疑問を察したように説明してくれた。


「シグナは、騎士や高級商人、役人などが主に使う通信用魔道具です。一般の方には少々高価な物ですから、誰もが持っているわけではありません」


なるほど。


この世界にも、精密な通信機器は存在する。


ただし、一般には普及していない。


騎士や商人、役人など、一部の人間が使う高価な道具ということか。


アリアさんが真剣な眼差しで尋ねてきた。


「こちらを修理することは可能でしょうか?」


エドガーさんが俺を見る。


「高尾さん、直せるのでは?」


「え? 私ですか?」


思わず聞き返す。


「ええ」


俺はアリアさんからシグナを受け取った。


手に持った感触。


重量。


画面。


筐体。


現代のスマートフォンと比べても、それほど大きな違いはない。


ただし、今の段階では電源が入らない。


「これですか……」


シグナをひっくり返しながら、状態を確認する。


「シグナなんて触ったことがないので、あまり自信はないですが……」


「こちらの方は?」


アリアさんが俺を見る。


エドガーさんが穏やかに答えた。


「道中お世話になった高尾朔さんです。修理を生業とされている方ですよ」


「いや、まだまだ生業というほどでは……」


思わず否定する。


すると、アリアさんが少し不思議そうに俺を見た。


「高尾……朔さん? あまりこちらでは聞かないお名前ですね」


「ええ。東の出身で、訳あってこちらに来ています」


もちろん、本当のことは言えない。


異世界から来たなんて話せるわけがない。


アリアさんは再びシグナへ視線を戻した。


「修理できますか?」


「すぐに回答するのは難しいです」


正直に答える。


「今まで触ったことがない魔道具なので、どこが故障の原因なのかも分かりません」


シグナを両手で持ち直す。


「ただ、内部構造を調べさせていただけるのであれば、数日お預かりして、できる限りのことはします」


アリアさんは少し考えた。


そして、力強く頷いた。


「構いません」


その返事には、一切の迷いがなかった。


「どこへ持っていっても、修理できないと言われてしまって……。腕の良い職人を探して、ここで声をかけていたところなんです」


「……相当困っているんですね」


「はい」


アリアさんは、シグナを見つめる。


「私にとって、どうしても必要な物なんです」


その言葉を聞いて、俺もシグナを見つめ直した。


どんな構造なのか。


この石は何のためにある?


バッテリーのようなものなのか。


それとも、通信に必要な魔術装置なのか。


そもそも、どうやって通信している?


疑問が次々と浮かんでくる。


元スマホ修理店長としての血が、激しく騒ぎ始めていた。


(これは……面白そうだ)


「分かりました。俺にできることなら、力になれるよう頑張ります」


「ありがとうございます」


アリアさんは、安堵したように表情を和らげた。


そして、改めて俺へ向き直る。


「改めまして、私はアリア。アリア・エストレーリャといいます」


「高尾朔です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします、高尾さん」


エドガーさんが助け船を出してくれた。


「高尾さんは、私の商店の二階におりますので。修理の件で何かありましたら、いつでもお越しください」


「分かりました」


アリアさんも、自分の滞在先を教えてくれた。


「私は広場近くの『白銀のツバメ亭』に泊まっております。何かありましたら、そちらへご連絡をお願いします」


「分かりました」


こうして、俺は初めての精密魔道具。


『シグナ』を預かった。


アリアさんは俺たちに一礼すると、人混みの中へ戻っていった。


その背中を見送りながら、俺は手元のシグナを見つめる。


「……スマホ、か」


『まだその名前で呼んでいるのか?』


(だって、どう見てもスマホだろ)


『しかし、シグナという名前らしいぞ』


(分かってるって)


俺はシグナを眺めながら、エドガーさんに苦笑交じりに言った。


「先ほどの紹介ですが……『修理を生業とされている方』というのは、少し言い過ぎですよ」


「ふふ」


エドガーさんは穏やかに笑った。


「高尾さんの、あの見事な手際と職人魂を知っているからこそですよ」


「俺、この世界で修理したのって、今のところ鍋くらいですよ?」


「ふふ。あれだけの修理ができれば、立派な職人です。それに、高尾さんは職人としての『目』をお持ちですからね」


そう言われると、なんだか誇らしくもあり、少し照れくさい。


「……買いかぶりすぎですよ」


そう言いながら、俺は手元のシグナを見つめた。


スマートフォンによく似た、異世界の精密魔道具。


これまで俺が見てきた物とは、明らかに違う。


それでも。


修理する側から見れば、壊れた物であることに変わりはない。


「さて……」


俺はシグナをしっかりと握り直した。


「まずは、中を見てみますか」


『楽しそうだな』


(そりゃそうだろ)


俺はエドガーさんの商店へ向かって歩き出す。


異世界で初めて出会った、スマートフォンによく似た魔道具。


その内部には、一体どんな仕組みが詰まっているのだろう。


俺の修理屋としての好奇心と職人魂は、これまでにないほど強く刺激されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。