第12話 創造と破壊
休憩している男性の見た目を変更しました 8/2
出発するにも事前の準備が必要だった。
ある程度、ネロが以前索敵してくれていたおかげで、森の中の危険な場所や、森の外へ抜けられそうな方向は把握できているらしい。
森の外を実際に確認したわけではない。
道がある保証もない。
迷う可能性だって十分にある。
「準備は多いくらいでいいな」
水、食料、簡単な道具。
リスクヘッジは基本だ。
準備したものが余るくらいがちょうどいい。
こっちの世界へ来た時に背負っていたリュックへ必要なものを詰めていく。
「こいつは、マストアイテムだよな」
取り出したのは、愛用の修理工具。
未だに出番はない。
それでも。
これだけは置いていけなかった。
長い間、仕事を共にしてきた相棒だ。
荷物は問題ない。
「森の中を歩くから意味ない気もするけど……」
準備が整ったところで、ふと思う。
「とりあえず風呂に入って、小綺麗にしておくか」
久しぶりに湯船へ浸かる。
そして風呂から出た後。
「この服で行くのもな……」
見るのは、自分で作った簡素な服。
生活するには十分。
初対面の相手に会う服としてはどうだろうか。
「こっちにするか」
手に取ったのは、この世界へ飛ばされた日に着ていたスリーピースのスーツ。
多少汚れているがそれでも、自作の服よりは遥かに整っている。
ネロが首を傾げた。
「なんだ? 着替えるのか? 服なんて何でもいいじゃないか」
「人間、色々あるんだよ」
「見た目も信頼を得るためには必要なんだ」
「それに……」
少し考える。
「この世界、実は現代より発展してましたって可能性もあるだろ?」
「その場合、この服装でも原始人扱いされるかもしれない」
異世界転移。
よくある話なら、中世ヨーロッパのような世界。
でも、そんな前提、誰が決めた。
これもリスクヘッジだ。
ネロはこちらを見ながら呟いた。
「人間は大変なんだな」
「そうだな」
俺は苦笑する。
「大変なんだ」
「これから出会う相手も……人間だったらいいな」
準備は完了した。
最後にログハウスを確認する。
窓、扉、火元。
問題なし。
水路は一時的に止められるよう、上流側の栓を閉じた。
最初に作った小屋には、貴重品を箱に入れて隠してある。
仮に誰かがここを見つけても、盗まれて困るものはほとんどない。
「よし」
俺はネロを見る。
「行くか」
「案内を頼む」
数時間歩いた。
森の中は変わらない。
木々。
鳥の声。
足元の土。
そんな景色が続く。
そして目の前に大きな岩が現れた。
道を完全に塞ぎ、そびえ立っている。
「……」
俺よりも大きい。
押してみる。
「……」
動かない。
「筋トレの意味、なかったのかな」
小さく呟く。
「駄目だと思うけど、ネロ。手伝って」
「合理的ではないな」
そう言いながらも、ネロは岩の後ろへ回り、器用に体勢を整える。
「当然だよな」
「当然だ」
ため息が聞こえた気がした。
さて、どうするか。
Eidolon。
今まで使ってきたのは創造。
作る力。
その時ふと、昔見た作品の台詞が頭をよぎった。
子供の頃は、ただ格好いい言葉だと思っていた。
「創造は……破壊と表裏一体だったよな」
作ること。
壊すこと。
正反対に見える。
どちらも、対象の構造を理解しなければ成立しない。
「確認なんだけど」
俺はネロを見る。
「Eidolonって、構造を理解して創るスキルだよな?」
ネロは不思議そうに答える。
「そうだな」
「君自身、もう答えは出ているんじゃないか?」
そうか。
そうだった。
今まで俺は、作る方向だけで考えていた。
「構造を理解しているなら」
「壊すこともできるんじゃないか?検証しよう」
足元に落ちていた小さな石を拾う。
最初の頃。
何度も試した石。
あの頃より理解は深まっている。
形。
内部構造。
結合。
頭の中で組み立てる。
そして。
必要な部分だけを外す。
「Eidolon」
光が広がる、手の中の石は、静かに崩れた。
成功。
ただ壊したわけではない。
消したわけでもない。
構造を理解して、支えていた部分を解除した。
作る時と同じ。
違うのは方向だけだった。
次は。
目の前の岩。
両手を当てる。
理解する。
支えている部分。
重さ。
構造。
必要な箇所だけを解除する。
大量の力が流れる感覚。
身体が重い。
また、あの感覚だ。
ログハウスを作った時と同じ。
ただあの時ほどではない。
それでも、身体の内側から何かが引かれていく。
妙に喉が渇いていることにも気づいた。
さっき水を飲んだばかりなのに。
次の瞬間、目の前の岩は音もなく崩れた。
成功した。
本来なら喜ぶ場面だった。
でも別の考えが浮かんでしまった。
この力は危険だ。
もし、同じことを人間に使ったら。
身体を形作る構造。
骨はどう繋がっているのか。
血液はどこを流れているのか。
神経はどこに通っているのか。
それを完全に理解してしまったら。
俺は簡単に命に触れられる。
骨を。
血管を。
身体を支える仕組みを。
理解してしまえば壊せてしまう。
これは便利な力じゃない。
使う人間次第で、全く違うものになる。
ポーカーフェイスは発動しているはずだった。
それでもネロは気づいた。
俺の変化に
何か言おうとして。
そして止めた。
俺自身が向き合う時間だと分かったのだろう。
その日は無言で歩いた。
日が沈み始める。
「今日はこの辺りで休まないか?」
「そうだな、休もう」
察してくれたのかネロが答えてくれた
急ぐ理由はない。
少し開けた場所で野営をする。
食事。
静かな時間。
そして。
「……なぁ、ネロ」
「なんだ?」
「Eidolonって怖いな」
「そうだな」
否定しなかった。
「ルールを決めようと思う」
「ルール?」
「あぁ」
「この力を使うための制約だ」
「必要か?」
「必要だよ」
「自分と周りを守るために」
少し間を置く。
「これからも一緒にいてくれるんだろ?」
「まぁな」
「だったら、誰かが見ていることもブレーキになる」
俺は考えたルールを伝える。
① 基本的に人間へ使わない
② 理解していないものへ無理に使わない
③ 「できるか」ではなく「やるべきか」を先に考える
④ 命を守る必要がある場合は例外
ネロは少し考える。
「いいんじゃないか」
俺は笑う。
「危ない時は声をかけてくれ」
ネロは首を横に振った。
「そうならないように祈っているよ」
その夜、ネロとの距離が少し縮まった気がした。
翌日順調に進む。
そして木々の向こうに光が見えた。
森を抜ける。
「……」
目の前に広がる景色。
道。
舗装されてはいない。
少なくとも現代の道路ではない。
「文明レベルは……まだ分からないな」
遠くに煙が見える。人がいるかもしれない。
「行ってみるか」
近づくとそこには荷物を積んだ馬車。
近くには身なりの良い男が休憩していた。
初めて見る、この世界の人間。
少しだけ緊張する。
だが、それを表には出さない。
俺は自然と笑顔を作った。仕事で何度も使ってきた表情。
営業スマイル。
「こんにちは!」
森を出る回でした。
準備から始まり、Eidolonの新しい使い方、そして初めて向き合う力の危険性。
便利な力ほど、使い方を間違えれば怖いものになる。
今回は朔がその一面に気づく話でした。
個人的には「筋トレの意味、なかったのかな」の部分がお気に入りです。
努力していたのに、最後はスキル頼りになるところが少し朔らしいかなと思っています。
そして次回はいよいよ、この世界の人間との初対面です。
朔の営業スマイルが通用するのか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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次話もよろしくお願いします。




