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第94話「波乱の予感」

 八月三十一日だった。


 夏休みの最終日。颯が七月の頭に作った計画表の、一番最後に書かれていた項目だ。「全員で集まる」とだけ書かれていた。場所も時間も書いていなかった。颯らしかった。集まること自体が目的で、細かいことは後で決めればいい、という考え方だ。


---


夜。

貸し切りのラウンジは、妙に落ち着かない空気に包まれていた。


原因は明らかだ。


テーブル中央に置かれた、番号付きの割り箸。


そして――


「さぁさぁさぁ!!」


勢いよく椅子から立ち上がる

楓が、無駄にキラキラした目で叫んだ。


「王様ゲーム、開幕だぁぁぁあああ!!」


「うるさいですよ、楓くん」


即座にツッコミを入れたのは城島だった。


グラスを軽く置きながら、ため息混じりに続ける。


「なんでこう、嫌な予感しかしない遊びを全力でやるんですか……」


「え?楽しいじゃないですか!!」

「楓くんの“楽しい”は大体ロクなことにならないんですよ」


そこに便乗するように、里中も拳を握る。


「私もこういうの好き!全力でやろう!!」


「里中さんは楓と同類ですからね」


「いやいや、先輩と一緒にしないでくださいよ!」


「なんでだよ!?」


即座に言い合いが始まる二人。


その様子を、静かに見ていたのは澪だった。


腕を組み、冷静に全体を観察している。


「……人数的には問題ない。ルールも単純。暴走さえしなければ、成立はする」


「“暴走さえしなければ”って時点で無理ですね」


城島が即ツッコミ。


その横で、優雅に微笑むヴィオラが口を開く。


「ふふ、いいじゃない。こういうのも“人間らしくて”」


その言い方に、煉がわずかに目を細める。


「……お前が言うと、妙に含みがあるな」


「実際あるもの。元“魔王様”?」


からかうような声音。


だが煉は特に気にする様子もなく、ソファに深く腰掛けたままグラスを傾ける。


その隣――


距離がやたら近い人物。


ルナ。


「ね、煉」


「ん?」


「ちゃんと参加するよね?」


少しだけ上目遣い。


明らかに期待している目。


煉は一瞬だけ視線を向けて、


「……別に構わない」


とだけ答えた。


その一言で。


ルナの表情がぱっと明るくなる。


(単純だな……)


澪は内心でそう思いながらも、どこか落ち着かない。


---


■1回戦


「じゃあ引くぞー!!」


楓の合図で、一斉に箸を取る。


数秒後――


「来たぁぁぁあああ!!王様だぁ!!」


「うるさいですよ」


また城島がツッコむ。


「で?何やらせるんですか」


楓はニヤニヤしながら全員を見回し、


「じゃあねぇ……2番と5番!」


「ほう」


「腕立て伏せ勝負!!」


「普通かよ!!!」


全員総ツッコミ。


「いや最初だし!?様子見大事じゃん!?」


「テンションだけ無駄に高いのやめろ!!」


番号確認。


2番:城島

5番:里中


「うわ最悪だ……」

「望むところだ!!」


床に手をつく二人。


「負けたらジュース奢りな!」


「なんでですか」


「いいな!それ!!」


「里中さんは黙っててください」


開始。


「1!2!3!」


カウントが進む。


最初は互角だったが――


「……っ、まだいけます……!」


城島が歯を食いしばる中、


「余裕だな!!」


とか言ってた里中が、


「……あ、無理」


ドサッ。


「早ぇよ!!!」


爆笑。


煉はそれを横目で見ながら、静かに呟く。


「……くだらないな」


だが。


その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


---


■2回戦


「次、私」


澪が静かに手を上げる。


王様の箸を見せる。


「お、珍しいな」


「……公平にいく」


澪は一瞬だけ考え、


「1番と6番。“最近恥ずかしかったこと”を言う」


「うわ心理系がきましたね」


城島が苦笑。


番号確認。


1番:楓

6番:ルナ


「えー!?また俺!?」

「運いいのか悪いのか分かんねぇな」


楓が頭を掻きながら言う。


「えーっと……じゃあ俺から!」


腕を組み、少し考えてから、


「この前コンビニで“ブラックで”って言ったら、店員に“サイズは?”って聞かれて、“えっと…普通の…”ってなった」


「ダッサ!!!」全員


「うるせぇ!!カッコつけたんだよ!!」


爆笑が広がる。


次。


ルナ。


少しだけ考える。


そして――


チラ、と煉を見る。


(あ)


澪が嫌な予感を察する。


「……この前」


ルナはゆっくり話し始める。


「煉に助けてもらった時、かっこよすぎて……」


一拍。


「そのあと、顔まともに見れなかった」


「――」


空気が止まる。


「いやそれ惚気じゃないですか」


「違うもん!!恥ずかしかったもん!!」


「方向性が違うんですよ」


澪が軽く咳払いする。


「……はい、次いこう」


だが。


その間もルナは、どこか嬉しそうだった。


煉は――


無言で水を飲むだけ。


だが視線は、一瞬だけ逸れていた。


---


■3回戦


「私だぁぁぁぁ!!」


里中が王様。


この時点で、澪の眉がわずかに動く。


(嫌な予感しかしない)


「じゃあ……3番!」


ニヤァ、と笑う。


「好きなやつの名前を言え!!」


「そうやって荒れるようなことをまた、」


城島が頭を抱える。


「お前それ絶対荒れるやつだろ!!」


「え?面白いだろ!」


「本当に里中さんは黙っていてください」


番号確認。


3番――


ルナ。


「……え」


一瞬、静止。


そして全員の視線が一斉に集まる。


澪が即座に反応する。


「ちょっと待って、それは――」


止めようとするが。


ルナは、もう迷っていなかった。


ゆっくり立ち上がる。


視線は一直線。


煉へ。


「……黒瀬煉」


その名前が、空気を変える。


「好き」


直球。


完全に、直球。


「うおおおおおおおお!?」


「静かにしてください」


澪は完全に焦っている。


「ルナ。それ本気で――」


ヴィオラは楽しそうに笑う。


「ふふ、また言ったわね」


煉は――


ほんの一瞬だけ、目を伏せた。


そして。


「……ゲームだろ」


それだけ言う。


だが。


声が、少し低い。


ルナは、少しだけ照れながら笑う。


「……うん。ゲームだよ」


(でも、本当)


その言葉は、誰にも聞こえない。

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