第78話「“仲間”っていいな」
澪が「一つ確認させてください」と言った。
「なにかしら」
「冥焔会との接点はありますか」
ヴィオラが澪を見た。
「直接的な接点はない」ヴィオラが言った。「ただ——冥焔会が何をしようとしているか、私は知っている」
「どこまで知っていますか」
「黒剣と封印の関係。統合すれば煉の人格が消えること。冥焔会が施設で行っている研究の内容」
澪が「それを知っていて、今まで黙っていたんですか」と静かに言った。
「黙っていたわけではない」ヴィオラが言った。「話す相手と機会を探していた。あなたたちと繋がれたのは、交流戦がきっかけよ」
「なぜ交流戦に来たんですか」
「煉を見たかったから」ヴィオラが静かに言った。「転生後の煉がどうなっているか。魔王時代を知っている私には——気になって仕方がなかった。何より、心配だった」
「見て、どうでしたか」
ヴィオラがしばらく澪を見た。
「想像より、ずっと楽しそうにしていた」ヴィオラが静かに言った。「魔王時代より、今の方がいい。そう思った」
「なぜですか」
「笑っているから」ヴィオラが俺を見た。「魔王時代、煉は笑わなかった。ずっと一人だった。でも今日——バーベキューをしながら、笑っていた」
全員が俺を見た。
「笑っていたか、俺は」
「笑っていたわ。気づいていなかったの?」
「気づいていなかった」
颯が「俺は気づいてたぞ」と言った。
「私も」
「私も、もちろん気づいていました」
「後輩が笑うのは珍しいから目立つ」
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里中がヴィオラを直接見た。
「一つだけ聞く」
「なんかしら」
「お前、本当に死なないのか」
「そうよ」
「どんな攻撃を受けても?」
「どんな攻撃でも」ヴィオラが静かに言った。「試してみる?」
「試さない。試したら私がひどいやつになる。あとお前のことけっこう好きだし」
「正直ね」
「正直でないと損をする。」里中がところで、と一言置いてから聞いた。「お前、仲間になるつもりか」
「煉が許可すれば」ヴィオラが俺を見た。
「全員が納得するなら、俺一人が決めることじゃない」
「俺は構わない」
「私もです」
「私も——ただし」
「ただし?」ヴィオラが澪を見た。
「黒瀬くんの記憶に、二度と無断で触れないでください」澪が真っ直ぐヴィオラを見た。「それだけが条件です」
ヴィオラがしばらく澪を見た。
「……あなた、強いわね」
「強くないです」澪が言った。「ただ、言うべきことは言います」
「わかった、約束する。二度と無断では触れない」
「ありがとうございます」
「私も構わない。強い奴が仲間になるのは歓迎だ」
「先輩は単純にヴィオラさんが好きなだけでしょ」
「そうかもな」
里中がそう言ったときのヴィオラの顔は嬉しさや驚きなど、様々な感情が混ざったやるせなさという言葉が合うような表情を浮かべていた。
「なんて顔をしているんだ」
「煉も初めて俺と遊びに言ったとき、同じような表情をしていたぞ」
「数百年前から生きてる人はみんな同じ表情をするんですかね」澪がそう言ったとき、場が暖かい笑いに包まれた。
その中暖かさの中には、ヴィオラも含まれていた。
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全員が頷いた。
ヴィオラが少し間を置き言った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」颯が明るく言った。「でも一つだけ言わせてください」
「なにかしら」
「仲間になったなら、ヴィオラさんも楽しんでください」颯が言った。「何百年も一人でいたんですよね。だったらこれからは——一人じゃなくていい」
ヴィオラがしばらく颯を見ていた。
「……あなた、よくそんな素直に言葉を言えるわね」
「よく言われます」
「悪くないわ」ヴィオラが言った。
「悪くないって言った」颯が俺を見た。「これも煉と同じ言い方だ」
「そうか」
「二人とも悪くないが口癖なのか」
「口癖ではない!」
俺とヴィオラが同時に言った。
全員が少し笑った。
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日が暮れ、河川敷に夜が来た。
昨日と同じ場所で、昨日より一人多い人数で、空を見ていた。
颯が「明日から自由行動だな」と言った。
「そうだな」
「黒剣奪還の準備も進める。でも——夏休みも全部楽しむ」
「煉」颯が俺を見た。
「なんだ」
「今日、楽しかったか」
「楽しかった」
「成長したな、初めての時と比べたら」
「そうかもしれない」
澪が俺の隣で静かに言った。
「悪くないが積み重なりましたね」
「そうかもしれないな」
「楽しかったになっていますか」
「なっている」
「よかったです」
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ヴィオラが帰り際、俺に言った。
「一つだけ言っていいかしら」
「なんだ」
「”仲間“って、いいわね」ヴィオラが静かに言った。「羨ましいと思ったのは、久しぶり」
「これからはお前もその”仲間“だ」
「そうね」ヴィオラが微かに笑った。「慣れるかどうかわからないけど」
「慣れなくていい」俺は言った。「ただいれば、それでいい」
ヴィオラがしばらく俺を見た。
「……魔王時代のあなたは、そういうことを言わなかった」
「今は言える」
「そうね」ヴィオラが空を見上げた。「変わったのね、本当に」
「そうかもしれない」
「いい方に」ヴィオラが静かに言った。
「お前がそう言うなら、そうなんだろう」
ヴィオラが小さく笑って、夜の道を歩いていった。
銀色の髪が、夜の闇に溶けた。
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「ヴィオラさん、いい人そうだったな」
「そうだな」
「何百年も一人だったのか」
「そうだ、俺と同じ」
「それは——孤独だな」颯が静かに言った。「でもこれからは違う。俺たちがいるから」
「そうだな」
「まあ」颯が空を見上げた。
「なんとかなるだろ、か」
「そうだ」颯が笑った。「なるな、絶対」
七人分の足音が、夜の河川敷に続いた。




