第77話「バーベキューとあまりにも長すぎる命」
夏休み三日目だった。
颯の計画表通り、バーベキューの日だった。
場所は河川敷のバーベキューエリアだ。昨日花火を見た場所の少し上流だった。
颯が朝から食材を大量に買い込んできた。
「肉が三種類、野菜が四種類、海鮮が二種類」颯が袋を広げながら言った。「あとソーセージと焼きおにぎり用のご飯も買った」
「買いすぎだろ」里中が言った。
「バーベキューは量が正義だ」
「それはそうだ」
颯と里中の意見が今日も一致した。
城島が「珍しいですね」と言い、颯が「珍しい」と言った。「うるさい」少し離れたところから里中の声が聞こえた。
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網に火をつけた。
里中が「肉は私が焼く」と言った。
「焼けるのか」颯が言った。
「当然だ!毎年家族でバーベキューをしていた。花粉操作より肉を焼く方が得意かもしれない」
「それは問題では」澪が静かに言った。
「異能者として問題かもしれないが、バーベキュー要員としては優秀だ!矛盾はない!」
「矛盾はないですね」城島が頷いた。
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里中が肉を焼き始めた。
手際がよかった。
火加減を調整しながら、肉の向きを変えるタイミングが正確だった。
「先輩、本当に上手いですね」颯が言った。
「当然だ。研究したからな」
「バーベキューを研究したのか」
「好きなことは研究すること。お前だって自分の異能を研究しているだろ」
「それはそうですけど、でもなんか先輩らしいな。好きなことに全力なところが」
「うるさい」里中が言った。声は小さかった。
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肉が焼けた。
全員で食べ始めた。
颯が「うまい」と言い、里中が「当然だ」と自身ありげに渾身のドヤ顔を顔に浮かべた。
「もしかしたら、料理の才能があるんじゃないですか」と城島も讃えた。
澪が「本当に美味しいです」と里中に率直な意見をぶつけた。
里中が「ありがとう」と素直に言った。
俺は肉を食べた。
うまかった。
「どうですか」澪が聞いた。
「うまい」
「それだけですか」
「とてもうまい」
「少し増えましたね」澪が言った。
「昨日調べたからな」
「進歩です」澪が微かに笑った。
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食事が進んだ頃だった。
俺のスマホが鳴った。
見知らぬ番号だった。
いや、違う。
昨日登録した番号だった。
ヴィオラだ。
俺は電話に出た。
「黒瀬煉」
「そうだ」
「話したいことが一つある」ヴィオラが静かに言った。「都合のいい時間はあるかしら」
「今日の夕方はどうだ」
「構わない。場所は」
「河川敷に来られるか。今日はバーベキューをしている」
少し間があった。
「バーベキュー」ヴィオラが言った。「みんなで?」
「そうだ。仲間に話を通す必要がある。ちょうどいい機会だ」
「……わかった。夕方に行く」
電話が切れた。
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「ヴィオラですか」澪が言った。
「そうだ。夕方来る」
颯が「バーベキューに来るのか」と言った。
「そうなった」
「いきなりだな」颯が言った。「でもいいか。直接会った方がわかることもある」
「俺もそう思った」
里中が「どんな奴だ」と恐る恐る聞いた。
「顔立ちが整っている銀色の髪をした女性だ。剣士のような気配を持っている」
「強いのか」
「強い。気配だけで言えば、橘将望に近い種類の重さがある」
里中が少し黙った。
「……それは、相当だな」
「そうだ。ただ——敵意はない」
「今のところは、だろ」
「そうだ」
「正直だな後輩は」
「本当のことだから言った」
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夕方になった。
バーベキューが一段落した頃、河川敷に人影が現れた。
銀色の髪が、夕暮れの光に染まっていた。
ヴィオラだった。
颯が「あれか」と独り言のように言葉をもらした。
「そうだ」
「確かに——雰囲気が違うな」颯が言った。「気配が重い」
「わかるか」
「なんとなく」
ヴィオラが近づいてきて、全員の顔を見た。
そして、俺を見た。
「来た」
「ありがとう。全員に紹介する」
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簡単に紹介した。
「神崎颯です。よろしくお願いします」
「城島蓮です」
「朝霧澪です」
「里中日向だ。お前のことは煉から少し聞いた。強いんだってな」
ヴィオラが全員を順番に見た。
「ヴィオラよ。よろしく」
里中が「座れよ」と言った。「バーベキューの残りがある。食べるか」
ヴィオラが少し驚いた顔をした。
「……いいの?」
「駄目な理由がない。食べながら話せばいい」
「そうだな」俺は言った。
ヴィオラが少し間を置いてから、芝生に腰を下ろした。
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里中が肉を焼いて、ヴィオラに渡した。
ヴィオラはそれを受け取り一口食べた。
少し目を丸くした後、呟いた。
「美味しい」
「当然だ、私が焼いたから」
「……あなたが焼いたの?」
「そうだ。なぜ驚く」
「なんとなく」ヴィオラが聞いた。「あなたが料理をするイメージがなかった」
「失礼だな」
「ごめんなさい。けど信じられないくらい本当に美味しい」
「素直に謝るな。私は嫌いじゃないけどな、そういうの」
「先輩、ヴィオラさんのこと気に入ったのか」
「うるさい」
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食べながら、話が始まった。
倉石は今日は来ていない。倉石との対面は別途設定することにしていた。
颯が「俺から一つ聞いていいですか」と質問を投げかけた。
「どうぞ」ヴィオラが言った。
「煉の記憶を消したのは、本当に煉のためだったのか」
ヴィオラが颯を見た。
「本当よ」
「証明できるか」
「できない」ヴィオラが静かに言った。「証明する方法がない。信じてもらえないなら、それでも構わない」
「正直だな」
「嘘をつく理由がない」
「煉と同じこと言った」颯が笑った。「本当のことしか言わない主義、煉だけじゃないんだな」
「私は主義というより——嘘をつく体力がないだけよ」ヴィオラが言った。「何百年も生きると、嘘をつくのが面倒になる」
「何百年」颯が言った。「本当に長生きだな」
「長すぎるくらいには」ヴィオラが静かに言った。




