表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/88

第72話「銀髪の女、彼女の異能とは、、、?」

帰り道、駅に向かって歩いていた時だった。


 俺は気配を感じた。


 砂浜の方からだ。


 剣のような気配だった。


 ヴィオラだ。


 俺は足を止めた。


「どうした煉」颯が言った。


「少し後で来る。先に駅に行っていてくれ」


「一人で?」


「すぐ行く」


 颯がしばらく俺を見た。


「……わかった。待ってるぞ」


「ありがとう」


 澪が俺を見た。何も言わなかった。だが目が「気をつけて」と言っていた。


 俺は頷いた。


---


 砂浜に戻った。


 夕暮れの砂浜に、一人の人影があった。


 ヴィオラだった。


 銀色の髪が夕暮れの光に染まっていた。


 波打ち際に立って、海を見ていた。


「来ると思っていた」ヴィオラが振り返らずに言った。


「気配を隠していなかったからだろ」


「そうね」ヴィオラが俺を見た。「楽しそうだったわね、友達と」


「見ていたのか」


「少しだけ」ヴィオラが波打ち際から離れた。「邪魔したくなかったから、声をかけなかった」


「なぜ来た」


「話をしたかったから」ヴィオラが静かに言った。「あなたが準備できた時に、と言ったけど——待ちきれなくなった」


「そうか」俺はヴィオラを見た。「交流戦で会って以来だ」


「そうね」


「一つだけ確認する」


「なんかしら」


「倉石先生の記録に、お前に似た剣士の記述があった。魔王時代、俺の近くにいた人物だ」


 ヴィオラがしばらく俺を見た。


「そうね。その記述は正しいわ」


「お前が魔王時代にいた剣士か」


「そう」ヴィオラが静かに言った。「私はあなたの傍にいた。ずっと」


「なぜ俺が覚えていない」


「覚えていないのは——あなたのせいじゃないわ」ヴィオラが言った。「理由がある。それを話しに来た」


---


 俺とヴィオラは、砂浜の岩に並んで座った。


 波の音が続いていた。


「まず一つだけ聞く」俺は言った。


「どうぞ」


「お前の異能は何だ」


 ヴィオラが少し間を置いた。


「直接聞くのね」そう言って少し笑った。

「昔と全然変わらない、私の異能は不死身よ」ヴィオラが静かに言った。


「不死身」


「そのまま。死なない」ヴィオラが言った。「どんな傷を受けても、どんな攻撃を食らっても——死なない。時間が経てば、完全に回復する」


 俺はヴィオラを見た。


「それは異能か。それとも生まれつきか」


「どちらでもある、と言えばいいかしら」ヴィオラが海を見た。「私が生まれた時から、この力はあった。なぜそうなったのか——私にも分からない」


「いつから生きている」


「魔王時代より前から」ヴィオラが静かに言った。「正確な年数は数えていないわ。数えることに意味を感じなくなって久しい」


「不死身だから年を取らないのか」


「取らない。見た目はずっとこのまま」ヴィオラが自分の手を見た。「最初は怖かった。周りの人間が年を取って、死んでいく。自分だけが残り続ける。それが——何度繰り返されたか」


俺は黙っていた。


「魔王時代のあなたを見た時、初めて同じ種類の孤独を感じた」ヴィオラが俺を見た。「あなたも一人だった。誰も追いつけない場所に一人でいた」


「そうだったな」


「だから傍にいた」ヴィオラが言った。「邪魔するつもりはなかった。ただ——同じ種類の孤独を持つ相手の傍にいたかった」


---


「なぜ俺が覚えていないんだ」俺は聞いた。


「あなたが封印された時」ヴィオラが静かに言った。「私はあなたの記憶に干渉した」


「記憶に干渉した?」


「封印される前、あなたは多くのことを覚えていた」ヴィオラが続けた。「その記憶のまま封印されれば、封印が解ける時に——過去の執着が邪魔をすると思った。だから」


「俺の記憶を消したのか」


「全部ではない」ヴィオラが言った。「魔王としての力の記憶は残した。戦い方も残した。でも——人との繋がりの記憶を、少しだけ薄くした」


 俺は少し間を置いた。


「俺の許可なく、やったのか」


「そうね」ヴィオラが真っ直ぐ俺を見た。「ごめんなさい。でも——後悔はしていない。あなたが今、こうして人間として生きているのを見て、あの判断は正しかったと思っている」


「なぜだ」


「過去の執着がなかったから、あなたは今の黒瀬煉になれた」ヴィオラが静かに言った。「過去の記憶が全部あれば——あなたは魔王のままでいようとしていたかもしれない」


 俺は砂浜を見た。


 波が繰り返し打ち寄せていた。


「怒っているかしら」ヴィオラが聞いた。


 俺は少し考えた。


「怒っていない」


「なぜ」


「お前が言った通りかもしれないからだ」俺は静かに言った。「過去の全てを覚えたまま転生していたら——俺は今の生き方を選ばなかったかもしれない」

「もしかしたら、力を存分に使って世界を壊そうとしていた可能性すらある」


「……そう言ってくれると、少し楽になる」ヴィオラが海を見た。


「ただ一つだけ言う」


「なんかしら」


「次に俺の記憶に干渉しようとするなら、許可を取れ」


 ヴィオラがしばらく俺を見た。


 それから、小さく笑った。


「わかった。約束する」


---


「もう一つ聞く」


「なにかしら」


「お前が俺に話したいことは、それだけか」


 ヴィオラが少し間を置いた。


「いいえ」ヴィオラが静かに言った。「もう一つある」


「なんだ」


「冥焔会のことよ」ヴィオラが俺を見た。「あなたは黒剣を取り戻そうとしている。冥焔会の施設に行くつもりでしょ」


「そうだ」


「知っている」ヴィオラが言った。「だから——私も行く」


「なぜだ」


「不死身の使い道を、あなたは分かるかしら」ヴィオラが静かに言った。「死なない人間が一人いれば、どんな状況でも最後まで動き続けられる」


「囮になれるということか」


「そう」ヴィオラが言った。「私は死なない。だから——最も危険な場所に立てる。あなたたちが動くための時間を、私が作れる」


 俺はヴィオラを見た。


「なぜそこまでする」


「借りがあるから」ヴィオラが静かに言った。「あなたの記憶を無断で消したこと。その借りを返したい」


「借りなら返した。先ほど謝った」


「謝っただけでは足りない」ヴィオラが言った。「行動で返したい。それが私のやり方だから」そして一つ付け加えるように言った。


「もう一つ本命に理由があるのよ」


その声は煉には届かなかったが、言葉を発した時のヴィオラの耳は光に当てられ、赤みがかっていた。


---


 俺はしばらく考えた。


 不死身の人間が一人いる。


 どんな傷を受けても死なない。


 それは——確かに大きな戦力だ。


 だが。


「一つだけ条件がある」


「なにかしら」ヴィオラが後ろから聞いてきた。


「俺の仲間として動くなら、全員に話を通す必要がある」俺は言った。「颯も、城島も、澪も、里中も、倉石先生も。俺が勝手に決めることじゃない」


 ヴィオラが少し目を丸くした。


「……仲間の許可を取るのね」


「当然だ」


「魔王時代のあなたは、全部一人で決めていたけれど」


「今は違う」俺は静かに言った。「今の俺には、一緒に動く仲間がいる。その仲間を無視して動くつもりはない」


 ヴィオラがしばらく俺を見ていた。


 その目に、何かが宿った。


 魔王時代を知っている目だった。


 だが——今の俺を見ている目でもあった。


「……変わったのね」ヴィオラが静かに言った。


「そうかもしれない」


「いい方に変わった」


「お前がそう思うなら、そうなんだろう」


 ヴィオラが微かに笑った。


「わかった。仲間に話を通してから決めて。私は待つ」


「少し時間をくれ」


「いくらでも」ヴィオラが立ち上がった。「連絡先を交換しましょう。あなたが準備できたら、呼んで」


 スマホを取り出した。


 連絡先を交換した。


「一つだけ聞いていいか」俺は言った。


「なんかしら」


「お前は——孤独じゃないのか。今も」


 ヴィオラがしばらく砂浜を見ていた。


「孤独よ」ヴィオラが静かに言った。「ずっとそうだった。でも——あなたを見ていたら、少し違う気がしてきた」


「何が違う」


「あなたは一人じゃない」ヴィオラが俺を見た。「魔王時代は一人だった。でも今は——仲間がいる。それを見ていて、孤独でなくなる可能性があることを、久しぶりに思い出した」


 俺は何も言わなかった。


「それだけよ」ヴィオラが歩き出した。「また連絡して、黒瀬煉」


 銀色の髪が夕暮れの光に溶けた。


 ヴィオラが砂浜を歩いて、見えなくなった。


---


 俺は少しの間、砂浜に立っていた。


 波の音が続いていた。


 空が暗くなり始めていた。


 俺の記憶を消したのはヴィオラだった。


 怒るべきかもしれない。


 だが——怒れなかった。


 ヴィオラの言葉が、どこか正しいと感じていたからだ。


 過去の記憶が全部あれば、今の俺はなかったかもしれない。


 颯も、澪も、城島も、里中も、——今の仲間たちと、こうして過ごすことはなかったかもしれない。


「まあ」


 俺は歩き出した。


「なんとかなるだろ」


 独り言が、波の音に溶けた。


---


 駅で全員が待っていた。


 颯が「遅かったぞ」と言った。


「少し話していた」


「誰と」


「ヴィオラだ」


 全員が静かになった。


「また会ったんですか」澪が言った。


「ここに来ていた」


「何を話していたんですか」城島が聞いた。


「後で全員に話す」俺は言った。「今日は海だ。その話は後でいい」


 颯が「わかった」と言った。


 里中が「引きずるな、今日は楽しい日だ」と言った。


「そうだな」颯が頷いた。「煉、楽しかったか今日は」


「楽しかった」


「即答だ」颯が笑った。


「楽しかったから即答した」


「そっか」颯が言った。「俺もだ。最高の一日だった」


 電車が来た。


 全員で乗り込んだ。


 夏休みの一日目が終わった。


 ヴィオラのことは、後で話す。


 今日は——それだけで十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ