第67話「......まだ、終わっていない、、、?」
城島が呟いた瞬間、世界の“理屈”が書き換わる。差し込んでいた夕陽が折れ曲がり、あり得ない角度から主人公の影を伸ばした。次の瞬間、その影が刃となって襲いかかる。
「黒瀬くん、成長しているのはあなただけではないんですよ。あなたの力を借りなくても、戦えるよう、独自に訓練していたんです。」
避けたはずの一撃が、遅れて肩を裂く。
光が“届く前に当たる”――そんな矛盾が現実になっていた。
「あなたはもう、光の法則の外には出られない」
四方から光線が走る。逃げ場はない。
だが煉は、目を閉じた。
見るから、支配される。
なら――感じろ。
足裏に伝わる熱、空気の震え、わずかな温度差。視界を捨てた瞬間、光の軌道が“予測”に変わる。
一歩、半歩、踏み込み。
光が収束するその中心へ、あえて飛び込む。
「なぜ当たらない!?」
叫びと同時に、距離はゼロになる。
振り抜いた拳が、光の歪みごと叩き砕いた。
砕けた光が粒子となって散り、世界は本来の色を取り戻す。
静寂の中、ただ一つ――倒れる音だけが響いた。
「——っ」
試合終了。
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沈黙があった。
城島が場外から俺を見た。
「負けました」城島が言った。
「よく来た。新しくお前の能力の可能性を見ることができた」
「届きませんでしたが」城島が静かに笑った。「でも——手応えがありました。掠りました」
「そうだ。肩を掠めた」
「進歩ですね」城島が言った。「以前は掠ることもできなかったので」
「強くなっている」
「あなたと戦い続けてきたので」城島が言った。「それが一番の訓練でした」
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決勝の相手は、高坂だった。
高坂が準決勝で相手を圧倒していた。
身体能力強化系の全力使用だった。
速さと力が、他の参加者と一段違った。
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決勝が始まった。
会場の空気が変わった。
他の参加者が全員、試合を見ていた。
高坂が構えた。
「黒瀬。今日は全力でいく。お前も全力で来い」
「そのつもりだ」
「黒剣なしのお前に勝っても意味がないと思っていた時期もあった」高坂が言った。「だが——体育祭を見て、考えが変わった。黒剣なしのお前に勝つことにも意味がある」
「なぜだ」
「今のお前を超えることが、俺の現在地になるからだ」高坂が静かに言った。「黒剣ありのお前に勝つのは、その先の話だ」
「なるほど」
「では——来い」
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踏み込んだ瞬間、地面が砕けた。
高坂はただの人間のはずだった。だが、その一歩は獣の跳躍よりも速く、重い。空気が弾け、衝撃だけで頬が裂ける。
「遅いな」
声が耳に届いた時には、もう背後にいた。
振り返るより先に、横腹へ衝撃。骨が軋み、視界が揺れる。吹き飛ばされながらも、煉は無理やり体勢を立て直し、地面を滑るようにして距離を取った。
――速い。重い。硬い。
単純な強化。それだけでここまで差が出るのか、と奥歯を噛む。
敵は軽く首を回し、関節を鳴らした。その仕草一つで空気が震える。
「考えてる暇があるなら、もっと動け」
次の瞬間、消えた。
否、速すぎて視認できないだけだ。直感で体を捻る。直後、拳が頬を掠め、背後のコンクリートが爆ぜた。破片が散り、遅れて轟音が響く。
――見えないなら、読む。
主人公は呼吸を整え、足裏に意識を集中させた。地面に伝わる微細な振動。踏み込みの“予兆”。それを頼りに、来る方向を割り出す。
右、次は左、そして――上。
飛び上がると同時に、足元を敵の蹴りが通過した。風圧だけでバランスを崩されるが、そのまま体を回転させ、落下の勢いを乗せて踵を振り下ろす。
しかし、止められた。
片手で、だ。
「軽いな」
握られた足首に、圧倒的な力がかかる。骨が悲鳴を上げる前に、煉は自ら力を抜き、回転して拘束を外す。着地と同時に距離を取り、再び構える。
真正面からでは勝てない。
ならば――削る。
あえて一歩踏み込む。敵が反応し、拳を振るう。その軌道にギリギリで体を滑り込ませ、肩口に拳を叩き込む。手応えは硬いが、確かに“通った”。
だが代償は大きい。直後に膝が腹へめり込み、呼吸が止まる。地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出された。
「無駄だ。お前の攻撃は、全部見えてる」
見えている――それは違う。
単純に、速さと力でねじ伏せているだけだ。
だからこそ、隙がある。
立ち上がるふりをして、わざと大きく息を吸う。肩を上下させ、消耗を見せる。敵の目がわずかに緩む。
次の瞬間。
地面を蹴る。
全力ではない、半歩だけの踏み込み。敵の反応を引き出すための“餌”。案の定、敵はそれに合わせて最短距離で拳を振り抜く。
だが、その拳は空を切る。
踏み込みはフェイント。軸足を残したまま体を反転させ、死角へ潜り込む。完全に意識の外へ入り込んだ、その一瞬。
全身の力を一点に集める。
背中、腰、脚――連動させて、拳を叩き込む。
狙いは一点、首筋。
鈍い衝撃。初めて、敵の体が大きく揺れた。
「……っ」
言葉にならない声が漏れる。
逃さない。
続けて二撃、三撃と打ち込む。力では劣る。だからこそ、精度で押す。急所だけを、確実に。
やがて、膝が折れた。
巨体が崩れ落ち、地面が低く鳴る。
静まり返った空間で、荒い呼吸だけが響く。
主人公は拳を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
――強かった。
だが、強さが単純であるほど、崩れる瞬間もまた、単純だった。
誰もが煉が勝ったのだろう、そう考えた時、あり得るはずのない光景を目にすることとなる。
倒れたはずの体が、わずかに動いた。
――まさか。




