第60話「体育祭、開幕!」
朝起きて、外に出ると雲一つない晴天だった。
今日はある祭りの日だ。夏と言えばで出てくる人もいるぐらい有名な、あの祭り、、、
そう、体育祭の朝だった。
異能者の学園の体育祭は、一般の学校とは少し違う。
通常の競技に加えて、異能を使った競技がある。
異能対抗リレー。異能使用の障害物競走。チーム対抗の異能戦。
俺はそれを、倉石から事前に聞いていた。
「覇凰学園の体育祭は毎年、学園内で最も盛り上がる行事だ」倉石が言っていた。「普段は制限されている異能の全力使用が、競技の中では認められる」
「全力使用が」
「そうだ。だからこそ、生徒たちが本気になる」
俺はその話を聞いた時、少し興味を持った。
全力使用が認められる。
それは——楽しそうだ。
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朝のホームルームで、倉石がクラスの競技割り当てを発表した。
「今年の体育祭の競技一覧を伝える。我々のクラスの担当は以下の通りだ」
倉石が黒板に書いた。
異能対抗リレー。チーム対抗異能戦。通常の綱引き。騎馬戦。
「異能対抗リレーの選手を決める。立候補はあるか」
颯が即座に手を上げた。
「はい」
「神崎。他は」
里中が手を上げた。
「私も出る」
「里中先輩、うちのクラスじゃないですよね」颯が言った。
「今日だけ来た」里中が言った。
「なぜ」
「体育祭が楽しそうだったから」
「理由が軽い」
「うるさい」
倉石が「里中、お前は三年のクラスに戻れ」と言った。里中が「はい」と言って少ししょぼくてながら出ていった。颯が「あの人何してんだ。また来そうだな」と言った。澪が「来るでしょうね」と言った。
異能対抗リレーの選手が決まった。颯、城島、そして俺だった。
「黒瀬、異能なしで出るのか」別の生徒が言った。
「問題ない」
「でも他の選手は異能を使うぞ」
「だから何だ」
その生徒が黙った。最近になって学校の生徒たちは、だんだんと煉の実力が本物だということに気づき始めている。だからこその静寂
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チーム対抗異能戦の組み合わせが発表された時だった。
澪が隣で静かに言った。
「黒瀬くん」
「なんだ」
「チーム対抗異能戦——私は出られませんね」
「そうだな」
「悔しくはないですが」澪が言った。「応援はします」
「ありがとう」
「お礼を言われることじゃないです」
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競技が始まった。
最初は通常の百メートル走だった。
異能使用は禁止の競技だ。
颯が出た。
颯は実はとんでもなく身体能力がよく、足が速い。異能なしで、クラスで一番だった。
一位でゴールした。
「やった」颯が叫んだ。
「普通に速いな」俺は言った。
「褒めてくれてるのか」
「事実を言っている」
「褒め言葉として受け取る」
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昼前の競技、異能対抗リレーが始まった。
四人一組で走るリレーだ。各走者が異能を使いながら走る。
俺は第三走者だった。
第一走者の颯が走った。
嵐操作で風を起こして加速した。圧倒的な速さだった。ダントツで第二走者に繋いだ。
第二走者の城島が走った。
光理支配で自身の身体能力を一時的に強化した。流れるような走りで、順位を維持した。
まさに光の速度だ。
バトンが俺に渡った。
俺は走った。
異能はない。
ただ走った。
だが——体の使い方が違った。
魔王時代から叩き込まれた、体の効率的な動かし方だ。
無駄が一つもない走りだ。
異能を使っている他クラスの選手が、見る見るうちに後ろに下がっていった。
スタンドがざわめいた。
「異能なしで抜かした」
「黒瀬くんが走るたびに抜いていく」
「なんだあれ」
俺は第四走者にバトンを渡した。
順位は一位だった。
「ふう、まあ当然と言えば当然か」
第四走者がそのまま逃げ切った。
クラスが一位になった。
「だがやっぱり、人間の体だと全盛期のスピードの十分の一も出せないな」
その煉の言葉を聞いた周りの生徒たちは皆声を失っていた。
「や、や、やばすぎるだろ。ていうか、あいつの全盛期っていつなんだ」
まだ煉の前世を刷らないものの中には、そのような疑問を口にするものもいた。
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颯が「煉、異能なしで他を抜いたぞ」と言った。
「そうだな」
「普通じゃない走り方だった。体が全部繋がってる感じがした」
「効率的に動いただけだ」
「それが普通じゃないんだよ」颯が言った。「見ていて気持ちよかった。無駄が一つもなかった」
「経験があるだけだ」
「数百年分な」颯が笑った。
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昼休みだった。
澪が弁当を持って来た。
「おはようございます——じゃなくて、お疲れ様です」澪が言った。「リレー、見ていました」
「そうか」
「異能なしで異能持ちの生徒を三人抜いていましたね」
「そうだな」
「スタンドがざわめいていました」澪が弁当を広げた。「黒瀬くんが走るたびに、周りの反応が変わるのを見ていて——少し誇らしかったです」
「誇らしい?」
「おかしいですか」
「おかしくはないが——意外だった」
「なぜですか」
「お前がそういう感情を表に出すとは思っていなかった」
澪がしばらく弁当を見ていた。
「……最近は、少し出しやすくなりました」澪が静かに言った。
「何がきっかけだ」
「あなたが本当のことしか言わないから」澪が言った。「私も本当のことを言いやすくなりました」
「そうか」
「そうです」澪が玉子焼きを差し出した。「どうぞ」
「ありがとう」
「お礼を言われることじゃないです」
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午後の競技が始まった。
騎馬戦だった。
異能使用可の騎馬戦だ。
颯が「騎馬のどこをやるんだ」と聞いた。
「上だ」俺は言った。
「煉が上か」颯が言った。「じゃあ俺は下だな。馬になる」
「頼む」
「煉を乗せるのは重そうだ」
「失礼なことを言うな」
「冗談だ」颯が笑った。「任せろ」
騎馬戦が始まった。
颯、城島の友人二人が馬になった。俺が上に乗った。
今は関係のない話だが、友人という存在がいて、俺を色んな意味で支えてくれている奴が、いるという事実にほんの少し笑みが溢れた。
そんな時に開始の笛が鳴った。
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最初の相手が来た。
相手の騎馬の上に、体格のいい三年生がいた。
異能は電撃操作だ。
電撃が来た。
颯が嵐操作で電撃の軌道を逸らした。
相手の均衡が崩れた。
俺は前に出た。
相手の鉢巻きに手をかけ、、、
取った。
「一本」審判が叫んだ。
次の相手が来たが、今度は二騎同時だった。
左から岩石操作。右から風刃。
颯が左の岩石を嵐で弾いた。
右の風刃は俺が体を低くして躱した。
そのまま右の騎馬に突っ込んだ。
相手が崩れた。
「二本」
左の騎馬が後退した。
「待て」俺は左の騎馬に向かって言った。
「な、なんだ」
「逃げても追いかける。正面から来い」
相手が止まった。
周囲がざわついた。
「挑発してる」
「逃げる相手に正面から来いって」
「かっこいい」
相手が覚悟を決めたように前に出た。
岩石が来た。
颯が嵐で弾いた。
俺は相手の懐に入り込んだ。
鉢巻きを取った。
「三本」
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最後に残ったのは、一騎だった。
二年生のBランクの生徒だった。
だが——この騎馬は、他と違った。
上に乗っている生徒の目が、さっきまでとは違う。
覚悟が見えた。
「黒瀬煉」上の生徒が言った。「お前と戦えて光栄だ」
「名前は」
「橋本光、二年だ」橋本が言った。「異能は瞬間加速。一瞬だけ光速に近い速度を出せる」
「瞬間加速か」
一見城島の異能の下位互換のようにも見えるが、決してそんなことはない。予測だが、城島より最高速度は速い。つまり、、、
気を抜けば目で追うことすらできず、鉢巻きを取られる可能性がある。
「一度きりだ。使い切りだが——その一度に全てを賭ける」
「来い」
そう言って最後の戦いの火蓋が切って落とされた。




