第56話「深夜の大富豪」
テンションが上がり今の状況も雰囲気も何もわかっていない楓が言った。
颯が「よし!!!! ゲームしよう!!!!」と言った。「何がいい!?」
「トランプ!!!!」里中が言った。「私、得意なやつがある!!!!!!」
「なんですか」
「大富豪!!!!!!大富豪だけは絶対に負けない!!!!!!」
「本当ですか」颯が言った。「俺も大富豪得意ですよ?」
「負けない!!!!!!」
俺は里中を見た。
そういえば——以前、街ブラの時に颯が言っていた。大富豪が得意だと。
「煉はどうだ」颯が俺を見た。「大富豪できるか?」
俺は少し考えた。
大富豪。
黒瀬煉の記憶にはあった。ルールは知っている。
だが——実際にやったことはない。
「やったことはない」
「え、マジで?」颯が言った。「じゃあ俺が教えながらやるか——」
「まあいい、用意しろ」俺は里中を見た。「お前の得意でやってやろう」
この時城島は思った。(なんかどっかで聞いたことのあるセリフだなー、、、)
里中が目を輝かせた。
「言ったな!!!!!!」
「言った」
「後悔させてやる!!!!!!最強は私だ!!!!!!!!」
「まあ、なんとかなるだろ」
「なるわけないぞ!!!!!!大富豪だけは!!!!!!!!」
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五人でトランプを広げた。
ルールを確認した。
澪がまだ少し顔が赤かったが、城島が「澪さん、大丈夫ですか」と聞いた。澪が「大丈夫です」と言った。颯が「さっきの煉のやつ、面白かったよな!」と言った。澪が「神崎くん」と言った。颯が「はい」と言った。
一戦目が始まった。
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里中は、強かった。
本当に強かった。
手札の捌き方が、完全に計算されていた。どのタイミングで何を出すか。いつ流すか。いつ革命を狙うか。全部が緻密だった。
「大富豪!!!」
里中が一番最初に上がった。
颯が「くそっ!!」と言った。城島が「さすがですね」と言った。澪が「強いですね」と静かに言った。
俺は大貧民だった。
「後輩!!!大貧民じゃないか!!!最強は私だと言っただろ!!!」
「そうだな」
「悔しくないのか!!!」
「悔しい」
「悔しいって言えるんだな!!!なかなか面白い!!!」
「次だ、続けろ」
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二戦目、三戦目。
里中が連続で大富豪を取った。
俺は二戦目が平民、三戦目がまた大貧民だった。
「後輩!!!また大貧民!!!」
「わかっている」
「大富豪をなめていたか!!!」
「なめていた」
「認めるんだな!!!」
「戦闘は強いのにカードゲームとか苦手なんですね」
澪がそういい、クスッと笑った。
颯が「煉がゲームで負けてる!!!」と笑い、城島が「新鮮です」と言った。
俺は手札を見た。
三戦目の大貧民として、四戦目の手札は最悪だった。
3と4と5と6と7しかない。
弱い手しかない。
だが。
俺は手札を整理した。
数百年間、どんな状況でも戦い続けてきた。
だが、仲間などはいたもののあまり信用しておらず、遊ぶこと、はたまたカードゲームなんていう大人数でやる遊びはやったことがなかった。
だが手が悪くても、使い方がある。
まあーーー
なんとかしてみせよう
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四戦目が始まった。
序盤、俺は黙って手札を出し続けた。
弱い手しかないから、出すたびに誰かに上から被せられた。
里中が「後輩、また負けそうだな!!!」と言った。
「そうかもしれない」
「覚悟しろ!!!大貧民四連続を見せてやる!!!」
里中が強い手を出し続けた。
颯が「里中先輩、本当に強いな」と言った。
城島が「確かに、そもそもカード運が良すぎる。ていうかあの人、運に関することは大体強くないか、」と言った。
澪が「黒瀬くん、手は大丈夫ですか」と小声で言った。
「悪い」
「そうですか」澪が言った。「……あの、さっきのことは」
「覚えている」
「忘れてください」
「忘れない」
「忘れてください!!!」
「ゲームに集中してくれ」
「あなたが言い出した話では!!!」
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終盤になった。
里中の手は残り二枚だった。
上がり目が見えていた。
颯が残り四枚。
城島が残り五枚。
澪が残り六枚。
俺が残り八枚。
里中が「もう終わりだ!!!後輩!!!大貧民確定だぞ!!!」と叫んだ。
里中が手を出した。
ジョーカーだった。
最強の一枚。
俺はその瞬間に、手を見た。
手の中に、3が四枚あった。
最弱の四枚。
だが。
四枚同じ数字が揃っていた。
俺は立ち上がった。
全員が俺を見た。
「どうした煉」颯が言った。
俺は手札の3を四枚、テーブルに叩きつけた。
「天上天下唯我独尊!」
いきなり俺は叫んだ。
全員が固まった。
「……え?」里中が言った。
「革命だ」
テーブルの上に、3が四枚あった。
四枚同じカード。
革命の条件を、満たしていた。
強弱が、全て逆転した。
里中のジョーカーが——最弱のカードになった。
里中の残り二枚が——最弱の二枚になった。
俺の手札が——全部強くなった。
「…………嘘だろ」里中が言った。
「本当だ」
「革命!?今この状況で!?!?」
「そうだ」
「なんで3が四枚も!?」
「たまたまだ」
「たまたまで言うな!!!!!!」
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革命後の俺は、残りの手を全部出し切った。
大富豪。
里中は大貧民だった。
颯が「っっっっっしゃあああああああ!!!!」と叫んだ。
「煉が大富豪!!!最高!!!」
澪が「……すごいですね」と静かに言い、城島が「見事でした」と言った。
里中が、呆然とテーブルを見ていた。
「……後輩」
「なんだ」
「天上天下唯我独尊って——なんだ」
「言ってみたかった」
「なんで!!!」
「革命の瞬間に相応しい言葉を探したら、これだった」
「どこから出てきたんだ!!!」
「わからない」
「わからないって言うな!!!」
「いや絶対、呪術◯戦みましたよね。」
「最近アニメやってたから、漫画見返したくなっちゃったんですよね。」
城島が指摘した。
「◯儺と五◯に憧れちゃったんですね」
「、、、、みてない」
「黒瀬くんも案外可愛いんですね。実はちょっと厨二病だったりして」
そういうと、みんなが一斉に笑った。
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時計を見ると、深夜四時になっていた。
颯が「もう一戦!!!」と言った。
里中が「やる!!!絶対やる!!!リベンジ!!!」と言った。
澪が「……二人とも、明日も学園があります」と言った。
全員が止まった。
「明日」颯が言った。
「そうです」澪が静かに言った。「今日ですが。もう四時なので」
「……」
「……」
颯と里中が顔を見合わせた。
「「寝る!!!」」
二人の声が重なった。
澪が「やっぱり同じですね」と言った。颯が「違う!!!!」と言った。里中が「違う!!!!」と言った。また重なった。
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帰り際、澪が玄関で俺に言った。
「黒瀬くん」
「なんだ」
「さっきのこと」澪が少し声を落とした。
「ああ」
「……覚えていると言いましたよね」
「覚えている」
「酔っていたから、ですよね」
俺は少し考えた。
「酔っていたのは本当だ」
「ですよね」
「だが——」
「だが?」
「本当のことしか言わない主義だ」
澪がしばらく俺を見ていた。
それから、視線を逸らした。
耳が赤かった。
「……おやすみなさい」澪が早足で出ていった。
颯が「今の——!!!!」と言いかけた。
城島が「神崎くん」と言った。
颯が「はい!!!」と言った。
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全員が帰った。
俺は一人になった。
部屋の時計が、深夜四時を指していた。
窓の外に、夜明け前の空が広がっていた。
俺は天井を見上げた。
颯が深夜に電話してきた。
アルコール入りのチョコを食べた。
澪に余計なことを言った。
大富豪で里中に負けかけた。
革命で逆転した。
深夜四時まで過ごした。
何も生産的なことはなかった。
だが。
「悪くなかった」
誰にも届かない独り言が、部屋に落ちた。
夜明けの光が、窓から差し込み始めていた。
「まあ、なんとかなるだろ」
俺は目を閉じた。
深夜から朝にかけての数時間が、静かに過ぎていった。




