第55話「深夜の集まり」
深夜二時だった。
俺はアパートのベッドで、天井を見ていた。
眠れないわけではなかった。
ただ、色々と考えていた。
Sランクになった。次は覇級だ。黒剣を取り戻す必要がある。冥焔会の施設の場所は橘から聞いた。いつ動くか。どう動くか。
そういうことを考えていた。
スマホが鳴った。
颯からだった。
俺は画面を見た。
深夜二時に、颯から電話。
出た。
「なんだ」
「煉!!!!!!起きてるか!!!!!!」
声が大きかった。深夜二時の声ではなかった。
「起きている」
「よかった!!!!!聞いてれ!!!!!」
「なんだ」
「今から遊ぼう!!!!!!」
俺は少し間を置いた。
「は?」
「あーそーぼー!!!」
「断る」
「え!?!?」
「何がえ?だよ、今深夜二時だ。寝ろ」
「いやでも——」
「おやすみ」
プツッ
電話を切った。
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三十秒後に、また鳴った。
颯だった。
出た。
「なんだ」
「煉待って!!! 話を聞いてくれ!!!」
「明日でいいだろ」
「明日じゃねぇだろ」
颯の声のトーンが変わった。
さっきまでの深夜テンションとは違う。
妙に、熱を帯びていた。
「今日だろ」
「颯——」
(いきなりなんだこいつ、深夜テンションってやつか?)
「明日やろうなんて発想からは何も芽吹きはしねぇ」颯が続けた。「今日だけ。今日だけを頑張ったもの。頑張ったものにだけ明日は来るんだよ。」
「何だこれ。ついに本当に頭がおかしくなってしまったのか」
俺が何をいっても楓は言葉を紡ぐことをやめなかった。
「今日みんなで楽しく遊ぶ!それがお前にとって最高のハッピーエンドだろ!」
俺は黙った。
しばらく沈黙があった。
「……颯」
「なんだ」
「今、どのくらい眠いんだ」
「全然眠くない!!!!」
「そうか」
「来てくれるか!!!!」
俺はしばらく考えた。
颯が言ったことは——正論とも取れなくもない。
いや、深夜二時に遊ぼうという誘いに正論も何もない。
だが。
「……わかった」
「やった!!!!!!」
「五分で行く」
「待ってる!!!!!!」
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颯のアパートに着いた。
扉を開けると——全員がいた。
澪がソファに座っていた。城島が壁にもたれていた。
そして里中が床に大の字で寝転んでいた。
二人を除いて過半数が項垂れている
「後輩来た!!!!!!」里中が叫んだ。
「なんで全員いるんだ」
「颯くんが全員に電話したんです」澪が言った。顔がすこし眠そうだった。「私にも深夜一時に」
「城島も?」
「私にも」城島が静かに言った。「多分同じ口上でしたよ。今日だけを頑張ったものにだけ明日が来ると」
「全員に同じことを言ったのか」
「そうだ!!!!」颯が胸を張った。「名言だからな!!!!」
「どこで覚えた」
「さっきネットで見た!!!!」
「名言ではなく受け売りだったのか」
「細かい!!!!」
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颯がテーブルの上に何かを置いた。
「これ、食べてくれ」
小さなチョコレートの箱だった。
「なんだこれ」
「お土産!! さっき買ってきた!!!」
(正確には親から届いたアルコール入りのチョコだけど、まあ言わなくてもいっか!)
「深夜二時にどこで買ってきたんだ」
「コンビニ!!!!」
颯がチョコを一粒取って、俺に差し出した。
「ほら、食べろ」
「……」
「食べろって!!!!」
俺はチョコを一粒食べた。
甘かった。
それから——喉の奥に、何かが広がった。
熱い。
「颯」
「なんだ」
「これ、アルコール入りか」
「入ってる!!!! ラム酒入りチョコ!!! 大人の味!!!!」
俺は少し黙った。
もう一度、喉の奥の感覚を確認した。
広がっていた。
確実に広がっていた。
「……颯」
「なんだ?」俺の顔を見た颯の表情が変わった。「煉、顔赤くない?」
「そうか」
「ちょっと待って——もしかして」颯が言った。「アルコール、弱い?」
「弱いかもしれない」
「人間の体になってから飲んだことあるのか?」
「ない」
「初めて!?!?」颯が叫んだ。「チョコ一粒で顔赤くなるの!?」
「魔王時代はアルコールは体に影響しなかった。人間の体は——」
「弱い!!!!」颯が笑い始めた。「煉がアルコール弱い!!!!最高!!!!」
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澪が心配そうに近づいてきた。
「大丈夫ですか」
俺は澪を見た。
澪の顔が——いつもより、近く見えた。
眼鏡の奥の目が、心配そうに俺を見ていた。
「澪」
「はい?」
「お前は——」
「はい」
「きれいだな」
全員が静止した。
澪の顔が、みるみる赤くなった。
「……え」
「目が、いつも真っ直ぐだ、美しくて見惚れるような顔立ちをしている」俺は続けた。「それが——好きだ」
「く、黒瀬くん!?!?」
「本当のことを言っている」
「それはわかりますけど!! でも!!!」
颯が「煉が澪ちゃんにデレてる!!!!!!」と叫んだ。
城島が口元を手で覆っていた。笑いをこらえているようだった。
里中が床から起き上がって「後輩、大丈夫か!!!!!!」と叫んだ。
澪が「み、みなさん見ないでください!!!!」と言った。
「澪」俺はまだ澪を見ていた。
「な、なんですか!!!!」
「立ち振る舞いにも気を使っているのがよくわかる」
「何をいってるんですか!!!!」
「俺がたたかている時も、いつもそばにいて俺を支え続けてくれたよな」
「もうやめてください!!!!!!!!」澪が顔を両手で覆った。「お水飲んでください!!!!早く正気に戻ってください!!!!!」
「これからもずっと側で支えてくれ」
「そんなのもうほとんどプ、プ、プ、プロポーズじゃないですかー!!!」
その時この部屋にパァァァァァァン!!
という綺麗な音が鳴り響いた。
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城島が水を持ってきた。
「黒瀬くん、飲んでください」
「ありがとう、数百年ぶりにこんな強烈な攻撃を喰らった。以前はあの勇者と戦った時か、、、」
「伝説の勇者さんと一緒にしないでください。私がかわいそうじゃないですか」
「飲んでから、澪さんに謝ってください」
「謝ることは言っていない」
「澪さんが困っています」
「困らせるつもりはなかった」
「ではなおさら謝ってください」
俺は水を飲んだ。
少し、頭が落ち着いた。
澪が顔を両手で覆ったまま、ソファの端に縮こまっていた。
「澪」
「……なんですか」
「さっきは——少し余計なことを言った」
「少し!? だいぶでは!?!?」
「少しだ」
「少しって言い張るんですか!!!!」
「本当のことを言っただけだ。余計だったのは——タイミングだ」
澪がしばらく黙っていた。
両手で顔を覆ったまま。
「……覚えていますか、今言ったこと」
「覚えている」
「……そうですか」澪が言った。声が小さかった。「……水を、もう一杯飲んでください」
「飲む」
そういって、全員が言ったホッと胸を撫で下ろした。そして、この後ついに始まる。
全員のプライドと意地をかけた勝負が。
勝者だけが正義だ。敗者は語る資格すらない
──開幕だ。




