第53話「結果発表」
施設に戻ると、すでに多くの生徒が集まっていた。
脱落した生徒たちが、思い思いの場所に座っていた。疲れた顔をしている者、悔しそうな顔をしている者、すっきりした顔をしている者。様々だった。
颯が周囲を見回した。
「結構な人数が脱落してるな」
「そうだな」
「煉が一番多く脱落させたんじゃないか」
「数えていない」
「俺は数えてた」颯が言った。「十四人だ」
「そうか」
「十四人を黒剣なしで」颯が言った。「しかも一人も怪我させてない」
「怪我させる必要がなかった」
「それが一番すごいんだよな」颯がしみじみ言った。「倒し方が、全部ギリギリで。殺せる力があるのに、寸止めしてる」
「当然だ」
「当然って言えるところが、煉らしいよな」
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里中が戻ってきた生徒たちを見回して叫んだ。
「私が花粉で視界を塞いだせいで脱落させられた人!! 恨まないでくれ!!! 異能の練習中だったんだ!!!!」
何人かが「は?」という顔をした。
颯が「先輩、それ言わなくていいですよ!!!」と言った。
「言いたかったんだ!!!!」
「なんで!!!!」
「気になってたから!!!!」
城島が「里中先輩、少し落ち着いてください」と言った。里中が「はい」と言った。颯が「城島先輩には従うんですね」と言った。里中が「なんか怖いから」と言った。城島が「怖くありません」と言った。
澪が俺の隣に来た。
「倉石先生が来ます」
俺は前を向いた。
倉石が集会場に入ってきた。他の引率教員も続いた。
全員が集合した。
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倉石が前に立った。
「訓練を終了する」倉石が言った。「脱落者の確認が完了した。結果を発表する」
会場が静まり返った。
「まず——最後まで脱落せず生き残った生徒の名前を読み上げる」
倉石が手元の紙を見た。
「黒瀬煉。神崎颯。朝霧澪。城島蓮。里中日向」
里中が「おお!!!」と小声で叫んだ。颯が「全員か!!」と言った。
「以上五名が、最後まで脱落しなかった生徒だ」
会場がざわめいた。
「五人も残ったのか」「一年生が四人いる」「里中が残ってるの意外」「黒瀬煉はやっぱりか」
里中が「意外とはなんだ!!!」と周囲に向かって言った。颯が「先輩落ち着いて」と言った。
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「次に」倉石が続けた。「ランク昇格の権利について説明する」
全員が聞き耳を立てた。
「今回の訓練における昇格の権利は——最も多くの生徒を脱落させた者に与えられる」
「え?」颯が言った。「最後まで残った者じゃないんですか?」
「残ることと、脱落させることは別の基準で評価する」倉石が言った。「今回の訓練の目的は生存能力と戦闘力、両方の測定だ」
「両方か」
「最多脱落数を記録した生徒の名前を言う」倉石が手元の紙を見た。「黒瀬煉。脱落数、十四名」
会場が静まり返った。
十四名。
誰かが「十四!?」と言った。「一人で!?」という声が続いた。「しかもいつも腰に下げてた武器なしで、って聞いたぞ」という声も聞こえた。
「黒瀬煉、ランク昇格の権利を与える」倉石が言った。「現在Aランク。昇格後はSランクとなる」
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静寂があった。
颯が「っしゃあ!!!!」と叫んだ。
城島が「おめでとうございます」と静かに言った。
澪が俺を見た。
何も言わなかった。
ただ、微かに笑っていた。
「澪」
「なんですか」
「笑っているな」
「笑っていません」
「笑っていた」
「……少しだけ」澪が視線を逸らした。「おめでとうございます」
「ありがとう」
「お礼を言われることじゃないです」
いつもの言葉だった。
だが今日のそれは——いつもより少し、温かかった。
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里中が俺の前に来た。
「後輩」
「なんだ」
「Sランクになるのか」里中が言った。
「そうなる」
「私はAランクのまま残念だ」里中が言った。「でも——お前がSランクになるのは、まあ納得できる」
「そうか」
「認めてやる」里中が腕を組んだ。「花粉操作で役に立てたしな」
「役に立った」
「本当か!! 本当に役に立ったか!!!」
「本当だ」
「よかった!!!!」里中が叫んだ。「じゃあお礼に——私もSランクを目指してやる!!! 花粉操作でSランクになって、先輩の貫禄を見せてやる!!!!」
「頑張れ」
「頑張る!!!!」
颯が「先輩、煉に認めてもらえてよかったですね」と言った。里中が「颯にだけは言われたくない!!!」と言った。颯が「なんでですか!!!!」と言った。
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夕食は施設の食堂で出た。
一日サバイバルをした後の食事だった。
颯が「うまい!!!!」と三人前を平らげた。里中が「負けない!!!!」と言いながら二人前を食べた。颯が「先輩、食べるんですね」と言った。里中が「失礼な!!!!」と言った。
俺は城島の隣に座った。
「黒瀬くん」城島が静かに言った。
「なんだ」
「Sランクになりましたね」
「そうだな」
「次は——覇級への挑戦権が見えてきます」城島が言った。「Sランクが学園内の最高位なら、その先は外の世界になります」
「わかっている」
「二年生になったら——学園の外でも動くことになると思います」城島が言った。「冥焔会との本格的な戦いも」
「そうだな」
「覚悟はできていますか」
「とっくにできている」
城島が微かに笑った。
「そうですね。あなたに限って、そんなことを聞く必要はなかった」
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食事が終わった後、澪が俺の隣に来た。
「少し話せますか」
「ああ」
施設の外に出た。
夜の海が見えた。星が出ていた。波の音がした。
澪が海を見ながら言った。
「Sランクになりましたね」
「そうだ」
「次のランクは——覇級ですね」
「そうだ」
「世界に数人しかいない」澪が静かに言った。「橘将望もその一人でした」
「ああ」
「怖くないんですか」
「怖くはない」
「なぜですか」
俺は少し考えた。
「手が見えているから」俺は言った。「颯がいる。城島がいる。倉石先生がいる。お前がいる。何も見えなかった時より、今の方が手が見えている」
澪がしばらく海を見ていた。
「……私が手の一つになっていますか」
「なっている」
「そうですか」澪が静かに言った。「それなら——もっと役に立てるように、頑張ります」
「十分役に立っている」
「十分じゃないです」澪が言った。「あなたが覇級と戦う時、私にできることを増やしたい」
「できることはたくさんある」
「例えば」
「さっきの里中の話と同じだ」俺は言った。「お前は戦えなくても、可能性を見つけられる。それは俺にはできないことだ」
澪がしばらく黙っていた。
「……そういうことを」澪が言った。「さらっと言うんですね、あなたは」
「本当のことだ」
「わかっています」澪が海を見た。「でも——さらっと言われると、少し困ります」
「なぜ困る」
「なんでもないです」
「教えろ」
「なんでもないです」澪が繰り返した。耳が赤かった。
波の音がした。
風が吹いた。
澪の綺麗な茶色の髪が揺れた。
「黒瀬くん」
「なんだ」
「一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「覇級を超えた先に——何がありますか」
俺は空を見上げた。
星が満ちていた。
「答えが出る」俺は言った。
「どんな答えですか」
「人間の体で、どこまで行けるのか」俺は静かに言った。「それが——俺がこの体になってから、ずっと探している答えだ」
澪がしばしば俺を見た。
「……見つかると思いますか」
「見つける」
「見つかったら——教えてください」
「ああ」
「約束ですよ」
「約束だ」
二人で夜の海を見た。
波が繰り返し、砂浜に打ち寄せていた。
遠くから颯の声がした。
「煉!! 澪ちゃん!! デザートあったぞ!! 早く来い!!!!」
里中の声も聞こえた。
「颯!! デザートは私が先だ!!!!」
「なんで先輩が先なんですか!!!!」
「先輩だからだ!!!!」
「意味がわからない!!!!」
澪がため息をついた。
「……行きましょう」
「そうだな」
二人で施設に向かって歩き出した。
俺は少し振り返って、夜の海を見た。
Sランク。
次は——覇級だ。
黒剣を取り戻す。
冥焔会と戦う。
全部、まだ続いている。
「まあ、なんとかなるだろ」
「なりますよ」澪が前を向いたまま言った。
「そうだな」
施設の中から、颯と里中の声がまだ聞こえていた。
二人分の足音が、夜の砂を踏んだ。




