第51話「花粉と嵐、そして最後の集団」
島の中心部に近づくにつれ、気配が増えてきた。
俺は足を止めた。
「前方に五人いる」
「五人か」颯が言った。「最後の集団だな」
「おそらく」
「Sランク相当がいるんだろ」城島が言った。「辻堂くんが言っていた」
「そうだ。加えてこのグループが最後ということから察するに、こいつらもかなりの数やっている」
里中が前に出ようとした。颯が「先輩、落ち着いて」と言った。里中が「うるさい」と言った。颯が「本当に落ち着いてください」と言った。里中が「……わかった」と言った。
澪がノートを開いた。
「五人の集団、中心にSランク相当がいるとして——残りの四人がどういう配置で動いているかが問題です」
「そうだな」
「単純に突っ込むのは得策ではありません」澪が言った。「五人を一気に相手にすれば、さすがに消耗します」
「だから颯と里中に動いてもらう」俺は言った。
「え、俺も?」颯が言った。
「颯の嵐操作と、里中の花粉操作を同時に使う」俺は続けた。「颯は広範囲の気象ノイズを発生させる。里中は花粉を密集させて視界を塞ぐ。その混乱の中で、俺が一人ずつ制していく」
「なるほど!」颯が頷いた。「俺と先輩で援護して、煉が動くわけか」
「そうだ」
「私も戦えるぞ!!」里中が言った。「さっき穴も開けられたし!!」
「花粉の弾丸は、視界を塞ぐことに使え」俺は里中を見た。「直接攻撃よりも、相手の判断を狂わせる方が価値がある」
里中がしばらく俺を見た。
「……わかった」里中が言った。声が珍しく落ち着いていた。「任せろ」
「城島と澪は後方で待機してくれ」
「わかりました」城島が頷いた。
澪が俺を見た。
「黒瀬くん」
「なんだ」
「怪我しないでください」
「わかっている」
「約束ですよ」
「約束だ」
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木々の間から、前方の開けた場所が見えた。
五人の集団がいた。
中心に立っているのは、背の高い三年生の男子だった。Aランクの上を示す特殊なエンブレムをつけていた。辻堂が言っていたSランク相当の生徒だろう。
周囲に四人が散らばっていた。
全員が警戒態勢を取っていた。
「気づかれているかもしれない」城島が小声で言った。
「気づかれていない」俺は言った。「ただ、この訓練全体を通じて警戒を続けていた集団だ。常に警戒態勢なのだろう」
「なるほど」
「颯、始めていいか」
「いつでも」颯が頷いた。
「里中」
「わかってる」里中が言った。右手を軽く握った。「やる」
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颯が嵐操作を起動した。
風が生まれた。
気圧が変化し始めた。
五人が反応した。
「風が——」
「嵐操作か! 誰かいる!」
その瞬間、里中が動いた。
右手を開いた。
花粉が、空気中に充満した。
花粉症を引き起こすための拡散ではなかった。
密集させた花粉の壁が、五人の視界を塞いだ。
「見えない!!」
「何だこれ! 粉!?」
「目が——!」
俺は走った。
颯の嵐が視界を揺らし、里中の花粉が視界を塞ぐ。
五人が混乱していた。
一人目。水流使いが、自分の能力で花粉を流そうと発動した隙に、俺は背後から近づき、首筋に手刀を当てた。崩れた。
「一人」
二人目。炎使いが闇雲に炎を放っていた。俺は炎の軌道を読んで躱し、脇腹に掌底を入れた。倒れた。
「二人」
三人目。電撃使いが叫んでいた。「どこだ! どこにいる!」俺は電撃使いの真横に出た。電撃使いが振り向いた瞬間、右の肘を顎に入れた。意識が落ちた。
「三人」
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残り二人。
四人目の生徒が花粉の中から飛び出してきた。
俺の正面に出た。
Bランクのエンブレムをつけた、女子生徒だった。
「見えた!!」女子生徒が叫んだ。
异能を発動した。
瞬間移動に近い速度移動だ。
俺の右側に現れた。
打ちかかってきた。
俺は右に半歩ずれた。女子生徒の拳が空を切った。
通り過ぎた体を掴んだ。
後ろに投げた。
「四人」
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最後の一人。
Sランク相当の男子が、花粉の外に出ていた。
嵐操作の風で、花粉が薄れていたのだろう。
男子が俺を見た。
「黒瀬煉か」男子が言った。落ち着いた声だった。「聞いていたよりずっと速い」
「そうか」
「四人を、ほぼ一瞬で制した」男子が構えた。「私の名前は有馬。Sランク相当と言われているが——正直、その評価が正しいかどうかわからない。今日初めて、本当の意味で試される気がする」
「異能は」
「直接聞くんですね」
そう言い有馬は苦笑した。
「だけど、嫌いじゃない、空間固定だ」有馬が答えた。「対象の動きを、空間ごと固定する。一度捕まえれば——どんな速度の相手でも止められる」
俺は有馬を見た。
空間固定。
これは——厄介だ。
捕まえられれば、動けない。
「来い」
「格の違いを見せてやる。遊んであげようか」
俺は挑発の意もこめてそんな言葉を口にした。
「よく回る口だ。最近の若い子は年上に対する尊敬の眼差しがないですね」
「お前もその若い子だろうが」
「いいえ、私はいいんです」
「自分だけ仲間外れか、仲間に入れてやるよ」
「遠慮しときます」
そう言って有馬が胡散臭い笑顔を顔に貼り付けた時、火蓋は切って落とされた。




