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第48話「最強の女(仮)とデコピンアタック」

 夜明けだった。


 宮田が俺たちの前に立った。


「黒瀬、ちょっといいか」


「なんだ」


「俺、降参するよ、」


 全員が宮田を見た。


「ついてくって決めた時から俺ずっとこれでいいのかなって考えてて、昨夜の辻堂先輩との戦いを見て、決めたんだ」宮田が言った。「俺がついていったら、黒瀬たちの足を引っ張る。昨日もずっとそう思ってたんだけど、言い出せなくて」


「それに、、、俺はこのままだと強くなれない。黒瀬たちに憧れたんだ。あんな風に友達も自分も守ってるお前たちにだ。」


「そうか」


「だから待っててれ。確かに今はお前らの足元にも及ばない。けど、雑魚には雑魚なりの戦い方があるっていうのをいつかわからせてやる!」


そう言って、少し目尻を赤くしながら笑みを浮かべた宮田の顔は、最初についてきた時の何倍も振り切れていた。


「お世話になりました!」宮田が深々と頭を下げた。「脱落は自分で先生に言いに行く。黒瀬たちと一緒にいられて、勉強になった!」


「絶対に生き残れよ!学園で応援してるからな!」


「また学園で」


「うん!」宮田が走っていった。


 颯が「律儀なやつだったな。あいつはきっと強くなるぞ」と言った。澪が「何師匠ずらしてるんですか。さっさと歩きますよ」と言って苦笑した。


---


 四人で東の森に向かって歩いていた時だった。


 廃れた建物が、木々の間に見えた。


 体育館だ。


 屋根が少し崩れていた。窓ガラスが割れていた。明らかに使われていない。


「なんだあれ」颯が言った。


「古い施設かもしれません」城島が言った。


 その時だった。


 体育館の中から、声が聞こえた。


「——我こそは最強! この島に敵なし!! かかってくるやつは全員相手にしてやる!!!」


 全員が止まった。


 颯が「……今の聞こえたか」と言った。


「聞こえた」


「最強、って言ったよな」


「言った」


「行ってみるか」颯がにやにやし始めた。


「行く」


---


 体育館の扉を開けた。


 ステージの上に、女子生徒が立っていた。


 小さかった。


 身長は澪より低い。制服の袖が少し余っている。

いわゆる萌え袖というやつだ。いや、その範疇では収まっていないかもしれない。明るく、手入れの行き届いた、艶やかな朱色の髪を、高いポニーテールに結んでいた。


 その子が俺たちを見た。


 目が合った。


「来たか! 挑戦者が!!」女子生徒が叫んだ。「覚悟しろ!! 私は最強なんだぞ!!」


 颯が「誰だこいつ」と小声で言った。


「知らない」


「三年生のエンブレムついてるな」颯が言った。「先輩か」


「そうみたいだな」


「最強って言ってるぞ」


「聞こえている」


 女子生徒が腕を組んでステージの上から俺たちを見下ろした。


「お前ら、名前は! 私に挑戦するなら名乗れ!!」


 颯が「神崎颯、一年です」と言った。城島が「城島蓮、一年です」と言った。澪が「朝霧澪、一年です」と言った。


 俺は「黒瀬煉、一年だ」と言った。


 女子生徒が俺を見た。


「一年!?」女子生徒が叫んだ。「全員一年じゃないか! 後輩が来たのか! 先輩に向かってよく来たな! 礼儀はあるのか!!」


「お前が先に名乗れ」


「うっ」女子生徒が止まった。「そ、それはそうだが!!」


 女子生徒が咳払いをした。


「私は三年、里中日向さとなかひなた! 異能者にして最強の戦士! この島の覇者!!」


「何人倒した」


「え?」


「何人脱落させた」俺は言った。


 里中がわずかに目を泳がせた。


「……ゼロ」


「ゼロで最強か」


「こ、これからだ!! 誰も来なかっただけだ!!」


---


 颯が「異能は何ですか」と聞いた。


「言わなくていい! 秘密だ!」


「言えない理由があるのか」俺は言った。


「な、ない!! 花粉操作だ!! 花粉を自在に操る最強の異能!!」


 全員が沈黙した。


「……花粉」颯が言った。


「そうだ! 花粉だ!! なんだその顔は!!」


「いや——」颯が言葉を選んでいた。


「弱くない!! 花粉症を引き起こす最凶の異能だ!! 相手がくしゃみで動けなくなる!!」


「相手が花粉症じゃなかったら」俺は言った。


「…………」


「どうなる」


「…………効かない」


 颯が「おい」と小声で言った。澪が「神崎くん」と言った。


「でも花粉症の人には最強だ!!」里中が叫んだ。「花粉症人口は日本に約三千万人いる!! 三千万人に対しては最強だ!!」


「ここにいる全員が花粉症ではない」俺は言った。


「そ、そうかもしれないが!!」


---


 俺は里中を見た。


「降参しろ」


「しない!! 勝負だ!!」


「デコピンで終わる」


「なめるな!!」


 俺はステージに上がった。


 里中が花粉を飛ばした。


 俺には効かなかった。


 人差し指を立てた。


 「必殺奥義【デコピンアタック】」


 そう煉がいい、軽く弾くと、、、


 「あっ、いたっ!」


 里中の額に当たった。


 里中が吹き飛んだ。


 ステージの端まで転がった。


「うぁっ——!!!」


 颯が「うわ」と言った。澪が「……強く当てすぎでは」と言った。


 里中が起き上がった。


「い、今のはたまたまだ!!! もう一回やれ!!!」


 俺は再び人差し指を立てた。


「よしもう一回俺の必殺奥義【デコピンアタック】を喰らうんだな。度胸だけは褒めてやる。俺はそういう奴が嫌いじゃない」


 里中の目が変わった。


 さっきまでの強がりが、一瞬で消えた。


「ひっ——」


 里中がぶるぶると震えた。


「ま、まって、まってまって——」


「降参するか」


「す、する!!! 降参します!!!」里中が叫んだ。「デコピン二発目だけはやめてください!!!!」


 颯が爆笑した。「最強じゃなかったんかい!!!」


---


 里中が仲間になった。


 経緯は簡単だった。



「一人でいるより生き残れる確率が上がる」と俺が言った。里中が「し、仕方ない!!ついてってやる!!」と言った。


一難さってまた一難ならぬ、一人さってまた一人か


 颯が「先輩なんだから俺たちがついていくんじゃないですか」と言った。里中が「うるさい!!同じだ!!!」と言った。


 歩き始めて五分が経った頃だった。


「あんた、名前なんだっけ」里中が颯に言った。


「神崎颯です」


「颯か!! 私と似た雰囲気だな!! なんか!!」


「俺と?」颯が首を傾げた。「似てますかね」


「似てる!! なんか元気だし!! うるさいし!!」


「うるさいは余計では!?」


「事実だろ!!」


「先輩もうるさいですよ!?」


「私はうるさくない!! 元気なだけだ!!」


「同じでは!?」


 城島が「二人とも声が大きいです」と言った。澪が「まったく同じタイプですね」と静かに言った。


 里中と颯が同時に「違う!!」と言った。


 また全員が沈黙した。


 颯と里中が、お互いを見た。


「……なんかむかつく」颯が言った。


「むかつくのはこっちだ!!」里中が言った。


「似た者同士ですね」城島が静かに言った。


「「違う!!!!」」


 二人の声が重なった。


 俺は前を向いて歩いた。


「まあ、なんとかなるだろ」


「なるか!? この先輩と一緒で!!!」颯が叫んだ。


「なります」澪が静かに言った。「たぶん」


「たぶん、のとこが不安だ!!」

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