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第45話「夜の決闘」

 夜になった。


 島の空は、街とは違った。


 光がない。


 空が、星で埋め尽くされていた。


 俺は高台に立って、島全体を見下ろした。


 いくつかの火が見えた。生き残っている生徒たちが、野営を始めていた。


 東の森に二つ。南の砂浜に一つ。施設の近くに一つ。


 澪がノートに書き込んだ。


「現在確認できる火が四つです。それぞれに複数人いると仮定すると——まだ二十人前後が生き残っていると思います」


「そうだな」


「城島くんの火が見えません」颯が言った。「どこにいるんだろう」


「施設の近くの火が城島かもしれない」俺は言った。


「どうやって確認する。電波、まだ繋がらないよな」


「繋がらない」


その時だった。


俺の足元に、小石が一つ転がってきた。


誰かが投げた。


俺は小石を拾った。


石の表面に、何かが彫られていた。


細い線で、方角と数字だった。


南東。三百メートル。


「城島だ」俺は言った。


「え?」颯が小石を覗き込んだ。「これが城島先輩から?」


「事前に取り決めていた」澪が静かに言った。


俺と颯が澪を見た。


「……出発前に、城島くんと話しました」澪が言った。「電波が使えない可能性があったので。合流する方法を決めておきました」


「いつの間に」颯が言った。「俺、知らなかったぞ」


「あなたに話すと騒ぐから言いませんでした」


「それは——まあ、否定できないけど!」


---


 南東に向かって移動した。


 夜の森は暗かった。


 だが俺には問題なかった。


 目を半分閉じて、気配で動く。


 木々の間を抜けながら、三百メートルを歩いた。


 開けた場所に出た。


 城島がいた。


 一人だった。岩の陰に身を潜めていた。


颯が「城島先輩!」と声を上げた。


「静かに」城島が人差し指を立てた。「まだ周囲に生徒がいます」


「そうか」颯が声を落とした。「先輩、無事だったか」


「無事です」城島が俺を見た。「黒瀬くん、今日の戦果は」


「九人」


「九人」城島が少し目を見開いた。「黒剣なしで、ですか」


「そうだ」


「……さすがですね」城島が静かに言った。「私は三人です。光理支配で制しました」


「十二人か」颯が言った。「俺は二人。澪ちゃんは?」


「私は戦っていません」澪が言った。


「宮田は?」颯が宮田を振り返った。


「僕は……ゼロです」宮田が小さくなった。「すみません」


「謝らなくていい」俺は言った。「生き残っていること自体が、この訓練では価値がある」


「そうですか」宮田が少し顔を上げた。


---


 五人で状況を整理した。


「残りの生徒は推定八人から二十人」澪がノートを見ながら言った。「高台から確認した火の場所から考えると、グループが三つあります。単独行動の生徒も数人いると思われます」


「一番の脅威はどこだ」城島が言った。


「東の森の火が一番大きかった」俺は答えた。「複数人が集まっている可能性が高い」


「昼間の七人集団の残りか?」颯が言った。


「七人は全員脱落した」俺は言った。「別の集団だ」


「別の集団が東に」城島が考え込んだ。「昼間に動いていなかった生徒たちが、夜になってから動き始めたということですか」


「そう思う」


「夜を待っていたわけですね」城島が言った。「夜の方が動きやすい異能の持ち主がいるということかもしれません」


「あるいは——昼間の俺たちの動きを観察していた」


全員が少し沈黙した。


「……観察されていたのか」颯が言った。


「可能性がある」


「それはちょっと嫌だな」颯が言った。「どんな手を使うかを見られてたかもしれないわけだろ」


「そうだ」


「煉が黒剣なしで動くことも」


「知られているかもしれない」


颯がしばらく考えた。


「ならば——煉が黒剣なしで動くことを知った上で、それでも来るやつが最後に残るわけだ」


「そうなる」


「強い相手ってことだよな、必然的に」


「そうだ」


颯が俺を見た。


「……煉」


「なんだ」


「今夜、来ると思うか」


「来る」俺は言った。「今夜中に来る」


---


 そう言った、三十分後だった。


 気配を感じた。


 一つだけ。


 だが——重い。


 橘とは違う重さだ。橘の気配は底が見えない薄さだった。


 こっちは——どっしりと、重い。


 岩のような気配だ。


「来た」俺は小声で言った。


全員が動きを止めた。


木々の間から、人影が現れた。


二年生のエンブレムをつけていた。Aランクだ。


背が高い。体格がいい。無駄な筋肉のない、引き締まった体だ。


顔に、感情がなかった。


俺を見ていた。


「黒瀬煉」その生徒が言った。落ち着いた声だった。「探していた」


「俺を探していたのか」


「昼間から見ていた」生徒が言った。「黒剣なしで九人を制したのを確認した。その上で——来た」


「名前は」


辻堂透つじどうとおる」生徒が言った。「二年Aランク。お前と同じだ」


「異能は」


「肉体強化と感覚強化の複合」辻堂が答えた。「見ての通り、シンプルだ」


シンプル。


俺は辻堂を見た。


三浦に少し似ていた。純粋な身体能力系の使い手だ。だが三浦と違うのは——感覚強化が加わっている点だ。


感覚強化と肉体強化の複合。


速さと力だけでなく、知覚も強化される。


「颯、下がっていろ」俺は言った。


「一人でいいのか」


「一人でいい」


「辻堂先輩はAランクだぞ」颯が言った。「しかも俺たちの動きを全部見てた」


「だから面白い」


颯が少し止まった。


「……面白い、って言ったか今」


「言った」


「煉が面白いって言うの、珍しいな」颯が言った。「よっぽど強そうに見えるってことか」


「久しぶりに本気が出せそうだ」


颯がしばらく俺を見た。


それから「わかった」と言って後退した。


澪が「黒瀬くん」と小声で言った。


「なんだ」


「約束してください」


「立っている」


「絶対ですよ」


「絶対だ」


---


 辻堂が構えた。


 構えがなかった。


 ただ、自然体で立っていた。


 だが——その立ち方から、尋常でない練度が滲み出ていた。


「一つだけ聞いていいか、黒瀬」辻堂が言った。


「なんだ」


「なぜ黒剣を持っていない。なくしたのか、それとも意図的に使わないのか」


「なくした」俺は正直に言った。「取り戻す途中だ」


「そうか」辻堂が頷いた。「なら——今夜の俺は、お前の本当の実力を見る最適な相手というわけだ」


「そうなるな」


「では——存分に来い」

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