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第43話「武器なし無能者でも勝てます」


 七人が動いた。


 全員が同時に異能を発動した。


 炎、電撃、岩石、風刃、氷、毒霧、光刃。七種類の異能が、俺と颯に向かって放たれた。


 颯が嵐操作で自分の周囲を守りながら叫んだ。


「煉! 七人は多いぞ!!」


「知っている」


「黒剣ないのにいけるのか!!」


「やってみればわかる」


 俺は走った。


 七人の攻撃が来る前に、間合いを詰める。


 遠距離から攻撃を受け続けると、数の不利がそのまま出る。ならば懐に入り込む。近距離では、複数人が同時に攻撃できなくなる。


 一人目——炎使い。


 炎の拳が来た。


 俺は右に半歩ずれた。拳が空を切った。通り過ぎた腕を掴んで、後ろに投げた。炎使いが二人目の電撃使いに激突した。二人が絡まって転倒した。


「二人」


 三人目の岩石使いが地面を隆起させた。


 俺は隆起する前に跳んだ。岩石の上に着地した。そのまま岩石を踏み台にして、岩石使いの頭上に跳んだ。


 降りながら岩石使いの肩を掴んで、地面に押さえつけた。


「三人」


 後ろから風刃が来た。


 振り返らずに体を低くした。風刃が頭上を通過した。


 立ち上がりながら、風刃の術者の方向に走った。


 風刃使いが距離を取ろうとした。追いついた。右の掌底を脇腹に入れた。風刃使いが折れるように崩れた。


「四人」


---


 澪は後方から戦闘を見ていた。


 ノートを持っていたが、書けなかった。


 書く余裕がなかった。


「なに、、、これ」


 澪がそういうと、物が何か二つ落ちた音がした後、その場にいた誰もが思っていたこと。それは、、、


 【目が離せない】


 黒瀬煉が、黒剣なしで動いていた。


 大それたことをやっているわけでも華美なことをやっているわけでもないのに、どこか引きつけられる。そんな「蹂躙」だった。


 異能者四人を、三十秒もかけずに制した。


 それだけなら、澪は驚かない。


 驚いたのは——その動き方だ。


 無駄がない。


 完全に無駄がない。


 一歩ごとに、次の動きが計算されている。体の向きが変わるたびに、すでに次の相手への軌道が作られている。


 まるで——全員の動きが、最初から見えているかのように。


 いや、見えているのではない。


 澪は気づいた。


 読んでいるのだ。


 異能の発動する瞬間の気配を。術者の体重移動を。視線の方向を。


 全部を同時に処理して、最短の動きで対処している。


 人間に、そんなことができるのか。


 澪は手が震えていることに気づいた。


 怖いわけではなかった。


 ただ——圧倒されていた。


 この人は。


 澪は思った。


 本当に、「人間」じゃない。


---


 残り三人だった。


 氷使い、毒霧使い、光刃使い。


 この三人は賢かった。


 四人が倒れるのを見て、距離を取った。


 連携を取り始めた。


 氷使いが足元を凍らせようとした。毒霧使いが霧を展開して視界を塞いだ。光刃使いが霧の中から攻撃を放とうとしていた。


 三人で、俺を閉じ込める形を作ろうとしていた。


 颯が叫んだ。


「煉! 俺が霧を飛ばすか!?」


「待ってくれ」


「なんで!?」


「見ている。俺一人で充分だ」


「何を見てるんだよ!!」


 俺は霧の中に立っていた。


 視界がない。


 だが——気配はある。


 三人の位置がわかった。


 氷使いは俺の右前方、四メートル。毒霧使いは後方、六メートル。光刃使いは左前方、五メートル。


 光刃が、霧の中から放たれた。


 見えなかった。


 だが——熱の揺らぎを感じた。


 俺は右に半歩ずれた。光刃が左肩を掠めた。


次が来る前に動いた。


毒霧使いの気配に向かって走った。


毒霧の中を走りながら、息を止めた。


毒霧使いがいた。


俺の姿が霧の中から現れた瞬間、毒霧使いが固まった。


動揺した一瞬を逃さなかった。


剣の腹の代わりに、右の手刀を毒霧使いの首筋に当てた。


毒霧使いが崩れた。毒霧が途切れた。


「五人」


霧が晴れた。


氷使いと光刃使いが、俺を見ていた。


二人の目に、同じものがあった。


怯えだ。


俺は二人を見た。


「続けるか」


二人が顔を見合わせた。


氷使いが手を上げた。


「……降参する」


「俺も」光刃使いが言った。


---


 リーダーの男子生徒が残っていた。


 七人の中で、一番後ろにいた男だ。


 俺を見ていた。


 その目が、さっきとは違っていた。


 余裕が消えていた。


「お前」男子が言った。「無能者で、武器の黒剣すらないのに——」


「黒剣がなくても、これだけできる」俺は静かに言った。「お前も降参するか。それとも続けるか」


 男子がしばらく俺を見ていた。


「……Bランクの俺が、お前に敵わないとは思わなかった」男子が言った。「武器なしの無能者に、、、」


「そうか」


「くやしいな」男子が言った。


「そうだろうな」


「……降参する」男子が手を上げた。「だが——覚えておけ。黒剣を取り戻したお前と、いつか正式に戦いたい」


その男の目は決して諦めていなかった。それどころか、煉の目には闘志のようなものすら見えた。


「来い」俺は言った。「その時は相手をする」


 男子が頷いた。


---


 七人全員が脱落した。


 颯が駆けてきた。


「煉!! 七人を一人で!! 黒剣なしで!!」


「颯も動いていただろ」


「俺は二人しか倒してない!!」颯が叫んだ。「お前は五人だぞ!!黒剣なしで!!」


「数を数えていたのか」


「数えてた!!」颯が俺の肩を掴んだ。「煉、本当にすごい。本当に——なんか、人間じゃないよお前」


「そうかもしれない」


「冗談で言ったんだけど」颯が苦笑した。「本当にそうだよな。数百年の魔王がいるんだから」


「体は人間だ」


「そうだけど——でも」颯が言った。「かっこよかった。本当に」


「褒め言葉として受け取る」


「受け取れ!!」


---


 澪が来た。


 ノートを胸に抱えていた。


 俺を見た。


「黒瀬くん」


「なんだ」


「怪我は」


「左肩を少し掠められた。問題ない」


「見せてください」


「大丈夫だ」


「見せてください」澪が繰り返した。


 俺は左肩を見せた。光刃が掠めた跡があった。薄く皮膚が焼けていた。


 澪がポーチから消毒液を取り出した。


「……持ってきていたのか」


「当然です」澪が手当てをしながら言った。「あなたは必ず怪我をするので」


「今日は軽い方だ」


「それでも手当てはします」


俺は澪が手当てをする間、黙っていた。


澪の手つきは、いつも丁寧だった。


「澪」


「なんですか」


「さっき——何を見ていた」


 澪の手が少し止まった。


「……戦闘を見ていました」


「ずっと見ていた。ノートを持ったまま、書かずに」


「……少し、呆気に取られていました」澪が静かに言った。


「何に」


「あなたの動き方に」澪が手当てを終えた。「無駄が、一つもなかった。全員の動きを最初から読んでいたような——そういう戦い方でした」


「気配を読んでいるだけだ」


「それが、普通の人間にはできないことです」澪が俺を見た。「私は——あなたが戦う姿を、何度も見てきました。入学してからずっと。でも今日は、少し違いました」


「どう違った」


「黒剣がなかったから、かもしれません」澪が言った。「道具がない分、あなた自身の力が、より直接的に見えた気がしました」


俺は澪を見た。


「それを——怖いと思ったか」


 澪が少し間を置いた。


「思いませんでした」澪が静かに言った。「怖いより、先に——安心していました」


「安心?」


 煉の力を見て恐怖をあげるものはいれども、安心という言葉をあげるものは今まで誰一人としていなかった。


「あなたが本気で動いているのを見ると、安心します」澪が視線を逸らした。「理由はうまく説明できませんが、そう感じました」


俺は澪を見た。


何か言おうとして、言葉が見つからなかった。


颯が「いい話してる!」と割り込んできた。


澪が「神崎くん」と言った。颯が「はい」と言った。


---


 宮田が恐る恐る近づいてきた。


「あの……黒瀬」


「なんだ」


「俺、どうすればいいのかな」宮田が言った。「七人を全員倒したのを見て——一緒にいて大丈夫なのか、逆に怖くなってっきた」


「怖いなら離れていい」


「離れたくない」宮田が言った。「一人だと、また誰かに囲まれる」


「それはそうだな」


「黒瀬と一緒なら、安全だし」


「俺は最終的にランク昇格を狙っている。その過程でお前を脱落させる可能性がある」


「……それでも、今は一緒にいさせてくほしい」宮田が言った。「脱落する時は、黒瀬に脱落させてもらいたい。それなら——納得できないか、」


俺はしばらく宮田を見た。


「わかった」


「ありがとうございます!」


「足を引っ張るな」


「引っ張らない!」


颯が「宮田、頑張れ」と言った。宮田が「神崎も凄かった!」と言った。颯が「当然!」と言った。

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