表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/88

第35話「終環《ラスト・シグネット》」

 訓練二日目の夜だった。


 アパートの部屋で、俺は右手を見ていた。


 昨日から、右手の薬指に微かな感覚がある。


 何かが——集まってくる感覚だ。


 魔王時代の力量操作を起動すると、それが顕著になる。指先に、目に見えない何かが引き寄せられてくる。


 俺はその感覚を、注意深く辿った。


 力量操作を、いつもより繊細に。


 糸を手繰るように、少しずつ。


 何かに触れた。


 俺は止まった。


 この感覚を——知っている。


 数百年前。


 魔王として君臨していた頃、俺は一つのものを封印した。


 力が強すぎた。


 俺自身でも、制御しきれない力だった。


 戦場で一度だけ使った。そしてその威力を見て——俺は封印することにした。


 世界を変えてしまうような力は、必要な時以外に存在すべきではないと、あの頃の俺は思っていた。


 だからそれを——封印した。


 どこに。


 俺自身の中に。


 最も深いところに。


 魔王ヴァルゼイドの魂の中枢に。


 転生しても、それは消えなかった。


 この体の中に——ずっとあったのか。


---


 俺は力量操作を全力で起動した。


 魔王時代の全ての技術を注ぎ込んで、封印の層を一枚ずつ剥がしていった。


 時間がかかった。


 一時間。二時間。


 アパートの時計が深夜を指した頃、俺は最後の層に触れた。


 そこに——あった。


 強大な何かが、封印の奥で静かに眠っていた。


 数百年間、眠り続けていた。


 俺がそれに触れた瞬間、何かが反応した。


 右手の薬指が、熱くなった。


 熱くなって。


 光った。


 黒い光だった。黒剣と同じ色の光が、薬指から放出された。


 その光が収束した。


 凝縮した。


 固まった。


 右手の薬指に——指輪が現れた。


 黒い指輪だった。


 装飾は何もない。ただ黒く、シンプルで、重みのある指輪だ。


 俺はそれを見た。


 しばらく、動けなかった。


 これが——俺が封印したものか。


---


 指輪を嵌めた状態で、力量操作を起動した。


 何かが、変わった。


 力量操作の精度が、上がっていた。


 いや、精度ではない。


 深さが、変わっていた。


 より深いところにアクセスできる感覚だ。魔王時代でさえ辿り着けなかった、自分の力の最深部に——指輪を通すことで、繋がれる感覚がある。


 俺は静かに力を込めた。


 右手の人差し指と中指を伸ばした。


 銃の形を作るように。


 力量操作を、その形に集中させた。


 何かが、手の中に顕現しようとしていた。


 だが——まだ出てこない。


 何かが足りない。


 合言葉だ。


 俺はそれを、封印した時に設定していた記憶がある。解放する時のための言葉を。


 数百年前の記憶を辿った。


 あの日、俺はこれを封印しながら、こう言った。


 「この力は、必要な時にだけ呼応せよ」


 必要な時。


 呼応せよ。


 俺は口を開いた。


「封印解放——呼応しろ」


 右手が、黒く輝いた。


 黒剣と同じ色だ。だがそれより深い。より濃い黒だ。


 光が収束した。


 俺の手の中に——銃が現れた。


 黒い銃だった。


 シンプルな形をしていた。余計な装飾は何もない。ただ、存在するだけで重量感がある。


 見ただけでわかった。


 これは——普通の武器ではない。


 俺は銃を見た。


 数百年前、戦場で一度だけ使った。その時の感覚が、手に蘇ってきた。


 あの時、俺は敵に向けてこれを撃った。


 結果——その場にいた全ての敵の異能が、一瞬で消えた。


 無断と同じ効果だ。


 だがそれより——はるかに広く、はるかに深く。


 無断は接触が必要だった。だがこれは——距離が離れていても効く。


 射程の範囲内であれば、どこにいる相手にでも届く。


 そして。


 一発だけ。


 これは一発しか撃てない。


 それがこの力が強大な理由だ。無限に使えれば世界の理を壊す。だから一発だけという制約の中に、全ての力が凝縮されている。


 俺は銃を下ろした。


 力量操作を解除した。


 銃が、光に溶けて消えた。


 右手の薬指に、指輪だけが残った。


 終環ラスト・シグネット


 俺がかつて封印した、最後の切り札。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ