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転生したら……えっ! 戦車⁈   作者: 真野真名


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75、解体不能の鉄クジラ




 定期テスト最終日の放課後って、人間の本性が一番出る時間だと思う。


 すべての束縛から解放された男子生徒たちが解放感に任せて絶叫している傍らで、学年トップを争うような優等生たちが、すでに出終わった結果を巡って静かに、しかし泥沼の反省会を繰り広げている。

 テストって終わった瞬間が一番うるさい。たぶん世の中そんなものなんだろう。


 そして現在、全長百二十メートルのお掃除ロボットを文字通り力技でデバッグし、千波領の歴史にまた一つ「神の遺産の撃破」という輝かしい実績を刻んだうちの村も、今まさにそんな感じだった。


 あのダイソン戦から、早くも三日が経過していた。

 村の周囲の平原には、巨大な鉄のクジラがそのまま文字通り横たわっている。これだけの質量だ、放っておけばただの目障りな粗大ゴミだが、ガメッチやリクーさんといった商売人たちにとっては、これが純金でできた宝の山に見えたらしい。


 沈黙した翌朝には、村中の男たちを集めて「千波領特製・超古代メタルプレート大収穫祭」と称した大がかりな解体作業が始まっていた。


 ――はずだったのだけれど。


「削れない! 切り出せない! かすり傷一つ付きやしません! これは資本主義の完全な敗北です!」


 カンカン、と虚しい金属音だけが平原に響く中、行商人のガメッチが鉄ノコを地面に叩きつけて咽び泣いていた。

 そう、世の中そんなに甘くはなかった。前世の工具や、この世界の職人たちが使う一般的なノコギリ、それどころか獣人たちの怪力をもってしても、ダイソンの外殻装甲には一ミリの傷すらつかなかったのだ。

 まあ確かに、あれだけ苦戦した神の重機だ。ただの鉄ノコでギコギコ切れるくらいなら、わたしの長巻の苦労は何だったんだという話になる。魔法をぶつけても火花が散るだけで、文字通りの完全なブラックボックスだった。


「お嬢、ちょっとこっち来て試してみてくれんか?」


 大八車の横でパイプをふかしていたリクーさんに手招きされ、わたしはチハたんの砲塔から飛び降りて、ダイソンの巨大な装甲板の前に立った。

 試しに、魔素をほんの少しだけ指先に集中させて、その冷たい金属の表面に触れてみる。

 その瞬間、まるでシステムがわたしの指紋を認証したかのように、ダイソンの装甲がふにゃりと柔らかくなった。


「え、うそ」


 わたしが指を引くと、その部分だけがまるで温めたバターか粘土のように、簡単に形を変えて削り取れてしまった。


 それを見ていたガメッチが、パッと目を輝かせてそろばんを弾き始める。


『千波。対象の機体は、あなたの管理者権限の干渉によって機能停止しました。そのため、その残骸は「管理者千波の所有物」としてシステムに登録されています。あなたが直接触れて「権限の譲渡」を意識した部位のみ、この世界の物理法則に従って加工が可能になる仕様のようです』


 ハッチから顔を出したチハたんが、平坦な音声で事実を告げた。


 なるほどね、とお母さんの残したケチなセキュリティシステムに感心すると同時に、わたしは冷や汗が流れるのを感じた。つまり、この百二十メートルの超古代メタルは、わたしの許可がないと強引に破壊はできても、再利用できないということだ。千波領の戦略的価値が、またわけのわからない角度から爆上がりしてしまった。


 わたしは自分の魔素を使って、チハたんの傷ついた装甲の補修用パーツと、いくつかの強化に使えそうな駆動部品をいくつか切り出した。チハたんは「素晴らしい適合率です」と満足そうにそれを内部に取り込んでいく。


「それにしてもさ……」


 わたしは、切り出した金属パーツを大八車に積み込みながら、セシールに尋ねた。


「こいつ、なんでいきなりこの村を狙ってやってきたわけ? 惑星のお掃除ロボットっていうなら、もっと別の場所から始めても良かったじゃん。偶然にしてはタイミングが悪すぎるよ」


 セシールは、チハたんのコンソールから抽出したログの束をめくりながら、困ったような苦笑いを浮かべた。


「千波様、ログを解析して分かったのですが、あのダイソンは星全体を掃除するためのものではありません。あれは、神聖大八洲魔導帝国の帝都アルムの地下深く、旧時代の重要拠点に眠っていた、数ある清掃ユニットの一機に過ぎないのですわ」


「え? 帝国の地下?」


「ええ。貴女が先日、マザーシップの管理者権限を中途半端に動かしたでしょう? あの時、世界中の古いシステムに一瞬だけ微弱なシグナルが走ったのです。帝国の地下システムはそれを感知して『あ、家主が帰ってきたから、まずは家の周りのゴミを掃除しなきゃ』と、バグを伴って一機が自動起動してしまった……つまり」


「……わたしのせいで起動したってこと?」


 セシールが静かに頷く。


 わたしは頭を抱えた。お母さんのプログラム、本当に余計なところだけ気が利く。わたしがちょっと動いただけで、帝都の地下を突き破って巨大ルンバが発進するなんて、どんな嫌がらせよ。


「お嬢、世間話の途中ですまねえが、ちょっと洒落にならねえ話が入ってきた」


 大八車の影から、リクーさんがいつになく真面目な、そして少しだけ緊張した顔で歩み寄ってきた。彼の後ろには、村の警備隊長であるタゴサックさんも控えている。


「どうしたの、リクーさん。ザキさんがもやしの増殖実験でヴィルヘルム大尉の部屋をまた埋め尽くした?」


「そんな生易しい話なら、俺だって笑ってパイプをふかしてるさ」


 リクーさんはパイプの灰を地面に落とし、村の西側の境界線を指差した。


「帝都を地下からブチ抜いて発進した謎の巨大神機が、この千波領で沈黙したんだ。帝国も、それを見ていたネピア聖王国も、ひっくり返るほどの大騒ぎになってる。今、村の境界線の外側に、両国からの『正式な使節』が到着した。無断で突撃してこなかったのは、お嬢が一万五千の軍隊を消し去った恐怖がまだ効いてるからだが……今回は突っぱねると本気で国境線が火の海になるレベルのヤバさだ」


「使節……。公的な接触ってこと?」


「ああ。帝国のライブラとかいう技術主任の観測班と、聖王国のル・カナン枢機卿とかいうお偉いさんの調査団だ。どっちも『あの鉄クジラの件で、千波領の代表と直ちに会談を行いたい』とリクエストしてきている。俺が一応の窓口として声をかけたが、お嬢、どうする? 逃げるかい?」


 リクーさんは試すような目でわたしを見た。

 わたしは手元のカマヤツさんの長巻をジッと見つめ、それから、遠くに見える村の子供たちの姿を見た。みんな、ようやく手に入れた平和な難民キャンプで、今日も楽しそうにもやしラーメンの配給に並んでいる。


 あのお掃除ロボットが暴走したのは、元を正せばわたしのせいだ。だったら、その尻拭いをするのも、家主の娘としての責任ってやつだろう。


「逃げないよ。正面から会って、お母さんの残したバグの言い訳をしてあげる」


 わたしは立ち上がり、チハたんの装甲をぽん、と叩いた。


「リクーさん、その使節たちを村の真ん中に招待して。ただし、堅苦しい会議室なんてうちにはないから、会談の場所は『もやしラーメンの屋台』に指定で。泥んこの外交交渉、やってやろうじゃないの」




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― 新着の感想 ―
家主が帰ってきて喜ぶ犬みたいなやつなら可愛げあるけど。 家主目掛けて突っ込んでくるタイプの超巨大お掃除ロボット
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