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異世界薬酒調合師(バーテンダー)がおもてなしするよ!  作者: チグ
第二章 秘密基地編 & 魔王復活編
33/35

 30:ヴィスタさんの話〜勇者パーティの凱旋と魔王の公開処刑〜

“熱気と狂気”。



「先代の魔王の名は、【闇王】ダーク・アンクテュア。

 歴代魔王の中でも一、二を争う実力者で、またたく間に勢力を拡大した。

 人類と魔王軍との戦いは長く続いた。

 多くの町が襲われ、焼かれ、多くの人間が家族を失った。

 いつしか人びとは、人が死ぬことに麻痺していた。

 悲惨な時代だった。


 そんなおり、ときの皇帝により、若く有能な者たちが国境を越えて10人、集められた。

 それが『桜花十神将』と呼ばれたパーティだ。

 まさか、彼らが自分たちでそう名乗ったわけではないのだがな、勝手にそう名付けられた。

 種族も、出身地も、てんでバラバラの、寄せ集めパーティだった。

 むろん、仲良くなんてできるはずもない。

 言語も文化も習慣も、まるっきり違っていたからな。

 はじめのうちは、ケンカしてばかりだった。……いや、結局最後まで、ケンカしてばかりだったかな……? フフ、まあ無理もない、全員、我の強い連中だったからな。


 彼らは、世界中を冒険した。

 世界中の、あらゆる場所を、旅してまわった。


 ……本当に、いろんなところに行った。いろんなことがあった。

 やがて、それぞれが実力をつけ、自分たちの本当の能力に目覚めたりしながら、全員、最高位職業を手に入れた。


『勇者』『賢者』『大将軍』『精霊王』『龍王』『大魔道士』『大錬金術師』『大親方』『大司教』『仙王』。


 まあ勇者と賢者は職業ではなく称号だがな。

 彼らは、名実ともに『桜花十神将』になったわけだ。

 次第に、パーティの結束も硬くなっていった。


 そんな中、勇者と賢者は、恋に落ちた。


 若い2人だったからな。まあ当時のメンバーは全員若かったが、2人は種族も一緒だったし。

 勇者は、頼まれると断れない優男で、物静かな性格だった。

 賢者は、ひたすら明るく、世話焼きな女だった。

 いつも勇者が優しくチームを見守り、賢者が収拾のつかなくなった我々をまとめ上げていた。

 2人とも、困っている者を見かけたら、助けずにおけない性格だった。

 まあ、似たもの同士、惹かれ合ったんだろうな。


 そんなこんなあって。

『桜花十神将』のパーティは、長い旅路の果てに、ついに魔王城へ挑むことになった。

 世界中からありったけの支援を受け、幾度となく試行錯誤を繰り返し、最後には全員で力を合わせて、とうとう魔王を打ち倒したんだ。

 世界には、平和が戻った」


 そこでヴィスタさんはしばらく黙った。

 星はチカチカと瞬いていた。

 夜の街も華やかに輝いていた。


「しかし……な。

 魔王が倒されたからといって、失われたものが元に戻るわけではなかった。

 当然、死んだ家族が生き返るわけでもない。

 奪われたものは誰も返してくれない。

 接収された財産、壊された家、汚染された土地……。そういうものを、誰も元に戻してはくれなかった。

 たしかに平和は訪れた。だが同時に、人びとは気持ちの行き場を失っていたんだ。

 誰を恨めばいいのか。

 何のせいにして納得すればいいのか。

 帝国のせいにすればいいのか? 無能な政治を批判すればいいのか?

 いや、違う。

 魔王の、せいなのだ。

 すべては魔王が悪いのだ。

 だから、魔王を恨むしかないのだ。

 でもその魔王はもういない。


 ……いや、ひょっとすると、魔王はまだ生きてるんじゃないか?

 魔王が倒されたというのは、嘘なんじゃないのか?

 だって、こんなに苦しいんだから。

 魔王がまだ生きているから、未だに、こんなに苦しい。

 きっとそうだ。そうに違いない。


 人びとの心には、徐々に、そんな疑念が芽生え始めた。

 それは、無理からぬことだった。

 だって誰も、魔王が死ぬところを、直接見たわけではなかったのだから。


 人びとの心に芽生えはじめた“それ”は、やがてある悲劇を生むことになった。


 最初、誰かが口にしたんだ。


「あの女は、魔王だ」と。


 賢者の身体に、魔王が、乗り移っているのだと。


 どこからともなく、そんな噂が流れはじめた。

 いったいどこから湧いたのか、本当になんの根拠もない、根も葉もない噂だった。

 だが、噂はまたたく間に広がった。

 それは、本当にあっという間だった。


 賢者はすぐさま捕まった。

 そして異例とも呼べる速さで裁判にかけられた。

 宮廷魔術師たちは法廷で、


「この女の魂は魔王に染まっている!」


 と高らかに証言した。

 裁判長は、賢者に、極刑を言い渡した。


 その日はやってきた。

 そう、“魔王を処刑する日”。


 世界中から見物客が押し寄せた。

 処刑場となった、そこの中央広場にな。

 その場は、異様な熱気と、狂気に染まっていた。


 賢者は。


 賢者は、衆人環視の中、全身の皮を剥がれ、生きたまま内臓を抉り出され、四肢をもぎ取られ、釜に入れられ、火炙りにされて……それも、すぐには死んでしまわないように、ギリギリのところで魔法によって生かされ続けた。

 全身をくまなく剣で串刺しにされては生き返らされた。

 腹が破裂するまで猛毒を飲まされては生き返らされた。

 生き返らされてはまた残酷な方法で殺され、殺されては生き返らされ、それが、延々繰り返された。

 賢者は、絶叫の中で気絶と覚醒を繰り返しながら、人びとの憎悪と怨嗟を一身に浴び続けた。


 そのむごたらしい拷問は、七日七晩、やむことなく続けられた。

 世の中に存在するすべての殺し方が試されたのではないかというほどだった。

 ありとあらゆる壮絶な苦痛を与えられたのち、人としての尊厳を完全に無視された形で、賢者は惨殺された。

 公開処刑、なんていう名目だったが、明らかにただの頭のイカレた惨殺ショーだったよ。


 そして、その惨殺ショーは一部始終、勇者の目の前で、おこなわれたんだ。


 賢者と婚約関係にあった勇者は、魔王の共犯者であるとして、“特等席”に縛りつけられ、目を閉じることも、目を背けることも許されなかった。

 目の前で最愛の人が地獄の苦しみを与えられ、もがきながら死んでいく様を、勇者はただ見ていることしかできなかった。


 それが終わったとき、勇者は廃人になっていた。

 目は虚ろで、全身から生気が抜け落ち、まるきり死者の風体だった。

 彼は【勇者】の称号を皇帝に返上すると、消息を絶った。

 今どこで何をしているのか……、生きているのか死んでいるのか、誰も知らない」


 ヴィスタさんは、そこまで言い終わると、星空の下に広がる大陸を見つめた。

 大陸の向こうには山脈があって、山脈の向こうには魔境と呼ばれる場所があって、その果てには魔王城が佇んでいた。

 ヴィスタさんの横顔には、どんな表情も浮かんではいなかった。


「……『魔王の繭』が発見されたのは、その数日後のことだ。

 今度こそ、魔王は、本当に復活しかけている。

 我々はなんとしても、魔王の復活を阻止しなければならない。

 現皇帝は世界中にお触れを出した。


「『魔王の繭』を破壊した者に、【勇者】の称号を与える」


 ……とな。

 現在、世界中から腕に覚えのある猛者どもが、魔の地に集結している。今なお、魔王城に挑み続けている。

 かつての勇者が返上した世界最上級の称号を、勝ち取るために。


 あの空の下、熾烈な争いを繰り広げている……」


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