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異世界薬酒調合師(バーテンダー)がおもてなしするよ!  作者: チグ
第二章 秘密基地編 & 魔王復活編
32/35

 29:“Lv.297”

3人体制の現場で1人がブッチするとけっこうヤバい。



 そして、はじめの部屋へ戻ってきた。

 最初に拉致られ連れてこられた、建物の最上階の部屋。

 ホテルのスイートルームみたいな部屋。

 ポイッと投げられ、バフッとベッドの上に着地。

 その上から、真っ赤なドレスが覆い被さる。


「はあ、はあ、はあ。安心しろサンタ。この部屋は私のプライベートルームだ。泣いてもわめいても誰も来ないぞ」


 じゃあ安心だね!

 セキュリティ、バッチリだね!

 なのにどうしてだろう、冷や汗が止まらないのは!

 ヴィスタさんは真上からじっとこちらの目を覗きこんでくる。


「フム……やはり効かんか」


 うげっ。

 また使ってたのか、あの覇眼。

 さっき師団長を一瞬で骨抜きにしたあの覇眼。


「フフフ、もどかしいものだな。一番使いたい相手にかぎって、使えないというのは……。運命の女神とやらはよほどイタズラ好きと見える。さて、いったい、どういうことなんだろうな……?」


 さあ。俺も聞きたい。

 ホントに、どういうことなんでしょうね?


「私の覇眼が効かぬ者など、あいつら以外では初めて……。……ふむ。あるいは、貴様もひょっとしたら、“王の器”の持ち主なのか……?」


 なんですか?

 そういう設定はなかったと思いますけど。

 ただ、いろんな言語を翻訳できるというだけのスキルなんですよ、ハイ。


「“王の器”の持ち主同士なら、たしかに、“王の眼”が効かない理屈も納得できる。……くく、貴様ならあり得ない話ではないな。まったく、底が知れん」


 よくわからんが、ヴィスタさんが俺の目を見つめたまま、ゆっくりと身を起こしてくれたので助かった。


「ククク、まあ、焦ることはないか。貴様はいずれ、近い将来、私のものになる。これは確定した未来だ。それに、覇眼が効かんのなら色香で惑わすまでだ」


 ソファに腰かけ、こちらを見つめながら、堂々と言ってのけた。

 まあそりゃね。

 色香のほうは効果抜群でしょうよ。

 そんな真っ赤なドレス着て。

 そんなくっきりした谷間して。

 こうして見ると、鎧着てるときより、さらに年齢的に若く見える。

 ていうか何歳なんだ? ヴィスタさんって。

 なんでこんな人が帝国軍最高指揮官なんだ?

 だって軍のトップでしょ。日本の自衛隊で言ったら誰にあたるんだろう。でも普通はオッサンだよね。


「私はな、有能な者が大好きだ。貴様はとても有能だよ、サンタ」


 でもね、ヴィスタさん。

 俺はあっちの世界では無能中の無能、ド無能の部類だったんだよ。

 だから、そんな手放しで「有能だ」なんて言われると、ちょっぴり複雑な気分になる。


「くっ」


 急にヴィスタさんが胸を押さえて、ソファの上で身体を折り曲げた。

 えっ。なんだ?

 どうした?


「くっ……。なんだか身体の具合がヘンだ。胸が……苦しいっ」


 それから、バッと顔を上げ、


「というわけで、私を健康診断しろ、サンタ。ほら、皆にはやっていただろう? あいつらばっかりずるい」


 ヴィスタさんはソファから立ち上がると、俺の前の立ちはだかった。

 うん、ていうかね。

 店長を『診断』できなかったんだから、ヴィスタさんも『診断』できない気がするんだけど。『鑑定マスク』かけてる人は『診断』できないんですよね。

 まあいいや。一応やってみるか。

 ぷーい。



====================

職業:大将軍 Lv.297

HP:100% MP:100%

補助効果:なし

状態異常:なし

体調:覇眼に軽度の眼精疲労。

備考:修復の必要はありません。

====================



 Lv.297



 ガタタッ。

 俺は思わずベッドの上から転がり落ちた。


 にひゃ……、……は?


 待て、なんだ? 意味がよくわからん。


 この、目の前の、エロい格好したチャンネーが、れべるにひゃくきゅうじゅうなな?

 いや、だって、これまで見てきた人たちは最高でもレベル150台だった、それはさっき見た師団長たち、隊長は140台、そのほかのみんなはだいたい100から130くらいだから、そのへんがレベルの上げ止まりなんだと思っていた。

 勝手に思い込んでいた。

 違った。

 え、レベルって、そんなとこまで行くもんなの?

 何者?

 って、軍団長か。

 帝国軍、最高指揮官。

 うん、たしかに聞いてはいたけど、そうか、いや、でも。

 いくらなんでもデタラメじゃないか……?


 俺のリアクションを見て、ヴィスタさんは満足げに微笑んで、


「ん? どうしたんだ? ひょっとして、私に惚れ直してくれたのか?」


 いやいや、惚れて椅子から転げ落ちる人はなかなかいないと思いますけど。

 ヴィスタさんは自分で自分の身体を抱きながら、恍惚とした表情で、


「今、私の秘密を隅から隅まで視姦しているのか? フフフ、なんてスケベなオスなんだ……」


 あの、スケベとかそういう次元の問題じゃないんですけど……。


「だがなサンタ。私は、最初から、いつでも貴様には見せてやるつもりだったんだぞ。貴様と会うときはいつだって、『鑑定マスク』を解除して、覗き見してくれるのを待っていたんだ。ずっとずっと、私のほうはいつでも、受け入れ準備OKだったんだぞ……? 貴様のほうから誘ってくれれば、私は……」


 やめてくださいヴィスタさん。

 童貞ごと爆発してしまいます。

 だって俺とのレベル差、289って。

 なにそれ。アリと、何?

 ブルーアイズホワイトドラゴン?


「で、どうだったんだ? 私は健康体なのか?」


 ああ、そうだった。

 健康診断だったっけ。

 完全に忘れてた。

 ていうか状態異常があるとすればまさにそのレベルでしょうよ。

 人類最強という状態異常につける薬があるかどうかはわからんが。


 俺はもう一度診断結果を見直してみた。

 状態異常はとくになさそうだが……あ、でも、その覇眼に少し疲れが出てるのか。

 店戻ったら、眼精疲労に効くカクテル調べてみるか。


「ハガン チョット ツカレテルッス」


 そう告げられたヴィスタさんは、なんだか鳩が豆鉄砲喰らったような、意表を突かれた顔で、しばらくこちらを見ていた。


「そうか……私の覇眼が……フフ、なるほどな。たしかに少し、効果が弱まってきては、いたんだ……」


 少し寂しげに笑う。

 あれ。意外とショックなのかな。

 それから、おもむろに窓のほうに歩いて行った。


「サンタ。こっちに来てくれ」


 呼ばれたので、ヴィスタさんの隣に行く。

 窓際に2人で並んで、夜景を眺める。


「見ろサンタ。私たちの街だ。どうだ、綺麗だろう?」


 たしかにな。

 まさにホテルのスイートルームから見る夜景、みたいな。

 この時間帯に外に出ていること自体、今までなかったからなあ。

 ああ、たぶんもうとっくにオニキス営業中だ。

 どのへんがオニキスなのかな。

 あのへんかな……。

 ごめん店長。無断欠勤しちゃって。

 でも不可抗力なんだ。

 こうして見ると、やっぱでかいなあ、この街。

 でかいなあ、ヴィスタさんのぱいおつ。

 って、違う違う。

 気に掛けない気に掛けない。


 夜景だけ見ると、地球で見るのと大して変わらなかった。

 でもあの向こうには、魔境があって、魔王城がある。

 ここは、異世界なのだ。


 ふと、思いだした。

 そういえば。

 ずっと気になってたことがあったんだ。

 前回、ヴィスタさんに話してもらった、勇者と魔王の話。

 なんだったかな、たしか、勇者の手によって魔王は倒されたけど、なんか魔王のタマゴみたいなのが復活しかかってて? こんどはそのタマゴを潰した人に、勇者の称号が与えられることになったとかなんとか。で、今世界中から冒険者たちが魔王城に殺到してる、みたいな話。


 でも俺はその話の中に違和感を覚えた。

 単純な疑問だ。


“どうして勇者は魔王のタマゴ討伐には参加しないの?”


 魔王を討伐できた勇者なんだから、そのタマゴを討伐するなんてワケないはず。

 勇者が参加すれば一瞬でカタが付く話なんじゃないのコレ?


「アノ ヴィスタサン」

「なんだ? サンタ」

「ユウシャハ イマ ナニヤッテルッスカ? タマゴ トウバツニ サンカシナイッスカ?」


 そして、もっと言えば。

 ヴィスタさん、あなたは、どうして……。


 あなたはどうして、魔王城に赴かない?

 

 それこそ、レベル297のあなたが挑めば、一瞬で済む話なんじゃないの……?


 だがそっちの質問は、なぜか喉の奥に詰まった。


 ヴィスタさんは窓枠に肘を突き、頬杖を突いて、こちらに向き、妖艶に微笑んだ。


「ほう? 気になるか。フフ、まあ、そうか。知らなくてもムリないか……。そうだな。

『桜花十神将』というパーティの名は……もちろん、聞いたことがあるよな?」


 いえ。

 もちろん、聞いたことないですけど。

 俺は首を振ってみせた。

 ヴィスタさんはちょっとびっくりしたような顔で、肩をすくめて、


「貴様は本当に不思議なヤツだな……。今までどうやって生きてきたんだ……」


 夜景の光がキラキラヴィスタさんの目に反射して、なぜか鼓動が早くなった。

 ヴィスタさんがこれからしようとしている話を、聞いてはいけない。

 聞くと、もう、引き返せなくなる。

 なぜか、そんな予感がした。


「そうだな、ならば、ひとつ、昔話でもしようか。

 3年前、世界の果てで起きた、ある勇者パーティと魔王の話を……」



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