29:“Lv.297”
3人体制の現場で1人がブッチするとけっこうヤバい。
そして、はじめの部屋へ戻ってきた。
最初に拉致られ連れてこられた、建物の最上階の部屋。
ホテルのスイートルームみたいな部屋。
ポイッと投げられ、バフッとベッドの上に着地。
その上から、真っ赤なドレスが覆い被さる。
「はあ、はあ、はあ。安心しろサンタ。この部屋は私のプライベートルームだ。泣いてもわめいても誰も来ないぞ」
じゃあ安心だね!
セキュリティ、バッチリだね!
なのにどうしてだろう、冷や汗が止まらないのは!
ヴィスタさんは真上からじっとこちらの目を覗きこんでくる。
「フム……やはり効かんか」
うげっ。
また使ってたのか、あの覇眼。
さっき師団長を一瞬で骨抜きにしたあの覇眼。
「フフフ、もどかしいものだな。一番使いたい相手にかぎって、使えないというのは……。運命の女神とやらはよほどイタズラ好きと見える。さて、いったい、どういうことなんだろうな……?」
さあ。俺も聞きたい。
ホントに、どういうことなんでしょうね?
「私の覇眼が効かぬ者など、あいつら以外では初めて……。……ふむ。あるいは、貴様もひょっとしたら、“王の器”の持ち主なのか……?」
なんですか?
そういう設定はなかったと思いますけど。
ただ、いろんな言語を翻訳できるというだけのスキルなんですよ、ハイ。
「“王の器”の持ち主同士なら、たしかに、“王の眼”が効かない理屈も納得できる。……くく、貴様ならあり得ない話ではないな。まったく、底が知れん」
よくわからんが、ヴィスタさんが俺の目を見つめたまま、ゆっくりと身を起こしてくれたので助かった。
「ククク、まあ、焦ることはないか。貴様はいずれ、近い将来、私のものになる。これは確定した未来だ。それに、覇眼が効かんのなら色香で惑わすまでだ」
ソファに腰かけ、こちらを見つめながら、堂々と言ってのけた。
まあそりゃね。
色香のほうは効果抜群でしょうよ。
そんな真っ赤なドレス着て。
そんなくっきりした谷間して。
こうして見ると、鎧着てるときより、さらに年齢的に若く見える。
ていうか何歳なんだ? ヴィスタさんって。
なんでこんな人が帝国軍最高指揮官なんだ?
だって軍のトップでしょ。日本の自衛隊で言ったら誰にあたるんだろう。でも普通はオッサンだよね。
「私はな、有能な者が大好きだ。貴様はとても有能だよ、サンタ」
でもね、ヴィスタさん。
俺はあっちの世界では無能中の無能、ド無能の部類だったんだよ。
だから、そんな手放しで「有能だ」なんて言われると、ちょっぴり複雑な気分になる。
「くっ」
急にヴィスタさんが胸を押さえて、ソファの上で身体を折り曲げた。
えっ。なんだ?
どうした?
「くっ……。なんだか身体の具合がヘンだ。胸が……苦しいっ」
それから、バッと顔を上げ、
「というわけで、私を健康診断しろ、サンタ。ほら、皆にはやっていただろう? あいつらばっかりずるい」
ヴィスタさんはソファから立ち上がると、俺の前の立ちはだかった。
うん、ていうかね。
店長を『診断』できなかったんだから、ヴィスタさんも『診断』できない気がするんだけど。『鑑定マスク』かけてる人は『診断』できないんですよね。
まあいいや。一応やってみるか。
ぷーい。
====================
職業:大将軍 Lv.297
HP:100% MP:100%
補助効果:なし
状態異常:なし
体調:覇眼に軽度の眼精疲労。
備考:修復の必要はありません。
====================
Lv.297
ガタタッ。
俺は思わずベッドの上から転がり落ちた。
にひゃ……、……は?
待て、なんだ? 意味がよくわからん。
この、目の前の、エロい格好したチャンネーが、れべるにひゃくきゅうじゅうなな?
いや、だって、これまで見てきた人たちは最高でもレベル150台だった、それはさっき見た師団長たち、隊長は140台、そのほかのみんなはだいたい100から130くらいだから、そのへんがレベルの上げ止まりなんだと思っていた。
勝手に思い込んでいた。
違った。
え、レベルって、そんなとこまで行くもんなの?
何者?
って、軍団長か。
帝国軍、最高指揮官。
うん、たしかに聞いてはいたけど、そうか、いや、でも。
いくらなんでもデタラメじゃないか……?
俺のリアクションを見て、ヴィスタさんは満足げに微笑んで、
「ん? どうしたんだ? ひょっとして、私に惚れ直してくれたのか?」
いやいや、惚れて椅子から転げ落ちる人はなかなかいないと思いますけど。
ヴィスタさんは自分で自分の身体を抱きながら、恍惚とした表情で、
「今、私の秘密を隅から隅まで視姦しているのか? フフフ、なんてスケベなオスなんだ……」
あの、スケベとかそういう次元の問題じゃないんですけど……。
「だがなサンタ。私は、最初から、いつでも貴様には見せてやるつもりだったんだぞ。貴様と会うときはいつだって、『鑑定マスク』を解除して、覗き見してくれるのを待っていたんだ。ずっとずっと、私のほうはいつでも、受け入れ準備OKだったんだぞ……? 貴様のほうから誘ってくれれば、私は……」
やめてくださいヴィスタさん。
童貞ごと爆発してしまいます。
だって俺とのレベル差、289って。
なにそれ。アリと、何?
ブルーアイズホワイトドラゴン?
「で、どうだったんだ? 私は健康体なのか?」
ああ、そうだった。
健康診断だったっけ。
完全に忘れてた。
ていうか状態異常があるとすればまさにそのレベルでしょうよ。
人類最強という状態異常につける薬があるかどうかはわからんが。
俺はもう一度診断結果を見直してみた。
状態異常はとくになさそうだが……あ、でも、その覇眼に少し疲れが出てるのか。
店戻ったら、眼精疲労に効くカクテル調べてみるか。
「ハガン チョット ツカレテルッス」
そう告げられたヴィスタさんは、なんだか鳩が豆鉄砲喰らったような、意表を突かれた顔で、しばらくこちらを見ていた。
「そうか……私の覇眼が……フフ、なるほどな。たしかに少し、効果が弱まってきては、いたんだ……」
少し寂しげに笑う。
あれ。意外とショックなのかな。
それから、おもむろに窓のほうに歩いて行った。
「サンタ。こっちに来てくれ」
呼ばれたので、ヴィスタさんの隣に行く。
窓際に2人で並んで、夜景を眺める。
「見ろサンタ。私たちの街だ。どうだ、綺麗だろう?」
たしかにな。
まさにホテルのスイートルームから見る夜景、みたいな。
この時間帯に外に出ていること自体、今までなかったからなあ。
ああ、たぶんもうとっくにオニキス営業中だ。
どのへんがオニキスなのかな。
あのへんかな……。
ごめん店長。無断欠勤しちゃって。
でも不可抗力なんだ。
こうして見ると、やっぱでかいなあ、この街。
でかいなあ、ヴィスタさんのぱいおつ。
って、違う違う。
気に掛けない気に掛けない。
夜景だけ見ると、地球で見るのと大して変わらなかった。
でもあの向こうには、魔境があって、魔王城がある。
ここは、異世界なのだ。
ふと、思いだした。
そういえば。
ずっと気になってたことがあったんだ。
前回、ヴィスタさんに話してもらった、勇者と魔王の話。
なんだったかな、たしか、勇者の手によって魔王は倒されたけど、なんか魔王のタマゴみたいなのが復活しかかってて? こんどはそのタマゴを潰した人に、勇者の称号が与えられることになったとかなんとか。で、今世界中から冒険者たちが魔王城に殺到してる、みたいな話。
でも俺はその話の中に違和感を覚えた。
単純な疑問だ。
“どうして勇者は魔王のタマゴ討伐には参加しないの?”
魔王を討伐できた勇者なんだから、そのタマゴを討伐するなんてワケないはず。
勇者が参加すれば一瞬でカタが付く話なんじゃないのコレ?
「アノ ヴィスタサン」
「なんだ? サンタ」
「ユウシャハ イマ ナニヤッテルッスカ? タマゴ トウバツニ サンカシナイッスカ?」
そして、もっと言えば。
ヴィスタさん、あなたは、どうして……。
あなたはどうして、魔王城に赴かない?
それこそ、レベル297のあなたが挑めば、一瞬で済む話なんじゃないの……?
だがそっちの質問は、なぜか喉の奥に詰まった。
ヴィスタさんは窓枠に肘を突き、頬杖を突いて、こちらに向き、妖艶に微笑んだ。
「ほう? 気になるか。フフ、まあ、そうか。知らなくてもムリないか……。そうだな。
『桜花十神将』というパーティの名は……もちろん、聞いたことがあるよな?」
いえ。
もちろん、聞いたことないですけど。
俺は首を振ってみせた。
ヴィスタさんはちょっとびっくりしたような顔で、肩をすくめて、
「貴様は本当に不思議なヤツだな……。今までどうやって生きてきたんだ……」
夜景の光がキラキラヴィスタさんの目に反射して、なぜか鼓動が早くなった。
ヴィスタさんがこれからしようとしている話を、聞いてはいけない。
聞くと、もう、引き返せなくなる。
なぜか、そんな予感がした。
「そうだな、ならば、ひとつ、昔話でもしようか。
3年前、世界の果てで起きた、ある勇者パーティと魔王の話を……」




