表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界薬酒調合師(バーテンダー)がおもてなしするよ!  作者: チグ
第二章 秘密基地編 & 魔王復活編
31/35

 28:隊長たちの健康診断パーティ

無職だけどレベル100なのかレベル100だけど無職なのか。




 式典のあとは、隣の建物の大広間で、バイキング形式の立食パーティだった。

 さっきまでとは打って変わって砕けた空気になり、ワイワイガヤガヤ、兵士たちも皆鎧を脱ぎ捨てて、くつろいだ様子で談笑していた。


「まあまあまあまあ、サンタくん、お疲れ様ン。ささ、こっちに来て頂戴」


 シノブさんに案内され建物の中に入ると、すぐさま、ゴージャスに着飾ったマドンナさんに出迎えられた。

 マドンナさん。久しぶり。


「堅苦しくってヤんなっちゃったでしょン? 大丈夫、ここからは無礼講よン。好きなだけ食べて、飲んで、おしゃべりして頂戴ねン」


 マドンナさんについて会場の奥へ進んでいくと。

 やがて、懐かしい顔ぶれが見えてきた。

 まず最初に目に留まったのが、初老のナイスガイ。

 向こうもすぐに俺に気づいた。

 白髪でガタイのいい紳士は、俺と目が合うと、なんとも言えない穏やかな表情で、顔を綻ばせた。

 グスタフ隊長だ。久しぶり。

 ビシッとスーツなんか着て、イカしてる。

 よく見ると、マドンナさんのスカーフと同じ柄のハンカチが胸ポケットから覗いていた。

 あらやだ。

 てっきりマドンナさんの片思いだと思ってたけど、両思いだったのね?


「おお、君が……!」


 紳士が近づいてきて、紳士的に握手を求められたので、思わず応じてしまった。


「ずっと、ずっと、君に会いたかった。命あるうちに、ひと目見ておきたかった。こんなに嬉しいことはない。改めて、この場で礼を申し上げたい。吾輩の命を救っていただき、本当にありがとう。君は命の恩人だ」


 いえいえ、どういたしまして。

 それにしても、俺が最後に見たときの緑色の顔とは打って変わって、ピンピンしてる。

 元気そうでなによりだ。


「もしかしたらサンタくん、来てくれないかもしれないって、アタシたちずっと心配してたんだからン。でも、来てくれてよかった。すっごく嬉しいわン」


 いやまあ、断ろうとしたら拉致られたんですけどね。

 まわりの人たちも、よく見ると見憶えがあった。

 グスタフ隊長の部下のみなさん。

 そう、かつて、兵士メシを共にした人たちだ。


「おう、新人! ひさしぶり! 元気でやってたか?」

「聞いたぜ。アンタ実はすげえヤツだったんだってな!」

「みんなおまえさんには感謝してるんだよ」

「アンタのおかげで、俺たちは生き存えることができたんだぜ」


 そうして、なんかあっという間にもみくちゃにされた。

 ていうかみんな、俺のこと覚えててくれたのか。

 ごめん、俺は完全に忘れてたよ。

 まあ、みんな生きててよかった。

 犠牲者も出たってさっきヴィスタさん言ってたもんね。


 そんな感じで、立食パーティなんていう場に、ナチュラルに溶け込めてしまった。

 前の世界では絶対ムリだと思ってた場なんだけど。

 なんでだろうな。

 しばし歓談。

 あれ? 

 そういえば、シノブさんは?

 いつの間にかいなくなっていた。

 いなくなっていたことにも気づかなかったわ。さすが忍者。


「サンタ殿」


 そんなおり、ふと、グスタフ隊長から、ちょっと違うトーンで名前を呼ばれた。

 それで、振り返ると、その場にいる全員が、真顔になっていた。

 全員、身体をこちらに向けて姿勢を正していた。

 え、どうした?

 俺が戸惑っていると、グスタフ隊長が一歩前へ歩み出てきて、言った。


「サンタ殿。吾輩のほうから、皆を代表して、ひとつ申し上げたいことがある。その……差し出がましいお願いであることは重々承知しておるのだが……是非! 是非とも、今シーズンだけでなく、来シーズンも、引き続きご協力いただけないだろうか……? サンタ殿に力を貸していただけるならば、我々、これほど心強いことはないのだ。どうか。このとおりだ」


 グスタフ隊長をはじめ、全員が俺に向かって頭を下げる。

 ああ、なんだ。

 そんなことか。

 そりゃもう。

 ていうかもともと、そのつもりだったからね。


「モチロンッス コレカラモ ヨロシクッス」

「おお……!」


 皆の顔が一斉に綻んだ。


「やったな、オイ」

「ありがとう、ありがとう!」


 アニメみたいにみんなで手を取り合って喜んでいた。

 なんか和む。


「ただな、おまえさん。俺たちの予測では、来シーズンのモンスターってのは、おそらく、火炎系と麻痺系の構成になると思う。今回が幻覚と毒だったからな、これまでのパターンからすればそうなる。それで、火傷や麻痺を治療するクスリなんてのは、作れるのかい?」

「タブン ダイジョウブッス シラベテ ミルッス」


 まあ、たいがい万能だからなあのレシピ本。

 そういうメジャーな状態異常系は網羅されているだろう。

 兵士はフッと笑って、


「いやはや、頼もしいかぎりだな」


 マドンナさんも、にっこり笑って言った。


「やっぱりアナタは天才ねン」


 そんなことない。

 俺は頭を振る。


「そう謙遜しなさんな。なあ、おまえさんよ。考えてみたことはあるかい? 自分が、どれだけ多くの“命”を救い、さらに遥かに多くの“心”を救っているか。毒や麻痺なんかの状態異常にかかってしまったらもう終わりだと思うか、いや治せるのだから平気だと思えるか。この違いが、どれほど大きな違いかわかるかい? 現場で実際にたたかう戦士たちにとってはとくにな。おまえさん、もっと誇ってくれよ。じゃなきゃ俺たちの立場がないだろ?」


 そっか。

 たしかにそうだ。

 兵士たちは……俺の作った薬酒を頼りにできるから、毒なんて吐いてくるヤバげなモンスターにも堂々と立ち向かえる……のかも。

 そうか。

 そんなに頼りにされていたんだなあ。

 やっぱり人びとの顔見て実感するのって、大事だな。

 と同時に、もっと勉強しなきゃ、とも思った。

 まあ……来て、よかったかな。


「なあ、差し出がましいついでにもう一つ頼んでいいか?」


 俺がひとりで納得していると、フランクめの兵士が俺に近づいてきて言った。


「ナンスカ?」

「実はなあ、今シーズン最後の戦いが終わってからこっち、どうも体調がすぐれなくってなあ。アンタに、ちと診てもらいたいんだよ。頼めるか?」


 なるほど。

 じゃあ『診断』してみよう。

 ちょっと、失礼して。



====================

職業:兵士 Lv.130

HP:100% MP:100%

補助効果:なし

状態異常:なし

体調:肝臓に過度の負担

備考:生活習慣を改善する必要があります。

====================



 あー、なるほど。

 酒の飲み過ぎだ、こりゃ。


「サケ ノミスギッス モスコシ ヒカエルッス」

「たはーーっ! そうか! 飲み過ぎか! こりゃまいったな! わっはっは!」


 ふとまわりを見ると、なんだかびっくりしたようにこちらを見ている面々。

 あれ、俺なんかマズいことした?


「おいおい……」

「マジかよ?」

「よ……よもやサンタ殿、その、人の体調を見れたりも、できるのか? そういったスキルも、お持ちなのか……?」


 あー、そっか。

 忘れてた。

 『鑑定』系スキルは、この世界ではレアスキルだってこと。

 どうしよっかな。

 ってか、今さら誤魔化しようもないけども。


「タイチョー ワカル ダケッスケド」


「すげえ……!」

「サンタ殿、実は吾輩も、ここしばらく、どうにも腰の調子が悪くて、できればその、診てはもらえぬだろうか?」

「隊長、抜け駆けはズルいですよ、おまえさん、俺も頼めないか?」

「俺も俺も!」

「私も!」

「ボクも!!」

「馬鹿者! 順番だ、吾輩のあとに並べ」


 そんなわけで。

 なにやら俺の前に列ができて、健康診断みたいなイベントが発生してしまった。

 別にいいけども。


 検診に来た医者よろしく、1人1人、スキル『診断』を使って診ていく。

 隊長は軽度のヘルニア、ほかの人たちも、ところどころガタが来てはいるが、重症の患者はいないようだった。

 店戻ったら、腰痛や腱鞘炎に効くクスリをさがしてみるか。

 まあそれよりも、俺がどうしても気になるのは、みんなのレベルだけどな。

 いやもう慣れたっていうか、今さら驚きもしないけど、みんな当たり前にレベル100越えてるんだよね。ていうか、120とか130とか。

 つまり、数字だけ見れば、レベル8のヤツをレベル100以上のヤツらが取り囲んで、頭下げたり感謝したり、あまつさえ、健康診断してもらったりしてるわけだ。

 うーむ。

 考えてみるとシュールな光景だ。

 ていうか、グスタフ隊長の部下のみなさんって、元は無職なんじゃなかったっけ?

『無職:レベル100』って何かな。

 哲学かな?


 けどまあ、やはりと言うべきか、中でも一番なのはグスタフ隊長で、レベル141。

 ほかの兵士たちがレベル120とか130とかだから、頭ひとつ抜きん出ている感じ。

 たしか、師団長クラスがレベル150台だったっけ?

 だからここらへんが、レベルの上げ止まりなのかもしれない。


 そんな感じで片っ端から診断していき、最後に残ったのはマドンナさんで、彼|(彼女)の顔を見ると、にっこり笑って首を振った。


「アタシはいいわン。ありがとねン」


 そっか。

 で、ふう、とひと息ついた、そのときだ。

 周囲にどよめきが起きた。


 誰もが、目を奪われている。

 誰もが、しばし歓談を忘れて見入っている。


 皆の視線が集まっている先に目をやると。

 そこには、真っ赤なドレスを着た、銀髪ロン毛の女の子がいた。


 さっきまで身に纏っていた鎧の青と対照的な、赤。

 扇情的なまでの、赤。

 そしてそこからはみ出す谷間を隠そうともせず、全方位から浴びせられる視線を意にも介さず、ゆったりとした足取りで、こちらに向かって歩いてくる。


 なんというか、ギャップが凄まじい。

 鎧を身につけていないと、ますます、『軍団長』という肩書きが似合わない。

 ただの、目立つ、魅力的な、女の子。


 ヴィスタさんは、俺の前まで来ると、ぴたりと足を止めた。

 それから、急に顔を背けた。

 なぜか少し恥ずかしそうに、何かを言いたそうにモジモジしている。

 なんだろう、この。

 珍しい感じ……。


「貴様……」


 そして、キッと睨みつけられた。


「どうしてすぐに私のところへ来ない」


 って、あ。

 担ぎ上げられた。


 相変わらずなんで自分の身体がこんなカンタンに浮くのか原理がわからん。

 って、また拉致られるのか。

 拉致を場面切り替えのデフォにするのやめてもらえません?

 健康診断の途中だったのに。

 遠ざかるみんなに手を振り別れを告げる。


 さよーならー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ