27:MVPの報酬は軍団長を奴隷にする権利
出来レースっぽいのを自信満々にできるからこその軍団長。
最初のうちは、いかにも軍隊っぽいパレードがあったり、オッサンたちが壇上に上がっては決算報告をしたり、調査報告をしたりした。
式典は粛々と進行していった。
つまりアレだ、退屈なヤツだ。
何度も素であくび出そうだった。ヤバい。
自分がここにいる意味もよくわからんままだし、場違い感ハンパないし、いい加減マジで帰りたくなってきた頃、司会がこう告げた。
「ではこれより、褒賞の儀に移る」
そのとたん。
ザッというものすごい音がして、その場にいた全員が一斉に頭を下げた。
入れ替わりに、銀色の長い髪をなびかせて、青く輝く鎧に身を包んだ女の子が1人、広場に颯爽と入ってきた。
数千人が平伏し、物音ひとつ立たない異様な静寂の中を、悠々とした足取りで、少女が壇上へ向かって歩み進んでいく。
今目の前で繰り広げられているのは、そんな光景。
やがて足を止め、彼女は——つまり先ほどまでバスローブ姿だったヴィスタさんは、壇上からしばらく無表情で大衆を睥睨すると、広場の端まで届きそうな芯の強い声を張り上げた。
「面を上げよ! 皆の者!
胸を平静にしてようく聞け!
今回の我々の戦いは、いつにも増して凄惨を極めるものだった。
まるで深い霧の立ちこめる崖の上で、見えない敵を相手に戦うような、気の遠くなる毎日だった。
気が狂いそうになる毎日だった。
気がつけば、隣にいたはずの戦友を見失っていた。
気がつけば、見当違いの方向へ進軍していたこともあった。
それでも我々は、戦った!
誇り高き、バテンカイトスの名に恥じぬよう、人類最後の砦を、守り切った!
今宵の人類の平和は、ここにいる皆の働きの賜である。
誇れ! 戦士たちよ!
我々は大成した!
この場に集う誰1人欠けても!
この成功は勝ち得なかったであろう!
犠牲となった者、誰1人欠けても!
今日という日は訪れなかったであろう!
我々は、彼らの意志を背負い、ここに立つ。
それぞれの胸に、それぞれの想いがあることと思う!
皆の働きに、決して優劣などつけられるものではない、が!
だが諸君。
褒美は必要だろう?」
その瞬間、静まり返っていた広場にとつぜん歓声が湧いた。
ウオオオーーみたいなやつ。
マジでちょっとびくうってなった。
「今回も、特別な働きをした者、とくに目立った働きをした者など、私が個人的に選んだ15人に褒賞を与える。名前を呼ばれた者は前へ出てくるように!」
ヴィスタさんがそう告げるや否や、従者たちの手によって何やら運ばれてきた。
剣、盾、鎧、壺……。そういったアイテムがずらずらとヴィスタさんの横に並べられた。
そんで、1人ずつ名前を呼ばれては、1人ずつ前に出てきた。
ヴィスタさんは彼らに激励の言葉をひとことふたことかけてから、褒美の品を渡していった。
てっきり前に並んでいるお偉いさんたちの中から選ばれるのかと思っていたが、案外そうでもなく、一般兵の中からも普通に選ばれている。
中にはヴィスタさんに結婚を認められて(?)、「ありがとうございます……ありがとうございます……!」と涙を流して喜んでいる兵士もいた。
なんだろう、アレ。よくわからんシステム。
そんな感じで、計15人の兵士たちが褒美を受け取り、ほくほくした顔で戻っていった。
って、俺の名前は呼ばれないんかい!
心の中で思わずツッコんでしまった。
いや、違うんだよ。
別に期待してたわけじゃないよ?
べ、別に期待なんてしてないんだからねっ!
でもさ、じゃあさ。
いよいよ俺なんでここに呼ばれたの?
そのとき、ヴィスタさんがこう宣言した。
「では続いて、MVPの発表に移る!」
MVP?
なにそれ、そんな部門もあったの?
と思ったら、周囲の兵士たちもざわついていた。
「MVP……?」
「なんだ、聞いてないぞ?」
「さっきの15人の中から選ばれるのか……?」
どうやら彼らにとってもハプニングイベントだったようだ。
「MVPに選ばれた者には!」
数千人の兵士たちが固唾をのんで次の言葉を待つ中、ヴィスタさんは優雅に微笑んで、こう言った。
「1日だけ私を奴隷にする権利をくれてやろう。その日1日、なんでも言うことを聞いてやるぞ」
一瞬、広場が水を打ったように静まり返った。
が、次の瞬間、各所からどよめきの声があがった。
ざわ……ざわ……。
「な……なんでも……?」
「うおおおおおお……!」
「お、俺はデートを申し込むぞ!」
「俺は密室で一日中罵ってもらうんだ!」
そんな声が各所からあがっている。
なんだこいつら。
それに対し、師団長たちは冷静に頭を振っていた。
「フン、愚かな」
「なんと低俗な」
「フッ、私なら直に顔を踏んづけてもらうものを」
いやいや、あんたらもかよ。
「では、発表する!
此度のMVPは……、サンタ!
タマキ・サンタ!」
……しーん。
それはそれは、かつてないほどの、しーん、だった。
シノブさんがそっと耳打ちした。
「サンタ殿、前へ」
促されるまま立ち上がって前へ出てしまった。
すると。
「恐れながら、申し上げます!」
誰かが俺とヴィスタさんのあいだに転がり出てきた。
俺と同じ、ビップ席の並びに座っていた兵士。
見た感じ若いけど、たぶん師団長なんだろう。
「ヴィスタ軍団長! そのような判断は、早計ではございませぬか! 先ほどの御言葉、是非とも撤回していただきたく存じます!」
「ほう……?」
ヴィスタさんは無表情に兵士を見下ろしている。
「なぜその者だけを特別に贔屓なされるか!? 私が、私たちが、こんなにも忠誠を尽くしているというのに! その者は、まだ何も、なんッにもしていないではないですか!」
「聞け、ゾシモス師団長。我々が今シーズンを無事乗り切ることができたのは、彼の解毒薬のおかげだ。それがなければ、被害はこの程度では済まなかっただろう。これは厳然たる事実だ。違うか?」
「しかし……しかし! 私は納得できません! ヤツにその権利があるとは思えません!」
「では聞くが、貴様に解毒薬が調合できるのか?」
「くっ……! それは……」
「なあ、サンタ? あの解毒薬は、貴様以外の人間にも調合できたのだろうか?」
ヴィスタさんが慈愛に満ちたような目でこちらを見つめてくる。
うーん……まあその、ぶっちゃけ誰にでもできると思いますけどね。
ただ材料混ぜるだけだし。
「タブン ダレデモ デキルッス」
「ククク……冷たいな、サンタ。そこは『私にしか作れません』と言ってくれないと私の顔が立たないだろう?」
ああ、そっか。
それは、ごめんなさい。
ちら、と横を見ると、ゾシモス師団長とやらが、顔を真っ赤にして激昂していた。
「おおお、おのれッ! それだ、それ! 我らが軍団長に向かって、なんだその馴れ馴れしい態度は……! おまえなんか、おまえなんかなあ、この場で斬り捨ててくれるッ!」
「ゾシモス師団長」
そのときヴィスタさんが、なんとも言えない、静かな声で言った。
それだけで、ゾシモス師団長は何かを察したらしい。
「ひッ」
ぎゅっと目をつむって、肩を竦めるような仕草をする。
それで、なんとなくわかった。
ああ、アレか。
例の覇眼か。
ヴィスタさんの目を見ると、ヤバいアレだ。
覇眼使いはゆっくりと男に近づいていき、肩に手を置くと、静かな声で言った。
「ゾシモス、目を開けろ」
「で……、できません軍団長……!」
「なぜだ? さあ、目を開けるんだ」
「くっ……」
「大人しく、私の声に“従え”」
「ああっ!」
そのとたん、ゾシモス師団長の目が、無理やりこじ開けられたかのようにカッと見開かれた。
あーあ。
彼は、至近距離でヴィスタさんの目をガン見した。
「あふううううっ!!」
そして、奇声を発しながら膝から崩れ落ちた。
そのまま、ヴィスタさんの足下でビクンビクンと痙攣を始めた。
「贔屓ではないぞ、ゾシモス師団長。皆平等だ。“有能さの前には”皆平等だ。貴賤はない。そしてもちろん、私は貴様のことも平等に評価している。だからこそ、その地位を与えているのだ。それだけで光栄に思えないか? ゾシモス師団長」
「はひいっ、はひいっ、あ、あ、ありがとうございますゅうっ! 我が身に、みにあまりゅッ! 光栄にございましゅううううううっ!」
いやいや。
ヤバいでしょ。
え、彼、大丈夫なの?
ヴィスタさんの覇眼、『統率の覇眼』だっけ? なぜだか俺には効かないらしいが、本来、使われるとこんなんになるのかよ。
あー効かなくてよかったー。
ていうか可哀想だからそろそろやめてあげて。
顔中からいろんな汁垂れ流して、なんかもう、いろんな意味で帰ってこれない感じになっちゃってるから。
ってかもう手遅れか。
「貴様に私を奴隷にする資格はない。貴様は一生私の奴隷だ。違うか?」
「はひいぃっ、そうですゅうう! ゾシモスはぁっ! 一生! 軍団長様の奴隷でしゅうううううううっ」
統率の覇眼。
絶対服従の命令って感じかな。
なんか昔そんなアニメあったな。
改めて目の当たりにすると、恐ろしい能力だった。
地面に転がったまま未だにビクンビクンしている師団長を尻目に、ヴィスタさんはこちらに向き直った。
「サンタ。膝を着け」
おおせのままに。
アニメ等で得た知識をもとに、できるだけ恭しいポーズを作ってみる。
頭上で、すらりと、剣を引き抜く金属音。
なんだかデジャブだ。
そういえば初めてヴィスタさんと会ったときも、同じように剣を突きつけられたっけ。
だが今度は、まるで意味が違った。
何度か頭上で振る気配のあと、またすらりと収められる音。
その次に、剣ではないものが近づけられた。
「サンタ。あとで私の部屋に来い」
そっと耳打ちされた。




