25:壁際の子どもたち
ヒャッハー!!
ある日のこと。
いつものようにカイトと修業を終え、狭いトンネルを抜けてクランマケットーに帰ってきたのだが、この日カイトはいつもとは違う方向に歩き出した。
バーへ戻る方向ではない。
むしろ、貧民街の奥へ奥へと進んでいく。
えーと。
もしもし、カイト?
これまであえてツッコんだり触れたりしてこなかった。
貧民街。
そう、ここは貧民街なのだ。
海外旅行とかだと絶対に立ち寄ってはいけない場所だ。
そんな場所に、カイトはどんどん奥へ奥へと入っていく。
ヤバいなあ。
ク◯イジージャーニーとかで見たことあるなあ、こういう光景。
散乱したゴミや瓦礫。
朽ち果てた壁や窓。
なんとも言えない独特の臭気。
いかにもなんか、ヤバいギャングとか地下組織の温床になってそうな雰囲気を醸し出している。
ねえ、カイト。
ひょっとして……そういう組織と繋がりあったり……するの?
カイトはとうとう一軒の家(というか倉庫)の扉の前で立ち止まった。
中から声がした。
「合い言葉を言え」
「6日前、ヘビに噛まれた仲間がいる」
「紫の毒は?」
「美味しい毒。緑の毒は、不味い毒」
「入れ」
カイトは扉を開け放った。
ねえちょっと待ってなに今のやりとりー。
この先に誰が待ってるんだー?
武器かー? クスリかー?
ねえカイトー!
「おー! おまえら、カイト様が来てやったぞー!」
そこにたむろしていたのは、世紀末なガチムチの凶悪なピンク色のモヒカンギャング集団……
ではなかった。
中にいたのは、年端もいかない、子どもたちだった。
子どもたちは、荒んだ目で一瞬こちらを見た。
が、カイトの姿を認めるや、全員ぱあっと顔を輝かせて立ち上がり、駆け寄ってきた。
ついでに子犬まで駆け寄ってきた。
「ブツは持ってきたのか?」
赤い髪の活発そうな少年が一歩前へ出てきて言った。
あ、なにそのいかにもテンプレのセリフ。
「おう! 喜べおまえら! きっちり全員分持ってきてやったぞー」
「わー!」
「やったー!」
子どもたちのあいだで歓声が上がる。
カイトは、なんだか薄汚れたずた袋を赤髪の少年に手渡した。
「やるじゃん!」
赤髪の少年も嬉しそうだ。
だがそのとき、ずい、とうしろからフードを目深にかぶった少年が前へ出てきて言った。
「中身を確認させてもらう」
あ、またテンプレのセリフを。
フード少年はペンライトみたいなものを当てて袋の中身をチェックしていたが、やがて顔を上げ、ポケットから小さな薄汚れたずた袋を取り出すと、カイトに放ってよこした。
いや、だからその袋、何?
「報酬だ」
「おう、まいどー」
全員で7、8人くらいいるだろうか。
ひょっとしたら奥にもまだいるのかもしれないが。
みんな、小学生、くらいだろうか。
もちろん、学校に通っていそうな雰囲気はないが。
大人の姿は、見当たらないな……。
ということは、ひょっとして、子どもたちだけで、ここに住んでるのか……?
だとしたらこれは、ちょっとした衝撃映像なのでは……。
でもみんな、明るい顔してる。
さっきは一瞬荒んだ目をしていたけど。
どうなんだろう。
平和に暮らせてるのかな。
「あと、パン、おめーにも持ってきてやったぞー!」
カイトが、集まった子どもたちの中の1人、おさげの少女に、何かを手渡そうとした。
すると、先ほどのフード少年がサッとそのあいだに立ち塞がった。
「カイト、言ったはずだ。ほどこしは受けねーぜ。鉄の掟だ。たとえカイト相手でも、掟を破るのは許さない」
フード少年はカイトの目をじっと睨みつける。
カイトもフード少年の目をじっと見つめ返す。
「がははー、カタいことゆーな! これはただのプレゼントだ。プ・レ・ゼ・ン・ト」
カイトはフード少年のフードをぽんぽん叩く。
フード少年は少し押されたが、
「そ、それでも、対価なしの取引はダメだ」
「がはは! もちろん対価はいただくぜ! プレゼントの対価はな、笑顔とお礼だ!」
フード少年はぐっ、と言葉に詰まった。
あ、ぐぬぬ、って顔してる。
超ぐぬぬ顔してる。
「カイト、プレゼントって、なに?」
「おう、髪飾りだ! このあいだのお礼だ」
おさげ少女は、目を閉じたまま、前に出てきて、両手で目の前をさぐる仕草をした。
あれ、ひょっとして目が見えないのかな。
カイトは少女の手に触れ、次に頭に触れてから、慣れた手つきで髪飾りを装備した。
「カイト、似合う?」
「おー! すんげー似合ってるぞパン」
「カイト、嬉しい。ありがとう」
「がははー、礼には及ばねーぜ」
フード少年は相変わらずぐぬぬ顔。
その隣で坊主頭の少年がしきりにうなずいていた。
「いやーカイトさん、さすがっすねー」
「まーな! こういうのが女心を掴む秘訣だぞ!」
「いやーさすがっす。あっ、カイトさん! ひょっとして髪型変えました?」
「おうよ! イカすだろ?」
「もしかしてカイトさん、また新しい女できたんすか!?」
「がはは、あたぼうよ! 俺はバリバリ現役だぜ!」
「カイトさん、こんど俺にもイイ女紹介してくださいよ!」
「おめーには100年はええな!」
「来世じゃないっすか!」
そんなやりとりをしながら、カイトは、いつもよりひときわ大きな身振り手振りでみんなに言った。
「外の世界にはいっぱいたのしーことあるぞ! もりだくさんだぞ! 美人のネーチャンもウマい食べ物もなんでもあるぞ! 仕事だっていっぱいあるぞ! おめーらならなんでもできる、がはは! だから早く大きくなれ! 早く一人前になれ!」
笑いながら坊主少年の肩をバシバシ叩く。
ひょっとして。
カイトは、みんなに希望を与えようとしているのだろうか?
俺は直接聞いてみた。
「カイトハ ミンナト ドウイウ カンケイッスカ?」
するとカイトは振り向いて言った。
「ここは俺の育った場所なんだよ」
やっぱり。
やっぱりそうか。
ここはカイトの育った家。
おそらく、ここにいる子どもたちはみな、なんらかの事情で親を失った子たちなんだろう。
ということは、カイトもまた、同じ。
なるほどな。
カイトのことが少し、わかった気がした。
さっきはギャング集団の巣窟なんじゃないか、なんて疑って悪かったな。
いいところじゃないか。
「イイトコロ ッスネ」
「だろー? こいつらはオレの家族みてーなもんなんだ。なっ?」
「フン」
「このやろー。素直にハイって言えー!」
「うみみみみ」
ほっぺをカイトにむいーんってされながらじたばたするフード少年。
「でもカイトさん、俺はカイトさんのあとを継ぎますよ! バーテンダーになって、カイトさんみたいに何人も女をはべらせてみたいっす!」
坊主少年がキラキラした目で言った。
おう。将来安泰じゃないかオニキス。
絵に描いたような貧乏生活。
でもみんな、いい子たちだ。
平和に、楽しそうに暮らしてる。
「さて、そろそろ時間だな」
そのときふと、フード少年が呟いた。
するとみんな、とたんに神妙な顔つきになり、お互い顔を見合わせ、うなずいた。
それから急に、やおらテキパキした動きで部屋の中を駆け回りはじめた。
え、急に何?
何が始まんの?
やがてそれぞれ、古びたトランクケースを手に戻ってくる。
それらを、一斉に開け放つ。
バン、バン、バン!
中から出てきたのは……。
武器。
武器、武器、武器!
火炎放射器、自動小銃、鎖鎌、斧、etc……
そんな、世紀末的武器の数々を、子どもたちは、慣れた手つきで一斉に装備し始めている。
え?
いやいやいやいや。
え?
なにこれ?
何が起きてるの?
「ナ ナニガ ハジマルッスカ?」
思わず坊主頭の少年に聞いていた。
自動小銃と薬莢を肩にかけようとしていた彼は、悪い顔つきでニヤリと笑った。
「カイトさんがさっき持ってきたブツね、あれ弾薬なんですよ」
なんだって?
「おかげで今日はド派手にぶちかますことができますよ」
な、なにをするつもりだ!?
「ゾンビを狩るんすよ」
へ……?
「おや、ご存知ない? このあたりは夕方になるとゾンビが湧くんすよ。ゾンビはね、火気にめっぽう弱いから、武器でカンタンに倒せるくせに経験値が高くって、おまけにレア素材をドロップするんでウマい仕事なんすよね。へっへっへ、いけねえ、想像したらヨダレがとまんねえや」
「リスポーンする地点は割れてるからな。ラクショーだぜ」
「今日は東A-53と南C-10だ。いつもの2班に分かれよう。集中砲火で殲滅してやれ」
「っしゃああああ、おらああああ!」
「今日は狩るぜええええ」
「たんまり稼ぐぜえええ!」
「ヒャッハー!!」
「ド派手にぶちかまそうぜェ!」
「全員蜂の巣にしてやるぜええ!」
「いっくぜえええええ」
その世紀末の物騒な武器を振り回しながら、高らかに奇声をあげて、子どもたちはあっという間に夕暮れの街の中へ消えていった。
俺は呆然と彼らのうしろ姿を見送った。
……。
いや。
っていうか、
やっぱりギャング集団なんじゃねーか。
※
そんな感じで日々は流れていった。
昼頃起きて、カイトと連れだって特訓場で夕方までトレーニングをして、その帰りに子どもたちのアジトに顔を出して、それから朝方までバーで働いて、バーが終わると昼まで寝る。
そんな毎日。
そしてついに……。
《レベルアップしました》
《ハーフコボルトのレベルが8になりました》
《ステータスが更新されました》
《経験値を魂に還元しています》
《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 身体+1 耐久+0 知性+1056 精神+0 機動+1 創造+0 交渉+0 魅力+0》
《条件を満たしました》
《種族スキル『結界破り』を取得しました》
《種族スキル『雄叫び』を取得しました》
《種族スキル『送り狼』を取得しました》
《種族スキル『防刃』を習得しました》
《種族スキル『飛脚』を取得しました》
《種族スキル『朧』を取得しました》
《種族スキル『月歩』を取得しました》
《種族スキル『威圧』を取得しました》
《種族スキル『酒池肉林』を取得しました》
《種族スキル『傍若無人』を取得しました》
《種族スキル『踏み荒らし』を取得しました》
《種族スキル『特権無効』を習得しました》
《種族スキル『乱暴狼藉』を取得しました》
《command;end これ以上取得可能な種族スキルはありません》
《カルマを計測しています……》
《レベルアップボーナスにより507マナを入手しました》
レベルアップキター!
はい。
というわけでですね。
ついに、覚えられる種族スキルがカンストしたそうです。
レベル8で? レベル8で。
いやあ、長かったなあ、ここまで(遠い目)
いろいろとツッコミ所は満載なのだが、とりあえず俺はこのへんでひとつの重大な決断をしなければならなかった。
そう、どのスキルにマナを振って習得するか、ってこと。
正直、めっちゃ迷ってた。
人間、与えられた選択肢が多すぎると決められなくなるって聞いたことあるが、ホントそれね。
カイトとの修業を経て覚えたハーフコボルトの種族スキルはもちろんどれも魅力的なのだが、ざっくり『診断』で調べてみたところそのほとんどが攻撃系のスキルだった。
敵と戦う状況が前提のスキルね。
つまり、どんだけ山ほどスキルを覚えようとも、結局自分のパラメータがカッスなので、習得しても使えないんだろうなあ……というのが、目に見えるわけだ。
いや正直、おそらく最終奥義であろう『乱暴狼藉』とか、スキルの内容を『診断』してみると「複数の種族スキルを同時に繰り出すスキル」だそうで、こんなもん、ぶっ壊れてるし、カッチョイーし、ぜひとも習得してみたい……が、ここはグッと我慢。
ということで、決めました!
マナ振って習得するスキル10選〜
①『調合』
いわずもがな、俺の生命線。内容を見てみたところ「調合にかかる一連の動作や正確性・成功率を上昇させるスキル」らしい。必須。
②『加工』
生命線その2。調合に使う素材などを切ったりすり潰したりするのに必要じゃないかと思った。
③『接着』
「物と物をくっつけるスキル」だそうで、正直習得するか迷ったが、これも調合で何かと重宝しそうだったので採用。
④『所持』
「物を持てるスキル」という、正直、完全に要らないゴミスキルなのだが、俺はひとつの可能性に賭けた。そう、異世界にお約束のチートスキル、四次元アイテムボックスさんに化ける可能性に。一見ゴミスキル、ってのが逆にフラグな気もするし。
⑤『未来予測』
何度も言うけどパラメータはカスなんだから、戦闘はなるべく回避していく方向に伸ばしたい。相手の行動を予測できれば、危険も避けられるだろう。
⑥『空間把握』
Siriさんが「マッピング機能だ」って言ってたので。正直、グーグルマップがあるかないかでは生存確率に天と地ほどの開きが出るだろう。とくにこんな異世界じゃ。
⑦『集水』
文字通り、水を集めるスキル。まあ異世界とはいえ大都会に住んでるわけだから水に困ることはないだろうけど、されど異世界何が起きるかわからない。水は生き物のライフライン。
⑧『HP自動回復』
魔法使いでもないのになぜか覚えた要するにFFとかで言うリジェネでしょこれって。習得しない理由はない。いのちだいじに。
⑨『穴掘り』
種族スキルその1。なぜこれを習得しようと思ったかというと、「ある一定量の土を掘るスキル」ということで、たとえばこれを敵に向けてやった場合、パラメータに依存しない固定ダメージとして効果があるんじゃないかと考えたからだ。ま、穴掘り自体、生活で役立つことも多いだろう。
⑩『満月の加護』
種族スキルその2。「月の光の恩恵を受けてパラメータが上昇するスキル」だそうで、パラメータのカスさを少しでも補ってくれそうな唯一のスキルだった。問答無用で採用。
というわけで。
溜まってた3710マナを、10個のスキルに注入〜!
おおお……!?
……。
はい。
なんも起こりませんね。
ま、ミホロも言ってたし。
マナを振ったからってすぐに習得できるわけではないと。
なんだか拍子抜けだが、これからジワジワと効いてくるんだろう。
芽が出るのをじっくり待つとするか。




