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異世界薬酒調合師(バーテンダー)がおもてなしするよ!  作者: チグ
第二章 秘密基地編 & 魔王復活編
27/35

 24:オオカミのひみつとっくん

オオカミがじゃれてるだけ。



「よーし、いっくぞー!」

「バッチコーイ」


 攻守交代。

 俺は腰を落としてカイトの前に立ち塞がる。

 カイトは不敵な笑みを浮かべ、かと思えばバッと飛びかかってくる。

 カイトの目標は、俺の背後にそびえたつ壁。

 クランマケットーの巨大な外壁。

 その真ん中に赤くペイントされた、小さなマト。

 タッチできればカイトの勝ち。

 妨害できれば俺の勝ち。


 カイトがすぐさまフェイントを入れてくる。

 だがそう何度も同じ手は食わないぞ。


 「イカセナイッス!」

 「おっ」


 フェイントの対応に成功。

 少しずつだがカイトの動きも見えるようになってきた。


「やるじゃーん。だがな!」


 カイトが華麗に身を翻し不敵に微笑む。

 何をしてくる?


「シッポがら空きだぜ!」

「グェ」


 シッポを引っ張られた。

 バランスを崩し、すっころぶ。

 シッポ、とかいう聞き慣れない弱点。

 そっか、自分の身体にどんな弱点があるのかも、ちゃんと把握しておかなきゃいけないんだな。

 余裕で脇をすり抜けられる。

 こうなったら、うしろから引きずり落とすまで!

 俺はすぐさまカイトのあとを追う。


 クランマケットーの壁の外側は、ふもとがゆるやかな坂道になっている。

 途中からだんだん角度が急になっていき、やがてそそりたつ絶壁に変わる。

 なので、途中までは頑張れば登ることができるのだ。

 これはそういう地形を利用したトレーニングなのだった。


 さらに俺たちは半分オオカミである。

 人間よりもずっと身軽に、傾斜なんておかまいなしに、わりと縦横無尽に走り回れる。

 カイトを追いかける。

 視界が目まぐるしく動く。

 ネズミ色の湾曲した壁面、ぐるっと回って青い空、一瞬逆光、ぐるっと回って緑色の草原。

 ちくしょう、遊ばれてる。

 だんだんどっちが天でどっちが地だかわからなくなってくる。

 でもなんだろう、なんか楽しくなってきた。

 すごい脚力、すごい反射神経、すごい平衡感覚。

 そして何よりすごい体力。

 さすがは獣人だ。

 だが俺以上に、カイトの身軽さったらない。

 こんな制約の大きな場所で、まるで重力を無視したような動きをする。急に方向転換したりする。

 その動きについていくので精一杯。

 そしてたぶん、カイトはぜんぜん本気を出していない。


「きゃっきゃっきゃ」

「クソー!」


 はしゃいだ声で笑いながら俺の目の前で跳びはねる。

 完全にナメられてるな。

 身体能力差がありすぎる。

 こちとら元の世界では万年運動不足だったからな。

 だがこれは?

 目の前には、くるくる回るカイトのシッポ。

 クックック、なあカイトよ。

 さっきは弱点を突かれておくれを取ったが、

 その弱点、おまえにもあるんだぜ!


「カイト シッポ ガラアキ——」

 パシッ!

「アイタッ」


 一瞬前が見えなくなる。

 顔にシッポを打ち付けられたのだ。

 なんと、シッポを目くらましに使っただと!?

 弱点のはずのシッポを、逆に武器として利用しただと!?


「にしししっ! そーくると思ったぜ! 罠だよーん」


 フワッと身体が外壁から離れるのがわかった。

 動揺して、身体を壁から浮かせてしまったのだ。

 カイトのしたり顔と、青い空と壁の境目が、ひっくり返って遠ざかる――


 ヤラレター!!


 俺はゴロゴロと坂道を転げ落ちた。

「グェ」

「がはははー! まだまだだなーサンタ! そんなんでオレに勝とうなんざ10年はえーぜ!」


 カイトがしゅーっと壁を後ろ向きに滑り降りてきて笑った。

 結局、一本も取れずじまいか。

 ああ、悔しいな。

 でも、なんか楽しい。

 悪い気はしない。


「ハア ハア ハア」

「はあ、はあ、はあ」


 2人で仰向けになって地面に寝っ転がった。

 荒い息をつきながら、しばらく空を見る。


 汗ばんだ身体に吹き抜ける風が心地良い。

 草木のにおい。自然のにおい。

 緑が勢いを増してきている。

 夏が始まり出している。


 ここはクランマケットーの壁の外側。

 そう、つまり街の外なのだ。

 壁の向こうに巨人が歩き回ってたりはしなかった。

 代わりに広大な森が広がっていた。

 前にヴィスタさんに教えてもらったことがあるが、街の南に広がっているこの森が、『エルフの森』なんだろう。

 向こうのほうに、見るからにヤバいレベルの巨木が一本、突き出している。

 スカイツリーくらいあるんじゃね? あの木。

 異世界は不思議がイッパイダナー。


 あー、それにしても疲れた……。

 こんなに動き回ったのはいつぶりだろうか。

 リアルに小学生のとき以来とか、そんな感じじゃないか……。



 ※



 数日前。

 俺はカイトに交渉を持ちかけた。

 カイトは快く応じてくれた。


「カイト オレヲ トックン シテホシイッス」

「いーぜ! その代わり、サンタはオレに酒の作り方教えてくれ。なっ?」


 てな感じで後日連れてこられたのは、オニキスから歩いて20分くらいの、街の南の壁際。

 そこは、貧民街になっていた。

 たしかに、壁のすぐそばなんて、もし敵に攻め込まれたりしたら真っ先に攻め落とされる場所だし、さらに南側だと一日中日当たりも悪いだろう。

 立地としては最悪だ。

 現に、貴族たちが住むような高級住宅街は、街のど真ん中にあるって聞いたことがある。

 まるで格差社会を絵に描いたようだ。

 カイトは、ほとんど廃墟のようなボロボロの家が建ち並ぶ中をずんずん奥へと進んでいった。

 人の気配はするものの、人っ子一人見当たらない。

 そして、ついに壁まで辿り着き、立てかけてあった大きなベニヤ板をずごごごっと動かした。


 そこにトンネルが現れた。


 ちょっと身をかがめないと入れないくらいの狭いトンネルだ。

 まるで勝手知ったる自分の家みたいに、カイトは中に入っていった。

 俺もあとをついていった。

 で、しばらくジメジメした暗くて狭い中を進んでいくと、急に眩しい光が射し込んで、この場所へ出た。

 というわけだ。

 森の中にぽっかり空いた、ちょっとした広場みたいになっている場所。


「ここ、オレたちのとっておきの場所なんだぜ!」


 たしかにとっておきの場所だろう。

 知る人ぞ知る穴場って感じ。

 隅っこのほうには鉄棒とか、タイヤの山とか、空手の修行に使うような巻き藁とか、あとおじぞうさんとか、アスレチック遊具みたいなものがごちゃごちゃ立ち並んでいた。

 なんだろう。SASUKEの練習場みたいな?

 ていうか、おじぞうさんって。なんでだ。


 俺は隣に寝っ転がるカイトに聞いてみた。


「アレ ゼンブ カイトガ ツクッタッスカ?」

「うん? がははー、違うぞサンタ。オレが作ったやつもあるけど、みんなで作ったんだぜ!」

「ココ ツカウノ カイトダケジャ ナイッスカ?」

「もちろん! オレの場所でもないし、誰の場所でもないぞ。誰でも使っていい、みんなの場所だ」

「ダレデモ カッテニ ツカッテ イッスカ?」

「もちろん! 許可なんていらねーぜ。だいいち、そんな細かいこと言うヤツいねーしな!」

「ヘー」


 いや、ふとね。

 ここって、いわば壁の外の森の中なんだから、エルフ領なんじゃないの?

 って思ったが、まあカイトとその仲間たち? はずっと長いことこの場所使ってるみたいだし、使えてるってことは大丈夫ってことなんだろう、たぶん。

 ま、よく知らんけど。



 ※



 さて、特訓再開。

 攻守交代して、カイトと向き合う。

 今度は俺が攻め、カイトが守り。


「よーし、どっからでもかかってこい!」

「コンドコソ カツッス」


 実は、俺はとっておきの秘策を用意していた。

 悪いが、今回は勝ちにいかせてもらうぞ、カイト。


 デュエル開始と同時に、懐からあるアイテムを取り出す。


 ちゃらららっちゃら〜ん

 ゴムボール〜♪


 そう、ゴムボール。

 その名のとおりゴムボール。

 かつて、店長にもらったお小遣いで買ったおもちゃだ。


「むっ!?」


 目の前でボールをちらつかせると、カイトの目の色が変わった。

 この誘惑に耐えられるかな?

 さて、ではいくぞ。

 取ってこーい!

 俺は壁とは反対方向にボールを放り投げた。


「ハッハッハッハッハッ」

「ハッハッハッハッハッ……」


 ……うん?

 うん。なんか変だな。

 いやいや。

 まさか、ね。

 そんなわけないよね。

 まさかそんな……俺も一緒になってボールを追っかけてるなんてそんなことは……。


「ハッ!?」


 と我に返った。

 気がつくと、カイトと一緒にボールを奪い合っていた。

 ブルブルっと首を振る。

 違う違う。

 俺まで一緒になってボールを追いかけてどうする?

 てんてんてん、とボールが転がっていく。

 ボールが転がっていく。

 ボールが……。

 ボール……。


「ハッハッハッハッハッ……」

「ハッハッハッハッハッ」


 くそう、カイトめ……、

 ボールは渡さん……!

 ボールは俺のもんだ!


「ハッ!?」


 と我に返った。

 目の前には、ボールにじゃれついてシッポをバタバタ振っているカイト。

 ええと……そうだ、これはチャンス。

 そうだ、これはチャンスだ!

 今度はボールを視界に捉えないようにして、だーっと駆け出した。


「あっ!?」


 カイトも我に返った。

 だがもう遅い。

 勢いそのままに、脇目も振らずだだーっと壁を駆け上がって、マトにタッチ。

 ちょうどそのタイミングで、カイトに捕まった。

 あっぶねえ!

 だがひと足遅かったな。

 カイトに掴まれたまま、くんづほぐれつ2人で壁を転がり落ちた。


「ちくしょう、サンタ、卑怯だぞー!!」

「ハッソウノ ショウリッス」


 カイトは地団駄を踏んで悔しがっていた。

 俺はカイトに向けてVサイン。


「あははー、でも、やるじゃんサンタ!」

「カイトモ コレクライノ テゴタエ ホシイッス?」

「がははー、そうだな! 張り合えるヤツがいてくれると楽しーぜ!」


 それからパシッとハイタッチ。

 しっかしまあ、ね。

 ボールのパワー、おそるべし。

 てか、オオカミの弱点ってシッポとかじゃなくて、一番はボールなんじゃないの……?



 ※



 そして秘密特訓の結果……。


《レベルアップしました》

《ハーフコボルトのレベルが7になりました》

《ステータスが更新されました》

《経験値を魂に還元しています》

《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 身体+1 耐久+0 知性+877 精神+0 機動+1 創造+0 交渉+0 魅力+0》

《条件を満たしました》

《種族スキル『逃げ足』を取得しました》

《種族スキル『噛み付き』を習得しました》

《種族スキル『穴掘り』を取得しました》

《種族スキル『遠吠え』を取得しました》

《種族スキル『満月の加護』を取得しました》

《種族スキル『夜目』を取得しました》

《種族スキル『威嚇』を取得しました》

《種族スキル『狼煙』を取得しました》

《種族スキル『影縫い』を取得しました》

《種族スキル『電光石火』を取得しました》

《種族スキル『封印無効』を習得しました》

《種族スキル『健脚』を取得しました》

《種族スキル『闇討ち』を取得しました》

《種族スキル『掟破り』を取得しました》

《種族スキル『牢獄破り』を取得しました》

《カルマを計測しています……》

《レベルアップボーナスにより504マナを入手しました》



 おお……?

 おおお……!?

 身体、+1っつった?

 ついに、身体能力が、2になった?

 キターーーーーーー

 いやもうね、ヘタしたらバグか何かで一生上がらないのかもって思ってたから、一生1のままかもって思ってたから、もうね。

 いやー良かった。

 そんでやっぱこういうことか。

 こうやって肉体修業をすれば、身体能力とか機動力とか、それ系のパラメータがちゃんと上がってくれるんだ。

 それでも爆上がりし続ける知性さんはひとまず置いておくとして。

 相変わらず死ぬほど覚えるスキルの山はひとまず置いておくとして。

 ……いや『牢獄破り』って何……? なんかヤバそうなニオイがぷんぷんするけど……まあ置いておくとして。

 ほかのパラメータはどうやって伸ばすんだろうなー。

 まあいいや。

 ひとまず今回の収穫は大きい。


 よーし。

 この調子で頑張るぞー!



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