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 22:整腸薬『エイドキシリカ』




「さあて、ぼちぼち片付けるか」


 店長がよっこらしょっと腰を上げたので俺たちはぼちぼち動き出した。


 トレイの上に、トールグラスとシャンパングラスと料理皿と酒のボトルとフルーツ皿と灰皿とコースターとアイスペールとシャンパンバケツを乗せて、ガチャガチャいわせながら運んで厨房のシンクに放り込って、それからテーブルとイスをいったんどけて積み上げて、ゴミを集めてまとめて捨てて、床を水拭きして汚れを取って、テーブルとイスを元に戻すと、テーブルの上とカウンターを磨いた。

 とりあえずバーを元の状態まで復元すると、ホッとひと息ついた。


 俺はトイレのドアを見た。

 トイレのドアに向かって『診断(ダイノーズ)』してみた。



====================

職業:薬酒調合師 Lv.27

HP:28% MP:35%

補助効果:なし

状態異常:なし

体調:下痢、軽度の脱水症状

備考:修復可能性があります。

====================



 あれ、姿見えてなくても『診断』は成功するのか。

 へー。

 ていうか、カイトのレベルもミホロと同じくらいなんだ。

 やっぱり地元っ子はそんなもんなの?

 意外というかなんというか。

 へー。


 ……ま、普通に下痢か。

 何かマズいものでも食ってあたったのだろうか?


 俺は歩いていって、トイレのドアを開けた。

 トイレのドアが開くと、げっそり頬の痩せこけたカイトと目が合った。

 カイトは力なく微笑みながら手を上げた。


「よーサンタ」

「ナニ ヤッテルッスカ? カイト」

「何って、クソだよクソ。そして今日のクソは団結力がない」


 ていうかカギ閉めようよ。


「ム……クサイッスネ」

「当たり前だろ? 生まれたてのものは多少なんでもくさいよ。まあそう焦んなってサンタ。すぐに終わるよ。片づけはもう済んだのか? もしアレなら先に寝ててくれてもいいから」

「ドウシテ カギ カケナイッスカ?」

「カギかけたらうんこできないタチなんだよ」

「スキ ッスネ」


 俺が呟くと、カイトは首をかしげた。


「は? 何が? 便所で愛の告白? 悪いけど俺ちゃんと女の子が好きなんだ」

「ジャナクテ スキダラケッス」

「?」

「ダキッス!」


 刹那。

 俺は左足を一気に踏み込み、カイトの脇をすり抜けるや身を翻し、トイレットペーパーを奪い取った。やっぱスゲエな、オオカミって身軽。


「あッ! きたねえぞ!」

「キタナイノハ カイトノ シリッス」

「く……くそったれ!」

「クソッタレハ マサニ カイトッス」

「要求はなんだ?」

「カエシテ ホシケレバ ノコリノ アライモノト トイレノ ソウジ スルッス」

「くそう……なんて卑怯なヤツなんだ……!」

「ジャ ヨロシクッス」


 俺はペーパーを返すとトイレのドアを閉めた。

 このクソ忙しい日に大半サボりやがって。

 これくらいの仕事は甘んじてやってもらわんと。


 さて、と。

 俺は厨房に引っこんで店長秘蔵のレシピ本を手に取った。

 パラパラめくってみる。


 胃腸薬みたいなやつって載ってないかな。

 腸……腸……胃腸……と。

 本当はもっと早く作ってあげればよかったんだけど、今日はそんな余裕もなかったのだ。

 んー。

 んんん?

 おっ、あったあった。



====================

名称:エイドキシリカ 分類:薬酒

効能:胃もたれ・胸焼けの緩和、整腸作用促進、または食虫植物の消化液促進

レアリティ:C

必要素材:①ヴァルカ酒 ②エード水 ③メイプルニンジンエキス ④右ゾッゾ ⑤ジュヌッピズボルゲンエキス

作り方:①45%+③45%+④1%+⑤9%→シェイク(A)/A+②→軽くステア

備考:右ゾッゾは沈殿しやすい。丹念にシェイクすること。メイプルニンジンエキスは新鮮なものを使用すること。

====================



 カクテルが出来上がったとき、ちょうどカイトがトイレからフラフラと出てきた。


「カイト コレ ノムッス」

「おー、サンタ、なんだそれー?」

「マホウノ サケッス」

「オレ今、酒って気分でもねーんだよなー」

「ツベコベ イワズ ノムッス」

「もうこれ以上なんにも出ねーと思うんだけどなー」

「ノメバ ワカルッス」

「そうかー?」


 怪しんで渋るカイトに無理矢理カクテルを押しつける。

 カイトは渋々ながらもグラスに口を付けると、そこからはわりと一気にいった。

 おっ、いいね。

 いい飲みっぷり。

 さてさて。効果のほどはどうかな?


「おっ? おおお……? おおおおお……!」


 カイトは目を見開いて自分の腹を撫で始めた。

 これはまさに期待どおりのリアクションか?


「すっげーーー! なおったーーー!」


 マジかー。

 俺は一応カイトをもう一度『診断』してみた。



====================

職業:薬酒調合師 Lv.27

HP:28% MP:36%

補助効果:なし

状態異常:なし

体調:良好

備考:しばらく安静にする必要があります。

====================



 えーホントだ。マジで治ってやがる。

 やっぱガチなんだなあ、このレシピ本。

 頭痛薬にしろ解毒薬にしろ腹薬にしろ、今のとこ百発百中で治ってる。

 飲んで一瞬で効果が出るのが不気味ではあるけど。

 異世界のお約束って感じか。

 でもまあさすがにしばらく安静にしなきゃいけないのか。

 カイトはなんだか幸せそうなおじいちゃんみたいな顔でカウンターに突っ伏した。

 どういう状態なんだそれ今。


 と、そのとき、カランカランと入り口のベルが鳴って、扉が開いた。

 おや、誰か来たみたいだな……。

 ていうか、え、今頃お客さん?

 もうとっくに閉店なんですけど?

 看板、「CLOSE」になってましたよね?

 と思って入り口を見ると、そこにいたのは、仕事あがりのミホロだった。

 布にくるまれた商売道具|(杖)を抱えながら、扉のあいだからそろりと首を覗かせている。


「イラッシャ……ア シャス」

「……」


 ジロッと睨みつけられた。

 ミホロの にらみつける!

 おれの ぼうぎょりょくが さがった!

 なんで?

 なんか機嫌悪い?


「おー、ミホロ、げんきかー?」


 カイトが幸せそうなおじいちゃんみたいな顔で力なく手を上げた。

 いや、おまえがどうなんだ。


「おっ、ミホロちゃんか。おつかれ。そっちも無事終わったか?」


 店長がのれんの奥から自分の荷物を持って出てきた。

 ミホロは店長の顔を見てから、小さくうなずいた。


「今日は教会のほうも大変だっただろう。どうだ、何か飲んでくか? ノンアルコールもあるぞ」

「いえ、いいです。あの、なんとなく寄ってみただけなんで……」

「そうか」


 店長はニコニコしながらうなずいた。


「そうだ。せっかくだから、サンタとカイトと3人で、ちょっとでも祭りを楽しんできたらどうだ? まだ朝の5時過ぎだからな。ギリギリ開いてる屋台くらいならあると思うぞ? ほらサンタ、カイト、せっかくミホロちゃん来てくれたんだから、行ってこい。な?」


 店長は何かしら気を回して提案してくれたんだろうか。

 なんとなくそれはわかった。

 いったい何に気を回したのかはわからなかったが。


 ミホロはしばらくのあいだ店長の顔を見ながらノーリアクションでじっとしていたが、やがて俺たちのほうを見て、こくり、とうなずいた。





 そんなわけで俺たちは、4人全員で店を出た。

 店のカギを閉め、そこで店長に手を振って別れると、俺たち3人は祭りの余韻を残すぼんやりした光の中へ歩き出した。


 あー久しぶりの外気。

 それにしても今日はマジで忙しかったなあ。

 一日中動き回ってた。


「なーなー、ずっと思ってたんだけどさー。サンタの名前って、サンタだよな!」


 歩きながらカイトが振り向いて言った。

 うん? どういうことだ?

 俺は意味を図りかねて首をかしげる。


「プレゼントくれる架空のオッサンの名前だよな!」


 なんだと?

 こっちの世界にもあのヒゲオヤジが存在しているだと?

 元の世界とこっちの世界とのかぶり具合がわからんわ。

 そういえば店長が今日は復活祭だって言ってたし。

 ひょっとするとミホロのいる教会もキリスト教なのか?


「なーなー、ってことはさー。サンタの誕生日っていつなんだー?」


 カイトがニヤニヤしながら聞いてきた。

 こやつ……。

 まさかこっちの世界にもそこをイジってくるヤツがいようとは。

 小学校のときさんざんイジり倒され使い古されたヤツだぞそれ。

 ていうか、その日を言ったところで通じるのか?

 1年365日ってところも共通なのか?

 ええそうですよ。

 安直に12月25日生まれですよ。

 そう言うと、カイトはこちらを指さして笑った。


「女帝とおんなじだー、あははは! けほっけほっ」


 あーあー、喉の水分抜けてるから……。

 安静にせんと。

 ていうかキリストさんじゃないのかよ。

 誰なんだよ女帝って。


「いいじゃん。サンタ。いい……名前だと思う」


 ミホロがぽそりと呟いた。


「サンタ、サンタ」


 カイトがきゃっきゃはしゃいでいた。

 元気だな。


 しばらく歩くと、通りの両脇にぽつぽつと、まだやってる屋台が現れ始めた。

 おでん屋、焼き鳥屋、コロッケ屋、粉もん屋……。

 まるで日本の祭りみたい。


「コロッケ食おう、コロッケ!」

「ちょっとカイト、勝手に決めないでよ」


 ミホロの抗議も聞かずにカイトはたたっとコロッケ屋の屋台に駆け寄った。

 そして、ミホロとやいのやいの言い合いながらコロッケを3つ買って戻ってきた。


 周囲を見回すと、道のそこかしこで酔い潰れて眠りこけている人びと。

 道のまんなかで車座になって座り込み、飲んだくれている獣人たち。

 そんな中に混じって、あいてる石段に適当に腰かけて、紙の包みをあけると、ぱっと湯気が立ち上る。


「オレカニクリームコロッケー」

「ねえどれがどれだか見分けつかないんだけど」

「ホントだーあはは」

「ドレデモ イッス」

「いっか適当で」

「オレカニクリームコロッケ以外ダメなんだけど」

「いただきまーす」


 3人でコロッケにかぶりつく。

 ふと、あ、なんかいいな、こういうの。

 と思った。

 仕事仲間と、仕事終わりに、一緒の時間を過ごしてるって。

 一緒にコロッケ食べてるって。

 元の世界ではそんなの経験したことなかったけど。


「今日は大変だったなーマジ大変だったなー」

「カイトハ ジブンノ ハラト カクトウ シテタダケッス」

「どういうこと?」


 今日あったことをかいつまんでミホロに話してやると、ミホロはぷーっと吹き出した。


「仕事してないじゃん、カイト」

「うるせーなー、ホントマジで大変だったんだからなー。死ぬかと思ったんだからなー。でもサンタのおかげで完全に治ったけどな!」

「なんで?」

「サンタが腹痛の薬を作ってくれたんだよ!」

「へえ、そうなの」


 それからミホロはじっと俺の目をまっすぐ見てきた。

 なんだろう、その視線。

 いや、すごいのは俺っていうかあのレシピなんだが。


「キョウハ ミンナ ガンバッタッス」

「おーそうだそうだ、大変な日だったけどみんな乗り切った」

「ミンナ オツカレッス」

「おー、お疲れお疲れー」


 みんなで労をねぎらいながら、並んで、同じほうを向いて、コロッケを食べる。

 祭りの終わりかけた町並みを眺めながら。

 祭りにはいろんな参加の仕方があるってばっちゃが言ってた。

 そっか。こんな参加の仕方もあるんだなあ。


「あ、なんか、こういうの、いいかも」


 ミホロが、だんだん白み始めてきた夜明けの空を見上げながら、ぽつりと呟いた。

 お、奇遇だね。俺も思ってた。

 そういえば、ミホロ今日裏口のところでうずくまってたけど、なんかあったのだろうか。

 もう大丈夫なのだろうか?

 俺はそれについてとくに何も言わなかったが、ミホロは俺の目を見て、うなずいた。


「みんなでお疲れって言ったら、なんか気持ち、軽くなった」

「ソッスカ」

「おー、いいぞいいぞ。俺たちは仲間なんだからな! つらいことあっても仕事上がりにみんなでコロッケ食えばだいたい大丈夫だ!」


 なるほど。そっか。

 仲間か。いいね。


 しばらくして、コロッケを食べ終わると、カイトはスッと立ち上がった。


「んじゃあ、オレはそろそろ行くわ。寄らなきゃいけないとこあるから」

「ン、ソッスカ」


 うさ美か?

 キツネっ娘か?

 カイトはくるっと振り向くと、言った。


「サンタ、キバれよっ! オトコ見せろよっ! じゃなっ」


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