20:高級食材『店長のシッポ』
店中を飛び交うオーダー。
壁を震わせ、床を鳴らし、酒場を駆け巡る陽気な笑い声と、湧き上がる拍手喝采。
泡になって水分と混ざり合い、はじけるエチルアルコール。
「サンタ! アローラサンライズもう10追加な! カイト! 一番奥のボックス席に突き出しがまだ出てないぞ! サンター! それやったらコアトロのベースを大量に作ってくれ、大至急だ!」
「おっす店長ー、15人なんだけど、いけるかー?」
「おうよ! もう床しか空いてねえけどな! それでもよけりゃあ適当に座ってくれ!」
「店長ー! こっちもおかわりー!」
うおおおおおおお……!
《レベルアップしました》
《ハーフコボルトのレベルが3になりました》
《ステータスが更新されました》
《経験値を魂に還元しています》
《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 身体+0 耐久+0 知性+910 精神+0 機動+0 創造+0 交渉+0 魅力+0》
《条件を満たしました》
《職業スキル『調合』を取得しました》
《職業スキル『毒耐性』を習得しました》
《一般スキル『所持』を取得しました》
《職業スキル『消毒』を取得しました》
《一般スキル『未来予測』を取得しました》
《一般スキル『分別』を取得しました》
《職業スキル『加工』を取得しました》
《職業スキル『計量』を取得しました》
《職業スキル『目利き』を取得しました》
《種族スキル『鼻利き』を取得しました》
《種族スキル『聞き耳』を取得しました》
《職業スキル『接着』を取得しました》
《職業スキル『合成』を取得しました》
《職業スキル『調香』を取得しました》
《カルマを計測しています……》
《レベルアップボーナスにより488マナを入手しました》
作る。
ひたすらカクテルを作っている。
オーダーは一瞬たりとも途切れることがない。
シェイカーの冷たさで、とっくに指先の感覚がマヒしている。
足元に溜まっていく空の酒ビンを片付ける余裕もない。
「サンタ、オーダー! どんどんいくぞー!」
「店長ー! おかわりー!」
「オラオラこっちにもじゃんじゃん酒持ってこぉい!」
「こっちのテーブルにもー!」
「わはは、みんな飲め飲め今日は無礼講だー!」
あっはっはっはっはっは!
わっはっはっはっは!
《レベルアップしました》
《ハーフコボルトのレベルが4になりました》
《ステータスが更新されました》
《経験値を魂に還元しています》
《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 身体+0 耐久+0 知性+1002 精神+0 機動+0 創造+0 交渉+0 魅力+0》
《条件を満たしました》
《一般スキル『擦過耐性』を習得しました》
《一般スキル『精神攻撃耐性』を習得しました》
《一般スキル『念話』を取得しました》
《一般スキル『器用』を取得しました》
《職業スキル『修繕』を取得しました》
《一般スキル『並列思考』を取得しました》
《一般スキル『予知』を取得しました》
《一般スキル『予見』を取得しました》
《一般スキル『記憶拡張』を取得しました》
《一般スキル『特殊記憶』を取得しました》
《一般スキル『集中』を取得しました》
《一般スキル『思考ブースト』を取得しました》
《一般スキル『情報検索』を取得しました》
《職業スキル『水温操作』を取得しました》
《職業スキル『水質操作』を取得しました》
《一般スキル『空間把握』を取得しました》
《カルマを計測しています》
《レベルアップボーナスにより669マナを入手しました》
「追加オーダー! ジャック・コリンズ1、イエローハンコック1、魔物アイランドアイスティー1、トワイライトバルカン……ああもう! すまんがおまえら、注文を統一してくれないか?」
「えー」
Boo! Boo!
「全員ビールクリームサワーでいいな?」
「ケチケチすんなよ店長ー」
「オーダー! ビールクリームサワー6! サンター! その前のゴールデンクーラー3はまだかー!?」
先ほどから舞を踊っている。
アルコールの舞を。
作れども作れども、カウンターに列を成して並ぶ追加のカクテルグラス。
この酒のレシピはこうでこうでこうで、
次の酒のレシピはああでそうでどうで、
ああ、
身体が熱い。
脳みそが熱い。
ヤバいもう自分でも何作ってるかわかんない
《レベルアップしました》
《ハーフコボルトのレベルが5になりました》
《ステータスが更新されました》
《経験値を魂に還元しています》
《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 筋力+0 耐久+0 知性+1077 精神+0 機動+0 創造+0 交渉+0 魅力+0》
《条件を満たしました》
《職業スキル『審美眼』を取得しました》
《職業スキル『腐蝕耐性』を習得しました》
《一般スキル『呪術耐性』を習得しました》
《一般スキル『探知』を取得しました》
《一般スキル『気配探知』を取得しました》
《一般スキル『金属探知』を取得しました》
《職業スキル『集水』を取得しました》
《職業スキル『浄水』を取得しました》
《職業スキル『乾燥』を取得しました》
《職業スキル『発酵促進』を取得しました》
《一般スキル『HP自動回復』を取得しました》
《一般スキル『マナデフラグ』を取得しました》
《一般スキル『潜在能力解放』を取得しました》
《一般スキル『スキルリリース』を取得しました》
《一般スキル『幻影視』を取得しました》
《一般スキル『幻影離脱』を取得しました》
《一般スキル『幻影回帰』を取得しました》
《一般スキル『時相把握』を取得しました》
《カルマを計測しています》
《レベルアップボーナスにより500マナを入手しました》
お祭り、らしい。
なんか『復活祭』とか、そういう名前の。
一年に一度訪れる、記念の日。
街中の人間が酔っ払いになってもいい日。
そんなわけで、本日は開店早々満員御礼であり、それどころか客足は絶えることなく店の外にまで続々と溢れ出し、一瞬にしてこのようなカオスな状況が出来上がった。
店長はすぐさまカウンターを捨てて、場を取り仕切る司令塔の役割を買って出た。
自動的に俺が酒のオーダーを、カイトが突き出しや料理のオーダーを一任された。
その布陣が出来上がって、どのくらいの刻が経つのだろう。
忙しいんですけど!
超忙しいんですけどー!
3人だけでは明らかに手が足りてないぞ。
店長が巧みな話術を使って誘導してくれるから、オーダーが俺でも作れるカクテルやまだ材料が残っているカクテルに魔法のように吸い寄せられて、ギリギリ破綻せずに持ちこたえているが、時間の問題だろう。
このままではいつかは限界が訪れる。
「あ、やべ」
料理の載ったトレイを持って目の前を通り過ぎようとしたカイトが小さく叫んだ。
「ドシタン?」
「ミスった。ぜんぜん違うの作っちゃった」
カイトはそのままうーんと少し考え、
「ま、いっかー」
いや、いいのか?
「だってそんな細かいこと言ってられないだろ……うっ」
カイトは急に苦虫を噛み潰したような顔をして前屈みになった。
「……ドシタン?」
「……ごめんサンタ」
「ナニ?」
「もう限界……」
「エ?」
「あとは頼んだ!」
そう言い残すと、料理の載ったトレイを俺にポンと手渡し、トイレに駆け込んだ。
それから永久にトイレの住人になった。
ちょっと! 料理担当大臣!
おまえしかいないんだから!
ていうかこの料理どこに持ってくんだよおおおお!
※カイト:リタイア
それから俺が料理も担当するハメになった。
パカッと冷蔵庫を開けてみる。
すると……。
もうほとんど空っぽだった。
あれ、これもうオーダー入っても料理作れなくね?
そこへ店長がのれんを割ってぬっと顔を出した。
「ア テンチョ ショクザイガ……」
「ついに底を尽きたか」
店長は神妙な顔でうなずいた。
「オーダーはまだまだ入ってくるんだが……。仕方ない。サンタ、そっち持ってろ」
店長はとつぜん、くるっと俺に背を向けると、自分のシッポの先を俺に持たせた。
これは?
店長、いったい何を……。
「しっかり持ってろよ」
それから、振り上げた大きな出刃包丁で、シッポの根元をズバァッと切り落とした。
「ギヤアアアアアアアア!!」
「うるさいぞサンタ。おまえが叫んでどうするんだ。ああ、いってえなクソ……」
いや、叫ぶでしょ。
叫ぶでしょふつう!
目の前でとつぜん誰かが自分の身体を切断したりしたらさ!
ああ、思わず切断面を直視してしまった……。
俺グロ耐性ないって言ったよね店長!?
《条件を満たしました》
《職業スキル『グロ耐性』を習得しました》
いや、うるさいよSiriさん。
わざとやってんだろSiriさん。
ていうか、え、何やってんの店長?
なんでとつぜん自分のシッポを切り落としたの?
「よし、じゃあソレ調理して出せ。10人前、大至急だ!」
ワロタ。
※
まな板にのっかった、さっきまで店長だった一部。
とりあえず……切ろう。
うん……切ろう。
左手をタマゴの形にして。
……生温かいしね。
ビクン……ビクン……
まだ、動いてるしね……。
俺はやむなく店長のシッポを切り刻んだ。
ストッと包丁の刃を落とす。
《レベルアップしました》
《ハーフコボルトのレベルが6になりました》
《ステータスが更新されました》
《経験値を魂に還元しています》
《パラメータを再計算しています……生命+0 魔力+0 筋力+0 耐久+0 知性+1000 精神+0 機動+0 創造+0 交渉+0 魅力+0》
《条件を満たしました》
《一般スキル『砂塵耐性』を習得しました》
《一般スキル『放射線耐性』を習得しました》
《一般スキル『除染』を取得しました》
《一般スキル『砂塵除去』を取得しました》
《一般スキル『亜空切断』を取得しました》
《一般スキル『マナ切断』を取得しました》
《一般スキル『マナ譲渡』を取得しました》
《一般スキル『分子結合』を取得しました》
《職業スキル『ゴッドフィンガー』を取得しました》
《一般スキル『鑑定』を取得しました》
《一般スキル『鑑定マスク』を取得しました》
《一般スキル『鑑定マスク強制解除』を取得しました》
《職業スキル『錬金術』を取得しました》
《カルマを計測しています……》
《レベルアップボーナスにより540マナを入手しました》
いやいやいやいや。
え、どういうこと?
店長を討伐しちゃったってこと? 今のレベルアップ。
シュールすぎるわ。
そんなわけで、10個の小皿に小さく取り分けた店長を店長に手渡すと、ホールでは大歓声が上がった。
「オラー、おまえら、御馳走だ、食えーー!」
「ッシャアアアアアアア」
「オオオオオオオオ」
「ウオオオオオオオオオオ」
なんかめっちゃ盛り上がっていた。
俺は思わず自分のシッポを掴んでいた。ふるえる。
その後もひっきりなしに客が来て、店長のシッポはあっという間にお客たちの胃袋に収まってしまった。
てか、いつまで続くんすかこのお祭り騒ぎ状態。
カイトは相変わらずトイレに引きこもってるし。
ほとんどトイレの神様になりつつあるし。
今が何時なのか、時計見てないからよくわからないけど。
「ムッ!?」
とつぜん店長が空中を見つめたまま固まった。
どうしたの店長?
進化しちゃうの?
BBBBBB……
と思ったら何やら独り言を呟き始めた。
「……ああ。……ああ、わかったよ。すぐに用意する」
まるで誰かと電話でもしてるみたいな。
あ、ひょっとして本当に電話?
そういうスキルある?
店長は眉間を押さえつつ悪態をついた。
「クソ、あの鬼女め……! 好き放題言いやがる。まったく、酒はタダじゃないんだぞ……!」
店長はブツブツ言いながらも上の棚を開け、大きな酒のビンを取り出した。
見るからに高級そうなお酒。
それから俺に向かって言った。
「サンタ、これを隣の教会に持っていってくれ。裏口からな」
「ハイッス」




