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 16:女騎士と混浴した話

※混浴注意

※混浴注意

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 風呂に!

 入りたいと!

 思ってたんだ、ずっと!


 そんなこんなでやってきたのは中央広場だった。

 やや、ここは……。

 20万人規模のコンサートが開けそうなほど広くて、兵士や冒険者がうじゃうじゃいて、ワープとかある、まあ要するに魔境の入り口じゃないですか。できれば二度と近づきたくなかったが……こんなところに温泉があるの?


 あった。


 広場の隅っこに、テントとテントの間に隠されるようにして、その木造の建物は湯気を立てていた。

 中に入るとすぐさま脱衣場になっていた。

 番台もないし、男風呂・女風呂の区別もない。


 服を脱いで扉を開けると、そこには簡易的な洗い場と、簡易的な目隠しの柵だけが設けられた簡易的な露天風呂。決して広いわけではないが、5人ぐらい浸かれそうな大きさの湯船からもうもうと湯気が立ちこめていて、それは正真正銘、温泉だった。


 テンション上がる!

 なにしろ、これまでは店の裏の水道でこごえながら水浴びするくらいだったから。

 なんだよー、こんなんあるなら早く言ってほしいわ。


 どぼーん、とカイトが湯船に特攻した。

 まあ、さっきさんざん身体洗われたし、いっか別に。

 俺も真似して特攻する。

 ひゃっほう!

 どぼーん。


「ぷっはー。よっしゃー、あーがろっと」


 ソッコー上がるカイト。

 ええ、はっや!

 カラスの行水かおまえは。


「先行ってるぜー」


 まあいいさ。俺はもうちょっと楽しむぞ。懐かしいこの感覚を。

 はー……。

 あったまるうー。

 やっぱり温泉はいい。

 疲れも何もかも吹っ飛ぶ。

 それにしても、まるで日本の温泉を見てきたかのように作りがそっくりなのはなんなんだろうな……。

 そのとき、カラーン、カラーン……と遠くで綺麗な鐘の音が響いた。

 風情があるね、なんだか。


 そんな感じでしばらく余韻に浸ってたら、ふいに脱衣所のほうに人の気配がした。

 カイトか?

 ひょっとして湯冷めしたのか。

 そら、あんな一瞬しか浸からなかったらそうなるわな。


「おや?」


 そうして湯気の向こうから現れた人影は、カイトではなく銀髪の女騎士だった。


 ああ……。


 あわわわわ……


 どわあああああああ……!


 モロに、バッチリ、直視してしまった。

 ていうか、でっか!

 たわわさ、やっば!

 すごいな……あのプレートアーマーの下にまさかこんな……。

 いや、そういう場合じゃないな。

 俺死んだわ、たぶん。

 なにしろ、職場から逃げ出しただけで首を刎ねる人なんだよ?

 このセクハラが打ち首にならない理由がどこにも見当たらない。

「無礼者ッ!」

 直後、俺の首が宙を舞う……そんなビジョンが脳裏にクッキリ再生された。


 正座しよう。


 俺は覚悟を決めて、湯船の中で正座した。

 女騎士ははじめムッとした表情だったが、やがてフッと微笑んだ。

 ええと……それはいったいどういう笑顔なんでしょう?


「ふう……」


 そんでそのまま隣に浸かるという選択?

 ナニコレ超展開!


「いい湯加減だな、サンタ」


 はい、そうですねヴィスタさん。


「それにしても、初めて会ったよ、こんな命知らずには。まさか先ほどの5時の鐘が聞こえなかったわけではあるまい? 今は女湯の時間だぞ」


 すいません……知りませんでした。

 くそー……それを先に言えー……カイトぉぉ……!

 ああ、店長。短い間だったけど、お世話になりました。


「まずはじめに、解毒薬の礼を言っておこうか。おかげで我が軍が覇気を取り戻すことができた。素晴らしい効き目だ。今後ともよろしく頼むぞ」


 ていうかあの、実はさっきから、いっさい隠そうとしないおムネが視界いっぱいに広がったまま固定されて動かないんですけども。


「ふむ。どうもいまいち、貴様は自分がしたことの重大さを把握できていないように見えるな? 我が軍が覇気を取り戻した。それが、如何に立派なことなのか。私には、ただ教会で祈るくらいしかできなかったというのに」


 いえ、立派です。

 立派すぎます、ヴィスタさん。


「どこを見ている、サンタ、私の目を見ろ」


 ぐいっと顔を両手で掴まれ、持ち上げられる。

 ヴィスタさんと目が合う。


「例の話、ちょっとは考え直してくれたか? あんなうだつの上がらないドケチリザードマンのところにいつまでもいたって仕方ないぞ。私なら、比べものにならないくらいビップ待遇してやる。贅沢だってさせてやる。私は貴様が欲しい。貴様の力が欲しい」


 ヴィスタさんが俺の目を覗きこむ。

 吸いこまれそうな、青碧の目。

 もしかして、また使ってる? 例の覇眼。


「私の軍門にくだれ。わかったか? 返事はハイだ」

「アノ エット」


 おお、眼力が強くなった。

 うっすら光すら放ちはじめたぞ。

 どういう原理なんだ。

 コメカミには血管が浮き立ち、背後に禍々しいオーラが見える……


「サンタ……貴様は誰だ?」


 まるでスローモーションで再生したときみたいに聞こえる。


「アノ……テンチョウハ オンジン ナンデ」

「違う……違うだろう? サンタ、貴様は私の下僕だろう……?」

「エート」


「くっは! はあ、はあ、はあ……」


 ヴィスタさんは俺の頭から手を離すと、ぐったりと身体をうしろへ仰け反らせた。

 おっぱいが、ぽよよんとたわむ。


「言っておくが貴様、今のはベヒモスだって支配できるレベルなんだからな……!」


 ヴィスタさんが荒い呼吸を繰り返すたび、揺れる、揺れる。揺れてらっしゃる。


「くくく……しかし本当に効かんのだな。久々に最大近くまで使ったぞ。まさか私が根負けするとは……」


 ヴィスタさんは妖艶に笑いながら、こちらに向け手を伸ばした。

 そっと、下瞼に触れられる。


「と同時に、それは私にとっての恐怖でもある。なぜ貴様には私の奥義が通用しないのか? その原因を解明するまで、貴様を野放しにするわけにはいかん。わかるな?」


 それから、くるっとうしろを向かされる。

 そして、うしろからぎゅっと抱きすくめられる。


 なんとぉーーーーーーー

 じかぁーーーーーーーーー

 背中に直ぁーーーーーーー


 やっぱりこの世界の住人は身体接触のハードルが低い……って、もはやそういう次元の話じゃない。

 フランクっていうレベルじゃねえぞ!


「どうすれば私の軍に入ってくれるんだ? サンタ」


 え? ちょちょ、どこ触ろうとしてるんですかヴィスタさん!

 あああ……


「んん? なんだ、貴様は私の身体などで欲情するのか?」


 そらそうですよ!


「私を女として見ているのか? ふふ……だが残念だったな。私は何もかも捨ててしまった。女であることも、な。それと引き替えにこうして絶大な力を手に入れたのだ。……それにしても、私は貴様を人として純粋に尊敬しているというのに。コレははなはだ不遜なことだな」


 大変申し訳ない。


「まあいいさ。どれひとつ、私の話でもしよう。プレゼンテーションというヤツだ。貴様に少しでも興味を持ってもらうために、私たちの仕事を紹介しようと思う」


 ヴィスタさんは俺の背中に指で文字を書いていく。


「まず、大きな□を書く。その中に、いっぱいに×を書く。すると、4つのブロックに分かれるだろう? 北が魔族領、西が人族領、南がエルフ領、東が未知の平原。そして×の中心が人類最前線『クランマケットー』、この街だ。我々帝国軍はこの場所で、魔族領から侵攻してくるモンスターどもを食い止める仕事をしている」


 ああ、なるほど。

 魔王のほうから、じゃんじゃん刺客を送ってきてるのか。

 あのワイバーンとか、そうだったわけね。

 アグレッシブな魔王ですな。


「だが実を言うとな、魔王はすでに倒されたんだ。3年前、先代の勇者の手によって」


 えっ、そうなの?

 じゃあ、平和な世界なの?

 しかし、ヴィスタさんはゆっくりと首を横に振った。


「正確に言うと……魔王は倒されたが、完璧ではなかった。

 詰めが甘かったのだ。

 本来なら、魔王が倒されれば、魔族の力はどんどん弱まっていき、そのうち絶滅する。だが、そうはならなかった。魔族の力は弱まらないどころか、ますます勢いを増しているふうですらある。

 そこである日、世界最高峰の宮廷魔術師たちによって調査が行われた。

 その結果、魔王は、魔王城の玉座の上で、本当にごくわずかの魔力でもって、ギリギリ生き存えていることが判明した。

 それは、白い繭のような形をしていることから、『魔王の繭』と名付けられた。

 驚愕の事実はまたたく間に世界中に広がった。

 皇帝はすぐさま全人類へ向け、お触れを出した。

 『魔王の繭』にとどめを刺した者に【勇者】の称号を与える、とな」


 背中のうしろから聞こえてくるヴィスタさんの声の調子は、どこか静かで、どこか諦めたような優しい声色だった。


「このまま放置すれば、やがて魔王は魔力を回復し、復活を遂げてしまう。

 そうなる前に、なんとしても我々人類は再び魔王城を攻略し、玉座の間に辿り着き、『魔王の繭』を破壊しなければならない。

 以前と比べれば、難易度は格段に下がっている。

 なにしろ、ラストバトルという最大の難所はなくなっており、ラスボスは一撃で倒せる。剣でも爆弾でも素手でもなんでも、とにかく繭を潰すだけでいいのだ。それができた者が次代の【勇者】となり、伝説として語り継がれることになる……。

 そんなわけで、今や世界中から腕に覚えのある冒険者たちが我先にとクランマケットーに集結し、魔王城に挑み続けているんだ」


 そっか。なるほどな。

 この世界は今、そんな状況だったのか。

 ただ……なんでだろう。

 今の話、なんか、おかしい?

 どこかに……違和感がある?


「魔王の復活が先か、人類による復活阻止が先か。

 絶望の未来か、希望の未来か。

 まさに今、正念場なのだ。

 我々帝国軍の使命はそんな冒険者たちを力のかぎりバックアップし、支援し、しんがりを守り抜くことである。新たな【勇者】が誕生する、そのときまで、な。

 そしてそれは同時に、今度こそ世界がひとつになることを意味する。我々の文明は、新たな領域へ踏み出していくことができるだろう。……私はそんな世界を、見てみたいんだ」


 そこで再び、二つの柔らかいものが背中に押し当てられた。


「是非前向きに検討してほしい。そして返事をくれ。別に軍に入れと言っても、戦場へは連れていかんさ。貴様に死んでもらっては困るからな」


 できることなら、力になりたい。

 だがしかし、今はまだ、自分に何ができるのかすらわかっていない状況なのだ。

 だから、もう少し待ってほしい……

 なんて思ってたら、

 ん?

 よく見ると、いつの間にか湯面に小さな波紋ができていた。


 ああ……これは……。


 いやいや、

 ちょっと待って、

 ヴィスタさん、

 それ以上いけない


 アッーーーーー!



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