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 14:エルフさんが本性を現した話

「イズー! こめとやさいくれー!」


 カイトが店のドアを勢いよく開け放った。


 商店街からだいぶ離れた静かな裏通りの一画に、イズさんの店はあった。

 外見はほとんど民家なのだが、「ユグドラシル」という看板が出ているから、店だとわかる。


「イズー! いねーのかなー? 最近あんまりいねーんだよなー」


 ぐるりと店の中を見回す。

 大小様々な鉢に植えられた観葉植物が、入り口脇や窓際、壁、さらには吹き抜けの天井から吊るされていたりと、とにかく植物だらけ。

 部屋の真ん中には壜に入ったハーブやアロマチックな小物が並んで売られている。

 奥には、ちょっとしたカフェスペースもあったりして、なんというか、オシャレな感じだ。

 ただ、肝心の店主の姿はどこにも見当たらない。


「いねーなー。温室のほうかなー」


 二人で店の裏に回ってみる。

 建物と建物の間の狭い路地を抜けると、中庭みたいな空間が広がっていて、そこに巨大なドーム型のビニールハウスが鎮座していた。


「イズー! いるかー?」


 中に入ると、むっとするほど暖かかった。

 もうね、植物たちの楽園。生い茂り放題。

 見上げると、天井付近にまで巨大なツルが透明な壁にのたくっている。


 イズさんは、いた。

 ちょうどドームの中央付近に生えた大きな木のそばに。

 木をそっと抱きしめるように、身体をくっつけて腕を伸ばしている。

 何をしてるんだろう?


 と、イズさんの腕が、ズブズブと木の幹の中に沈みこんでいった。

 目の錯覚か?

 いや違う。

 イズさんの腕が完全に木の中に消えた。

 頬も、こころなしかゆっくりとめり込んでいくように見える。

 瞬間、イズさんの白い肌がざあっと緑色に染まり、葉っぱのような模様が一斉に浮かび上がった。顔も、首も、二の腕も緑、その中で目だけが、金色に輝いている。

 周囲の植物たちもうぞうぞ動いて、イズさんに集まっていく。あっという間にイズさんの全身を飲み込んでいく。

 絶句。

 絶句して見守るしかできない。

 神秘的な光景。

 キモ怖い光景。

 いったい……何が……始まる?


「大丈夫。安心して、黄泉にお帰り……」

「……そんなに慌てないで。焦ったっていいことないのよ。まだ寒い日もあるんだから、ね。霜に当たって死んでも知りませんからね……」

「そう、今年はあなたたちがシードの覇権を握るの。よろしくお願いね……」

「……そんなにバキラが心配? でも心配しないで、彼は立派に使命をまっとうしたわ。それで、ちゃんとあなたの養分になったのよ……」

「うん、でもね、それは冬の間にちゃんと準備しておかなかったあなたが悪いの。繁殖したいのは皆一緒。強く生きて。禁忌に手を出しちゃ駄目よ……」

「じゃあ滅ぶ? ……ね? わがまま言わないで。今みんな一生懸命な時期なんだから」

「……あら?」


 ブツブツと、植物と会話(?)していたイズさんが、こちらに気づいた。

 とたん、集まっていた植物たちがシュルシュルと一斉に引いて、イズさんから“抜けていった”。

 最後に木から身を起こすと、完全に元のイズさんに戻った。

 ニコッと微笑む。

 相変わらず、現実離れした造形美のエルフさん。

 園芸には不向きそうなエプロンドレスにヘッドドレス。

 ミルク色のぱっつんショートから尖った耳がピンと突き出ている。


「おー、イズー、こめとやさいくれー」

「あらあら、カイトくんいらっしゃ……、!!」


 突然イズさんは「私の年収低すぎ」みたいな顔をして手で口もとを覆った。


「そんな……なんてこと……!」


 くらくらっとよろけて木にもたれかかる。

 え、どうしたの、大丈夫?


「増えてる……! なにこれ、モフモフが……モフモフが2倍に増量してるっ……!」


 ん?


「しかもなんでまた、よりによってペアルックで……どんだけ仲良しなの……! んっぷぷぷ……」


 それから急に素に戻った。

 ニコッと微笑む。


「いらっしゃい。カイトくん、サンタくん」


 いやいや今、明らかにおかしかったけど。

 なかったことになっちゃうの?


「お米とお野菜ね。ちょうど今日実家で収穫したのがあるから。たくさん持っていってね」

「おー! もらってくぜー」

「あとで……ね」


 ガシャン、と背後で派手な音がした。

 振り向くと、いつの間にかドームの入り口が閉じていて、植物のツルがのたくっている。

 まるでその場所を守るみたいに。

 なぜ退路を断ったんですか!?

 だが、気づいたときにはすでに遅かった。

 ふと、前につんのめりそうになって、足元を見ると、雑草が足首に絡みついて、ガッチリ固定されていた。

 どう頑張っても動かせない。

 なんだこれ、いつの間に?

 見ると、カイトもやはり同じように動きを封じられている。


「さて、と……。あ、一応言っておくけれど、このドームには特殊な結界が張ってあるから、いくら大声で泣いても叫んでも誰も来ないし、私のテリトリーからは絶対に逃げられないから、大人しく諦めてね。抵抗しないでね……無駄だから」


 イズさんの背後で、植物たちがざわざわと蠢いた。

 まるでイズさんの意志で操られているかのような……。


「あなたたちが……悪いんですからね……そんなになるまで放っておくから……だから……もう、ガマンできない……」


 隣のカイトが、蒼い顔でガタガタ震えている。

 何そのリアクション。

 え、何コレ、ガチのやつ?

 ドーム中の植物たちがシュルシュル動いて、全員こちらを“見ている”。

 まさか、俺たち“養分”にされちまうってのか……!?


「なにするの? イズ……や、やめて……」

「やめないよ、だって、約束を破ったのは、あなたのほうなんだから……」

「イズ……イズウウウーーーッ!」


 牙を剥いてカイトが吠えた。


「あらあら。おちゃめなオオカミさんだこと。でもいくら吠えてもダメ、許してあげない」


 植物たちがゆっくりとこちらに向かってくる。

 逃げ場はない。

 武器もない。

 為す術がない。

 やられる――


「覚悟、決めてね……?」


「うぎゃあああああああ……!」


カイトの断末魔がドーム内に響きわたった。



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