13:ここがどんな街なのか判明した話
マドンナさんの店を出て、それから、なぜかペアルックになってしまったカイトと商店街をぐるっと一周するあいだに、1万円は跡形もなく消え去っていた。
代わりに、こまごましたアイテムでポケットがずっしり重くなっている。
なんかちっちゃい望遠鏡みたいなのがポケットからはみ出ている。
無駄遣いした感はぬぐえない。
ごめんね店長。
いやー充実したわー。
ふと、前を歩いていたカイトが振り返る。
「どーだった? 外に出てみて」
ん? そうだな。
わりと楽しかったよ。
「どこにも危険なんてなかっただろ? みんないーヤツだっただろ?」
たしかに。うん。
大丈夫だったな。
「この服はな、こう見えてちゃんと防御力のあるいい服だからな! 万が一モンスターに襲われてもへっちゃらだからな!」
俺の肩をポンポン叩いて、がはは、と笑う。
「どーだ、まだ外は怖いか?」
ああ、ひょっとして。
道行く人びとに声をかけまくってたのも。
まず真っ先に服を買いにいったのも。
俺のため、か。
俺を安心させるために。
この街は安全だよと伝えるために。
なんだ。
カイト、いいヤツだな。
「アリガトッス」
「おうよ!」
まあ、あとは女を部屋に連れこむのをやめてくれれば……。うん、まあでも、いっか別に。
そこでふと俺は当初の目的を思いだした。
そうだ、たしかめなければならないことがある。
今までずっと避けていたんだけれど。
腹を決めるか。
5W1Hだ。
順番に聞いていこう。
「カイトサン」
「サン、はいらねーぞサンタ。なんだ?」
「エエト イマハ イツッスカ?」
「んーと、桜花暦92年だ!」
「ココハ ドコッスカ?」
「『クランマケットー』だ!」
「オレハ ダレッスカ?」
「オレとおんなじハーフコボルトだろ?」
「ナニヲ……ッテ ナンダロウ?」
「なんだろうなー?」
「カイトハ ナゼ ココニイルッスカ?」
「この街で産まれたからさ!」
なるほど。
いや待て。なんか主旨がズレた気がする。
クランマケットー?
そう、それが一番聞きたかったことだ。
「クランマケットー ッテ ドコッスカ?」
「そうだな。じゃー地図見るか?」
「ハイッス」
「よし、案内してやるぞ! こっちこっち!」
※
今日一日この街を歩いて、ずっと気になってたことがある。
広すぎじゃない? っていう。
施設が充実しすぎじゃない?
売ってるアイテムの種類が豊富すぎない?
ホラ、俺にとってはここがいわば「始まりの町」なわけだけど、それってもっとのどかな雰囲気であってしかるべきじゃない?
牛が普通に放し飼いにされてる、みたいな。
武器防具屋が一軒しかない、みたいな。
売ってるのも「ひのきのぼう」と「ぬののふく」だけ、みたいな。
そこから始まって、冒険を進めていくうちに、だんだん店に売ってるアイテムが増えていって、町の規模もデカくなっていく、っていう、そういうのがセオリーだと思うんだよね。
しょっぱなからこんな大風呂敷広げちゃうとすぐにネタ切れ起こしてあとあと困ると思うんだけど。
「これがこの街の地図だぞ!」
で、カイトに連れてきてもらった噴水広場。
そこにででんと2枚の案内板が突っ立っている。
1枚が、クランマケットーの内部の地図。
街は円形で記されている。
円の内部が赤や青や緑で細かく色分けされている。
「ここは第三商業区だぞ! 南の端っこ!」
カイトが指さしたのは、円の下のほうの、ごくごく一部の区画。
え、ウソでしょ、これだけ!?
今まで見てきたのって、こんなちょっとなの!?
いったいどういう……。
想像をはるかに上回るデカさなんだけど……。
ふと隣の案内板に目をやると、それはクランマケットーの外部の地図。
いわく、
====================
↑魔境 魔王城
←コンキタ街道 至シャルナットー
↓エルフの大森林
→未知の平原|(立入禁止)
====================
んん!!
いやいや。
んん??
↑魔王城
って??
……いやなんか、まるで観光地みたいなノリでサラッと書いてあるけど、それって矢印の先に絶対あっちゃダメなヤツだよね?
観光地としては一番最低なヤツだよね?
どういうことなの……。
現実を受け入れたくなかった俺は一応抵抗を試みた。
「カイト」
「おう」
「キイテモ イイスカ?」
「おう、なんだ?」
「マオウジョウ ッテ ナンスカ?」
「魔王がいる城だぞ!」
「マオウ ッテ ナンスカ」
「世界最強の悪いヤツだ!」
「ドコニ イルッスカ……」
「ホラ、あっこに山が見えるだろ、その向こうが魔王城だ! この街はなー、『人類最後の砦』って言われてるんだぞー!」
俺は膝から崩れ落ちた。
エマージェンシー! エマージェンシー!
最初の町どころか最後の街!
最初の町どころか最後の街! なのに、レベル1! レベル1ー!
「がはははー、どーしたんだサンタ。おもしれーヤツだなー」
カイトはしゃがんで、ポンポンと俺の肩を叩く。
「大丈夫だって。なんも怖いことないぞ。平気だろ?」
ちっとも平気じゃねええええええええ!
よおおおおおお……
「がっはっは、でもサンタ、シッポ動いてるぞ! 喜んでるのか悲しんでるのか、どっちだー?」
何がぁー?
ああもう、涙出てきた。
なんでよりによってラスダン手前の街から開始したんだよ俺の冒険……。
どうしろってんだ……。
そら、そらヴィスタさんだって驚くわ。
レベル1のヤツがいるはずないもの。
「なんだサンタ、魔王に挑戦したいのか?」
ぶんぶん首を振る。
おまえは何を言ってるんだ?
「今はなー、魔境の途中までワープで行けるんだぞ! そっから先は歩きだけどな!」
歩きって、だから、ハイキングコースじゃないんだから。
って、ワープ?
なんかそれ、どっかで聞いたおぼえが……。
あっ!!
ひょっとして、こないだ兵士たちに強制連行されて、魔法陣に乗ってって、無数に飛び交うワイバーンにソッコーで殺されかけたとこ、
あっこ、魔境だったってこと!?
あの先に魔王城があったってこと??
あわわわ……。
今度はめっちゃ汗出てきた。
レベル1のザコをそんなとこに連れていくなや……。よく生きて帰ってきたな俺……。
「あっ、そーだ忘れてた! イズんとこ行くぞ、サンタ!」




