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 12:カイトとお使いに行った話

 そんなある日のこと。


 ……朝か。

 今日も窓から射し込みまくる直射日光にムリヤリ叩き起こされた。カーテン欲しいな。

 おはようございまーす……あーよく寝……られなかった。


 ふと隣を見る。


 おいカイト。

 うさ美の耳、出てる。


 カイトの布団の下から、二本の白い耳がはみ出して気持ちよさそうに寝息を立てている。

 もうなんていうか、「昨日はお楽しみでしたね^^」の距離が近すぎるよね、いくらなんでも。

 ちょっとはこっちの身にもなってほしいわ。

 いっそカイトの言うとおり、そのまま一緒に混じっちゃえば……

 って、イカンイカン。

 考えを頭の中から振り払う。


 ところで君たち、本当に合意の上だよね?

 オオカミとウサギって、まんま捕食者と被捕食者じゃん。

 その布団の下、実はスプラッタなことになってないよね……?



 ※



 下に降りていくと、店長がカウンターに座っていた。


「テンチョ ハザマス」

「おう、おはようサンタ」


 まあ、と言っても思いっきり昼なんだけどね。

 厨房から店の裏に出て、そこの水道で顔を洗う。水道、と言っても元の世界みたいに水管が地下に張り巡らされているわけではなく、「水魔法が込められた魔道具」によって水が出る。こっちの世界のものはなんだってそうだ。冷蔵庫もコンロも換気扇もあるけど、ぜんぶ魔法で動く。


 厨房に戻ると「サンタ、ちょっと来い」と呼ばれたのでカウンターへ。

 この時間帯に店長がいるのってわりと珍しい。

 店長にはちゃんと家族がいるので、朝の4時に仕事が終わるとまっすぐ自分の家に帰って寝ているのだ。日中はパパとして家族と過ごし、夕方になると何かしらの食材を持って店にやって来る。

 店長の手元を見てみると、右手にはコインカウンター、左手にはビールグラス。

 どうやらお金の計算をしていたようだ。


「ホレ、サンタ」


 突然店長にポンと金を手渡された。

 ナニコレ。手切れ金?

 別の有能なバーテンダー雇ったから、明日からもう来なくていいよ?

 そういう夢何度か見たけど、ついに現実になった?


「小遣いだ。それで街行って、なんか好きなもん買ってこい」


 店長は真っ白な歯を見せて笑った。

 あーなんだ……それを先に言ってよ店長もリザードマンが悪いな。

 小遣いか。

 そういうのもあるのか。

 これが異世界の通貨。カラフルだな。

 なんだかんだ初めて手にしたなあ。

 でもね店長。俺あんまり外に出たくないんだよね。

 できれば引きこもってたいんだけど。


「その2000トエルはカイトの分と二人合わせてだからな。ちゃんと平等に分けろよ。そうだついでに、カイトに街案内してもらえ。それがいい」


 あ、なるほど。

 そっか。うーん。

 カイトと一緒なら、安全か?

 たしかに、この街の情報をもっと手に入れたい、というのはあるのだ。もしかしたら、またとないチャンスかもしれない。


「それからな、帰りにイズのとこ寄って、米と野菜をもらってきてくれ」


 イズ……? ああ、あのハーブ持ってきてくれるエルフさん。

 ていうか、コメ!

 ついに待望の!


「寄り道はいくらでもしていいぞ! その代わり、店が始まるまでには帰ってきてくれよな」

「ウィス。リョカイッス」


 わかったよ店長。ありがとう。

 行って……くる。

 外に……出てみる。

 あの……それからね店長、あまりに自然な仕草だったんでうっかりスルーしてたけど、昼間っからビールってのは、やっぱりあの、ちょっとダメなリザードマンだと思うっていうか、身体に気をつけてね。



 ※



「あぁふ……ふえぁえあぁあ~」


 そんなこんなで、まだ眠そうなカイトの影に隠れて、外に出てみた。

 外に出るのはこれで三度目か。

 初日、宿のところまで行ったの。

 次の日、女騎士に拉致られたの。

 それ以降出てないな。

 春めいた陽気。

 こっちの季節も春なんだろうか。

 どこかに危険はないか。

 一見、安全そうに見える、人通りがまばらな真っ昼間の繁華街だが、油断はできない。ここは現代のジャパンではないのだ。そこの角からいつ盗賊が飛び出してきたっておかしくはない。


「そんなビビんなくても大丈夫だってー……あふぁ」


 これがビビらずにいられるか。

 初日からいきなり拉致り殺されかけたんだぞ。

 でも黙ってカイトのうしろにぴったりついていく。カイトのモフモフシッポをぎゅっと掴みながら。いざとなったら盾になってもらおう。


「がっはっは、ホントにビビりだなーサンタは。大丈夫だって。この街のみんな、いーヤツなんだぞ! 心配いらない。だからシッポはなせ、な?」


 だが断る。

 首を横に振る。


「にしし」


 カイトは立ち止まると不敵なキバを見せた。

 と、その瞬間、パッとカイトの姿がブレた。

 高速で移動したのだ。早っ!

 だが目で追える。

 正確には「においが見える」。


 それからしばらく二人でお互いのシッポを追いかけてぐるぐる回った。


「きゃっきゃっきゃっきゃ」


 ちょ、遊ぶな。

 こちとら真剣なんだ。


「わかったわかった。しゃーないなー。じゃーオレのあとをついてきな!」


 首を縦に振る。

 頼もしっす先輩!

 一生ついていきやす!



 ※



 この街はしっかりと区画整備がなされているようで、表街道はまっすぐ一直線だ。ところどころで直交する道筋も、見渡すかぎり遥か向こうまで続いている。なんだか京都みたい。とはいえ、もちろん自動車とかは走ってなくて、主な交通手段は馬車らしく、乗り物を引く馬やトカゲみたいな生き物が左右を行き交っている。

 そんなふうに街並みを眺めて歩いていると、背の高い建物が途切れて、一瞬視界が抜けたとき向こうのほうに見えたのは、街を取り囲む壁のようなものだった。ゆるーく孤を描きながら、霞む空に混じっていく。察するに、相当高い壁。ウソでしょ、外に巨人がいたりしないよね?


「やーやーミョニルのダンナー、盃は傾いてるかー?」

「よーご主人、いーいネクタイつけてるねー! サイコーだね! 似合ってるよー」

「今日オフ? 明日ヒマ? また飲み来てよー」

「あっ、ヒーちゃんおーひーさー! 元気してたー? ねーねーあれからどうなったの? また詳しく話聞かせてよー」


 いっぽうカイトはと言えば、道ゆく人とすれ違うたびに挨拶を交わしていた。

 街の全員と知り合いなのか? と思うほどのフランクさだ。

 というか、お客?

 だとすれば、これほど接客業に適したキャラもいないだろうな。

 カイトこそ、バーテンダーは天職なんじゃないかって気がする。


「サンター、こっちこっち」


 ぼーっと突っ立ってそんな様を眺めていると、服を引っ張られた。カイトが指差すほうを見ると、突然賑やかな商店街がひらけていた。

 思わず溜め息。

 武器屋、防具屋が普通に店を構えている。

 オー、イッツ、シュール……。

 武器屋って……アキバでしか見たことないよ。

 それだけではなく、質屋、マジックアイテム屋、鍛冶屋、合成屋、酒屋。そんなのが立ち並んでいる。

 加えて、露店商が隙間を見つけては道路の上に商品を広げているため、かなりのごちゃっぷり。

 世界中のアイテムがこの界隈に詰めこまれてるんじゃないかと思うくらい。

 まさに宝の山。

 ワクワクせずにはいられないッ……!


「ここがこの街でいちばんおっきな商店街なんだぜ! 世界中からアイテムが集まってくるから、手に入らないものはないんだぜ!」


 そーなの。てかね、こんなに選択肢が溢れ返っていたら、何を買うかなんてちょっとやそっとでは決められそうにないんですけど。ええと、そもそもまず何が要るんだろうか。時計? 世界地図? あ、武器とか?

 カイトはどうするつもりなんだろ。


「アノ カイトハ ナニ カウッスカ?」

「オレはなー、服買う! サンタも服買え! いっつもおんなじ格好だし、それじゃちょっとな!」


 へえ、服か。

 なるほど、いいチョイスかもしれん。

 たしかにカイトの言うように、服は元の世界から着てきたユニク○のパーカーとジーンズ、この一着しか持ってない。あとは店で着る制服だけ。だから正直、今もよそ者感丸出しなのだ。なるべく悪目立ちしないよう、この街の雰囲気に違和感なく溶け込む、という意味でも、服は必要かもしれない。


「ごきげんよー!」


 人混みを掻き分けつつ、どうにか辿り着いた先。

 とつぜんカイトが元気よく扉を開け放った。

 看板を見ると、表記は「服屋」ではなく、やっぱり「防具屋」なのな。オシャレに着こなしたマネキンの隣にピッカピカの鎧兜が飾ってあるあたりに、隠しきれない異世界臭が漂っている。


「いらっしゃ……あ、カイトくん」


 店の中にいたのは、気の弱そうなキツネ耳の子。


「メーコ、ママは?」

「いるよ。裏でテレパしてる。呼んでこよっか?」

「いーのいーの! 急いでないから! それより店の中見ててもいーか?」

「うん……どうぞ」


 ふと見ると、キツネ耳の子はもじもじしながら意味ありげな熱視線をこちらに送り続けている。

 ん? もしかして俺に気が?

 と思ったら、カイトがこれまた意味ありげに微笑んで手を振った。

 ああ……。

 いや、あのさ、カイト。

 どんだけ女の子に手ぇ出してるんですか?

 ふしだらなオオカミですね。

 うさ美に言いつけるぞ。


 っと、そうだ、それより値段とか相場を知りたい。

 ざっと値札を流し見して、手持ちの1000トエルより高いか安いか比べてみる。

 ふむ。

 薄手のシャツやベスト、インナーっぽい素材のものなら1000トエルで余裕で買える。

 ちょっとアウターっぽいもの、またはローブやマントみたいなものは、ギリギリ1000トエルを越えるか越えないか。

 革のジャケットや鎧になると、1000トエルなんてゆうに越える。

 と、いうことは?

 うーん。元の世界にムリヤリ当て嵌めて考えてみると……

 1トエル=だいたい10円くらい、かも?

 つまり、店長がくれた小遣い1000トエル=1万円。

 おー、なるほど。

 妥当っちゃ妥当だし、太っ腹っちゃ太っ腹な額。


 そのときふと、地響きのような音が聞こえた気がした。

 ……気のせいか?

 いや、やっぱり聞こえる。

 なんだこれ?

 何か、危険が……?

 え、こんな店の中で?

 振り返る。

 刹那、俺の視界には、こちらに向かって猛スピードで突進してくるマツ○デラックスが映っていた。


「サンタくン……ッ!」


 いやー、なんも反応できなかった。

 思わず固まってしまった。

 マジのモンスターとかだったらやられてたな。

 バックステップで飛び退くべきだったか。

 為す術もなく、そのまま抱きしめられた。

 肉という肉に圧迫され、喉の奥から「きゅうぅ」という自分でも聞いたことのない音が出た。


「ずっと……ずっとお礼が言いたかったのン……! あの人の命を救ってくれて、本当に本当に、ありがとう……!」


 ガバッと引き剥がされ、数秒、見つめ合う。で、またガバッ。いっさい身動きが取れないし、オオカミの嗅覚で香水のにおいが万華鏡状態なんだが。

 ああ思いだした。この人、野営地で俺に鎧を着せてくれた人だ。そして、毒に冒されたグスタフ隊長のために泣いてた人だ。たしか、マドンナさん。


「がははー! よかったなーママ! ずっとサンタに会いたがってたもんな!」

「そうよ、ホントに、ホントにもう、アナタってば天才ねン。だってみんなもう諦めてたんだからン。運悪く毒を浴びたらそこで終わりって。あのヴィスタ軍団長でさえ、あとはもう祈るくらいしかない、って……。それが今や、どう!? アナタの解毒薬ったら、その効き目は100パーセント! アタシたちにはもう、怖いものがなくなったわン。おかげでみんな勇気を取り戻せたの」

「グェ オレハ ソンナ……」

「いいの。何も言わないで。謙遜なんてしないで。その偉大な才能を、あの人やアタシたちのために使ってくれたこと、心から感謝するわン」


 そのマドンナさんの言葉を聞いて、ふとどういうわけか、心にズキン、と痛みが走った。

 なんだ?

 なんでだろう。


「さて、今日は服を選びに来たんでしょう? 実はアナタたちのために、特別なプレゼントを用意してるのン。メーコ、お願いできるかしらん?」

「えーいいのか? ママ、オレそんなつもりで来たんじゃねーぞー?」

「そんなこと言わないで。アタシからのお礼ってこと。ねっ、お願い。受け取って頂戴」


 やがてキツネ耳の子が両手に一着ずつ持ってきたのは、大きなボタンのついた、紺色のジャケットっぽい服と明るい色味のパンツ。一見ごく普通のオシャレそうな服だが、よく見るとちゃんとシッポを通せるように穴が開いている。


「これから徐々にあったかくなるからねン。春らしい素材と、しっかりした防御力を兼ね備えたつくりに仕立ててみたわン。きっと似合うわよン。じゃ、失礼するわねン」


 マドンナさんの手が触れたとたん、服がスポーンと脱げた。

 スポーンて。

 え、そんな脱げ方ある? 昔のマンガじゃないんだから。服どうなったんだよ今の一瞬。

 なんて思ってたら、間髪入れずに今度はポスッと着せられた。

 だからポスッて。

 うーん。

 イッツ ア マジック。

 あ、ひょっとして、服を着せたり脱がしたりするスキルがあるのだろうか?

 この世界だと、ありえるよな。

 ちょっと欲しいかも、そのスキル。


 マドンナさんは満足げに微笑んで、言った。


「うふふ、あらやだ、見違えたわねン。よーくお似合いよン」


 やったー!『マドンナの服』をてにいれたぞ!



【防具】『マドンナのふく』:耐久+13 魅力+7/見た目以上に軽いため敏捷性を損ねない。にもかかわらず、防御力は充分。何より春をイメージし、爽やかさに気を遣っているのがポイント。服職人マドンナオリジナル。


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