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△1:店長視点

(◆店長視点)


 いやー、焦った焦った。

 久しぶりにキモが冷えた。

 開始早々、いきなりヴィスタにやられるところだった。

 サンタか、サンタの命か、どちらかを奪われるところだった。

 バーテン募集の貼り紙を出して約半月。

 ようやく訪ねてくれた心優しいファミリーを、わずか1日で失うところだった。

 あの小娘なら本当にやりかねないし、覇眼はそれを可能にする。

 危ないところだった。


 だがしかし。

 あのなんでも手に入れたがりの強突張りが、たった一度きりで引きさがるとは到底思えない。

 現に最後っぺでサンタと薬酒の取引契約を交わしていきやがった。

 あのヤロウ、オレ相手にはポーション一本だって取引してくれなかったのに……。

 それはともかく、今後もあの手この手でサンタの奪還を企ててくるにちがいない。

 ある意味、この街で最も厄介な存在に目を付けられてしまった……。

 こちらも、ようく目を光らせておかなければな。



 そんな感じで数日は無事に過ぎた。


 サンタが教会で寝泊まりしていたのは最初の1日だけで、それ以降はちゃんと店の屋根裏で、カイトと一緒に寝泊まりしているようだ。メシもちゃんと3人で一緒に食べている。

 なぜか目の下に大きなクマができているが。

 ……それを言い出すと、なぜ教会で寝ていたのか、どうしてスキルパッケージが未開封のままだったのか、なぜ解毒薬を調合できたのか、いろいろと気になるところはある。あるが、まあ、詮索はすまいと決めた。なにしろこの街には、さまざまな理由を持った者が流れ着くのだから。

 サンタのほうから悩みを打ち明けてきたら、そのとき相談に乗ってやればいい。

 おそらくは、過去に何かよっぽど酷い目にでも遭ったのだろう、

 見知らぬ人に対し、過剰に怯えた反応を見せるのだ。

 とくに集団で客がドッと入ってきたときなんかは、カウンターの隅っこに引っこんでビクビクしている。

 盗賊にでも襲われたのだろうか?

 たぶんそんな感じだろうな。


 人に怯える、といっても、オレやカイトにはしばらくすると慣れてくれたみたいで、少しずつサンタのほうからも話しかけてくるようになった。

 おもに、酒のことを尋ねてくる。

 酒が好きみたいだ。

 最近はよく、例のレシピ本を、ヒマがあればこそこそ眺めては、何事かを自前の紙束に書き写している。

 あれはかつてツレだった錬金術師の形見で、当の本人も何が書いてあるか読めないと言っていたから、間違いなく世界中の誰にも読めないはずで、もちろんサンタにだって読めないはずだが、眺めるだけでも楽しいのか、それとも、なんとなくわかったりするのか。

 なにしろ『天職:バーテンダー』だからな。

 なかなか天職通りの職に就くのが難しいこのご時世で、見事な『天職一致』だからな。

 そういえばこのあいだの頭痛薬にしろ解毒薬にしろ、あの本を見ながら作ってたな……。

 やはり何かしらインスピレーションを得られるのかもしれん。

 頼もしいかぎりだ。

 だからなんというか、別にそんな、こそこそ眺めなくてもいいんだがな。堂々と見てくれていいんだが。

 形見なんて言ったから、気を遣わせてしまったか。



 ※



 仕事の仕方は、開店前や、客のいない時間帯なんかを使って、少しずつ二人にレクチャーしている。

 今日は眠気覚まし薬酒『レスピル』の作り方だ。


「本当はな、シェイカーの練習には米を使うんだ」

「米ぇ?」


 カイトが首を傾げる。サンタはふんふんうなずいている。


「そうだ。少なくともオレはそうやって練習した。まあ、実際に氷で練習してもいいんだが、それだとすぐに指が冷たくなっちまうだろ。そもそも氷がもったいないしな。米だとずっとなくならない」

「へえー! 初めて知ったー!」


 いやいやカイト、おまえにはずいぶん前にこの話はしたはずだぞ。


「テンチョ コメ アルッスカ?」


 ふいにサンタが口を開く。ん、米? そこに反応するのか?


「コノ セカイニ コメ アルッスカ??」


 なんだか嬉しそうに聞いてくる。パタパタシッポが揺れている。米好きなのか? サンタの故郷にはなかったのだろうか。


「ああ、あるぞ。この街だと西のコンキタ街道のほうで作ってる。なんだサンタ、米好きか?」


 こくこくうなずく。こころなしか目がキラキラしている。ほとんど毛に隠れて見えないが。


「そうか。そういえば最近は米の料理を作っていなかったな……。よし、じゃあ今度作っちゃる。チャーハン作っちゃる」


 おっと、いつの間にか話が逸れてしまった。『レスピル』の作り方を説明してる途中だったな。


「とにかく、この酒はシェイカーの振り方がキモだから、2人とも時間を見つけて練習しておいてくれ。……さて。じゃあ実際に作ってみるか。ようく見て、作り方を覚えてくれー」


 まずはタッパーからオレンジ色のハロウスライムを取り出し、まな板の上に並べて、包丁の峰で叩いて柔らかくしていく。

 カイトはいつものとおり、すでに興味の対象が違うほうへ――チャーハンのほうへ行ってしまっているのに対し、サンタは興味津々、真剣な眼差しでこちらの手元を見つめてくる。

 ああ、新鮮だこの感覚。

 こんなに素直にレクチャーを受けてくれるヤツはひょっとしたら初めてかもしれん。

 こちらもがぜん、やる気が湧いてくる。

 おっと。

 調子に乗ってレシピをミスらないようにしないとな……。

 いかんいかん。

 ふっふっふ……。


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