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 10:店長の手作りメシ『山盛りパスタ』


 外に出ると、女騎士とリザードマンが立ちはだかっていた。

 絵になるなあ、この二人。


「お、その様子だと、無事開封できたようだな」


 そしてソッコーで視界の画質が昔のビデオみたいになった。

 おそらくダブルで『鑑定』を使われてる俺。

 いや、だから無断で人のプライバシーをね……

 逆にこんだけ躊躇なくやられると気持ちいいわ。


「天職、バーテンダー、だと……?」


 驚愕の声を漏らすヴィスタさん。

 ニヤリと笑う店長。

 だからその天職ってなんなんです?


「どうだヴィスタ、これで文句はないだろう?」

「ああ、認めよう。彼は近年稀に見る、滅多とない逸材だ」

「そうだろう?」

「そして素晴らしい才能を秘めている。私の目に狂いはない」

「そうだな」

「彼のような才能は、今の我が軍にこそ必要だ!」

「ああそうだ」

「ということでベネク、サンタは私がいただいていくぞ!」

「だが断る」


 笑顔のヴィスタさんのコメカミに血管マーク。

 両者、バチバチと睨み合う。


「なあおいベネク、今の私がどんな立場にあるか、知らないわけじゃないだろう?」

「なあヴィスタ、はなったれのクソガキに辛抱強く稽古をつけてやったのはいったい誰だ?」


 バチバチバチバチ。

 両者、激しく睨み合う。


「……ときにヴィスタ、ひとつ重要な見落としをしていないか? 『鑑定』じゃなく、『鑑定+』まで発動させてもう一度しっかりサンタのステータスを見てみろ」

「何……?」


 あーまた画質が悪くなった。抜かれ放題だな俺の個人情報。


「なっ……よっわ! ええー……?」


 ほんでそういう感想になるよね。

 わかってるから。できればそっとしておいてほしいよね。


「しかも当然だがレベルは1だ。そんなヤツが戦場で役に立つとは思えんが? 大人しく諦めろヴィスタ。サンタはおまえにはやらん。サンタは俺のもんだ」


 てんちょう、ぼくは、ノンケです。

 けど、てんちょうにならだかれてもいいとおもいました。


「フッ、ベネク。それは違うな」


 やや押され気味だったヴィスタさんは言葉に詰まりながらも、自分の長い銀髪を優雅に払うと、言った。


「身分が賤民だから、この街の出身ではない……ということは、だ。レベル1、スキルパッケージ未開封の身で、あのガストール砂漠を越え、メルオラ氷床を抜け、グラシーラ峡谷を渡り、さらにはエンクローシャのマップに入ってシャルナットーの試練を突破してきたということだ。これが何を意味するかわかるだろう? そう、彼は、とんでもない強運の持ち主だということだ」


 サーセン、ヴィスタさんサーセン。

 違います。ゼンゼン違います。

 時代遅れの繁華街の片隅の扉開けたらこのバーだったんです。

 直結だったんですサーセン。

 そんな踏み入れた瞬間に命が消し飛びそうなデンジャーなマップはノータッチの人生なんです。

 ああなんか足が震えてきた。やべええええ

 ここがいったいどういう場所なのか……深く考えてはいけない気がするが……イヤな予感しかしねええ……!

 そんなの越えなきゃ辿り着けないような街?

 って、どんな街?


 ヴィスタさんは腰を折り、ズイッといきなり顔を近づけてきた。


「フフ。実はさっきな、二度ほど『統率の覇眼』を行使してやったんだが、まったく効いていなかった」


 いやいや。

 そんな物騒なモン黙って行使しないでくださいよ。

 ていうか、バッチリ効きましたよ?

 あやうくチビりそうになりました。


「しかも二回目は至近距離で使ってやった。普通なら発狂してとっくに死んでるところだ」


 いやいやいやいや。

 何言ってんの?

 何やってんの!


「三万の軍勢をも統べることのできる覇眼だぞ? “効かなかった”ヤツなど初めてだ。というか、そんなことあり得るのだな……初めて知った。私もまだまだ青かったということだ……」


 それからヴィスタさんは、足を揃えてまっすぐ立ち、頭を深く下げた。えーと。たぶん、よくわかんないけどその、軍団長とかいう立場の人がそんなことしていいんすかね……?


「まず、私のほうから誤解があったこと、深く詫びよう。そして心から礼を言う。グスタフの命を救ってくれてありがとう。ひいては、貴君の才能を見込んで、先ほどの解毒薬と同じものをサンプルとしてもう10本ばかり注文したい。それで効果を確信できたら、今後も継続的に取引を頼みたい。実は今、最前線に攻めてくるモンスターの中にポイズンワームという種が混じっていてな。ワイバーンだけならどうとでもなるが、ワームの毒までは皆手が回らないんだ。救える命は、なるべく救いたい。是非とも、お願いしたい」

「ハァ エット ソノ コチラコソ……」


 するととつぜん、そっと頰に触れられた。

 真正面からジッと見つめられる。

 その、覇眼だか邪眼だか使ってないですよね?


「貴様は必ず強くなる。私のカンだ。いいかサンタ。もしこのリザードマンが気に入らなくなったらすぐにでも仕事を辞めて私のところへ来い。手厚く歓迎するぞ。私はヴィスタ。ヴィスタ・レオナルディア。そして我が帝国軍『バテンカイトス』は貴君の入団を心待ちにしている。相応のポストを用意して、待っているぞ。では、さらばだ!」


 そこまで言うと、ヴィスタさんはひらりと白馬にまたがり、颯爽と駆け出した。瞬く間に見えなくなった。

 ああ……。

 どうにか丸く収まった、のか?

 ん? いや待てよ?


 店長の店を辞める。→ヴィスタさんの軍に入る。→戦場へ連れていかれる。→死ぬ。


 結局この構図は変わってないんかい!

 ああ、ダメだ、だからぜったい、店長の店を辞めるわけにはいかないんだ。

 ホント、昨日バックれなくてよかった……。



 ※



 店に戻ってくるなり、店長はどっかりソファにひっくり返った。


「ふう……一時はどうなることかと思った……。見せしめの打ち首も、軍への強制入団も、あいつなら本気でやりかねんからな……。ところでサンタ、メシはちゃんと食ったのか?」


 メシ。一応今朝、兵士メシを食ったけど……それきりだ。

 思い出したらマンガみたいに腹が鳴った。


「オーケー、わかった。ちょっと待ってろ」


 店長はソファから立ち上がると、厨房へ消えた。俺はカウンター席に座って大人しく待った。

 しばらくすると、目の前に、巨大な皿に載ったミートソースパスタが出てきた。

 おお……大盛りだ。


「裏メニューの特製パスタだ。とりあえず、食え」

「ア アザッス ダキッス」


 俺はフォークを手に取り、パスタの山から一杯すくって、口に運ぶ。

 うん、うまい。

 メチャクチャうまい。


「サンタ、もし寝る場所がないんなら、このバーの屋根裏でもどこでも、好きに使っていいんだからな。カイトもそうしてるんだ」


 そーだったんだ。


「もし一緒に食べる人がいないなら、明日からは店が始まる前、みんなで一緒に食べていいんだからな」


 そーなんだ。

 でも、なんでそこまでしてくれるんだろう?


 店長の優しい緑色の手が、ポンと頭に乗せられる。


「もっとな、なんでも言ってくれていいんだぞ。だってウチの店を選んでくれた瞬間から、おまえはウチのファミリーなんだからな」


 そーなんだ。

 そっか。うん。


「ハラが減ってるヤツにはメシを食わせる。弱ってるヤツには酒を飲ませる。溜まってるヤツには吐き出させる。それがウチの店の、モットーだ」


 うん。

 あれ? 

 なんかよくわからんが、泣けてきた。

 おかしいな。

 なんか知らんけどみんな優しくて、

 あークッソうめえ。ああ、ミートソースがうまいせいか。

 なにこのパスタ。

 ただのパスタなのに、うめえな……!

 うめえなあ……!

 なんか、いろんなことがあったけど、あんま、おぼえてないけど、けっか、残ってるのは、わりかしみんな優しくて、メシが、うめえ、

 ってことだった。


 メシを食う。

 たらふく食う。

 ハラいっぱいになるまで。

 そうだ。

 そのとき、

 初めてこっちの世界来て、ハラいっぱいになったんだ。


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