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 9:僧侶さんに「スキルパッケージ」を開封してもらった話


 で、隣の教会に連行されました。

 あ、ここでやるんだ?

 スキル関係は教会の管轄ってことか。

 なるほど、今回の事件は教会に始まり、教会で終わるんだな。


 今朝の様子とはうって変わって建物内にはたくさんのシスターさんがおり、客足もそこそこ。客はそれぞれ相談してたり祈ってたり、はたまた土下座して謝ってたり、どういうシステムなのかよくわからん。

 あ、ていうかここにいるシスターさんたちは、つまり昨日バーに飲みに来てた人たちだよね? よくわかんないけどなんか気まずいな。

 なんてことを考えてたら、目の前を一人のシスターさんが通過。

 昨日の頭痛の人だ。

 ヘビみたいな縦長の瞳孔がキュートな僧侶さん。

「ありえん」とか言ってほしい。

 そうか。ここで働いてたのか。って、当たり前か。


「あっ」

 すると向こうも気づいてくれたようで、憶えててくれたようで、目が合うと立ち止まった。


「アノ ドモ」

「あっ! ……その、あの……」


 なんかめっちゃドギマギしてらっしゃる。なんだろう、そのリアクション。


「な……、何しにきたの?」

「コラ、ミホロ! なんだい、その口の利き方は。あと笑顔! いつも言ってるだろ?」


 彼女のうしろにとつぜん大柄なシスターが出現した。一見優しそうに見えるけど、実は目の奥は笑ってない系シスター。ビッグマム、って感じの人。人? あ、ツノ生えてるわ人じゃないねごめんね。ていうか頭痛のシスターの名前が判明したぞ。ミホロっていう名前だったんだ。

 ミホロはややうつむいて、目を逸らし気味に、言った。


「き……昨日は、その……どうもありがとう」

「ハェ? エト」

「頭痛薬! ありがとう」

「ア イエッス サッス ゼンゼン」

 そんな、いいのにわざわざ。ていうかお礼なら昨日もさんざん言われたし。


「なんだい、ミホロ、知り合いかい?」


 ミホロは背後のビッグマムを振り仰ぐと、うなずいた。

「隣のバーの、バーテンダーさん、です」

「ほう……? あんたも隅に置けないねえ」

「ち、違いますってば!」


 ミホロはバッと視線をこちらに戻すと、まくし立てるように言う。


「それでね、その、昨日の頭痛薬のお代、実は払い忘れちゃってて、だから、今日の夜、必ず払いに行くから」


 ああ。……まあ、そういえば。

 ていうかでも、実は注文されたわけでもなんでもないんだよな。

 勝手に作ったものに、お代って、もらっていいんだろうか?


「なんだい、じゃあお互い、タダでやればいいじゃないか」


 俺が悩んでいると、ビッグマムが代わりに答えてくれた。

 あ、それいい提案。ナイスマーム。何を隠そうこっちもね、この世界のお金はいっさい持ち合わせないんでね。


「彼氏はあんたにタダで薬を作ってくれたんだろ? じゃあこんどはあんたがタダで見てやんな」

「いい……んですか?」

「いいよ、だからほら、練習したとおりにやってみな」


 ミホロはビッグマムに向かって小さくうなずき、

「で……何しに来たの? ケガの治療? 懺悔? お布施? それとも神のお告げ?」

「ミホロ!」


 ビッグマムの二本の角がニョッと太くなった。


「丁寧な口調で。それから笑顔を忘れず」

「……本日は、どんなご用件でございましょうか」


 あれ、なんかすごい棒読みになったぞ。


「ア エト……ナンカ スキルパッケージ カイフウ シニ キタッス」

「そうですか。スキル……って、え??」


 思わず背後の大柄なシスターを仰ぎ見るミホロ。なんだろう? そのリアクション。

 大柄なシスターはうなずくと、手に持っていた何やら豪華な杖をミホロに手渡した。


「ほれ、ちょうどいい機会じゃないか。やってみな」

「でも……あたしまだ……」

「誰にだって初めてはある。何事も経験だよ、ミホロ」

「……わかりました。やってみます」


 ミホロはうなずくと、俺のほうに一歩近づいてきた。それから一瞬だけ、俺のやや後方に控えていたヴィスタさんのほうを睨んだ。

 ヴィスタさんは肩を竦め、そのまま教会を出ていってしまった。

 ……ん。なんだろうか、今のやりとり。


「んんっ」


 ミホロは咳払いをひとつ。

 それから、ふうーっと深呼吸。

 あれ、なんだか緊張してらっしゃる……?


「ではこれから、あなたのスキルパッケージを開封します。あなたの中に眠る力を解放し、職業や種族、レベルやスキルやその他もろもろのステータスを明らかにします」


 ちょっと待て、ステータスって……いや、よそう。わかった、俺は何もツッコまない。そのおかげで生き延びることができるなら、何も文句はないっす。


「それから……えっと、ただし、スキルパッケージは一度開封してしまうと、二度と元に戻すことはできません。しかしながら、加護は必ずやあなたに大いなる祝福をもたらすことでしょう……」


 ふむふむ。

 まあね、期待しすぎはよくないけど、とはいえ、ちょっとは期待してしまう。ひょっとしたら自分にはすごい能力が秘められているのかもって。


「あなたのスキルパッケージを開封します。よろしいですか?」

「オナシャス」

「ごほん」


 ミホロは咳払いを一つしてから、息を吸い込み、意外に大きな、よく通る声を張り上げた。


「森は風へ、天は地へ。水は魂源へ、火はことわりへ。大地の精霊よ、主の女神よ、いずれ渾沌を迎えし幾多の宇宙よ! この者に、大いなる力と祝福を授けん!」


 ……マジで?

 ……これは……

 これは恥ずかしない////

 そしたら何かピコンという音が聞こえた。いや待ってホントに? 反応しちゃうのソレに?


《スキルパッケージを一個入手しました》

《スキルパッケージを開封してください》


 あ、例のSiriみたいな声。

 チース。久しぶりッス。

 と同時に、目の前にその文字列が出現していた。

 どうしよう。モニターも何もないはずなのに、文字が見えるよ。

 背景は透過してるけど、文字どおり視界がハッキングされてるんですけど?

 俺の脳みそ大丈夫かな。


「……どう? 何かメッセージみたいなの、出た?」

「ハイ アノ デタッス」


 一瞬、安堵したような表情を見せるミホロさん。けど、すぐに真顔に戻ってうなずくと、そっと俺の手を握った。

 うん。えええええ?

 身体中を電撃が駆け抜けた。

 ……なぜ握った。なぜ握ったし。説明を求ム!

 そんな……

 この世界の住人には他者との接触に関してハードルはないのん?

 少し冷たいミホロさんのか細い指が、俺の指に、ひっついておられる……。

 こ、こ、こんな簡単に手ぇ握ってくれるとか、ミ、ミホロさんって、チョチョ、チョロインっすか?w

 いやなんなの、独白でどもるなよ俺。

 まあなにしろそれで言えば俺はチョローだ。コンビニのお姉さんに笑顔で釣り銭渡されただけで好きになる。いやまあ誰も俺をヒーローだとは認めないだろうけど。


「それじゃあ、開封して」


 思わずうなずいたが、えと、どうやって?

 とりあえず、開封、と念じてみる。

 とたん、


 ――情報の洪水。


 遺伝子が新しく配列されていく、

 データが書き換えられていく、

 ちょちょなんか本当に開封するみたいに腹の奥底あたりがメリメリ言ってんですけど!

 大丈夫なのコレ!

 メリメリ、メリメリ、やがて生まれた亀裂から、エメラルド色の光がほとばしって、飛び散って、自分の身体を何度も何度も貫通する

 いや別に痛くはないんだけど、

 痛くはないんだけど大丈夫なのコレ?

 ミホロさんの手がぎゅっと強く握られる。


「頑張って。耐えて」


 オーケーわかったハイ耐えます耐えますけどええヤバない


「祝福を授けし者たちに救いあれ、祝福を授けられし者に栄光あれ――」


 ヲヲヲヲなんか生まれ変わりそううう


「ハイ、終わり」


 気がつくと、ミホロさんが手を離していた。

 残念。


「確認してみて」


 はあ……。

 まあ、実際にはとくに何も変わってない気がするけど。

 と思って前を見たら、視界には次のような文字列がわりかしポップなフォントで表示されていた。

 いわく、



==================

◆基本情報

名称:タマキ・サンタ

属性:雷サポーター

種族:オオカミ族>ハーフコボルト

天職:薬酒調合師(バーテンダー)

職業:天職に同じ

身分:賤民

==================



 ああ……よかった。

 ちゃんと職業がバーテンダーになってる。これで無職じゃないと証明できる。まずそれな。それ大事よ。

 ほんでその上。俺はハーフコボルトだったらしい。

 なんだろうねその隠し切れないザコ感。コボルトの、しかも格下的な? めっちゃ弱そうなんだけど。

 ん、まだ続きがあるな。

 目線を下にやるとスクロールされる。



==================

◆パラメータ

Lv.1 Ma.0

生命:1 魔力:1

身体:1 耐久:1

知性:939 精神:1

機動:1 創造:1

交渉:1 魅力:1

==================



 ちょっと待って。ちょっと待って。

 よっわ! はぁ?

 ほぼ1て。1? マジか。

 正真正銘の弱さだわ。スライムでももうちょい強ない?

 でも一個おかしいのあった。

 知性だけ939もある。どういうことなんだ。

 だって俺高卒だし。かといって、こっちの世界来てとくにアタマ良くなった実感もないし。

 そんでもってあとはよっわw

 サバイバルで大事なのは身体能力と耐久力ですよ。1てなんですか。ちょっとした段差で死ぬんじゃないの?

 まあでも待って。まだ慌てる時間じゃない。

 そう、スキルだ。

 スキル次第で挽回できるチャンスが残されている……!

 目線を下にやってスクロールする。


==================

◆装備

布の服


◆称号

異世界通訳者(ザ・インタープリター)


◆習得済スキル

称号スキル『異世界共通言語(オールリンガル)

==================



 スキル、1個。

 しかも……オーマイ。

 俺は耐えきれず床に膝をついた。

 だからさ……。

 いや、だからさ……。

 何度も言ったよね? 俺コミュ障だって。

 人と話すの苦手だって。

 なのに、

 なに【異世界通訳者(ザ・インタープリター)】って。

 なに『異世界共通言語(オールリンガル)』って。

 なんで、よりによって苦手分野のど真ん中に芽生えたんだよ俺の唯一のスキルさんよ。

 コレってアレでしょ?

 どんな言葉でもわかる!

 誰とでも会話ができる!

 みたいな。

 ぜんぜん嬉しくないわ。

 ありがたみ、0グラムだわー。


「ねえ、どう……だった? スキルパッケージ、ちゃんと受け取れた? それとも、失敗だった……?」


 ふと気がつくと、ミホロさんが不安そうな顔でこちらを覗きこんでいた。

 慌てて取り繕う。


「イエ イエァ ダイジョッス セイコウッス」

「そう……よかった」


 するとビッグマムが拍手をしながら近づいてきた。


「おめでとう、ミホロ。無事にバージン奪われたね」

「ちょ、司祭!」

「よかったね、初めての相手がその彼氏で」

「その言い方、やめて、ください!」


 ミホロさん耳真っ赤になってる。よくわかんないけど、超かわいいヤバい。


「ご、ごほん! えっと、えっと……それでは最後に、汝に与えられし職の名を宣い給え」


 ショクノナ? あ、この天職ってやつでいいのかな?


「エト テンショク バーテンダー ッス」

「えっ!?」


 すると、ミホロもビッグマムも、同時にびっくりしたリアクションでこちらを見た。


「て……天職が、バーテンダー……?」

「おやおやまあまあ、こりゃ大変だ」


 ビッグマムがますますニヤニヤしてミホロに顔を近づける。え、なんなの。天職がどうしたの?

 ミホロは、赤くなったままビッグマムから逃げるように走ってきて、


「お……おめでとう! ほら、終わり! 終わったから早く出てって!」


 そのままバシバシ押されて、俺は教会から追い出されてしまった。



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