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愛奈は私の母になってくれた人だ

「⁉」


 気が付くと、私は住宅街にいた。何の変哲も無い、私の時代のどこにでもある日本の、当たり前の光景が、目の前に広がっている。


「な、なんで……。さっきまで――」

「ここは、私の精神世界だ。お前が取り込んだ鳳凰に残る、私の残留思念の見せた、唯の幻影だよ」

「ぱ、パパァ⁉」

「おお、パパと呼んでくれるか。嬉しいぞ、怜奈」

「いや、そのカッコ……ま、いっか。私もだしね」


 隣に、パパがいた。アースの恰好だから、この住宅街だともんの凄く浮いてるんだけど、雷桜着てる私も人の事言えないので、ぐっと呑み込んでおく。


 ふと気が付くと、とある幼女が目に飛び込んできた。鼻歌交じりに、楽しそうに歩いている。


 人懐っこそうな子で、この世の悪意なんて全く知らないんだろう。穢れ無さ過ぎて心配になりそうなほど、真っ直ぐな眼をしている。


 綺麗な茶髪に、可愛らしいお目目。透き通るような肌に、小さくも活力を感じる体。

 季節は夏なのか、白いワンピースを着ていて、ニコニコしながら歩き回っている。


 なんつーか、ロリコンの私からしてSSS級の超美幼女なんだけど、さ。

「アレ、ママだよね」


 会った事は無いけど、写真で見たことあるし、分かるんだよね。


「ああ、お前の母、愛奈だ」

「……パパ。あんな、純粋無垢な幼女に手ぇ出したの?知ってたけど、実物を見ると、キッツいよ」


 完全に、犯罪だよ。何? ハイエースでもしちゃったっての?


「ち、違う! 確かに知り合ったのは12の頃だが、相思相愛になったのは15を過ぎてからだ!」


 パパ、必死で言い訳してるけどさ。それでも、犯罪だよ。このロリコンめぇ、ははは。


 ふと、彼女の前を、くたびれたイケメンが歩いているのが見えた。


「……あれって、パパだよね」

「ああ、英雄が嫌になって、過去に逃げた当時の私だ」


 その、当時のパパは見るからに疲れ切っていた。天真爛漫なママとは正反対に、情熱も無く、冷めて枯れ果てた老人のような目をしている。18のはずだが、とてもじゃあ無いが、十代の少年には見えなかった。


「おじさん、どうしたの? 元気ないけど」

「おじさんはやめてくれ。俺はまだ18だ」


 ママが、疲れ切った少年に声をかける。少年も、十代でおじさん扱いされたのが心外だったらしい。顔の影を一層濃くして頷いた。


「アレは、結構響いたぞ。よく年齢より年上に見られたものだが、まさかおじさんだとは、な。……はぁ」

「そりゃそうでしょ。無精ひげで、くたびれたアレを、少年のモノとは思わないよ」


 パパにとっても結構堪えたみたいだけど、しょうがないと思うよ。私だって、前知識無かったら20代ぐらいのナイスミドルにしか思えないしさ。


「何か嫌な事でもあったの? だったら、私が聞いたげる! ママが言ってたけど、悩みとかって、誰かに聞いてもらうだけで、スッキリするんだって!」


 おお、なんつー天使だ。いい子過ぎて、ちょっと心配になるよ。普通、見ず知らずの他人にここまで親切に出来るだろうか? いや、無理だよ。


「そ、そうか。だったら、小さなカウンセラーさんに、ちょっと聞いてもらおうかな」

「分かった! じゃあ、そこの公園でお話ししましょうね♪」


 当時のパパ……ややこしいからハンでいいや。まだ、パパじゃあないんだしさ。

 その彼はちょっと引き気味だけど、乗り気になったみたいだ。渋々頷いて、近くの公園に向かっていく。


「最初は驚いたものだ。なんせ、唯の他人である私に対し、いきなり親切にして貰ったのだからな。何もしていないし、助けてもいないのに、愛奈は親近感を持って接してくれた」

「……パパ」

「後になって彼女の好意が分かったのだが、この時は本当に理解不能だった。まぁ、転移したばかりで、勝手が分からんのだ。この時代の事を知りたかったので、この子をきっかけに情報収集に入る事にした。子供なら、警戒されずに情報を引き出せると思ったのだ」


 まぁ、そうだよねぇ。私も最初に転移した時は、にっちもさっちもいかなくて、フェルトちゃんに声かけて情報収集しようとしたし。


 ハンが、ベンチに座ってママに語り掛けていた。最初は淡々とだったけど、思う所があったのか、段々声を荒げ、悲しそうに愚痴っていく。


「悩みについては、神武戦争の事はぼかして、自身の境遇について語った。自分が頼られっぱなしで、利用されるだけの人生だと。誰もが、理想の私を見るだけ、押し付けてきて辛いと、何もかもぶちまけた。まぁ、ただの気まぐれだ。この時代でなら、D3以外にもこんな話をしてもいいと思ったのだ」


 家庭用アンドロイド以外に心を開けなかった男の声は、本当に悲しげだった。彼は、どれだけの孤独の中に生きてきたのだろうか。


 誰もが理想の自分を押し付けてくるって、辛いんだろうなぁ。それも、誰にも言えない内面を抱えている人ほど、そのギャップに苦しめられるんだと思う。愚痴っぽくなるのも、仕方が無いのかもしれない。


「ああ、だから愚痴っぽいってD3さん言ってたんだね」

「……彼女には、済まなかったと思っている。にしても情けないな、当時の私は。愚痴を言っても仕方が無いだろうに」


 パパも、やっぱ情けないと思ってるみたいだ。泣きながら幼女に語り掛ける男を、不甲斐なく思ってる。


「ま、傍から見たらとんでもない光景だよね。流石の私も、ちょっと引くよ」


 実際、18の男が、幼女に愚痴ってるのは、無茶苦茶だ。ママは、何も言わず頷いてるけど、よくドン引かなかったもんだなぁ、ははは。凄いぞ、私のママ。


 話を聞き終えたママは、ハンに向かって問いた。


「貴方にとって、友達ってなんなの?」

「友達……?」

「そう。友達って、どういう事か分かる?」


 ママの問いかけに、ハンはしばらく考え込んで、答えを捻り出した。


「苦境の時に役にたつ。絆を深めると、命を救ってくれる。もっとも、救うばかりで、助けられることは皆無だったがな」


 いや、なんだよソレ。訳分かんねぇよ。友達じゃなくて、ただの戦友じゃねぇか。


「当時の私は、それしか知らなかったのだ。友と言えば、戦場で共に戦う仲間しか、思えなかったのだよ」


 パパも、どこか呆れ顔。かつての自分を、ますます不甲斐なく見つめた。

 ベンチでは、ママがため息をついて、答える。


「違うよ。友達ってのは、そんなものじゃない。使えるとか、利用とか、そんな関係ありえない」

「……だったら、なんだというのだ?」

「決まってるでしょ。友達は、楽しいんだよ!」

「楽しい? 友達が?」

「そう! 一緒にいて、楽しいのが友達。気とか使わなくて、利用するとか考えない。ただ一緒にいるだけで、時がたつのも忘れちゃうぐらいに遊べる。困った時や悲しい時には、精一杯甘えられる。頼り頼られの関係。それが、友達だよ!」


 にっこり笑顔でママが答える。


 ハンも、この答えは予想外だったみたいで、何も言えず、ただ茫然としていた。

 そんなハンをじっと見つめて、ママが語り掛ける。


「貴方、さっき泣きながら、誰にも愛されなかったって言ってたけど、さ。だったら、貴方が愛されなかった分、誰かを愛してやればいいじゃない!」

「わ、私が?」

「そうだよ! ママが言ってたけど、愛ってのは誰かにあげると、自分も同じぐらい幸せになれるんだって!だから、誰かを愛してあげれば、貴方も満たされて幸せになれると思うんだ!」

「し、しかしだなぁ……」


 愛されないなら、愛してやればいい。それだけで、同じぐらい幸せになれる。


「そっか。だから私、ヒーローなんてバカやってたんだね……」


 世の中、ヒーローがいないなら、私がなって証明してやると思ってた。幼女に好かれるから、ロリコンとしてやっているのだと思ってた。それは、間違いじゃあ無い。


 でも、それ以上に、私は救われたかったのだ。誰かを救ってあげて、救われたのと同じぐらい、満たされたかったのだ。ママの言葉で、今ようやく、自分の行為の訳が分かった気がした。


 ちなみに、ママに対し、ハンも困惑顔。私は納得できたけど、初めての意見に、どう答えていいのか分かんないんだろうねぇ。


「私に、そんな資格があるのか。それ以前に、愛するにもどうすればいいのか、分かるのだろうか?」


 そう、グチグチと言うハンの手を取って、ママが深呼吸。そして、言った。


「だったら、私と友達になろうよ! 頼り方も、甘え方も、全部教えたげる!」


 その、女神の様な微笑みに、何もかも包み込むような温かさを見せつけられて、私は、私は、もう……。


「可愛いよママァァァァァァァ! 女神幼女、最っ高だよォォォォォ!」


 目の前の幼女が母親だという事も忘れて、盛大に叫んでしまった。


「そうだろう。そうだろう! 愛奈の可愛さと母性は、世界一だろう!」

「分かる。めっちゃ分かる! そりゃ、情けなくなるよ。こんなん、私でも甘えまくるわ!」


 パパも、ママの女神の様な可愛らしさに当てられ、興奮気味だ。


 実に誇らしげに、ママを語っていく。大好きな人の事を語るのって、楽しいもんね。仮面を取って、素顔でデレッデレの表情を、惜しげもなく晒してるよ。


 ベンチでは、ハンが滝の様な涙を流していた。


「お、俺。そんな、優しい事言って貰ったの、初めて、で」

「そ、そんな、泣くほどの事かなぁ⁉ あ、ハンカチあるけど使う?」

「す、すまん!」


 流石のママも、ちょっと引いてたけど、私達みたいな、愛満たされない故ロリコンになった者には、痛いぐらいに彼の気持ちが分かった。


 純粋な愛こそ、我々の心を打つのだ。撃ちまくるのだ。もう、ボッコボコにするのだ。


 ママの愛。まぁこの時点じゃあ唯の親切心なんだろうけど、さ。それでも、優しい、無限の愛を感じる。

 その余波だけで、凄まじい幼女パワーだ。狂おしく、胸をかきむしる。


「オオオオオオオ! 息が、息が苦しい! 萌えが、萌えが体を駆け巡るぅぅぅぅ!」

「私の嫁は、宇宙一ブレイドォォォォォ!」


 パパが、何もない空間に向けて、剣を一閃。すると、空間は切り裂かれ、そこからひびが入って、幻想空間を崩壊させていく。

 消える間際、パパが言う。


「怜奈! 世界全ての幼女達を守ってやってくれ! 愛奈の愛を知ったお前なら、出来るはずだ! ヒーローに、不可能は無い!」

「ああ、やってやるよ! ロリコンの底力、見せてやる!」


 胸を張って、宣言する。ロリコンとして、こんな素晴らしいもん見せられて、黙ってなんかいられないよ!


 パパは私の宣言を聞いて、満足したように頷いた。


「では、さよならだ。達者でな、我が娘よ。帰ったら、愛奈に謝っといてくれ」


 消える間際に、そう乞われたけど、私にその頼みを聞く義務はない。だから、大きな声でハッキリと言ってやった。


「何言ってんのさ!同じロリコン、心は一緒だよ! 謝るなら、ママに欲情した二人一緒に、謝んなきゃね!」


 胸に手を当て、ハッキリと言う。ママも、多分今頃、草葉の陰で泣いてるんだろうけど、さ。それも含めて、二人で謝んなきゃね。その為にも、心は一緒じゃなきゃ。


「……ああ‼」


 最後に、力強い言葉を残して、パパとママとの思い出の世界は消えていったった。


多分、明日か明後日で最終回です。こんな非テンプレの酔狂な作品を読んでいただき、ありがとうございます。

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