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黄金のロリコン ③

 吐き終えた後、ハンは悲しそうな声で、言い訳を始めた。


「そうか。そうだよな。こんな私に、最低最悪の私に、親たる資格など無いのだな。昔から、他人を信じれず、自然と、機械しか愛せなかった男だ。人の親になど、なれるはずも無い。だから」

「逃げたんだね、ママから」

「……そうだ」


 呆れた。ホント、呆れた。結局は、自分に自信が無いってだけじゃん。自信が無いから、自分も他人も好きにもなれなくて、逃げ出てるだけじゃん。


 この男に、何があったのか。どういう幼少期を送って来たのかは、詳しくは知らない。

 でも、情けなくって、どうしようもない大馬鹿野郎だってのは、よーく分かったよ。


「秋子おばさんが、言ってたよ。ママは、「私が好きになってあげなきゃ、誰があの人を愛してあげるんだって」そう言って、貴方を愛してたんだってね。ホント、その通りだったね」

「……」


 聞いた話じゃ、ママは相当面倒見がいい性格だったみたい。捨て猫の飼い主探しとか、悩み相談とかに振り回されたって、笑いながら話してたよ。誰からも愛される、そんな人だったみたいで、コイツの事も、ほっとけなかったんだろうなぁ。


「やはり、人とは相容れぬ存在だな。親子ですら、解り合えない愚かな生命体だよ」


 突如、部屋の中心から声が響いた。

 声の主は、ユグドラシルだ。さっきまで、私達の戦いを観察してたんだろう。


「……だろうねぇ」


 ま、さっきから最悪の親子喧嘩を見ていたら、そう思っても仕方が無いのかもね。


「故に、感情を持つ生物など、不要だ。人間も、アールヴもな」

「⁉」


 ちょっと、待った! 何で、そーなんのよ!


「私達が大馬鹿だってだけで、皆は関係ないでしょ!」

「お前らの様な大馬鹿を、幾人見てきたと思っている。あれほど、救いの無い生物を私は知らんよ。アールヴも、調整したとはいえ、所詮は人から作りし存在。年々、人に近い異常種が増加傾向にあるからな。アレも、滅して構わん存在だ」


 ダメだ。話が全く通じない。そもそも、心が全く通じる気がしない。


「今度は、考える事も無い、生きる事しか考えない存在でも、作ってみるかな」


 ハンは、情けない奴だった。だったら、コイツは恐ろしいモノだ。人の命を、何とも思っていない。失敗したらやり直せばいいと思っている。自分が作った生命が、一人一人別個の感情を持って、懸命に生きているなんて、考えもしないんだろうね。


 させない、絶対にさせない。ティスちゃんやシェリーちゃん達を、失敗だなんて言わせてたまるか!


「ティスちゃん達に手をださせな――」

「まずは貴様だ」

「⁉」


 ユグドラシルから、数条の稲妻が私めがけてほとばしる。普段ならともかく、さっきまでの戦いのダメージ残る私では、避けられるはずも無かった。


「あ、ガァァァァァァァッ!」


 稲妻が、全身を這いつくばっていく。雷桜の各所に火花が走り、爆発していく。

 立って、いられない。ハン戦と、さっきの稲妻で、体がもう限界だ。


 目が、霞んできた。体力の限界も相まって、気力もしぼんでいく。頑張らなくちゃ、ダメなはずなのに、意識が、霞んでいく。


 もう、ダメだ。クソ、最後の最後で、こんな所でおしまいなのかよ。


「消えるがいい。ハンの娘よ」


 ユグドラシルの中心に、光が収束していく。光は熱になって、灼熱のビームを打ち出してきた。

 前に喰らったシグナムの重粒子砲以上のパワーだ。今の私がまともに喰らったら、それこそ塵一つ残らないだろう。


 それでも、体は動かない。気力も無いから、迫りくる死の光を諦めに似た気持ちで、呆然と眺めちゃう。


「ヒーローなんだろ、諦めるなッ!」

「⁉」


 アースが、ハンが、盾となって、ビームを防いでいた。


「ざっけんな!」


 ふ、ふざけんな! ママから逃げて、ずっとほっといて、娘を庇うなんて、そんな、そんなパパみたいな事するんじゃあねぇ!


「冗談じゃあ、無いよ! やめてよ、アンタなんかに助けられるなんて、まっぴらだよ!」

「パパと呼べ!」

「⁉」


 ビームで焼かれながら、ボディが溶けながらも、言った。娘に対し、父と呼べと。


 その時、後になって考えても、何でそんな事言ったのか分かんないけど、頭では否定していたはずなのに、考えるより先に言葉が出ていた。


「が、ガンバレ、パパァ!」

「よし!」


 満足したのか、体が溶けているのにも関わらず、嬉しそうに、ホントに嬉しそうに叫んだ。

 パパの体が、光に包まれていく。ユグドラシルのビームとは違う、黄金の輝きが、煌めいていく。


「鳳凰、アクセラレーションッ! GMフルブースト、起動!」


 パパが今一度鳳凰を起動した。GMフルブーストも使っての、フルパワーだ。


 両腕をクロスさせてビームを止めながらも、胸の部分が炎熱していく。

 雷桜を身に纏っていたから、直感で分かる。パパは、体内の鳳凰を爆発させようとしている!


「紅蓮、滅殺砲!」


 パパの胸部から発射された炎のレーザーが、ユグドラシルのビームを押し戻していく。

 同時に、両腕を消滅させ、体内を崩壊させながら……。


「お、の、れぇぇぇぇ!」


 パパのレーザーは、ユグドラシルを呑み込んでいく。

 体内から崩壊したパパも、倒れていく。もう立ち上がる力さえ、無いみたいだ。


「なんだよ……なんなんだよ! やだよ、アンタを恨まなきゃ、やってられないんだよ! なのにさぁ、そんなカッコいいとこ、見せないでよ! 私、どうしていいのか分かんないよ! これから、どうやって生きていけばいいんだよ!」


 自分でも、身勝手だと分かっている。それでも、言わずにはいられなかった。

 ああ、でも無茶苦茶だなぁ。自分でも、頭が混乱して訳わかんなくなってるよ。


 そんな私に、パパは語り掛けた。優しく、親の声で。


「それで、いい。私を恨め、決して許すな。憎しみも、生きていてこそだ。私を憎むことで、お前が生きられるのなら、本望だよ」

「バッカじゃないの! そんな、そんな……」


 ああ、私のパパは大馬鹿野郎だ。ホンットどうしようもない。人の気持ちをちっとも考えない。


「命懸けで助けられて、最後にそんな事言われて、どうやって恨めばいいのよ! こんの、バカァァァ!う、うわぁぁぁぁぁん!」


 泣きじゃくって、パパに縋り付く。


 おかしいなぁ、私パパを許している筈が無いのに、なんでこんなに、悲しいのだろう。頭では最低最悪だと思っているのに、涙が止まらないんだろう。


「仮面を、取ってくれないか」

「……うん」


 パパの仮面を、取ってやる。中には、私と同じ髪の色と目を持つ男が、入っていた。

 この顔は、前にも見たけど、あらためてよーく見て見るとさぁ。


「似てるね。憎らしい程、そっくりだよ」

「そうだ、な。お前は父似だよ。愛奈には、あまり似なかったな」

「おかげで、どれだけ大変な目にあったことやら。全部、パパのせいなんだからね。ママを捨てたりするから、孫じゃなくて娘を奪った男の娘になっちゃったよ」

「……済まない」

「もういいよ。今が幸せだから、さ」


 今更恨んでも、しょうがないしさ。相手の態度も、当然と言っちゃあ、当然だし。そりゃあ、十代の娘に手を出して、命まで奪った相手そっくりの子なんて、愛せって方が、無茶苦茶だよ。


 パパは、ぎこちなく首を動かすと、光輝く地球を眺めて、呟いた。


「やはり、地球は美しいな。私は、光輝くこの星を守る為、身を削って、青春を犠牲にして、戦い続けた。愛奈からも、最低の私では、幸せには出来ないと思い、涙を呑んで、彼女の元を去った」

「うん、うん」

「なのに、な。人生とは、上手くいかないものだ。私が戦えば戦う程、戦乱は長引き、大地は蝕まれた。愛奈の為を思って、姿を消すと、娘が現れた。フフフ、どうして、上手くいかないんだろうなぁ。裏目に、出てしまうんだろうなぁ」


 その呟きは、彼の人生そのものだった。不器用な好意や善意が、裏目に出てしまった男の、最後の叫びだった。


「……バカだねぇ、ホント。貴方は、馬鹿だけど、さ。ちゃんと、残してるよ。ほら、地球綺麗だしさ」


 窓越しの地球は、青く美しく輝いていた。彼の、数百年の努力が、地球を再生させたのだろう。


「それに、さ。私がいるよ。アンタみたいな父親だけど、いなかったら生まれなかったからね。癪だけど、アリガト」


 パパに対して、最後の礼を言う。ママを想ってたのは分かったし、これ以上恨む理由も、無い。文句なら、腐るほどあるけど、今言うのは無粋だよ。

 だから、さ。最後にアドバイスを送ってやる。来世にでも、参考にするためにね。


「パパは、自分で頑張り過ぎなんだよ。どうせ、一人で考え込んで、一人で何もかもしょいこんでたんでしょ。だから、潰れちゃうんだよ。疲れて、心まで荒んじゃうんだよ」

「思い当たり過ぎて、耳が痛いぞ、怜奈」


 聞きなさい。耳が痛かろうが、娘の忠告はちゃんと聞くものだよ、パパ。


「だから、さ。もっと甘えていいんだよ。頼っていいんだよ。弱くても、いいんだよ」


 私も、弱いしね。バカやってないと、生きてけないしね。そんな私を、甘やかしてくれた人たちのおかげで、今ここにいるんだからね。


「あ、愛奈……」


 誰かを思い出しのか、いや、誰かってのも無粋だね。


「愛奈。ああ、愛奈。私達の娘は、お前にもよく似て、いい子に育ったよ。ほっといて何を言っていると、叱って、くれ、ると、嬉しいな」


 これが、最後の言葉だった。パパは、最後に叱って欲しいと願いながら、旅立っていった。


「叱って欲しいなんて、幼女専門のMなんて、そっくりじゃない。あーあ、何で親子は嫌なとこバッカ似るんだろうなぁ」


 嫌んなるよ。外見だけじゃなくて、中身や性癖までそっくりなんてさ。


 また、大粒の涙出てきた。なんでだろうね。嫌ってた、どうでもいいと思ってたはずなのに、どうして止まらないんだろうね、涙。

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