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黄金のロリコン ②

 いつの間にか近づいてきたアースが、私の傍まで来て、見下ろしながら呟く。


「違うって言うの?」

「そうだ。神武の、スペックを超えたエネルギーを、装者の生命エネルギーを代用させて強引に取り出す諸刃の剣だ。それを、一度ならず二度も使用したら、反動があるのは当然ではないか。あの時、教えなければ良かったな。私が、斬り倒せばそれで済んだというのに」


 GMフルブーストの事は、分かった。でも、おかしい。ってかなんなの⁉私、アンタに教えて貰った事なんて、何一つ無いんだけど!


 ん? ちょっと待った。あの時て、ま、まさか。


「いたのね。ってか見てたんだね。シグナムとの戦いを」

「ああ、その通りだ。お前の力量を、じっくりと見させてもらった。娘が、死にかけていたから、遠隔操作で雷桜のリミッターを外させて貰ったよ。余計なお世話だったかな」


 アースは、あっさりと認めた。自分が、私のシグナム戦の時に居た事を。

 そして、業腹だけど、めっちゃめちゃむかつくけど、アースは私の命の恩人って事になる。


「そんなんで、恩を売ったつもり? 父親の義務を、果たしたつもり? 冗談じゃあ、無いよ! 話しても無いのに、陰でコソコソされて、気持ちなんて伝わるかぁ! アンタがいくら子を思っても、私に伝えるようにしなきゃ、大きなお世話なんだよ!」


 だが、私の文句もどこ吹く風。アースは、見下ろしながら、告げてくる。


「これで分かっただろう。子は父を超える事など出来ぬ。これ以上は、怪我では済まなくなるぞ。とりあえず、医務室にでも行くんだな。どれ、立てないのならおぶってやろう。父として、娘を抱くくらいの資格はあるからな」


 ぬけぬけと、手を差し出してくるけど、受ける訳にはいかないよ。掴んで、強引に立ち上がる。そして、言ってやった。堂々とね。コイツには、何が何でも甘える訳にはいかないしさ。


「ふざけんな! 私は、ヒーローなんだ。ティスちゃんやシェリーちゃんに、L2ちゃんを取り返すって約束したんだ! 皆が信じてくれた、ヒーローの私は、アンタなんかに絶対敗けない! まけて、たまるかぁ!」


「ヒーロー、英雄……か。怜奈、それが、どういう事なのか、分かっているのか?」

 アースは、私のヒーローという言葉が気になったのか、英雄とは何ぞやなんて聞いてきた。


「何って、弱きを助け強気を挫く、正義の味方でしょ」


 これは、私の信条。どうせヒーローやるなら、ろくでもない癖に、力だけはやたら強い奴を倒す。常にそう思って、拳を奮ってきた。


「そうか。では聞くが、ただ助けられた連中が、その後英雄に何を求めるか、知っているか?」

「カッコよさ、とかかな。ははは」

「そうだ。その通りだよ。身勝手な、偶像をな!」


 私の答えが気に入らなかったのか、首を絞め上げ、激昂する。


「英雄となった者は、押し付けられるのだ! 強い、無敵、完璧! 人間性まで、勝手な思い込みで称賛される! 弱みなど許させずに、ただ強者であり続ける事を強制される!」


 反乱軍の英雄は、英雄そのものに対して、相当な恨みというか、思いがあるみたいだった。今までの落ち着いた雰囲気が嘘みたいに、激昂している。


「誰も、本当の私を理解しようとさえ、しなかった。英雄としてのハン・アルバートしか、愛さなかった。唯の人間の、誰かに甘えたい、頼りたい、弱くてもいい、そういう当たり前の事すら、許されなかったのだ! 愛奈だけだ、この弱き人間を愛してくれたのは!」


 ハン・アルバートは言った。英雄じゃ無くて、弱い自分を愛して欲しいと。


「怜奈。私は思うのだが、人間とは、弱さこそ人である証。情けなさこそ、人の持つ最大の個性なのではないのかと。故に、誰かを愛したければ、弱さを愛さなければ、意味が無い。他人の強さだけを愛するのは、努力もせず自身のステータスを上げたいだけの、醜悪で見るに堪えないブタ共のする事だ」


 ……世の玉の輿を夢見る女性たちが聞いたら、怒りで発狂しそうなことを平然と言い放つ。なんつーか、実際に白馬の王子さまみたいなのって、割とこういう事考えてるのかもしれないね。そりゃあ、地位とか金とかばっか愛されても、うっとおしいだけかもねぇ。


「分かるか? 英雄とは、強者としてしか愛されないのだよ! 孤独で、それすら孤高などと評される! まともに愛される事無く、勝手な思い込みで作られた他人にされてしまう! お前は、本当にそんな生き方で、満足できるのか! 父として、娘を英雄などという化け物にしたくないという気持ちが分からんのか!」


 そんな、涙ながらに語られても、ゴメン、分かんない。全っ然分かんない。だから、率直な感想を述べさせてもらうね。


「貴方、女の子にもてないでしょ」

「⁉」


 英雄が、化け物。強者である事を強いられ、人としてまともに愛されない。だから、娘にはそんな思いはさせたくない。


 コイツの、父親としての思いは分かった(父なんて認めてないけどさ)でもね、違うんだよ、ハン・ハンバート。


「私ね、分かんない。貴方の言ってる事、ちっとも分かんないよ。そもそも、私は英雄じゃあなくってヒーローなんだよ」

「何が違う!」


 首の圧迫を強めて、聞き出そうとするけどさ。そんな事しなくても、答えてやるよ。


「ヒーローは、皆に好かれはしないんだよ。むしろ逆。私の時代じゃ、変人変態、バカ姉なんだよ。この格好も自分で作ったしね。今まで、この格好で悪人を倒してきたけど、誰かに褒められた事なんて、ほとんど無かったなぁ。多分、通報された方が多いかも」


 迷子の幼女を助けたら、親に通報された。不良を叩きのめしたら、変態にやられたってんでメンツが潰れて、不登校になっちゃった。穂村ちゃんも、最初はカッコいいって言ってたけど、最近は「いい歳いしていい加減にしろ」としか言わなくなった。


「それでも、私はヒーロー続けるよ」

「何故だッ!」


 ハンは、分かんないんだろうなぁ。娘が、一体何言ってるのか。多分彼には、一生分かんないと思うけど、言ってやるよ。

 何で私が、ヒーローなんか酔狂なモノやってるかをね!


「だって、幼女にモテるじゃん」

「……は?」


 ハンは、素っ頓狂な声を上げて、呆然としている。アレ、私そんな変な事言ったかなぁ?

 ま、いっか。別に。コイツにどう思われようが、どうだっていいし。


「ヒーローはいいよ。なんせ、子供にとっては憧れだし、カッコいい存在だしね。幼女に尊敬されたり、好かれるんだよ。時たま、ほっぺにチュウとかしてくれる時だってあるしさぁ、グヘへへ」

「な、なんだ⁉ 怜奈、お前は一体どうしたというのだ⁉」

「いや、ね。身内でもなければ、幼女を抱っこしたり、一緒にお散歩したり、お風呂に入ったりするのは犯罪じゃん。その壁を取っ払うには、もうヒーローになるしかないじゃん」


 ま、ヒーローでも犯罪だって言う人もいるけどね。おかしいなぁ、私は彼女達に好かれて、合意の上でスキンシップを取っているのになぁ。


「ってかさ。貴方って、周りの目に、非難に耐え切るだけの勇気が無い言い訳を、周囲に求めてるだけじゃん。私みたいに、好きでヒーローやってるバカと、一緒にしないでくれる?」


 そこが、英雄とヒーローの分かれ目だと、私は思ってる。英雄が、周囲に祭り上げられて勝手になるものなら、ヒーローは、自分の我儘で身勝手になるものだ。


「……そうか。ならば、そのバカの力、見せてもらおうか!」


 声を荒げたハンに、首根っこ掴んだまま放り投げられる。意識はあったので、どうにか体制を立て直して、着地する事が出来た。


 それにしても、ああ、苦しかった! 全く、娘の首を絞めた上、放り投げるなんてとんでもない父親だよ!


 そのハンは、腕をクロスさせ、力を貯めていた。そして、気合を込めて叫ぶ。


「GMフルブースト、最大出力!」


 瞬間、黄金の輝きが一段と増して、エネルギーが溢れだす。余剰分が炎となって巻き上がる。最大出力で、一気にケリをつける気なのだろう。


「だったら、こっちも全力全開だッ!」


 けだるい体の活を入れて、立ち上がる。

 そして、思いを乗せて、叫ぶ。


「GMフルブースト、起動ッ!」


 全身に、エネルギーが駆け巡る。雷桜が、青く、強く、美しく光り輝く。


「一日に三度の使用など、アナベルですら不可能だったのだぞ⁉ 体どこにそのような力が残っているのだ⁉」

「力じゃない、心だよ!」

「こころ……だと?」


 虚を突かれて、ポカンとしているハンに対し、言ってやる。この輝きを生み出す、私の、最後のエネルギーの正体を。


「私はねぇ、ヒーローやってて馬鹿にされたりもしたけど、それ以上に感謝されたんだよ、幼女にね! その、困った時の泣き顔も、助けてもらった時の感謝の言葉も、精一杯の笑顔や強がりだって、力になる! 思い出すだけで、幸せいっぱいだよ!」


 穂村ちゃんの笑顔を、シェリーちゃんの泣き顔を、ティスちゃんの強がりを想う。その分だけ、力が湧いてくる。エネルギーの泉から、無限に力が湧いてくる。


「ならば、見せて貰おうか! その、幼女の力というモノを!」

「望むところだぁ!」


 エネルギーを、両の拳に集める。ハンの手にする長剣から、炎が巻き上がっていく。


「幼女よ、我に力を! 必殺、双竜、雷撃破ァァァァァ!」

「鳳凰剣!」


 私の両突きと、ハンの長剣が、互いの全力をかけた一撃が激突する。

 炎が巻き上がり、稲妻が地を這う。膨大なエネルギーの激突の余波が、周囲を蹂躙していく。


「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅ」


 激突時は、互角だった。だが、私の力量じゃ、膨大なエネルギーを維持し続けられない。次第に、雷桜の稲妻が弱くなっていく。それに比べ、ハンは弱音一つ吐かずに、剣を押し込んでいく。


 くそっ! 最後の最後で、力量差がモロに出たみたいだ。このままでは、奴の剣に切り裂かれてしまう。


「怜奈ッ! お前の言ったヒーローの力なぞ、所詮はこんなモノなのか! 唯の狂人でないと言うのなら、父に証明してみせろ!」


 剣で押し込みながら、ハンが言った。ヒーローなぞ、この程度かと。

 ヒーローは、私が私であるための矜持だ。それを否定されて、黙ってなんかいられないよ!


「うるさい! お前みたいなダメ人間に、敗けて、たまるかぁ!」


 気合を込めて、エネルギーを両の拳に爆発させる。

 そのかいあってか、両手が触れている部分に、ヒビが入った。


 決めるなら、今しかない! 最後の力を振り絞って、気合を込めて、一気に突っ切る!


「私は、ロリコンだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐ、グォォォォォォォォ!」


 両腕が、剣を貫く。ハンのどてっぱらに深く突き刺さる。

 機械の体。その内部で、エネルギーが暴走しているのだろう。体のあちこちから火花が上がり、その度に苦しそうな声で呻いている。


 彼の鎧の光が、消えていく。鳳凰の変身が解除されたのか、元の色に戻っていった。


「か、勝った。なんつーか、途中精神攻撃で卑怯っぽいけどさ。ま、いっか」


 そうそう。敗けちゃ、元も子もないもんね。ヒーローは、時に非情なのだよ。


「敗けた、敗けたよ、怜奈。私より、精神力が勝っていたと、いう事か。我が娘ながら、見事なものだ」

「……まあね。アンタみたいな、勝手に押し付けられたモンにしがみついてた男に、敗ける訳ないでしょ」


 アンタに、そんな称賛されても、嬉しくなんかないよ。


「親がいずとも、子は育つ……か」


 一人、満足げに呟いてるけどさぁ、ソレ、すっごくむかつくんだよね!


「そうだよ。ああ、そうだよ! ってか、無責任に捨てといて、父親面してんじゃねぇよ!」


 倒れたハンの首根っこを掴んで、怒鳴る。


 ああ、腹立つ。コイツが父親面するたびに、イライラする。だってそうでしょ? 私が、お父さんを知らないのも、皆から嫌われたのも、何もかも全部コイツのせいだ。それが、今になって、もう16になっていきなり登場?


「せっかく、父親なんてどうでもいいって、割り切れたのにさ! 今更、出てこないでよ! なんなのよ、いい加減にしてよ! 私が、アンタの娘だったせいで、どんな気持ちで生きてきたと思ってんのよ!」


 腹の底から、この男に対する憎しみとか、文句とか全部。どす黒い感情が一気に流れ出たけど、一向に構わない。何もかも全部、吐き出してやった。

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