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逆襲のロリ

「……はぁ。もう、訳わかんないわよ」

「ティスちゃん。落ち込んだってしょうがないよ」

「そうだけど、さぁ。怜奈は連れてかれるし、タイムマシンのデータも持ってかれるし、どうしようってのよ」

「やれる事は、沢山あるよ。それに、アースって人のおかげで罪状は消滅したし、研究施設も無事だった。家宅操作も、簡単なモノだったしね。だから、まだ敗けた訳じゃあ、無いんだよ」


 そう、さっきまでM1兄弟が、ウチでこれ以上危険なモノは無いかの、捜査をしていたのだ。まぁ、シェリーの言う通り、随分と適当な捜査だったので、何も取られはしなかったのだが。


 シェリーは、随分とご機嫌で前向きだ。理由を聞いたら、「怜奈さんなら、絶対に諦めない」とのこと。黙々と、機材を持ち込んだり、レジスタンス基地でちゃっかり頂いたというデータを、自作コンピューターに吸い込ませている。


 まぁ、確かにあの前向きな怜奈なら、何が何でも諦めないんだろうけど、さぁ。流石に、こうも手立てを奪われると、気持ちが沈んじゃうわよ。


 ちなみに、あの病院にはもう戻る気は無い。薄々感づいてたけど、やっぱり敵の手中にあった。アース曰く、院長がシグナムに捕まって、いいように使われていたとのこと。道理で、グノーディア戦の後、すぐに助けが来た訳である。


 あんまりに都合が良すぎるし、病院内にあるはずのガードロボットの一つも無いし、変だと思ってたのよね。訳を聞いても、メンテナンスとか言って誤魔化してたし。


 毒を盛るなり、やろうと思えばいくらでも私達を捕らえられたんだろうけど、そうしなかったのはシグナムの驕りと趣味だと、アースとやらは言っていた。


「結局のところ、私達はいいように使われてたって訳ね」

「いいじゃない、ティスちゃん。次は、私達が利用してやるんだよ♪」

「利用……?」

「そうそう。ちょっと待っててね。隠しといたアレが無事なら、私達の勝ちだよ」


 利用って今更、どうしようっての? なんで、そんなに前向きでいられるの? その自信は、どっから来るのさ。


 一分後、シェリーがホクホク顔で何かを抱えて戻ってきた。どうやら、アレとやらは無事だったみたいだ。


「ふっふっふ。冷蔵庫の中身まで調べなかったみたいだね。おかげで、大逆転のチャンス到来だよ」


 そう言って、彼女が持ってきたのは……。


「く、首ぃ⁉ それも、あの、将軍の⁉」

「そうだよ。グノーディア将軍の生首。っても、ほとんど生体コンピューターみたいなモノだから、冷凍保存しても大丈夫だったみたい」

「いや、そんな冷凍食品みたいな」


 そう、持ってきたのは、あのグノーディア将軍の生首だった。シェリーは、ソイツをちゃっかり回収して、冷凍保存していたらしい。


「大丈夫って、凍らせて動くもんなの、ソイツ」

「うん。記録によれば、半身半機のサイボーグって、宇宙空間とか絶対零度とか、そんな人間が耐えられない環境でも動けるよう設計されてるんだよね。だから、冷凍庫程度じゃあ凍りつかなかったよ」


 そう言って、シェリーはグノーディアの頭部を台座に乗せ、後頭部からケーブルでコンピューターに接続した。


 コンピューターから起動スイッチを入れ、頭だけのグノーディア将軍を起動させる。


「さぁ、目覚めるのです、グノーディア将軍。いや、グノーディアヘッド!」


 次の瞬間、グノーディアの頭部は、ゆっくりと目を覚まし始めた。

 目に光が灯り、機動音が部屋いっぱいに鳴り響く。


「まさか、冷凍庫に入れられるとは思いませんでしたよ。全く貴方も、可愛い顔をして、中々どうして、えげつない事をする」


 開口一番に喋ったのは、シェリーに対しての不満だった。どうやら、冷凍保存されていた時の記憶も残っているらしい。


「すみませんねぇ。弱者は手段を選んでられないのですよ」


 シェリーは、そんなグノーディアの文句などどこ吹く風。ケロッとしていた。罪悪感など、微塵も無い様子だ。


「貴方のお仲間には、酷い目に合ったのです。そのくらいの無礼は、黙れって話ですよ」

「……やはりシグナムが目覚めましたか。彼女は、昔から問題の多い同士でしたからね」


 あ、さっきから辛辣だったりするのも、やっぱりシグナムの影響があったからか。シェリーは、私と違って長時間シグナムのおもちゃにされてたんだし、コイツ等政府の連中に対して、怒っても仕方ないのかもね。


 シェリーが、グノーディアに向かい合いと、びっくりするぐらいの冷たい声で、彼に詰め寄った。


「ですので、貴方にはその責任を取っていただきます。まずは、そうですねぇ。政府の連中。特に、アースって仮面の男について、詳しく聞かせて頂きましょうか」


 顔には、怒りがにじみ出ているが、声だけは凍えるように冷たい。何の感情も感じさせない、氷のような眼差しで、グノーディアに詰め寄る。こんなシェリーを見るのは、初めてだ。


「出来ません。数百年来の親友の彼を、私が売るとお思いですか」


 だが、グノーディアも敗けていない。頭だけだというのに、一切臆さずに堂々としている。


「そうですか……仕方がありませんね。では、少々手荒な真似をする事になりますよ」

「どうぞご勝手に。例え、バラバラに分解されようが、話す気にはなれませんがね。どうです?なんなら、全部分解して、データを吸い上げればいいじゃあないですか」

「その必要はありません。何故なら、貴方はすぐに、喋りたくなりますからねぇ」


 邪悪な笑みを浮かべて、シェリーが呟く。なんだろう、この自信。まるで、彼が吐くのを、確信しているみたいな。


 シェリーが、彼に接続しているコンピューターを操作し、とあるフォルダをクリックする。そのフォルダに入っていたのは……。


「グォォォォ! やめ、ヤメロォォォォォッ! 私は、私は、人間は、15歳以下じゃなきゃ、ダメなんだァァァァ!」

「ふっふっふ。反乱軍兵士、ジョン・スミス氏の個人コンピューターに保存されていた、おっパイ杯。その記録映像なのですよ。記録媒体に強制ダウンロードですからね。おっぱいの洗礼、受けるがいいのです」

「……は?」


 コンピューターに映っていたのは、沢山の女の人(全員巨乳)が、海辺でビーチバレーをしている映像だった。彼女らが動くたび、巨乳がブルンブルン揺れたり、時たまビキニがポロリと取れたりしている。


 その度に、グノーディアは悶絶している。よっぽど巨乳にトラウマがあるのか知らないが、この苦しみようは尋常じゃない。おっぱいが映るたびに、絶叫していた。


 だが、シェリーの手は止まらない。すぐさま、次のフォルダをクリックする。


「次は、参謀、ウィルソン・カーターの私物。ミルクシスターズ、です。巨乳と妹のコンビネーション、味わいがいいのです」


 今度は、PCゲームだった。画面には、これまたとんでもない巨乳の、怜奈位の年頃の女達が、大写しになっている。


 シェリーは、スタートではなく、ロードボタンをクリック。やたら肌色の多いサムネイルをじっくりと見せつけ、ロードを繰り返した。


 画面に映る巨乳の妹が兄に甘える度に、グノーディアは悶絶する。


「ふざけるなぁぁぁぁ! 妹キャラは、つるぺたロリっ娘じゃなきゃダメだろうがァァァ!」


 とか。


「黙れぇぇぇぇ! 貴様みたいな乳の大きい奴が、お兄ちゃん♥とか甘えるなぁぁぁ! 歳を考えろぉぉぉ! 妹キャラは、最低でも15までが限界なんだよぉぉぉぉ!」


 とか言って、もう憤死しそうな勢いだ。私には何が我慢ならないのかサッパリなのだが、彼にとっては耐えがたい事らしい。


 そんな、悶え苦しむグノーディアを見て、実に楽しそうに、顔を愉悦に染めて、シェリーが彼に語り掛けた。


「そういえば、将軍さん。記録によれば、エルフってのに、並々ならぬこだわりがあるようですねぇ。なんでも耳のとんがった、妖精の様な、物腰穏やかな神秘的幼女が大好きだとか」

「ま、まさか。や、やめて、それだけは!」


 グノーディアが、見るからに狼狽した。彼にとって、エルフというのは、思い入れのある存在らしい。


 だが、シェリーは容赦しなかった。吸い上げた記録の中から、最も彼に打撃を与える作品を見つけ出し、邪悪な顔で微笑む。


「これで、とどめなのです。司令、ランスベルグ卿の秘蔵アニメ。エルフ騎士マリアルイーゼ‼」


 とどめと言わんばかりに、シェリーがクリックしたフォルダに入っていたのは、アニメだった。ファンタジーの、私達にとってはゲームでしか知らない世界に住む、馬鹿でかい乳のエルフ? っていう耳のとんがった騎士さんの活躍を描いた作品である。


「NOォォォォォォォ! 殺せ、殺してくれぇぇぇぇぇ!」


 エルフの女騎士が剣を振るって怪物を退治するたびに、グノーディアが泣き叫ぶ。


「ふっふっふ。このエルフ騎士。相当アグレッシブで行動力がありますし、性格もがさつ。貴方には、効果てきめんだと思いましたよ。あ、この人結構、シグナムさんに似てますね」

「言うなぁぁぁぁ! アイツの、アイツの悪魔の乳が、目に浮かぶぅぅぅぅ!」


 あ、もしかしてグノーディアが巨乳嫌いなのも、全部シグナムのせいかもしれない。そう言えば、同士とか言ってたし、きっと色々と苦労させられたんだろうなぁ。


 画面に映るエルフ騎士は、怪物に剣を折られて、敗北していた。悔しそうな顔で、叫ぶ。


『くっ、殺せ!』

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」


 最後にそう言い残し、グノーディアは気絶した。私達風に言うならば、怒り過ぎて頭の血管が、プッツンしてしまったみたいに、彼の意識が途切れていく。


「シェリー。気絶しちゃったわよ。どうすんのよ、コレ」


 シェリーは、平然としていた。尋問対象が気絶したというのに、鼻歌を歌いながら、キーボードを叩いていく。


「大丈夫だよ、ティスちゃん。むしろ、狙い通りなんだからさ」

「え、そうなの?」

「そうだよ。なんせ、グノーディアヘッドは、厄介な事に記憶媒体が感情を司る機能によってロックされてたからね。でも、起動しないと情報吸い出せないしさ。だから、彼の心を砕く必要があったんだよ」

「そ、そうなんだ。へ、へぇ……」


 シェリー、あっけらかんと心を砕くなんて言っちゃってる。って事は、元々グノーディアはこうなる運命だったみたいだ。だから、彼女は彼が気絶するまで、何度でもおっぱいを見せ続けた事だろう。


 シェリーだけは絶対に怒らせちゃいけない。私は、そう胸に刻み込んだ。


「さて、と。そんじゃあ、データ収集に当たりますか。とりあえず、私特製のハッキングウイルスでも感染させといて、残ったプロテクトを――」


 フォルダをしまい込み、デスクトップ画面に戻る。鍵の付いたフォルダをクリックして、パスワードを解除。ウイルスを、グノーディアヘッドにダウンロードさせていく。


「アレ? なんなの、この童貞日記ってフォルダ」


 ウイルスが入ってたフォルダの中にある、妙な名前が目に留まり、ついシェリーに聞いてしまう。

「だ、ダメ! そ、それは誰にも、見せられないんだからね!」


 だが、シェリーは慌てて、両手で画面を隠してしまった。この慌てようから察するに、よっぽど見られたくない日記なんだろう。童貞って何の事か分かんないけど、詮索するのも野暮ってものよね。


「ゴメンゴメン。そうだよね、誰にだって見られたくない秘密の一つや二つぐらいは、あるもんね」


 そうそう。私だって、中学時代に書いてた誌とか、シェリーをヒロインのモデルにした小説とか、絶対誰にも見られたくないもんね。それと、同じよ。


「そういう事だよ。それに、ティスちゃんだって、中学の時に書いてた誌や小説だって、絶対誰にも見られたくないでしょ。それと同じだよ」



 え。今、なんつったシェリー。オイ待てどういう事だこのヤロウ。

「ちょ、ちょっと待った⁉ 何で、何で知ってんのよ! ちゃんと、消したはずよ!」


 アレは、私の人生で最大級の汚点。パソコンで書いた誌も小説も、高校に上がったと同時に、顔も真っ赤にしながら、削除したはずなのに⁉


 だが、シェリーは笑いながら、死の宣告に等しい悪魔の言葉を投げかける。


「確かにデータは消えてちゃってたけど、ティスちゃん当時、毎晩夜遅くまでキーボード叩いてたでしょ。だから、パパもママも、みーんな知ってたよ」

「……あ、あああ。そ、そんな、そんな事って」


 なんという事だ。悪夢よ、これは悪夢よ。よりによって、あのパパに知れ渡ってたなんて。ぐーたらで、めんどくさがり屋の癖、頭だけは良くて、口喧嘩が異様に強いパパ。きっといつか、口論になったら絶対このネタを使ってくる。それはもう、ねちっこく。そうなれば、もう顔を真っ赤にしてうつむくか、泣き叫ぶしか手立てはない。


「そうそう、ティスちゃん。あの小説、前にちらっと見たけど、ヒロインさん可愛かったね。誰か、モデルでもいるの?」

「い、る、わ、け、無いでしょ! こ、の、バカァァァ!き、きぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 ああ、もう自分でも何言ってるのか分かんない。分かっているのは、今自分は、涙と鼻水で酷い顔してるんだろうなって事ぐらい。


「ま、バックアップも取ってるし、ノベルゲーにもしてるんだけどね。いつか、一緒にやりたいなぁ。どんな顔するんだろう。フフフ、楽しみだなぁ」


 なんか、恐ろしい事が聞こえた気が来たけど。即座に記憶から抹消した。多分本能でこれ以上の刺激を受けたら、精神が崩壊するって悟ったんだろう。


「やれやれ。マスター、ティス氏をいじめるのは、その辺にしとくべき。童貞は、メンタルの弱い生き物」

「⁉」


 ドアから入ってきた彼女に、息をのむ。


「そ、そんな。だって……」


 シェリーも、あまりの衝撃に何を言っていいのか分からず、ただ戸惑っていた。

 そんな、私達の驚愕を無視して、彼女はコンピューターに自らの電脳部分を直結していく。


「少し、手伝ってほしい。取り返しのつかなくなる前に、やっとく事が山積み」


 L2が、帰って来た。それも、新品同然のボディーで。

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