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星井穂村の憂鬱

 私、星井穂村は、平凡な、普通の人間だ。


 成績は中の上。容姿も、まぁ普通くらいだと思っている。


 家も特別金持ちでもなく、貧乏って訳でもない。普通の、中流家庭だ。


 自分を客観視して、ここまで普通連呼すれば、まぁ何処にでもいる中学一年生だよね。

 でも、唯一普通じゃあないのが、家族……というか、私の姉だ。


 そう、私の姉は、何処をどう見ても普通じゃあない。


 金髪蒼眼という日本人離れした美貌。両親はおらず、私は六歳の時に養子として家にやって来た。

もうそれだけで、どこぞの主人公かよって話なのだが、困ったことに、ヒーロースーツを着て悪と戦う。そんな暴挙を、高2にもなって全力でやっている。


 それに、重度のロリコンだ。だから、私の事も可愛い可愛い言ってくる。


 ちなみに、この二つを知ったのは、昔二人でやってたゲームが急にやりたくなって、姉の部屋を探ってたら、見つけてしまったからだ。手製のヒーロースーツと、私含む幼女の写真が大量に収められた悪魔のアルバムを。


 今にして考えてもみれば、我ながら恐ろしい事ばかりしていた。当時の私は、ご飯もお風呂も、何をするのも姉と一緒じゃなきゃ嫌で、夜中にはベッドに潜りこんで抱き付いていた。もしかしたら、そんな私のせいで、姉がロリコンになってしまったのかもしれない。


 まぁ、そんなどうしようもない姉だけどさ。小さい頃は、お姉ちゃんの事大好きだったし、尊敬できる所もいっぱいある。ロリコンでヒーローでバカだけど、熱中出来るモノがあって、毎日幸せそうでホント羨ましい。


 ってか、バカ姉がヒーローになったのも、考えてもみれば、全部私のせいだ。うわぁ、もしかして、何もかも全部私のせいだったりする?


 まぁ、いいや。いや、よくはないんだけどさ。とにかく、私の姉は普通じゃないのだ。

 そんな、ハチャメチャな姉だけど、さ。


「そうですか、そうなんですか。感謝感激でありますよ。本当に、お世話になりました」

「……どうも」

「あ、お菓子でも食べます? 紅茶でも淹れましょうか?」

「いえ、結構です。ですので……」

「?」

「家に、帰してください」


 父親が、未来人なんて勘弁してよ。おかげで、私や橙子さんまで巻き込まれちゃったじゃない。


 というのも、バカ姉が消えて、途方に暮れていたら、橙子さんに声をかけられた。その後、事情を説明していたら、突然現れたこの金髪メイド少女に、バカ姉と同じUFO?みたいな機械で連れてこられたんだよね。


「ごめんなさい。私の権限では、貴方を元の時代に戻す事は出来ないんですよ。それに、タイムマシンの充電にはあと三日はかかりますので、もうちょっとの辛抱です。あ、夕飯はハンバーグですよ。坊ちゃんも大好きですので、良かったら三人で食べませんか?」

「……遠慮します。あの人、ちょっと怖いし」

「そうですかぁ? 結構、可愛いとこあるんですけどねぇ」


 このメイドさんは、何処をどう見れば、あの仮面男を可愛いなんて言えるのだろうか。


 この宇宙要塞に着いてから、ずっとこんな感じだ。仮面の男や、このD3ってメイドさんと話してばかり。捕まっている筈なんだけど、要塞内を自由に動き回れるし、凄く豪華な食事が出る。明らかに、客人待遇だ。


 まぁ、好きに行動出来るのは、ほっといても問題無しと判断されたからだろう。そりゃあそうだ。唯の女子中学生が、宇宙に浮かぶ巨大要塞で何が出来るのだろうか。


 ここが未来だとか、幼女の世界とアンドロイドの話を信じれたのも、この要塞の存在が大きい。だってそうでしょ。宇宙から、光り輝く地球を見せられたら、信じるしかないじゃん。


 今の科学では、宇宙要塞なんて到底不可能だろうしさ。


「それにしても、ビックリですよ。まさか、バカ姉……姉さんが未来人の子供だなんて。未だに、信じられません。そんな、非現実的な」


 そこが、一番ビックリした所だ。バカ姉の父親については、ある日突然失踪したって話だけど、見つからない訳である。だって、未来に戻ったんだから。


「まぁ、過去からやって来た貴方には、中々信じられないのかもしれませんね。あ、でも誤解しないで下さいね。坊ちゃん、子供がいるなんて知らなかったみたいなんです。貴方の話を聞いた後も、一晩中愚痴られて大変だったんですよ。妊娠したと、何で言ってくれなかったんだって」

「そりゃあ、言えなかったと思いますよ。なんせ、当時姉さんと同い年ですし」

「でも、可哀想ですよ。知ってたら、戻る事も無かったと言ってましたからね。いきなり娘が現れて、どうしていいか分かんないですよ。だから、事前に色々知っときたかったんでしょうねぇ」


 ああ、それで私を攫ったのか。ついでに、橙子先輩も巻き込んで。


 私の知る限りでは、バカ姉の父親は、12歳の愛奈さんって母さんの友達と出会って、親交を深めていったみたいだ。その当時、18歳。これだけで、バカ姉のロリコン嗜好が天性だったのが分かる。


 その父親について、一つ気になった所がある。彼もいないし、ここで聞いてしまおうと思った。結構親しい仲っぽいし、もしかしたら何か分かるかもしれない。


「一つ、いいですか?」

「いくつでも。貴方の話なら、大歓迎ですよ」


 そう、ここに来てから、この人はいっつもこんな感じだ。まるで、家族の様に親しげに接してくる。悪い人じゃあ無いんだけど、他人にこんな扱いされたら、ちょっとこそばゆいというか、さぁ。

 まぁ、いいや。それより、今は気になって仕方が無いんだからさ。


「前に、その、姉さんが、ひ、ヒーローになったきっかけの話をしたら、アースさん。泣いてたんです。良かった、あの娘も、出会えたんだって。出会えたって、どういう意味ですか? 私、そんな大それた事やった覚えはありませんけど」


 そう、ずっと気になっていたのだ。バカ姉がヒーローになったきっかけの、不良から猫を守った話をした時の、仮面の男、アースの反応が。その後、私がヒーローになれると言ってしまった所で、彼は、頭を押さえて、呻きこんだ。仮面の奥から涙が流れているのが、分かるぐらいの、狼狽えぶりだったから、妙だと思ったのだ。


「ああ、その話ですか。聞かれると、思ってましたよ。ええ、坊ちゃんから聞かされているので、怜奈さんの件は私も知っています。坊ちゃん、泣いて喜んでましたからねぇ。いやぁ、やっぱあの人可愛いですよ、ホント」


 D3さんにとって、それは意外な質問では無かったようだ。むしろ、ああやっぱりといった感じで、ニコニコしている。


 にしても、この人本気であのアースを可愛いと思ってんのかな? 私には、どう見てもおっかなくしか映らないんだけどさぁ。


「あ、すみません。ついうっかり、思い出して笑ってしまいました」

「い、いえ……」


 そんなに可笑しかったのか、懸命に笑いを堪えているみたいだ。なんつーか、笑いのツボや感性が、いちいちおかしいんだよね、この人。いや、聞いた話じゃロボットなんだろうけどさ。見た目人間と全く変わんないから、どうも実感がない。


 ひとしきり笑い終えた後、彼女は自分の主人の話を語った。


「いやね、坊ちゃん。言っちゃあなんですが、ロリコンなんですよ」

「知ってます」


 12の女に、熱中してたし、バカ姉の父親だし、何を今更。


「ですが、昔からでは無いんです。むしろ、同年代や年上に好かれる事が多かったんですよね。反乱軍一の神武使いでしたし、その上美青年でしたから、女性には不自由しなかったんですよ。まぁ、誰一人として、心をお開きになりませんでしたけど」

「悪い女にでも引っかかったんですか?」


 それで大人の女が信じられなくなって、幼女に走ったのかな?

 だが、D3さんは私の仮定を即座に否定した。


「いえいえ、違いますよ。悪い人はいませんでした。ですが、甘えられる女も、いなかったんです。私は、無理です。機械ですし、あの人の相談役は出来ても、頼らせる事は出来ませんでした」

「……は?」


 まるで、昔を懐かしんで、後悔する感じで呟いているけどさ。何言ってんの、この人。甘える? いい歳した男が、そんな、子供みたいな。


「坊ちゃんは、甘えたかったんです。そう、子供みたいにね。元々、兄として妹を守る立場にありました。アナベル様も、お兄さんにべったりでしたからね。その後、反乱軍の英雄になって、もっと頼られる立場になりました。よってくる女も、憧れと恋慕が入り混じった好意ばかりで、誰一人として、彼の本質を見抜けなかったのです」


 まるで責める様な言い方だけど、それって人の好意としては、割と普通だと思うなぁ。


「いや、でもそれって」

「普通なら、それでいいでしょう。悪いとは、言いません。彼女達もいい人たちでしたしね。ですが、どんな好意も愛情も、届かなければ意味が無いのです。愛において大事なのは、真実では無く、相手がどう思うか、ですからね」

 届かなければ……? そんな含みのある事を言った後に、D3さんは続ける。


「兵器の適正だけで結ばれた両親。その親の元、戦う事を強制された人生。そんな青春を送ってきた、永遠に子供時代を失った人間に、「強い! ステキ!」そう言って、何が届くとお思いですか?」

「⁉」


 兵器の適正? 戦うだけの人生? 日本人の私には、実感は無いけど、それが人間の生き方じゃあ無い事ぐらいは、理解できる。


「悲しい事に坊ちゃんの眼には、彼女たちの愛は、ただ自分の能力に群がるだけのハイエナにしか映らなかったんですよね。結局、寄ってくる女をフイにしたり、朴念仁を演じては、帰って「アイツ等全然分かってくれない。うっとおしくてしょうがない」そう言っては、愚痴ってました。当時の私の仕事は、そんな坊ちゃんの愚痴を聞く事だったと思います」


 憐れむ様に、主人について思いを巡らす。彼女もまた、そんな狂った主人について、どんな感情を抱いて仕えてきたのだろうか。


「結局は、甘えたかったんですね。自分の弱い所も、全部さらけ出して、無条件で愛してくれる。そんな存在が欲しかったんですよ。その包容力が、過去で出会った愛奈さんに有ったんでしょうねぇ。断片的にしか知りませんが、母親の様に暖かく包み込んでくれる女性だったみたいですし」

「待って、おかしい。何もかも」


 いや、いやいやいや。ちょっと、待った。なんか、微笑ましく語ってるけど、絶対やばいよ、貴方の主人。幼女だよ。自分よりずっと年下の女の子に、母性? 何ソレ、もうキモイとか全部通り越して、怖いよ。ホラーだよ。サイコホラーだよ。


「ん……? ちょっと待って。その話ならさ、まるで私がバカ姉の、母親みたいだと思ったって事


 冗談じゃあない! そんな、ロリ母性? なんて、持ち合わせられる訳無いでしょ!

 ってかおかしいだろ怜奈母! なんで12で母性持ってんだよ! どんな確立だよソレ! ゲームで言うなら、は○れメタル一発KOして、ソイツが仲間になるぐらいレアだよ!


「いえ、貴方から聞いた話では、それは無いでしょう。ですが、貴方の純粋で見返りの無い好意が、怜奈さんを救ったのも事実。要は、自分と同じく娘が心から信頼できる、愛する事が出来る幼女に巡り合えた、その喜びに涙したのだと思いますよ」


 D3さんに、褒められているとは思うけど、なんだかなぁ。漠然というか、よく分かんないよ。


 純粋で、見返りの無い、そんな愛かぁ。もしかしたら、その主人さんもバカ姉も、それが欲しくてロリコンになったのかもね。バカ姉、親戚中たらい回しにされて、結構苦労してたみたいだしさ。もしかしたら、世のロリコン達も、そうした愛に飢えている人達かも、しんないなぁ。


 まぁ、中には純粋に劣情だけの人もいるかもだけど。


 そんな、世のロリコンについて思いを巡らせていると、壁にかけてある大型のモニターから声が響いた。画面には、さっきまで話題に上がっていた坊ちゃんの顔が大写しになっている。


『D3、しゃべり過ぎだ。いくら付き合いが長かろうが、勝手に人の事べらべら話されるのは、心外というものだ』

「聞かせたんですよ。散々聞いてやったんです、私にも愚痴らせてください。あ、それと、この回線は、シャトルのモノですね? ……どうでした、親子対面は?」

『いや、まだロクに話も出来ていない。当然だ、16年間ほったらかしだからな。後、坊ちゃんは……まぁ、いいか。私にとって、お似合いの名だからな』


 父親と呼んでいいのか分からないこの男にとっても、自分が親失格だってのに自覚があったみたいだ。メイドからの、坊ちゃんという呼び方に、納得がいってるご様子である。


『本番は、これからだ。まぁ、わざわざ妹まで攫ったのだから、印象は最悪だろうけどな。船室に押し込んだが、暴れるので拘束させて貰った』

「あらあら、無理に子供をしつけると、嫌われますよ」

 ん? ちょっと待って⁉ その言い方だと、まるで。


「来てるの、バカ姉⁉」

『ああ、その通りだ。娘は、お主がそこに居ると教えたら、快く同行したよ。それだけ、救ってやって、愛されているのだな。我が娘の女神、アールヴよ。父として、礼を言うぞ』


 いや、誰が女神だよ⁉ ってか、アールヴってなんだよ⁉ なに嬉しそうに、笑ってんだよ!

「このロリコンマザコンド変態! バカ姉に手ぇ出してみろ、絶対、ぜ~ったいに許さないんだからね‼」


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