ロリコンヒーロー 雷桜見参 ②
飛来してきた金属片を振り向きざまに手刀で叩き落とす。
「不意打ちとは、随分と落ちぶれたもんだね、将軍さん」
「すみませんねぇ、こうなってはもう、なりふり構っていられないのですよ!」
グノーディア将軍の腕や足から、装甲部分の金属片が次々とパージしては、手裏剣の様に飛来してくる。そして、彼の体はちぎれた部分から次々と再生していった。その度に、胸の神武が光輝いている。
おそらく、ナノマシンを最大出力で起動させているんだろう。再生能力を持つ彼だからこそ出来る力技である。それでも……。
「そんなの、何度やっても当たらないよ!」
だが、所詮は金属片。雷桜は動体視力も強化してくれてるみたいなので、今の私にとって脅威にすらならない。軽々と、金属片を撃ち落としていく。
「こうなれば、奥の手を使わせて頂きます……!」
奥の手って、コイツまだ何か隠し持ってたの⁉
「グ、グォォォォォォォッ!」
胸の神武に手を当て、エネルギーを充填している。
「ハッ!」
「う、腕増えた⁉ 増えちゃったよ、生やしちゃったよ!」
そう、グノーディアはナノマシンで腕を形成し、手が四つになっていた。その全ての手には、これもナノマシンで形成した剣が握られている。二刀流ならぬ、四刀流だ。手首をクルクルと回し、剣を回転させながら迫って来る。
さて、どうしようかなぁ。多分、全力で頭を潰せば彼を倒せるんだけど、それだと後味が悪い。彼だって、元々この世界の平和の為に戦っているみたいだし、悪人でも無い。それでも、戦わないと私が殺されちゃう。
やっぱ、やるしかないのかなぁ。でもさ、人殺しは、嫌だなぁ。
「怜奈さん、胸の宝石を狙って下さい。アレを壊せば、殺さずに無力化出来るはずです。神武は神武でしか破壊できませんが、今の怜奈さんなら、出来るはずです!」
「了解。アレを壊せばいいんだね。ありがと、シェリーちゃん」
後ろで避難していたシェリーちゃんのアドバイスを聞いて、方針が定まった。彼の神武めがけて、全力でぶっ放せばいいんだね。それなら、軽いもんだよ。
気合を入れると、頭にイメージが浮かび上がってきた。体に流れる電気を腕に込める、そんなイメージが。
「あらら、ホントビリビリになってるよ」
右腕に、青い稲妻が纏っていた。体にも、今まで以上の力がみなぎっている。
「おりゃあぁぁぁぁぁぁ!」
稲妻を纏って、剣を構えるグノーディアめがけて突撃する。
莫大なエネルギーを纏って、全身の装甲が、青白く輝いている。
足のバーニアが噴き出し、一気に加速していく。
眼前のグノーディアは、その急加速にも対応し、素早く剣で斬りつけてきた。
それでも、私は止まらない。全身全霊の一撃を、胸の神武に向けて叩きこむ。
「龍鳳、雷撃破ァァァァ!」
「グォォォォォォォ!」
必殺の右パンチが、四つの剣もろとも彼の神武を砕いた。機械の将軍は、空高く舞い上がり、派手な音を立てて、地面に激突。今度こそ、戦闘不能のはず。
事実、奴はどうにか起き上がったが、全身から火花を散らせて、今にも爆散しそうだった。
「龍鳳、雷撃破……み、見事です」
「ま、とっさの思い付きだけど、ただ殴るだけじゃあ味気無いしね」
「いえいえ、中々にいいセンスですよ。名前負けしない、凄まじい一撃でした」
彼はそんな時だというのに、しゃべるのを止めなかった。自分を倒した相手に、惜しみない称賛を送っている。
だから、私も答える義務がある。名前だけでも、名乗らなくちゃ。
「お嬢さんじゃあ無くって、怜奈……星井怜奈よ。グノーディア将軍さん」
「ホシ、イ……レ、イナ」
殺されかけた相手に対して名乗るなんて、考えてもみればおかしな話だけど、それでも構わなかった。それは、多分彼が悪人じゃあ無いからだと思う。
この人はきっと、自分の使命に一生懸命だっただけなんだよ。
「レイナ!」
「うひゃあっ⁉」
突然大声で呼びかけられて、変な声出しちゃった。
「び、ビックリさせないでよ、もう」
「聞きなさい! 貴方は私を倒した、倒してしまった。きっと、奴が目覚める事になるでしょうね。アレは、私の様に優しくはありません」
私、一応殺されかけたんだけど……。次の相手はそれを含めて、恐ろしいって事なんだろうけどさぁ。なんだかなぁ。
「守って、みなさい! 幼女達を、全力で!」
血を吐く様な、余力を全て振り絞った男の叫びが鳴り響く。
「私はロリコンよ! 幼女達は、全力で守り通してみせる!」
私は女だけど、その心意気は十分伝わったよ、グノーディア将軍。
「そして、貴方もね」
「ええ、人間は、15歳以下は受け付けられませんので」
最後にそう言い残し、グノーディア将軍は火花を散らして爆散した。顔には出ないけど、きっと笑っていたと思う。
頭部が、地面を転がっていく。それを確認して、ようやく勝利した事を確信する。
「か、勝った、ん、だね、ははは。最初にしちゃ、いきなり強すぎるよ、もう」
緊張の糸が切れたんだろう。疲労も重なって、意識が急速に失われていく。
まぁ、無理も無いよね。今まで、修羅場は結構くぐり抜けてきたけど、命のやり取りなんてのは初めてだったしさ。
「老いたとはいえ、グノーディアを退けたのは、驚嘆に値する。流石は、雷桜と言っておこうか」
「!」
ホッとしたのも束の間。突如として、仮面を付けた大柄の男が現れた。
しかも、目の前まで接近されたというのに、全く気が付かなかった。今も、殺気を消しているのか、ボーとしてたら認識できなくなりそうだ。
だが、気配を、殺気を消しているという事は、やる気満々で攻められるよりも神経をやられる。なんせ、相手の動きが読めないし、動きや距離感も全くつかめない。気が付いたら、目と鼻の先まで急接近されかねないんだよね。
ただでさえ意識がもうろうなのに、正直勘弁してよ……。今にもぶっ倒れそうなのに、もうこんな強そうなのと戦う気力なんて、残ってないよ。
「心配するな。君と戦う意図はない。ただ、挨拶しようと思ってな」
「あい、さつ?」
挨拶って事は、敵対する気は無いって事なんだろうけど……なんだかなぁ。
「そーんな、悪役っぽい恰好で言われても、信じる気になれないんですけど」
「これは手厳しい。私なりに、この装いは気に入っていてるのだがな」
仮面に赤と黒の鎧に深紅のマントって、どんな厨二ファッションだよ。いや、厨二ってレベルじゃないよ。アニメやマンガじゃカッコいいけど、リアルで着込んでる人みると、結構引くよ。コスプレだよね、それ絶対コスプレだよね。
私だって、自作のヒーロースーツ着てるけど、出来るだけ厨二臭はしないように、あえて子供っぽく作ってんのに、この人のガチだよ。ガチで、カッコいいと思って衣装作り込んでるよ。
「聞きたい事があるんだけど、その恰好――」
「そうだな、まずは、自己紹介といこうか」
いや、話聞けよ。勝手に進めてんじゃねえよ。自信あんのか、そのファッション、そんなにカッコいいと思ってんのか。
「我が名は、アース。地球の守り手にして、この愛しきアールヴを作り上げた男だと言っておこう」
「アールヴを……作った⁉」
「左様。争いを止めぬ人類に見切りをつけ、新たな星の担い手として、幼女を選んだのだ。あれ程平和で優しい命もないからな」
仮面の男は、よどみなく言い切った。自分が、このロリまみれの世界を作り上げた張本人であると。
って事は、この男もグノーディア将軍と同じく、数百年は生きている。多分、彼と同じく機械人間か、M3君みたいなロボットのどっちかだろう。
「で、その創造主とやらが、私にどんなご用件で。場合によっちゃ、手加減しないよ」
腕を鳴らしながら睨み付けて、威嚇行動に入る。というのも、ホントは今にも倒れそうだけど、ソレを悟られては一気に攻め込まれる。ハッタリでもいいから、時間を稼ぐなり帰って貰わないと、確実に敗ける。
「言っただろう、戦う意思は無いと。手負いの虎を討った所で、なんの自慢にもならんしな。無理はするな、今はゆっくり休むといい」
「う、うるさい! 余計なお世話って奴だよ!」
だが、私の浅知恵などお見通しだったみたいだ。むしろ、気遣われる始末で、なんだか恥ずかしくなっちゃったよ。
「私はお前を買っているのだ。勇者とは、力が強いのではなく、弱さを乗り越えられる魂の強さを持った者の事を言う。その点、怜奈。幼女の為にグノーディアに向かっていったその姿、見事であった」
「それは……どうもありがと」
なんか、この仮面の男は、えらい私を買ってくれてるみたい。勇者とか言ってるしさ。なんつーか、ヒーローを自負してたけど、人から称賛される事ってあんま無かったから、ちょっとこそばゆいなぁ。
「故に、ぜひ同士になってもらいたい。おぬしには、勇者の資質と高潔なロリコン魂がある」
「つまり、仲間になれって事?」
「今すぐでなくともよい。色よい返事を、期待しているぞ」
最後にそう言い残し、仮面の男、アースは視界から消えていった。どうやら、とりあえずは帰ってくれたみたいだ。
「あ、もう限界かも。一日に三回も気絶かぁ。そんな奴、他にあるかなぁ……」
グノーディアを倒して、仮面の男の気迫に当てられた。もう、体力と気力の限界だよ。
あ、いつの間にか変身も解除されちゃってる。雷桜はヒーロースーツと同化したから、下着姿になっちゃったけど、いいや。
「どうせ、男なんかいないしさ。見られたって、どうという事は無いよ」
開き直ると、自分が下着姿なのがどうでもよくなった。そのまま、ゆっくりと眠るように、私の意識は薄れていった。




