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ロリコンヒーロー 雷桜見参 ①

「う~ん、なんか、変な感覚だなぁ。力はみなぎってるんだけど、さぁ


 手をグーパーしたり、足首を回してみたりと、簡単な準備運動で感触を確かめる。

 体調は、すこぶる快調。むしろ、良すぎて怖いぐらいだ。全身隅々まで、途方もない力が巡っているのを、感じる。


「こうなっては仕方が無い。慣れる前に、一気に終わらせて頂きます!」


 グノーディアが、武器を構えて突っ込んできた。どうやら、私が雷桜とやらに慣れる前に終わらせる腹積りらしい。


「上等! やれるもんなら、やってみなさいよね!」


 逃げ回るのは性に合わない。正面突破でぶち抜いてやる。

 地面を強く蹴り、全力でダッシュッ!


 ドゴォォン!


「へ……?」


 踏み込んだ地面は、衝撃で大きくえぐれ、クレーター状になっていた。

 踏み込んだだけでこの衝撃。当然、前に走ろうとしたため、体は正面に吹っ飛んでいく。


「おわわわわわわわわわっ! 止まって、止まってぇぇぇぇぇぇぇ!」


 グノーディアを飛び越え、遥か彼方まで飛び込んでいく。幾度もブレーキをかけようとするが、制御できないせいで、勢いは全く収まらない。


 例えるなら、自転車にジェットエンジンを付けた様な感じ。勢いだけは凄まじいけど、ブレーキが弱すぎて、全く止まる気配が無い。


 それでも一応は、私の体だ。少しずつではあるが、感覚に慣れて来た。スピードも、ちょっとずつだけど、収まってきている。


 走っていると、前方に、家が建ち並ぶ住宅街が見えて来た。でも大丈夫、このペースなら、激突する前に止められそう。


 だが、現実は非情なり。横の公園から、突然ボールを持った幼女が飛び出してきた!


 しまった、住宅街が近いのなら、ここら一帯は幼女の遊び場だ! こういうハプニングも、あって当然!


「あぶなぁい! 避けて、避けてぇぇ!」

「え……」


 ダメだ。呆然としちゃっている。このままじゃあ、彼女に正面衝突しちゃうよ。減速したとは言え、未だに時速三十キロぐらいのスピードだ。ぶつかれば、怪我では済まされない。


「ええい、ままよ。どうにでもなれぇぇぇ!」


 激突の間際。今一度全力で地面を蹴った。衝突はギリギリ回避出来たけど、今度は縦方向に飛んだせいで、体は空高く吹っ飛んでいく。


 前方に、高層ビルが飛び込んできた。ダメだ、今度は空中だから、躱しようが無い!


「おぶっ!」


 結局、壁に激突。そのまま窓を突き破って、内部になだれ込んだ。


 内部は、誰かの子供部屋だったみたい。ぬいぐるみやらが並ぶ、ファンシーな子供部屋だ。

 ってことは、ココは高層アパートで、誰かのお部屋みたい。


「ははは、お、お邪魔します」

 ダイナミックなお邪魔しますだなぁ……ってそんな場合じゃないよ! ここの住人に見つかる前に、速く脱出しないと!


「お、お姉ちゃん?入るなら、玄関からだよ」

「ごめんなさい……ってフェルトちゃん⁉ ここって、フェルトちゃんの部屋だったの!」


 なんという偶然。たまたま飛び込んだ所が、今朝公園で会ったフェルトちゃんの子供部屋だったのだ!  凄いよ、運命感じちゃうよ! ドキドキしてきたよ!


「ええっと、フェルトちゃん。今一人? お母さんは?」

「お買い物行ってるよ。多分、そろそろ戻って来ると思うけど」


 だったら、あんまり時間が無いね。流石に、窓を突き破って侵入したとあらば、もうどうやってもいい訳つかない。厄介な事になる前に、退散しよう。


 そう思ってたのだが、彼女の部屋にある子供用のドレッサー。そこの鏡に映り込んだ影を見て、そうも言ってられなくなった。


「そっか、ありがとう。でもゴメンね。お姉さん、ちょっとお邪魔する事になりそうなんだ。危ないから、下がっててもらえる?」

「へ……?」


 彼女の真後ろ。そこにある鏡には、バイクみたいな飛行機で飛び込んでくるグノーディアが映っていた。


「やっぱ追いかけて来たね。まさか、そんなおっかないモノで乗り入れてくるとは、思わなかったけど」

「ええ。貴方は、確実に仕留めなければなりませんからね」


 バイクには、機銃とかミサイルとか積んであったけど、フェルトちゃんがいたからだろう。降りて、単身部屋に乗り込んできた。手には剣と、ティスちゃんの斬花が握られている。


 今度は、子供部屋で第二ラウンド。双方構えを取り、戦闘態勢に入る。


「何かよく分かんないけど、お姉ちゃんガンバレ! 悪者をやっつけちゃえ!」


 こんな格好をしているためか、フェルトちゃん。私をヒーローだと勘違いしたみたい。

 でも、嬉しい勘違い。幼女の声援は、ロリコンにとって最高のエールだよ!


「幼女百倍ッ! そんなもの、当たるかァァァァ!」

 左腕から突き出された光の槍を、体を半回転して躱した。そのまま、左腕に手刀を叩きこむ。

 鋼鉄の腕は、バターでも斬るように、あっさりと両断された。今の私なら、間違いなくコイツの腹をも蹴り破れるだろう。


「グヌォォォ!」


 残った右腕から、剣が迫って来る。


「当たらないって、言ったでしょう!」


 接近して距離を詰めた後、右手の手首を狙って、裏拳を放つ。持っている剣ごと、彼の右手はバラバラになった。


「どりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そして、右腕で顔面に向かって、全身全霊のストレート。グノーディアは、地面に向けて、勢いよく吹っ飛んでいった。見下ろすと、金属の体が地面に転がっていくのが見える。


「方角から見て、元いた場所に戻ったみたい……だったら、シェリーちゃんが危ない!」


 地面に転がる腕から、ティスちゃんの斬花を回収。多分落ちても大丈夫だろうし、入った所から、帰らせて頂こう。


「お姉ちゃん!」

「ん? どうしたの、フェルトちゃん?」

「カッコ良かったよ、すっごく! ママは偽物だって言ってたけど、ホントにヒーローさんだったんだね!」

「……当然でしょ! 正義のヒーロー。サンダー・ドラゴン改め、雷桜を今後ともよろしく!」


 エールを背に、私は駆けだした。空高く舞い上がり、数十メートルの高さから地面に着地したけど、壊れたのは地面だけで、足はなんともなかった。改めて、手にした力の途方も無さを思い知る。


「あ、貴方は今朝の……というか、い、今さっき空から落ちてきて」

「あ、お邪魔しました」


 着地点の傍に、買い物袋を抱えたフェルトちゃんママがいたので、とりあえず挨拶。そんでもって、一気に駆け出した。


「よし、だんだん慣れてきたぞ。注意さえすれば、振り回される事もなさそうだね。にしても、覚えるの速すぎて、ちょっと怖いぐらいだよ」


 不思議な事に、少し動いただけで体が覚えてしまっていた。さっきまで、まるで力の制御が出来なかったのに、今ではまるで全身がロードバイクになったみたいに、地面を蹴り砕きながら、軽々と駆け出せる。数秒で、元いた地点に戻っていた。


「ティスちゃん、起きれる? 眠たかったら、寝ていいよ。後は私が何とかするから」

「よ、良くないわよ。アンタにバッカ、迷惑かけられないからね」

「だからって、強心剤で無理に起きなくても……」

「そうも言ってられないわよ! 斬花持ってかれて、寝てなんていられる訳無いじゃない!」


 さっきまでいた場所に戻ると、ティスちゃんがどうにか起き上がっていた。麻酔銃を打ち込まれたって言ってたけど、中々にタフだなぁ、この娘。

 でも、フラフラで今にも倒れそうだし、ちょっと無理し過ぎなんじゃないのかなぁ。

 それに、斬花はさっき私が取り返したしね。だから貴方が無理する必要なんて、どこにも無いんだよ。


「ただいま、ティスちゃん。落とし物だよ」

「あ、アンタ⁉ それに、その恰好……?」

「まぁ、そんな事はどうだっていいじゃない。それより、さ。大事なモノなんでしょう。ちゃーんと取り返しといたから、さ。後は全部、お姉ちゃんに任せなさいっ!」

「誰が、お姉ちゃんよ。それでも、あ、ありがとう。おかげで――」


 安心したからなのか、ティスちゃん。ぱたんと寝込んじゃったよ。それでも、手にした斬花を掴んで離さない。抱きこんだまま、眠っている。

 よっぽど大事なモノだったんだね。取り返せて、良かったよ。


「怜奈さん。バラバラになっちゃいましたけど、L2ちゃんなら無事ですよ。回収した頭部のAI部分は奇跡的に無傷でしたので、時間はかかりますが、修理すればどうにか元通りになります」

「そうなんだ。ありがとね、シェリーちゃん」

「いえいえ、こちらこそ。お世話になりっぱなしですよ」


 シェリーちゃん曰く、L2ちゃんも無事みたい。とりあえずは、一安心だよ。

 ってか、体も頭もバラバラになって、それでも無事なアンドロイドって、ホントにタフなんだねぇ……。


ホッとしていたら、風切る音と、金属片が飛来してきた。

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