機械将軍グノーディア ①
現れたのは、機械の体をしたM3君達とは別のロボットだった。
M3君達と同じく、2メートル近い金属の体なのだが、見るからに格が違う。背中にマントをたなびかせ、装甲も分厚く要所要所をびっしりと覆われている。胸元には、何やら大粒の蒼い宝石みたいなモノが埋め込まれている。
口ぶりも、大人で紳士的。人間でいうならば、上流階級の貴族や、騎士の隊長さんみたいだ。頭部も、騎士の兜みたいな形状をしているしね。隙間から、カメラの光が漏れ出ている。
「グノーディア……厄介なのが出た」
「L2ちゃん、あの見るからにボスっぽいの、知ってるの?」
L2ちゃんが緊迫した様子で呟く。どうやら、今の私達にとって好ましくない相手みたいだ。
「アレは、元人間のロボットで、最初のマスターの友人だった男」
「も、元人間さん⁉」
「そう。だから頭部には、AIでは無く脳が詰まっている。アールヴが生まれる前から、もう何百年もあの姿のまま。だから、力量はさっきの素人連中と比べものにならない」
「よく分かんないけど、強敵って事だよね!」
「……まぁ、その通り。ティス氏では、まず敵わない」
そっか~。つまりは、ティスちゃん、大ピンチだって事だね。だったら、そろそろ準備しとかないと。
「おや、そこにいるのは、L2じゃあないですか。いないと思ってたら、こんな所にいたんですね。会いたかったですよ」
「私は、会いたくなかった。少なくとも、彼女達とは会わせたくなかった」
グノーディアも、こっちに、というかL2ちゃんに気付いた。口ぶりから、どうやら二人は顔見知りみたい。
まぁ、L2ちゃんは嫌そうな感じだけどね。将軍も、ほとんどお世辞だったみたいで、肩をすくめて、微笑? を浮かべている。まぁ、ロボットだから良く分かんないけどね。
「L2ちゃん、シェリーちゃん。ゴメン、ちょっと行ってくる!」
「れ、怜奈さん? 行くって、何処へ?」
「準備……。貴方、まさか」
「そのまさかだよ!」
急いで、先ほどまでいたリビングに直行。私の荷物は……。
「あった! 服も、ちゃんと残ってる。これなら、いける!」
大急ぎで、衣装を着こむ。ブーツを履いて、バイザー被って、完了。
「これで、良しっと。ティスちゃん、シェリーちゃん、L2ちゃん。待ってて、今行くよ!」
ダッシュで、玄関まで駆けだし、外に出る。お願い、シェリーちゃん達、無事でいて!
「わわわわわ、これ、何かべとべとするぅ~!」
「……不愉快」
「ちょ、ちょっと。引っ張んないでよ! 痛いじゃない!」
眼前に飛び込んできたのは、ネットに包まれ、苦しそうにもがいている皆の姿だった。
「ご、ゴメンね。鎮圧用ネットは、何故だかそういう仕様なんだよ。本部に着いたらとってあげるから、我慢してね」
「全く、威勢のいいお嬢さんですね。もう少し、おとなしくしていただきたいものです」
M3君や、グノーディアが、ネットを引っ張って連行しようとしている。このままでは、彼女達がさらわれちゃうよ!
「私の、ロリに、手ぇ出してんじゃねぇぇぇぇ!」
「ゴギュッ!」
とりあえず、身近にいたM3君の頭部めがけて、全力の飛び蹴りをお見舞いしてやった。そんな乱暴にしちゃダメでしょ! 幼女の扱いが、なってないなぁ、もうっ!
「お待たせ! 正義のヒーロー、サンダー・ドラゴン。ここに参上! 幼女をいじめる奴は、誰であろうと、私が討つ!」
よし、決まった。ヒーロー、ここに参上なり!
「あ、それってさっきまで着ていた、ヘンテコな」
「ってか、一々着替える暇があったら、早く助けなさいよ。捕まっちゃったじゃない!」
「着替える必要を、認めない。その行為には、何の意味も無い」
もう、皆分かってないなぁ。ヒーローってのは、遅れてやって来るもんなんだよ。
「おや、そう言えば、もう一名いましたね。どこのアンドロイドかは知らないですが、中々高性能なようだ。油断は、禁物です。行きますよ、M3」
「aruijdyiiisaoないtuhyijaou@dsuo」
「……今の衝撃で、AIがやられましたか。まぁ初めてにしては、頑張った方でしょう」
「当然! この飛び蹴りで、どれだけの悪党を懲らしめたと思ってんのよ!」
「……ほう。勇ましい事ですが、ヒーローごっこは恰好だけにされた方がよろしいですよ。さもないと、怪我じゃあ済まなくなる」
グノーディアが腰から二本のサーベルを取り出し、二刀流の構えをとる。口調は紳士的だけど、流石は元人間といった所で、M3君達には感じなかった、人間の殺気を感じる。
サーベルからは、ティスちゃんの斬花と同じ様に、光がほとばしっている。多分、人間の私が触れただけで、大火傷するだろう。いや、火傷じゃあ済まないのかも知れない。
「おりゃあ! あーもう、うっとおしい!」
ティスちゃんが、絡みつくネットを手にした武器で切り裂いた。槍を構え、加勢に入る。
「ったく、素手であんなのに勝てる訳無いじゃない! 助太刀するから、死なない程度に頑張りなさい!」
「やだ、ティスちゃん。心配してくれるの? 早くも、デレ期が来た?」
「……どうやら、まずアンタから切り刻む必要がありそうね」
睨んじゃ、やだぁ。ゾクゾクしちゃうじゃない。フヘへへ。
「二人掛かりですか。アンドロイドの方は、頭部に気を付ければ問題ないですが、ティス女史は厄介ですね。神武持ちですし、何より傷つける訳にもいかない。大人として、子供を叱らなければいけませんしね」
あ、やっぱ私ロボット扱いなんだ。って事は、躊躇なくあの剣で斬りつけてくるんだろうなぁ。
流石に、ちょっと怖いかな。ナイフならともかく、あんな大振りの得物相手にした事ないし。しかも、あの将軍さん、軽々と振り回してるしさ。絶対、とんでもなく強いよ。
「何よ、震えてるじゃない。邪魔だから、とっとと下がってなさい」
そういう、ティスちゃんだって、斬花を持つ手が震えていた。彼女なりに、恐怖を押し殺しているのだ。その上で、私に気遣ってくれた。
ホントは、怖くて怖くて、泣き出したいんだろうにね。
「怖いのは、お互いさまでしょ。心配してくれたのね、ありがとう」
「な、何よ! いきなり真顔で、礼なんか言ってんじゃないわよ!」
「あ、照れちゃってぇ~可愛いなぁ、もう」
ま、おかげで緊張も解けたし、この健気なナイト様の為に、頑張らせて頂きますか!
「そろそろ、構いませんか。いい加減、待つのも焦れてきました」
「あはは、ゴメンね。待っててくれたんでしょ、ティスちゃんが落ち着くのを」
だっておかしいもん。この人、やろうと思えば、いくらでもチャンスあったわけだし。
「さぁ……何の事でしょうか。そんな感傷、体と共に置いてきましたよ」
「にしては、お優しい事ですねぇ、将軍さん」
やっぱこの将軍さん。正真正銘の人間、それも相当高潔な人だ。
だから、強敵なんだろうなぁ。強い奴には弱くて、弱い奴には強い小物タイプだったら、慢心からくる隙だらけで、いくらでもやりようがあるけど、そうもいかないみたい。
アレは、相手が誰であろうと、敬意を持って一部の隙も無く戦うタイプだろう。そういう奴を相手どるなら……。
「全身全霊。一直線にぶつかるのみ!」
眼前の敵に向けて、一直線にダッシュ。駆け足で剣の届かない間合いまで、一気に距離を詰めるのみ!
だがグノーディアは、間合いを見切って、私のスピードに合わせて、左腕の剣を振り下ろしてくる。眼前に、炎熱した剣が飛び込んでくる。
正直言って怖いけど、だからって止まってられない。ここでブレーキをかけたら、今度は向こうから斬りかかってくるだろう。そうなったら、あの剣を防ぐ術は無い。
だったら……。
「威勢は認めますが、その程度の速さ――」
「じゃあ、無いんだよ!」
眼前で地面を強く蹴り、垂直に跳躍。一気に距離を詰める。
「なっ!」
予想以上の速さで間合いに入られたグノーディアだけど、瞬時に思考を切り替えたのか、斬りつけるのを諦め、頭部めがけて持ち手で打ち付けにかかった。
「そぉい!」
ハンマーの様に振り下ろしてくる左腕の手首を掴み、どうにか持ちこたえる。
「ぐ、ぐぅぅぅぅ!」
だが、相手はやっぱり機械の体。全身の筋肉を総動員して、どうにか持ちこたえているけど、一瞬でも気を抜いたら、そのまま地面に押し潰されそうだ。
それでも、どうにか持ちこたえる私に業を煮やしたのか、グノーディアが空いた右腕の剣で、斬りつけにかかる。このままでは、私の胴は真っ二つだ。
でもね。一人だったら、ここでおしまいだったけど、今は違うんだよね。
「お願い、ティスちゃん!」
「何勝手に信用してんのよ、このバカぁ!」
そう、今の私にはティスちゃんという、心強い幼女がいる。恐怖を乗り越えられる勇気を持った幼女なら、信頼してもいいと思う。
「させませんよ!」
「そっちこそ!」
「⁉」
ティスちゃんに気付いたグノーディアは、意識が彼女に向いたため、私に乗せる力を弱めた。そのため、体に余裕が出来たので、右足で胴蹴りを放つ。
「い、痛ぁいい」
正直言って全然効いてなかったし、足超痛いんだけど、意表はつけたみたい。隙を作るぐらいにはなった。
そしてその隙を、ティスちゃんは見逃さない。
「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女の子が出しちゃいけない声を上げて、全力で飛び込んだティスちゃんが、手にした斬花で突撃する。グノーディアも、この体勢では避けようが無かったのだろう。斬花が、彼の右腕を両断した。飛び込んだ勢いのまま、後ろを取って間合いを確保する。
「ほほう。そういう手筈でしたか。貴方も無茶をする」
「違う、信頼だよ! ティスちゃんなら、やってくれると信じてたから!」
「……本当に無茶な方ですね、貴方は」
斬られた右腕が、手に剣を持ったまま宙に浮く様を見たにも関わらず、グノーディアは、平静そのものだった。残った左腕に力を込めながらも、落ち着いた雰囲気で話しかけてくる。
やっぱ、元人間とはいえ、機械の体なのかなぁ。斬られた右腕からも、血じゃ無くて、グレーの液体が流れ出てたし。
「そいつ押さえときなさい! 一気にとどめを刺してやるんだから!」
後ろに下がったティスちゃんが、槍を突き出す様に構え、突進してくる。急所に突き刺して、一気にとどめを刺す気みたい。
「それは、困りますね。他はともかく、頭部は代えが替えが利きませんので。その為、いい加減離して頂けませんか、お嬢さん」
「嫌だね。私、ロリコンだもん!」
「私もですよ。ですがアレは、生きていてこそ、愛でられるモノでしてね!」
グノーディアは残った左腕でティスちゃんに対抗するため、まずは手首にしがみつく私を払いにかかった。それでも、彼女の信頼に答える為に、何が何でも離すもんか!
振り回されてく内に、私の両手が彼の武器に触れた。振り落とされない様に、剣の柄の部分を強く握る。
瞬間、彼の剣が纏ってた光が何倍にも膨れ上がった。まるで、私に共鳴しているみたいに。
「え……」
「⁉」




