機械将軍グノーディア ②
やがて剣事態が熱量に耐えられなくなったのか、音を立てて爆散した。爆発の勢いで、私は彼の手首ごと吹き飛ばされる。
地面にしたたかに叩きつけられ、体中が悲鳴を上げている。その上、爆発の衝撃で両方の手のひらが火傷したみたいだ。ヒリヒリして地味に痛い。
それでも、何とか立ち上がれそうだ。痛む体にむち打ち、涙目でどうにか立ち上がる。
「火傷、涙、血液。そうですか、読めてきましたよ。L2氏の意図がね」
グノーディアが、私の全身を舐め回す様に観察しながら、ブツブツ呟いてる。さっきまでの紳士的な態度からは、考えられない程に気持ちが悪い。
「ちょ、ちょっとアンタ、大怪我してるじゃない!」
「ははは、大丈夫だよ。この位の怪我なら、何度か経験あるしさ」
ティスちゃんが、とどめを刺すのも忘れて、近寄って来る。それだけ、心配してくれてるんだね。やっぱこの子、優しいいい子だよ。
「後は私が何とかするから、アンタは下がってなさい」
「ははは。そうだね、お願いしよ――ティスちゃん、危ない⁉」
いつの間に、グノーディアがティスちゃんの背後に接近していた。
「これは、子供には過ぎたおもちゃです。よって、没収させて頂きますね」
彼は、右手で斬花を掴むと、一気にもぎ取った。彼女の力では、抵抗のしようも無かったのだろう。あっけなく私らの切り札は敵の手に渡ってしまった。
「か、返しなさい! それは私の大切な、シェリーの友情の証なんだから!」
ティスちゃんにとって、斬花は単なる武器以上に思い入れのあるみたい。必死に取り返そうとするが、悲しいかな。身長差がありすぎて、どんなに飛び上がっても彼の右手には届かない。まるで、大人が子供のおもちゃを取り上げているみたいだ。
「すみません。今は貴方に構っていられないんですよ。子供は、お昼寝の時間です」
そう言うと、彼は左手で、腰に付けてた銃を手にし、何のためらいも無く、ティスちゃんを撃った。
「ティ、ティスちゃん⁉ あ、貴方ねぇ……!」
「大丈夫ですよ。これは麻酔銃の様なものです。ほら、よく見てください。すやすやと、可愛らしく眠っているでしょう。彼女は、傷つける訳のはいきませんからね」
あ、ホントだ。ティスちゃん、倒れちゃってるけど、眠っているだけで怪我一つない。
良かった。とりあえずは、一安心だよ。
「ですが、貴方は別です」
「あがっ!」
ティスちゃんに気を取られている隙に、グノーディアが私の首根っこを掴んできた。そのまま、宙に持ち上げられる。
そして、勢いよく投げつけられた。まるで、ゴミを投げつけるみたいに。
地面に強く叩きつけられ、骨がさらに強く軋む。まるで、中からハンマーで叩かれているみたいだ。多分、何本か折れちゃってると思う。
「すみませんねぇ。もし貴方が十五歳以下なら、もう少し手加減したのですが、残念ながら、貴方は私の守備範囲外です。人間は、それを過ぎると急速に劣化しますからね。ババアは、死んで頂きます」
彼は、悪びれもせず、いつの間にか回収した剣を左手に持ち替え、右手にティスちゃんの斬花を握り、こっちに向かってくる。この二つに斬りかかられたら、もう避ける術は無い。
どうやら、ここまでみたいだね。シェリーちゃん達は、大丈夫かなぁ。
「速く、速く切るのです!」
「今、やっている。私の装備が軍事用では無いから、これを切るのは時間がかかる」
L2ちゃんは、手からカッターみたいなモノを取り出して、必死にネットを切断していた。良かった、どうやら自分で何とか出来るみたい。
そうと分かれば、やる事は決まってる。少しでも、時間を稼がなくちゃね。
「そういや、なーんでまた斬ったはずの手が再生してんのかな?」
そうそう。考える余裕が出来たから気が付いたけど、斬ったはずの腕が再生しているのは、おかしな話だ。こっそりと、予備でも付け替えたのだろうか。
「……まぁ、いいでしょう。最後ですし、講釈して差し上げますか」
どうやら、向こうも乗って来たみたい。意気揚々と、訳を話し始めた。
「貴方、神武というのはどういうモノなのか、ご存知ですか?」
「神、武?」
そう、神武。ティスちゃんが持ってて、M1君が言ってた名前。でも何で、今それが出てくるのだろうか。
「ええ、神武です。そもそもの始まりは、西暦2258年の惑星探査船が、とある惑星から見つけた特殊な鉱石でした。それは、サイズ次第で、核融合炉以上のエネルギーを無限大に生み出したのです。それは採取した惑星から、ゼストリウムと名付けられました」
「それは、また、とんでもないなぁ、ははは」
核融合炉以上? 無限大? 未来人は、とんでもないモノを見つけちゃったんだね。
「ですが、問題はエネルギーの抽出にありました。エネルギーが莫大過ぎて、抽出の際に歯止めがかからず、オーバーロードしてしまうのです。その為、実験失敗によりいくつもの国が失われました。地球環境も、深刻な被害をこうむりました」
まるで、見て来たかのように、グノーディアが沈痛な声色で呟く。いや、もしかしたら本当に見て来たのかもしれない。彼、機械の体で何百年も生きてきたみたいだしね。
「それでも人類は、諦めませんでした。どうにかして、ゼストリウムを利用しようと考えたのです。そうして、半世紀に渡る研究の末、それを成し遂げました。驚く事に、鍵となったのは、人類そのものだったんです」
「って事は、人が直接制御したって事⁉」
「ええ、その通りです。人間の、感情、気功。そういったモノを調整する能力を、ゼストリウムの調整に利用する技術を、人類は発明しました。ソレは、人間が常に直接、ゼストリウムに接し接していなければならなかったため、剣や槍、銃といったモノが、再び兵器に返り咲く事となったのです。そうした兵器の総称を,神武といいます」
つまりは、人の感情や気功で、とんでもエネルギーを調整したって訳ね。それでもって。
「神武と、それを扱う人間の奪い合い。戦争が起こったと。ま、こんな感じでしょ」
「ええ。ですので、我々は人類を滅ぼし、アールヴを作り上げたのです。悪意も、強い闘争心も持たないそんな生命体をね。まぁ、このお嬢さんは特異体でしたが、それでも人間の業には及びませんね。おそらく、性能の半分も引き出せていないでしょう」
そういって、ティスちゃんを見下ろす。L2ちゃんが言ってた特別って、そういう意味だったのね。
「あ、最初の質問に答えていませんでしたね。私の神武は胸に埋め込まれているコレです。内部にゼストリウムが埋め込まれており、搭載されているナノマシンの働きを、超速で活性化させるのです。ですので、全身バラバラになっても、すぐに元通りになるんですよ。名前は、もう忘れてしまいましたがね」
あ、だから腕を斬られても平然としてたんだね。すぐ再生するなんて、トカゲのしっぽ切りみたいだなぁ。それでも……。
「貴方も、人間だもんね。見えないけど」
「ええ、人間です。見えませんがね」
自分でも自虐するかのように、グノーディアが呟く。ひとしきり笑った後、今さっき奪った神武の鑑定を始めた。
「中々の一品です。手入れも、行き届いている。この時代に、ここまで保存状態のいい神武は稀でしょうね」
ティスちゃんの斬花を手で撫でまわし、称賛するかのように呟く。
「正直言って、貴方がコレを持たなくて助かりましたよ。この場において、誰よりも適正が強い。私は、既に人と呼べるモノではありませんからね。コイツも、精々生命維持とボディの再生程度にしか使えません」
そう言って、胸の宝石に手を当て、慈しむ様に撫でまわす。
「そういや、貴方の剣も壊しちゃったからね。多分アレも神武だろうけど、それだけ、私が規格外だってこと?」
「ええ、規格外です。万人に一人の才能でしょうね。引き出すエネルギーが強すぎて、量産品の入れ物では、簡単に砕けてしまいます。全く素晴らしいですよ、貴方は」
ははは、そりゃあ凄い。自分に特別な才能があるなんて、考えた事も無かったよ。世の中、分かんないもんだねぇ。
あ、いや。違う。私には、ロリコンっていう持って生まれた才能があったんだ。
「ですので、残念ながら処罰させて頂きます。貴方の存在は、この時代において災厄でしかありませんので」
斬花を起動させたグノーディアが、別れを告げてくる。数秒後、私は焼けこげちゃうだろうねぇ。それは、もういい。心残りがあるのなら、一つだけ。
「最後に頼みがあるんだけどさ。約束して貰えないかな?」
「はい。私に出来る事なら、何なりと」
「私はいいとして、ティスちゃん達には、危害は加えないで欲しいんだ」
「当然です。最初から、アールヴに手をかける意図はありませんよ」
「それと、彼女達の研究も、あんまり邪魔しないであげてね。子供の夢は、貴重なモノだからさ。私達、大人が邪魔しちゃだめだよ」
「……善処します」
前者は、おそらくは元々彼が意図していたもの。だから、確実に叶えてくれるだろう。
そして、後者は決して受け入れられないモノ。過去に行けるタイムマシンなんて、下手すりゃ世界そのものが壊れちゃうからね。社会を守る側として、許させるモノでもないだろう。
それでも、善処すると言ってくれた。それは、私に対して気を使ってくれたんだろうね。最後に安心できるように。だから、さ。
「ありがとう。それしか、言う事は無いよ」
「……さよならです。違う時代ならば、友になれたのかも、知れませんね」
「ホント、その通りだよ」
ホント、いい人だなぁ。グノーディア、貴方は紛れも無く、人間だったよ。
「では、お覚悟を」
「うん、そうだね」
グノーディアが、槍を突き出してくる。光と高熱を肌で感じなると、急に死の実感が沸いてきた。目を閉じて、見ない様に感じない様に努める。それでも、さ。
「やっぱ、死にたくは、ないかなぁ。ゴメンね、穂村ちゃん」
可愛い妹。血は繋がってないけど、私に、生きる理由を与えてくれた最高の幼女。届くはずもないけど、最後に、謝ろうか。
そうして、心の中で感謝の言葉を十通り程並べた所で、それだけの余裕がある事自体が、おかしい事に気づいた。アレ、何でまた、私生きてるんだろう?
「死にたくないのなら、速くいいなさい。全く、大馬鹿ですよ、貴方達は」
「L2……ちゃん?」
「き、貴様ぁ! 今更、何の真似だ!」




