苦しい…
サナは、一度待機室に戻った。
素早く鏡で化粧や髪をチェックする。すこしだけ化粧直しをして、スマホを開き真田にメールする。
「今日やばい。2時かも…ほんとごめんね。」
送信完了の文字を見て、サナは「はぁ」とため息が漏れる。またその原因があのお客様なのはなかなか気が重い。斎藤はほんとにラストまでいるのだろうか…。さっき掴まれた腕をみると、サナの白い肌はすこし赤くなっていた。(すぐ治るかな…)サナはすこし恨めしくなった。やがてスタッフリーダーの植田が待機室に入ってきた。
「マキちゃん、大丈夫か?一応、店のシステムは話してきたけど…。」
サナは小さく、ありがとうございますと礼を言った。サナは、手を押さえている。タオルで隠してはいるが…その様子をみて植田は
「今日は帰ってもいいよ。あとはなんとかしとくから」
と提案した。植田としても判断がしにくいところだった。嬢に手を上げたりしたのなら、鉄拳制裁の上、指名停止や出禁だが…。
「大丈夫です。あのお客さん、こういうとこに慣れていないだけだから」
サナは力なく言う。「そうか…一応気にしとくから」植田は、サナがそう言う以上仕方がないと思った。店もそうだが、嬢も客の指名をとるのに必死なのはわかっている。サナはとりえず、斎藤の前に他の指名をくれた席に行かなくてはならない。
「では、いきます。」
サナはそういうとまた、フロアへ戻っていった。
サナが斎藤の席へ戻ったのはそれから30分くらい経ってからだった。なんと斎藤はヘルプの娘がつくのを拒否し、一人で待っていたらしかった。
「だだいま〜、ごめんね。遅くなって」
サナは笑顔を頑張ってつくって斎藤の横にすわる。すると斎藤は頭を下げ
「ごめんね。僕…店のこと…あんま知らなくて。」
と謝った。サナとしては腕をつかんだことを謝ってほしかったのだが。
「ううん。しょうがないよ、慣れてない人はみんなそうだからね。」
サナは優しく言う。斎藤はあいかわらず緊張している様子だった。(空気が重い…)サナはちょっと気落ちしそうになるがなんとかテンションを自らあげる。斎藤は質問したことにしか答えないので、サナはあらゆる質問をぶつける。趣味、仕事、時事ネタ…だがなかなか合う話題がみつからない。
と、斎藤が珍しく自分から話しかけてきた。
「あの、さっき一人でいるときね。隣の人がアフターいこうよって女の子に言ってたけど…アフター…って?」
サナはその話を聞いてドキッとする。またなんて余計なことを聞いてんだこの人はと思ったが説明しないわけにはいかない。
「仲良くなったお客さんとかで、特に信用できる人と店を終わったあとに、食事や飲みにいったりすることだよ」
「…そうなんだ。そういう部屋かと思ったよ。」
「あはは、部屋か。あ、でも私は怖いから行ったことないけどね(嘘です!!!)」
サナは軽くジャブを打つ。斎藤は一瞬動きが止まった。(もしや誘う気だったのか?)とサナは呆れてしまったものだが。
そこからは段々会話がなくなった。お客とのコミュニケーションには自信があったサナだったが、ヘルプも拒否され斎藤自信がほとんど話さないので本気で苦しくなった。なにせ合う話が見つからない。たまに斎藤から話題が出ても「可愛いね」「美人だね」しか出てこないのでサナはもはや冗談も言えず、ありがとう…と静かに返答するしかなかった。挙げ句の果てに斎藤は本当に苦手なのかお酒にほとんど手をつけていない。職場放棄して寝てやろうかと思ったがそんなことをしたらスタッフリーダーの植田からメガトンパンチがとんでくるだろう。
1時になった。まだ斎藤は帰る気配すらみせない。
サナは一度「ちょっとごめんね…」といい席を立つと、待機室に向かった。急いで携帯を見る。
「気にすんな!満喫最高!!」
と真田からメールがきていた。思わず笑ってしまう。この人はなんでたった一文で私を笑わせるのだろうと思った。
「終わったらすぐ電話するね」
サナはそう返信すると、早く斎藤が帰りますようにと神に祈った。




