痛いんですけど
サナと斎藤の席は時間が止まってしまった。
サナは元々、重いお客さんが得意のでこういう場面は度々経験しているが全く予期していなかったので、思考回路が一瞬シュートしてしまっていた。だがなんとか、脳内をリセットして言葉をいつものようにまとめ出した。
「あはは、武さんちょっと早くない?」
とりあえず笑ってごまかす。だが、斎藤は真剣な顔を変えない。他の客なら一緒に笑ってくれて、なーなーになっていくが、なかなか斎藤は強者のようだ。
「…でも、マキさんもさっき僕のこと好きだっていった…」
「言ったけどちょっと早すぎるよ。もっとお話しいっぱいして、お互いのことをよく知ってからから考えようよ」
「…」
斎藤はまた無言になった。サナはなるべく笑顔を絶やさないように、顔に力をいれる。おそらく真田が見たら大笑いするだろうと思ったが。
彼は、ウィスキーの水割りにすこし口をつける。お酒は弱そうだとサナは思った。
「じゃ、今日はずっといますから…」
斎藤は衝撃的なことを言った。やーばーい、サナは思わず心で叫ぶ。これから、常連さんもくるし真田との約束もあった。だが仕事である以上これは逃げられない。というか、お金あるんだろうかとサナは少し心配になった。
「あ、あの…まきさんもドリンク頼んでいいですから…」
嬉しいことを言ってくれる。と、サナは思った。ドリンクも当然女の子の給料に反映される。だが彼がお金を持っているとは到底思えない。
「そんな、大丈夫だよ。武さんのウィスキーを一緒に飲もうよ」
「…でも」
と斎藤は横の席を見る。その席には、おそらくどこぞの若社長さんが、シャンパンを開けていて本指の女の子が凭れかかっていた。
斎藤はあのシャンパンが幾らか知っているんだろうか…とサナは思うが、斎藤にはおそらくあの凭れかかってラブラブな雰囲気が羨ましいのだろう…
「大丈夫だよ…お金持ってるよ…」
(あの…ご予算は…)とサナは思わず口に出しそうになったがこれは言えない。男の見栄とプライドのことをキャバ嬢ほどしっている人種はいない。
確かにホストや銀座のクラブのように何百万みたいのはこの店には置いてないが、安物のシャンパンもどきでさえ1万くらいする。
「じゃね、今日はドリンクはいらないから、その分マキにいっぱい会いに来て。そっちの方が嬉しいな」
「あ、うん」
斎藤はその言葉が嬉しかったらしく、なんとか納得した様子だった。と、スタッフがサナを呼びに来た。おそらく他の指名客がきたのだろうとサナは思った。
「ごめんね。呼ばれたのでいってくるね」
サナはそう言うと、小さなバッグを持って立ち上がろうとした。と、斎藤が急にサナの腕を掴んだ。サナは思わず「いたい」と漏らしたが斎藤はその掴んだ手を緩めることなく
「え?僕、指名したんですよ…ずっといてくれるんじゃないの…?」
と言う。サナはびっくりしたが、説明するのも面倒だった。異変を感じてスタッフリーダーがすぐ席にきてくれた。サナはホッとする、この店ではスタッフリーダーが店長みたいなものだからだ。サナが小声で手短に状況を説明すると、「ここはいいから、」とサナをこの場から解放した。




