告白
サナはその日、夜の8時少し前に店に入った。
「おはようございます〜」サナは何気なくスタッフさんに挨拶し、更衣室へと向かう。
数人の同業さんたちと軽く挨拶を交わす。サナは真田と会ってからというもの店の女の子とも少し話すようになっていた。
「マキちゃんさぁ、たまには飲み行こうよ〜」
「いいね〜、今度いこいこ」
「つーか、マキちゃんの服っていつも可愛いくね?どこで買ってるん?」
その影響か、最近よく話しかけられるようになった。サナは、軽く返事しながら素早くドレスに着替え、化粧を整える。
この店は髪に関してはなぜか自由なのでそこは気軽だ。前の店だと一々美容院もどきのところに頻繁に行かなくてはならないがここではその手間はない。
サナは鏡をみながら、(今週はまつエクいかなくては)と思った。すこしまつげが残念なことになっていた。多分、男は気付かないが…先週はいろいろありすぎて行けなかったのだ。
サナは、身支度を整えるとすぐに待機室へと向かう。ほとんどがスマホをいじっているか、お菓子をつまんでいる。いつもと変わらない光景だ。
ここでも「おはよう」と言って、なんとなく決まっている席へと座る。
この店は、キャバクラ店によくある派閥とか売上争い的な空気は薄い。そこがサナがこの店を気に入っている最大の理由だが。
サナもスマホを開き、先ほど返しそびれたメールの返事を考えながら打つ。と、スタッフさんが来て、サナに指名客が来たことを告げられた。
サナは一瞬「?」となった。今日は最初の1時間は誰も指名客が来ないはずだったからだ。サナは通常なるべく時間を区切って、指名客が来店した時に被らないように注意しているので、意外だった。(だれか急にきてくれたのかな…)サナはとりあえず、待機室からでてスタッフの後に続いた。
スタッフから簡単に紹介され、サナはいつもの笑顔で
「こんばんは、ご指名ありがとうございます」と挨拶して、相手を見る。が、見覚えがない…。
若いような気もするが、年齢不詳。赤いジャンバーに年代物のジーパンと汚れた白い靴…服には興味がないようだった。
あまりこの店にくるタイプには見えないが、お客さんはお客さんだ。
「あの、ごめんなさいね。わたし、頭悪いから…覚えてなくて。前にきてくれました?」
サナは正直に言う。ここで知ったかして辻褄があわないと後で余計こじれるからだが。
「あ、あの…前に…佐藤さんに…つれられて…」
サナは、(ああ)と理解した。佐藤とは、サナを指名している土建屋の社長さんだった。佐藤は、社員や関係者を引き連れてよくこの店に来てくれるサナの大切なお客様だった。ただ流石に、枝のひとりひとりまで覚えていない。ということは、この男は前にきた時に私の名前を覚えて帰ってくれたのかと、若干感動した。多分、名刺も渡していないはずだ。
「それなら覚えているわ。お名前はなんでしたっけ?」(ほんとは覚えてないけど…)
「あ、斉藤です。」
「下のお名前は?」
「武…」
斎藤の声はとても小さく若干どもり気味なので、サナはなるべく顔を近づける。だがそうすると、斎藤は下がってしまうので結局よく声が聞こえない。
「たけし…さんでいい?」
「はい…」
これは最初からヘビーなお客様だとサナは思った。キャバクラに来てあまり話してくれないお客さんほど困るものはない。
結局、サナはこれから頑張って話さなければと気合をいれた。
「あの…なんで私を指名してくれたんですか?もっと可愛い娘いっぱいいるのに?」
「あ…あの、マキさんが一番綺麗だったし…」
「そんなことないよ。でもありがと。武さんみたいな人に言われるとうれしいな、ほんとに」
「え、どうして…?」
「だって武さん、まじめでいい人そうだから。チャラい人に綺麗っていわれても…ねぇ」
そういうと、斎藤は黙ってしまった。だがこれは照れているだけだとサナは経験で知っていた。
「とりあえず、水割りつくりますね」
サナはそういうと慣れた手つきで、氷を入れ水割りを作る始める。と急に斎藤が話し始めた
「あと…えっと、前に、ライターを拾ってくれた時に…僕の手と触れたのに、嫌な顔しなくて…」
イマイチ、何を言っているのかわからないのでサナは、顔を更に斎藤に近づけて、「ごめん、もう一度言って?」と聞いた。
斎藤の目の前にサナの耳がある。いい香りとサナの美しい肌に斎藤はタジタジだった。といってももちろん香水の香りだが…。
サナはすこし考えて、斎藤の言わんとしてることがやっと理解した。
要は、前に店に来た時に、斎藤がライターを落としたのでサナが拾って、手渡した。その時に斎藤とサナは手が触れたのだが、サナがその時に嫌な顔ひとつしなかったのでいい子だなと思ったというのが真相だ。
「そんなことで喜んでくれるなんてうれしいな。ほんと武さんはピュアなんだね?」
サナはとりあえずこう答えた。これは…この人には純情お姉さんキャラだとサナは確信する。
「こういうお店で働いてるとね。軽い女だって思われるでしょ?」
「そんな…マキさんは違うよ。とっても優しいし…」
「あは、ありがとう。そう言ってくれる人が一人でもいてくれると、マキうれしいな。」
と、真田には不評な「つくり笑顔」で応えた。斎藤は、下を向いているがサナが視線を外すと、こっちをこっそり見ているようだった。
「あ、あの…マキさんは僕のこと好き?」
「うん。いい人そうだから。わたしまじめな人、好きだしね」
斎藤の質問にサナは即座に答える。すると斎藤は急に顔をあげて
「ぼくもマキさんに一目惚れしました。付き合ってくれませんか?」
サナは目をぱちくりしてしまう。(あって15分たってないぞ)
いままで、お店でサナに告白した最短記録は、来店3回目のお客様だったが、斎藤はそれを大きく更新した。




