面倒なこと
山本は見事なKO劇を磯谷に見せつけたあと、ゆっくりとマスクとサングラスを外した。
「ふう」とため息をついたあと、磯谷が倒した格闘家をじっくり見る。完全にキックが決まったらしく、気を失っている様子だった。山本はその倒れた格闘家の顔を覗き込むと、その男のサングラスをとる。「ふむふむ」とうなづいきながら
「へぇ、君もこいつを倒してくれたんだね。なかなかやりますね…」
と、磯谷を褒めた。
「ええ、まぁ。」完全に偶然だったが結果は一緒だと、とりあえずドヤ顏でかえす。だが磯谷はこの相手が誰なのかということが気になった。前に交番で警察のバッジを持っていたので、同胞なのは知っていたが。
「こいつらは誰なんすか?」
磯谷の質問に、山本はすこし無言でいたがやがて考えがまとまったのかその問いに返す。
「まあ…公安だね。私の部署と一緒だ。ただ配属は違うがね…」
磯谷は、そのことについては驚かなかったが、この今の状態は大丈夫なのかということに不安に思う。相手から殴りかかってきたとはいえ、本庁のしかも公安に所属する人間をぶっとばしてしまったのだから通常なら何か罰則みたいなものがあるはずだ。
「俺…罰則くらいそうっすね。」若干、磯谷が力なく言う。山本は最初、特に表情は出さなかったが、急に笑い出した。
「君が罰則なら、私は懲戒免職だね。大丈夫だ。こいつらは表の所では今日の事を報告できない。」
「…それはどういう…というか、貴方はいったい何をしてるんですか?」
磯谷は率直な疑問を口にした。この男たちの不正でも暴いているのだろうか…それになぜ自分が巻き込まれるのかわからなかった。
山本はすぐに答える。
「警察内部のことなら、どんなに楽だろうね。いつも通り暴けばいいんだから。だがこれはそんな単純なもんじゃない。」
「…」磯谷は無言だった。警察内部でも公安の揉め事なら十分大きいと思うのだが…
「今、私が捜査していることはとても一言で説明できない。だから、自分の目でぜひ確かめてほしい。磯谷警部補どの」
山本は、完全に気絶している格闘家と巨漢の顔写真を撮りながら言った。磯谷は一瞬「?」となった。警部補?
「君は、今日付けで警部補昇進。配属も私の下になる。どうせ、もうこの2人に関わったからにはあの交番には戻れない」
磯谷はこの状況がつかめなかったが、とりあえず一言だけ言葉を絞り出した。
「…昇進試験なんて受けないっすけど。」
「安心したまえ。君の昇進試験は私が代わりに受けておいた!」
そういうと、山本は胸ポケットから新しい警察バッジを磯谷に渡した。
結局、山本と磯谷は車でその場から離れた。山本にすればまさかそこに奴らが待ち構えていたのは完全に誤算だったらしい。
もはや上では、この地下でのゴタゴタに気づき、とっくに逃げているだろうと山本は推測していた。
「あ〜あ、面倒なことにまきこまれちまった」
それが磯谷の素直な感想だった。




