休日出勤
真田と橘がバカ会談をやっているころ、池袋のふくろう交番に勤務する磯谷巡査長はマクドナルドに呼び出されていた。
相手は勿論、本庁の山本だ。
その日は非番だったこともあり、磯谷の心はそれはそれはブルーだった。休みの中にきてやった!というのを全面に出すために、赤のダウンにジーパンという出立できた。前のように、山本はマクドナルドの3階で奥の席で待っていた。今日は珍しくハンバーガーを食べている。
「お休み中に、悪いね…」
山本はまったく悪びれる様子なく、磯谷を迎えた。言葉にまったくそういう気持ちが伝わらないんですけど…とは言わなかったが、磯谷は憮然とした表情で山本の向かいの席についた。
「いやぁ、おいしいもんだね。たまに食べると!」
「警部様ほどになると、庶民の食べ物はめずらしいですか?」
磯谷は嫌味満点にいう。聞いたわけではないが、キャリア組という奴らは簡単に、ノンキャリアの階級を追い抜いていく。
「はは、心外だなぁ。とてもそう見えないのは認めるが、私は警視だよ、磯谷くん!」
「警視?」
もっと上かよっと磯谷は嘆く。そんなに年は変わらないのに…と組織というのは嫌なもんだと思った。山本はそんな磯谷を無視して
「ところで君は、喧嘩は強いのか?」
と、意外な質問をしてきた。磯谷は、すこしその質問に驚いたが、高校の時までかなりやんちゃしてきたので腕っ節だけは自信があった。
最近は披露する機会はずいぶんと減ったが…
「試してみます?」
いたずらっぽく磯谷は応える。山本は手をあげて
「いやいや、私はそっちは専門外でね」
「でしょうね」
磯谷は、階級はともかく喧嘩なら負けんと若干胸をはる。だが、組織という中では自分はただの兵隊だとも感じていたが。
山本はすました顔で、ハンバーガーを食べ終えると、コーヒーを飲んで再び磯谷に話しかけた。
「で、今日わざわざ君にきて貰ったのは、このビルの4階にいってもらおうと思ってね。」
「やっぱりね」
磯谷は、以前山本にその話を聞いていたので特に驚かなかった。山本は話が早いですねと言いながら、胸ポケットから地図を取り出し広げた。
「ここから、すこし歩いたところに、1階が洋服の青山になっている漫画喫茶ある。知ってるか?」
山本は地図でその場所を指差している。もちろんこの管内は磯谷の庭だ、よく知っていると首を縦にふる。
「よろしい。そこのエレーベーターに乗ると、当然階数のボタンがある。1階のボタンの下に何も書いてないボタンがあるから、まずはそこを押すんだ。」
「何も書いてないボタン?」
「そう、色は白だ。白いボタンを押すと一瞬エレベーターの電気が消える。そうしたら続けて、9F、9F、6Fとボタンを押す。そうするとエレバーターは地下に降りる」
「…?」
磯谷は山本の説明に、めちゃくちゃ怪しさを感じた。とともにすごく嫌な予感がする。
「降りたら、エレベーターが他に12個もある広い地下室みたいなとこにつく。申し訳ないがひとつづつ4階にあがって確かめてほしい。当たりは、すごい豪華なBARだ。BARについたらこの無線で伝えてくれ。多分、携帯は使えない」
「12回も乗れってか?」
「いや、運がよければ1回でいける」
山本は涼しい顔で言う。当然、拒否権はないだろう…と磯谷は悟った。
「…で、警視様、その場所に危険はないのか?」
「なかったら、喧嘩が強いかなんて確認しないと思うよ」
「ですよね…」
磯谷は、大きなため息をつく。山本は、カバンからスタンガンと三段警棒、そして無線をとりだすと磯谷に渡した。
「非番の君に拳銃は渡せないから、これで勘弁してほしい…」
「つーか、ほとんどの確率で揉め事に巻き込まれんだね」
山本はそれに答えず、磯谷を見て微笑んでいる。だが目は笑っていなかった。
「きっちり3時30分になったらエレベーターののってくれ」
山本はそう言い残すと、席をたった。




