おじいちゃんの栄光の記憶
真田は久々に焦っていた。
この制限速度をしっかり守った乗り心地満点の安全第一タクシーのスピードもさらにそれを増長させたが、なによりサナの乗った車はすっかり見えなくなっていたからだ。もはや走っていることも無意味に思えるが、相手の車が火をふいて故障してることを祈りつつ、車が向かったと思われる方向へとタクシーを走らせた。
これは意表を突かれたとしか思えないが、サナだけはなんとしても助けなければと思っていた。しかしその成功確率は限りなくゼロに近い。挙げ句の果てに渋滞にもはまり、のろのろ運転がさらに焦りをよんだ。
こんな時は落ち着くに限ると真田は思った。今、できることは何か…それがたとえ果てしなく無意味であってもやらなくては先へ進めない。
サナのメールによると、相手の車は首都高を快調に進んでいるらしい。この渋滞のなかで可笑しいと思ったのだが…
「運転手さんは、生まれは東京ですか?」
真田は、半分起きてるのか寝てるのかわからないおじいちゃん運転手に話しかけてみた。
「ええ、生まれも育ちも…江戸っ子つうやつですわ」
おじいちゃんドライバーは、以外とはっきり答える。真田はこれはいけると思った。とりあえずお酒が好きかどうか尋ねる。
「はい?お酒ですかい。そりゃ大好きですわ。いまはそりゃ弱くなったけんど」
「じゃ、若い頃は?」
「そりゃもう、わし若い時は肉体労働で金ありましたから、毎晩飲み歩きでんな」
真田は、よしよしと思った。誰も知らなくネットにも載っていないBAR「TOTO」を、ひょんなことで参加したシニアのノンベェの集まりで出会った木村という老人は知っていた。
もしかしたら年寄りには有名な場所かもしれないと真田は思ったのだ。一か八かだ。
「じゃ、運転手さんは「TOTO」というBarは知ってますか?」
そういうとその運転手は手を口に当て、笑い出した。そして今まで決して後ろを向かなかった運転手おじいちゃんはこちらを振り返った
「お客さんのような若い人から、その名を聞くとは…の…」
その答えをきいた真田は心の中で大きなガッツポーズをした。運転手は話を続ける。
「TOTOバーはもともと、丸の内にあってのぉ。そこは、成功したビジネスマンやら起業家があつまる場所だっちゃのじゃ。映画スターみたいのもきとったかの…。その時代に勤めてたゼネコンの社長にわしは気にいられてのぉ。一度連れて行ってもらったことがある。」
おじいちゃん運転手は、いい時代を思い出すように続けた。
「そこは、もうそれは別世界というような場所じゃった。見たこともない洋酒や美しい女達、なによりそのBARそのものが美しく豪華剣蘭じゃった。」
「じゃ、そこはお金もちみんなの息抜きの場所だったんですか?」
「いやいや…これは社長にきいたんじゃが…そこはようは秘密会議場所みたいなもんだといっとった。政治家や経済界の重鎮やがあつまり、その場所で決まったことが日本を動かしていたとかいっとったの…」
若干、都市伝説的な話だがこの話は真田も聞いたことがあった。また橘にいい土産話しができると思ったが今はなにより、サナだ。
もしその話しが本当なら、そこにつれて行かれた女達は、大金と引き換えに金持ちたちの慰みものにでもされるのだろうか…真田は冷や汗がでて若干気持ち悪くなる…
「じゃがの…そのBARは突然消えてしまったんじゃ。丸の内の再開発で場所を移したとされているじゃ。いろんな噂が飛び交ったんじゃが、池袋にあるんじゃいうものが多かったの」
「池袋!?」
真田は思わず声を出した。真田は瞬時に答えを導き出した。
「運転手さん、すまないが池袋駅の東口へいってくれませんか?」




