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Subjects Runes【完全版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第3章 古代魔法都市ジオエルビム

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第99話 ロレッチオ男爵の苦悩

 12月23日(水)曇り


 ベルモール軍が降伏する少し前、時間を半日ほどさかのぼった城塞都市ヴェニアル北方の平原には、再び南下を始めたロレッチオ軍の姿があった。


 このまま進めばヴェニアルへは予定より1日の遅れの24日の午後に到着する見込みであり、戦況がわからない中、それでもロレッチオ男爵はベルモール軍との合流を優先させることにしたのだ。


 だが敵からの攻撃を執拗に受けていた彼は、城塞都市ヴェニアルが既に陥落している可能性を考えていた。


「仮にそうだとしても、ベルモール軍と合流すればまだ8000騎近くの兵力が残っている」


 城塞を包囲しつつ山を越えてプロメテウス領に流れ込みさえすれば我々の勝ち。しかし、


「ロレッチオ男爵! エクスプロージョンが来ます!」


「またか! 一体どこから撃って来るのかまだ分からないのか・・・ぐわあっ」




 ロレッチオ男爵は、謎のエクスプロージョン攻撃を警戒して魔導結晶でバリアーを強化せずに進軍したが、結果的に攻撃の威力を消しきれずに少しずつダメージを蓄積させられている。


 「このエクスプロージョンを撃ってきている魔導騎士は、我らが視認できない遥か遠方から魔法を使用することができ、しかも魔導結晶の有無に関わらず常に一定の被害を我々に与えることができるらしい。全くもってバカげている! ベルモール軍との合流がなければ、こんな気色の悪い戦場からとっくに撤退してるわ!」


 臣下に愚痴を言いつつ、総司令官であるソルレート伯爵が未だ意識の戻らない中、勝手な作戦変更は許されない。


「このまま無駄に兵力を損耗させるわけにはいかない。通常兵力はここで待機させて強力な魔力を持つ魔導騎士のみでこの性格が最悪の敵魔導騎士を探し出すぞ。コイツを始末しない限りこれより先には進めない」


「はっ! では我々10名が男爵閣下のお供を致します」



          ◇



 身を潜めながらロレッチオ軍と並走する俺たち5人は、銃装騎兵隊と別行動で敵への散発的な攻撃を続けていた。マジックポーションを飲み干して一息ついた俺にジャンが尋ねた。


「敵のバリアーに応じてエクスプロージョンの大きさを変えて攻撃してるけど、何か意味があるのか」


「魔導結晶を使っても意味がないことを印象付けるためさ。古代遺跡からの魔導結晶の乱獲を防ぐために、少しでも軍事的価値を下げてやれればいいと思って」


「そんなことを考えて戦っていたのかお前。ところで俺が疑問なのは、魔法を完全に弾くはずの軍用バリアーになぜエクスプロージョンだけが通用するんだ」


「完全な詠唱呪文が判明したことが大きいが、それ以外にも理由はいくつかある。まず白く輝く光点が落下して爆発するというあの魔法の特徴がポイントで、あの光点は魔力が高密度に凝縮したものだから、その一点だけ見ればバリアーの魔法防御力を上回っている。それでもバリアーを通過する過程で魔力がどんどん奪われて行くため、空間力場を通過する距離を最小にするためバリアー直上から垂直に投下する必要がある」


「意外と芸が細かいな! じゃあバリアー直上までの距離はどうやって測ってるんだよ」


「三角測量だ。騎兵の平均身長や隊列の間隔を所与のものとして物差し代わりにし、バリアー境界面は砂ぼこりから薄っすら見えてるし、そういった距離を図るための目印からバリアー直上の座標を計算する」


「お前に質問した俺が悪かった。すまんが1ミリも理解できん」


「三角測量ってなあに?」


「マールにも分かるように説明すると、例えば45度の角度を持つ直角二等辺三角形は分かるな」


「分かる」


「その辺の長さの比は1:1:1.4だ」


「うんうん、それで」


「今日は曇りだからちょうどいいが、上空45度の方向に見えるあの雲は、地表のどのあたりに浮かんでいるか分かる?」


「雲なんだから、ずっと遠くの方にあるんじゃないの?」


「あれは雨雲で高度が1kmぐらいだとすると、さっきの三角形に当てはめ、あの雲はたった1km先の上空にあることがわかる」


「ええっ?! そんなに近くにあるの?」


「雲なんて、みんなが想像しているよりずっと近くにあるんだよ。まあこんな風に三角形の角度と辺の比から、距離を正確に図るのが三角測量だ」


「そんな面倒くさい攻撃方法、絶対お前しかやらねえよ! しかしお前っていろんな戦い方を思いつくよな」


「俺たちは子供の頃から内戦が何度も起きているし、一族の魔導騎士たちが放つエクスプロージョンを見て育ったから、その特徴は熟知している」


「戦い慣れしてるって訳か・・・話はそこまでだ。敵が進軍を止めて11騎だけがこちらに近づいて来るぞ」


「おそらく魔導騎士同士で決着をつける気だ。ここから撤退して少佐たちと合流だ」



         ◇



 ロレッチオ男爵は遠方に敵魔導騎士を発見したが、その姿に我が目を疑った。

 

「制服を着た子供ばかり5人・・・ボロンブラーク騎士学園の生徒たちが謎の魔法攻撃を仕掛けていたというのか?」


「閣下、昨日の騎士団に奴らはいませんでした。おそらく別動隊かもしれません」


「そうだな。念のためにバリアーを前面にのみ全力展開しつつ、上空からのアイスジャベリン弾で奴らを仕留める。だがなるべく生け捕りにしろよ」


「閣下! 敵生徒のさらに前方に昨日の騎士団です! あの生徒たちが騎士団の中に逃げ込んでいきます!」


「やはり仲間だったか。だがあの騎士団からは魔力を感じないし、おそらく平民徴用した通常戦力の騎士。学生どもが後ろに逃げ込んだタイミングで、あの騎士団に魔法攻撃を加える。アイスジャベリンの詠唱始めっ!」



  タッ! タタタタッ! タタタタッ! タッ!



「ぐわあっ!」


「奴らあんな遠方から攻撃を仕掛けてきました。これは金属の弾・・・こいつを高速で撃ち込んで来ているようです」


「最大出力のバリアーを突破するほどの貫通力。そして弓矢なんかより遥かに長い射程距離。魔力も持たない平民騎士が全員この謎の新兵器を装備しているのか」


「このまま突撃しても、閣下はともかく我々の魔法防御力では太刀打ちできません」


「・・・分かった。奴らと真正面から戦うには情報が少なすぎる。やはりソルレート伯爵の回復を待って作戦を立て直す必要があるな。ひとまずベルモール軍との連絡を取りたい。偵察兵の帰還を待つため一度野営地に引くぞ」






 12月24日(風)雪


「ソルレート伯爵が目を覚まされました」


 ロレッチオ軍の野営地で伯爵の治療にあたっていた治癒師から報告を受けたロレッチオ男爵は、すぐに部隊後方の伯爵の荷馬車へと駆け付けた。


 中に入るとベッドから起き上がった伯爵が、


「ロレッチオ男爵か。今の戦況はどうなっておる」


「はい。敵の執拗な攻撃にあって、まだ城塞都市ヴェニアルへは到着できていません。またベルモール軍の消息も未だつかめていない状況です」


「なぜここに敵がいる! まさかたった2500騎の弱小プロメテウス軍があのヴェニアル要塞を陥落させたとでもいうのか! とっとと進軍して、早くベルモール軍と合流するのだ」


「しかし閣下。我々は敵の攻撃で騎士ばかり500騎以上を失ってしまい、敵は未知の魔法攻撃をいくつも繰り出し、魔導結晶のバリアーもほとんど効果がありません。開戦前の想定とは状況が大きく異なり、東方3家からの義勇軍も自領への帰還を検討しています」


「・・・何だと? ワシが意識を失っている間に500騎もの騎士を失ったというのか!」


「申し訳ありません。ですのでこれ以上の進軍は危険ですし、士気も下がりきっております。作戦を変更するか、いっそ降伏した方が・・・」


「降伏などできるかっ! この戦いはワシの爵位と領地までかけた最後の賭け! 何もせぬまま戦争を終われるわけがなかろう!」


「・・・ではどうなさるおつもりで?」


「このまま進軍せよ! 難攻不落で知られるヴェニアル要塞が陥落するわけがないし、我が方にはベルモール軍5000もの兵力がある。このロレッチオ軍が一番手薄だから敵にやられたのであろうし、合流さえすれば我々の勝ちなのだ」


「そうであればいいのですが・・・仕方がありません、このまま進軍を続けます」

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