第96話 新兵器、レーザーライフル
12月22日(火)晴れ
ロレッチオ軍総勢3500。
その隊列後方の補給部隊の中に、ソルレート伯爵の馬車が貨物用に偽装されそこに作戦司令部が置かれている。
そして今馬車の中で、ソルレート伯爵とロレッチオ男爵が幕僚と共に作戦会議を行っていた。
ロレッチオ男爵はテーブルに地図を広げて現状を確認する。
「地図中央のヒューズ湖を取り囲むように、東には閣下のソルレート伯爵領、南にベルモール子爵領、北に我がロレッチオ男爵領、そして西にヴェニアル子爵領があります。我らロレッチオ軍3500は、我がロレッチオ騎士団1500を主軸に、ソルレート騎士団1000と東方3領主からの援軍1000を加えた兵力で、我が領地を起点に反時計回りに南西方向にへ進軍しています」
「そうだな。そして明日ベルモール軍5000と合流後、ヴェニアル騎士団1500を加えた10000の兵力をもって、城塞都市ヴェニアルからプロメテウス領へと進軍する。おそらく現在、ヴェニアル子爵はプロメテウス軍と交戦中だと思うが、あの難攻不落の要塞にプロメテウス軍は攻めあぐねているはずで、我らの大戦力を持って一気に叩く!」
「敵を圧倒する兵力を集めるのは戦争の基本ですが、そのために進軍速度を犠牲にした感は否めなく、閣下とベルモール子爵の騎士団だけでも先にヴェニアル騎士団と合流すれば、とっくに戦争の趨勢は決していたのでは。貴重な魔導結晶を頂けたので、私に文句はありませんが」
「考えが甘いな男爵。メルクリウス男爵を舐めてかかった結果、全てを失ったこのワシの姿を見ろ。今回だけは絶対に負けられんし、多少時間がかかっても確実に勝つ方法をワシは選んだのだ。魔導結晶もジルバリンク侯爵に頭を下げて譲ってもらったのだから大切に使うがいい」
「分かりました閣下。では私はこれより前線に戻り、閣下のご指示どおりまずはベルモール軍との合流を果たします。閣下は馬車にお隠れになってついてきてください」
◇
俺たちは罠を設置した場所を一望に見渡せる高台に陣取り、敵が通過するのを待っていた。偵察隊からの報告では、遅くとも夕刻前にはここに到着する見込みだ。
「まだ時間がだいぶあるので、新兵器の実験をしてみるか」
俺がマールに提案すると、暇をもて余していたダンが興味深そうに近寄ってきた。
「今度は何を作ったんだアゾート」
「マールの新兵器だ」
「え、私の?」
マールが驚いたように俺に聞き返す。
「これだ」
俺がそれを渡すと、マールは不思議そうに首をかしげる。
「長い棒が1本と短い棒が2本・・・これが新兵器?」
「ああ。この短い2本はリングでつながっていて、長い棒をリングに通して安定させる。そして手元に望遠鏡を取り付ければ完成だ」
俺が手早く完成させると、後ろからサー少佐の声が聞こえた。
「そいつは狙撃用のライフルじゃないか!」
「ええ少佐。パルスレーザーを正確に発射するためのレーザー照準機能付きです。発射する前に可視光レーザーを発射して手元の照準器の較正を行い、確実にパルスレーザーが当たるようにしました」
「面白い! よし俺がマールに指導してやる」
「少佐はライフルも詳しいんですか」
「専門ではないが、軍では一通りは訓練するんだよ」
「へえ、そうなんですね。では先に照準の較正を済ませておきます。マール、そこにうつ伏せになってライフルの引き金を引いた状態で、【パルスレーザー】ではなく【ライトニング】を発動させてくれ。そうするとライフルの先から可視光レーザーが照射されるから、照準器の交点とレーザーが当たった個所が一致するよう向きを微調整するんだ」
「そんなこと言われても分かんないよ」
「最初は俺がやるから見ててくれ」
「うん」
マールの隣で俺もうつ伏せになり、照準器を覗き込んで真ん中の十字の部分にマールが発射した可視光レーザー光の光点が一致するようネジを微調整した。
「ちょっと顔が近いよアゾート。私とくっつき過ぎ。みんな私たちのこと見てるよ」
「でもこうしないと微調整ができないし、祭壇の調査ではいつもこんな感じじゃないか」
「いつもは二人っきりだからいいの。でも今はダンや少佐だけでなく、100人以上の銃装騎兵隊のみんなも見てるし・・・」
「すまん! 今度から一人でできるようにやり方を教えるから、もう少しだけ我慢してくれ」
「・・・分かった、恥ずかしいけど頑張る。でも私はこういう作業が苦手だし、二人だけの時はアゾートにお願いしようかな?」
「マールがそれでいいのなら、俺は構わないが」
ライフル講座が始まり、マールを熱血指導するサー少佐の後ろ姿を見ていた俺の背中をダンが突いて来た。
「おいアゾート、これから戦いが始まるって時にマールとイチャイチャし過ぎだ。お前の嫁に報告しておくぞ」
「俺の嫁って誰のことだよ。それに俺は武器の調整をしているだけで、イチャイチャしてるのはダン、お前の方だろ。昨日から四六時中パーラとイチャつきやがって、お前にだけは言われたくないよ」
「俺はイチャついてなんかいない! パーラが俺を守ると言って勝手に後ろにくっついているだけなんだよ、なぁアネット」
「くだらない話を私に振るな! 私から見ればお前たち二人とも、戦いを前にした騎士とはとても思えない態度! 私の理想の騎士像からあまりに遠いが、相手を一人に絞っている分、ダンの方が遥かにマシな男だがな」
「「・・・・・・」」
俺とダンがガックリ項垂れると、サー少佐のライフル講座も終わったようだ。
「それで撃つ時の姿勢は安定するはず。狙い方はもう分かるな」
「この十字部分の真ん中に照準を合わせるのよね、少佐」
「そうだ。ただし注意点が一つ。これはレーザーだから、金属のように光を反射する敵には効果がないぞ。素肌か布地の服を狙って撃て」
そこへ遠方から騎士団が接近しつつあった。
「敵だ! だが罠の場所から少しコースが外れている気がする。もう少し湖側を通ってほしいんだけど」
俺がそう言うと、サー少佐が銃装騎士団の元に向かい、
「俺が銃装騎兵隊を率いて敵を罠まで誘きだしてやる。だが何せ奴らは数が多い。そのライフルを使ってくれ敵の撹乱を頼む」
「わかった少佐。マール、何か的になりそうな敵をその照準器で適当に探しておいてくれ」
◇
「ソルレート伯爵、馬車の外に出ると危ないので中に隠れていてください」
「うるさい。こんな狭い場所に長く座っていると身体が痛くて仕方がない。どうせ敵はいないんだし、外の空気を吸っても問題はなかろう」
「ですが男爵からも、閣下をしっかりお守りするよう申し付かっておりますので、馬車にお戻りください」
「ええいうるさい、うるさい! わしは伯爵だぞ。強力な魔力も魔導結晶も持っておるし、そんなに心配ならそなたもわしにバリアーを張って、そばについておればよいではないか」
「り、了解いたしました・・・」
こうしてソルレート伯爵はロレッチオ軍の進軍を止めさせると、馬車の外に出て気分転換をした。
それも仕方のないことで、伯爵の太った体で馬車に乗り続けるのは腰への負担が大きく、たまに身体を伸ばさないと血行が悪くなって体調がおかしくなってしまう。
だから伯爵は、身体を伸ばしたり屈伸をしたりと体操に励む。
「今日は本当に天気がいいのう。これならベルモール軍はそろそろヴェニアルに着いて」
パーン!
「ぎゃあああっ! て、敵だ! 足をやられた!」
伯爵は激痛のあまり、地面を転げ回って悲鳴を上げたが、そんな彼の穿いていたズボンには大きな穴が開いて、その傷口からは血が滲み出し、肉の焦げたような匂いまで漂わせている。
その様子に慌てた側近が伯爵を抱えて馬車に連れ戻そうとする。
「敵襲っ! 護衛騎士は伯爵をお守りしろ! さあ伯爵、早く馬車の中に戻りましょう」
「ううう・・・痛い、た、助けて・・・」
パーン!
「ぎゃっ!」
再び乾いた破裂音が鳴り響くと、今度は伯爵の背中が焼けただれてついに気を失った。
「治癒部隊に連絡しろ! それから敵が近くに潜んでいるはずだから早く探し出せ!」
「はっ!」
◇
「わあい、当たった! 2発とも当たったよアゾート!」
「初めてなのにすごいじゃないか、マール」
「少佐に言われたとおり鎧を着てない人を探してたら、一人だけ布地の服を着たおじさんがいたの。すごく太ったおじさんだったから、練習台にピッタリだったよ」
「よかったじゃないかマール。試し撃ちにピッタリの的が上手く見つかって」
「えへへ。あ、なんか敵が慌てだしたよ。きっと私のことを探してると思うけど、まさか遥か彼方から狙撃の練習をしてただけなんて誰も思わないよね」
「だな。マール、敵はもう十分混乱したしこれでサー少佐も動きやすくなっただろう。今度は俺の罠の威力を楽しんでくれ」
「うん!」




